【完結】攻略中のゲームに転生したら攻略されました

久乃り

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致さなかった朝

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立場が逆転して、俺は王子に、抱き抱えられるように湯船にいた。
 なんだかんだ言って、この体は18なのだ。まだまだ刺激に弱すぎた。自分で意図しないで涙が出ていた。
 そんなわけで、王子に抱きしめられて頭を撫でられている。

「怖がらせたな」

 そんなことを言われて、怖かったのだろうか?と考える。確かに、未知の領域だった。

 コレじゃあ初めての女の子みたいだ。
 ちがうけど。

 脱力していて、俺は王子にされるがままになってはいるのだが、いままた問題がある。向かい合わせに抱き抱えられているのだが、俺が王子の膝の上に乗っているのだ。膝というか太腿だ。この態勢も冷静に考えたら恥ずかしすぎる。どうやって上がったらいいんだろう?俺が立ち上がったら、王子の顔面に俺の股間がいくじゃないか。ダメだ、考えたら恥ずか死ぬ。

 王子、どうするつもりなんだろう?

 ダメだ、俺は考えない。考えたくない。

「こんなところで寝るな」

 俺はウトウトしていたのだろうか?王子に軽く背中を叩かれて顔を上げる。案外疲れているのかもしれない。何しろ初めてのことだらけだったので。今も現在進行中ではあるけれど。
 王子は俺の両腕を風呂のふちにかけた。肩から上が湯船から出る形になる。王子はそのまま湯船から出てしまった。

「立てるか?」

 俺は言われるままに立ち上がった。股間を王子に晒す事は回避出来た模様。
 そのまま王子に、連れられて体を拭かれた。これではどちらがお仕えしているか分からない。
 けれど、なんだか、もう、眠くて仕方がなかった。
 髪もろくに乾いていないのに、俺はベッドに転がってしまった。眠たくて仕方がないけれど、短剣を一本王子に渡す。

「お前が使うのでは無いのか?」

 王子が呆れた声で言うけれど、俺はもう護衛ができるような頭ではなかった。

「だって、眠い」

 俺はそう言うとそのまま布団の中に潜り込んだ。護衛なんてできない。疲れていだるくてやってられないのだ。

「まったく、もっと体力をつけろ」

 呆れた声でそう言いながら、王子も布団の中に入ってきた。半分こではなく、完全に同衾している。しかも裸だ。
 王子は服を着ればいいのに。とか思ったけど、もうめんどくさいので、俺は王子を抱き枕にして寝てしまった。そう、裸だから、ちょっと肌寒かったんだよね。

 王子が何かを言っていた気がするけれど、眠かったので相槌も打たずに寝てしまった。




 よく寝た。

 非常に、よく寝てしまった。

 護衛の何たるかを、まったく、もって無視していた。
 だって、目が覚めたらイケメン王子は既に完成していたから。
 俺は、比較的寝起きが良かったはずなのに、何故かこの日に限って寝起きがすこぶる宜しくなかった。

「ダルいなぁ」

 肌に触れるシーツが気持ちよくて、俺は布団の中をゴロゴロしてしまった。そんなことをしていたら、王子に布団を剥がされた。股間は見られなかっけど、尻はみられた。

「朝から見せるものでもないんですけど」

 俺は腹ばいの姿勢で王子を見た。女の子ならエロいだろうけど、俺は男だしな。

 王子は軽く笑って、
「さっさと服を着ろ」
 と言ってきた。

 何を笑われたのか考えるのはやめておこう。
 着替えて短剣をまた身につける。

「二本持っていたのか」
 王子が、今更のように言ってきた。

「え、一応護衛だし」
「俺より先に寝たがな」
「手を貸すって言ったのに、体使われたし」
 俺はサラリと昨夜の不満を述べた。王子があんなことしなければ、俺だってここまで疲れはしなかっただろう。

「俺が俺のものをどう使うかなんて、俺の勝手だ」
 出たよ、俺様。なんだよ、俺ってものなわけ?

「腹が減ったから、朝飯食べて帰りましょうね」

 先輩たちから追加の金を貰っている。二人分の朝飯ぐらい食べられるだろう。
 俺は王子と市場でゆっくりと朝飯を食べてから城に帰った。分かってはいたが、離れたところにやっぱり先輩たちがいた。昨夜も近くにいたのかと考えると………だいぶ嫌にはなるな。あんな声聞かれてたら、それこそ本当に恥ずか死ぬ。



 登城する人混みに紛れて裏門に近づくと、既に隊長が待ち構えていた。
 無言で中に入ると、そのまま王子は自室に消えていった。俺も着替えてから執務室に向かった。

「お前のせいで忙しい」

 先輩に嫌味を言われたが、なんの事だか分からなかった。慌ただしく動く同僚を見ていると、隊長から書類を渡される。

「昨日からのことをまとめて提出、昼までに」
 一日使って書いてはいけないらしい。俺は机に向かって素早く書類を書き始めた。

 俺が書類を提出すると、隊長はじっくりと読んでくれた。そうして納得したのか、俺に休憩を与えてくれた。同僚たちだけでなく、なんだか外も騒がしい。俺が不思議そうにしていると、同僚に肩を叩かれた。

「お前は王子の所に行ってくれ」
「ん、ああ」
 状況が飲み込めないまま、俺は王子の傍に行った。

「ご苦労だな。お前のおかげでいい仕事が出来そうだ」
「?はぁ」
 俺はよく分からない。よく分からなかったのだけれど、わからなくてはいけない事が起きていた。




 十日後、広場で粛清が行われることになった。

 例の娼館に買われて行った身なりのいい女が問題だったらしい。それと、漏れていた香は良くないものだったそうだ。
 現場を押さえ、証拠を揃えるまでが早すぎて、娼館を経営していた貴族は逃げることも出来ずに捕まったそうだ。
 最初、俺は違法に人身販売された女たちが助かって良かった。とおもっていたのだが、考えが甘かった。

 法を犯した貴族は、一族全員がその罪を償わされるのだ。

 そう、女も子どもも関係なく、一族全員がその罪を問われる。

 広場で役人が罪状を読み上げる。ついで裁判官が判決を読み上げる。
 広場で粛清が行われる段階で、結果は出ていた。
 俺はまるで現実を感じないまま、同僚たちと一緒にその場に立ち会いをさせられた。

 見つけたのが俺だから。

 調べたのが親衛隊だから。

 王子の名の元に粛清が下ろされる。

 貴族たちは後ろ手に縛られて、子どもは目隠しと猿ぐつわをされていた。
 あんな、小さな子どもも粛清するのか?俺は目の前の光景を見て、頭の中で何かがすぅっと引いて行った。
 俺の目の前には、膝まづいて後ろ手に縛られている貴族、その先に見物の民衆。喧騒がやけに遠くに聞こえるようになった時、刑が執行された。
 俺は、36年の前世があるが、平和な日本で生まれ育った。誰かか傷つくところなんて見たことがない。
 交通事故にでも合わない限り、そうそう死なないような世界だった。

 だけど、今、目の前で人は簡単に命を散らす。

 広場に、充満するその匂いで俺は現実を知る。

 俺がふらついたのに同僚が気がついた。

「おい」

 同僚が何かを言うけれど、俺の耳には届かない。いや、聞くことを俺が拒否している。
 俺は後ろに数歩下がると、下半身の力が抜けてその場に座り込んだ。
 吐き気がするとか、そういうのがあればまだマシだったかもしれない。数歩下がったところで、充満する匂いは消えない。喉の奥がヒクついて、上手く声が出せなかった。いや、出せなくて良かった。きっと叫んでいたから。

 俺は前世と併せて初めて、人が殺されるのを見た。
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