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お仕事中は余所見をしないこと
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翌日、よく晴れた恵まれた天気の中、式典が行われた。
式典は、本気で退屈だった。
爵位を賜る。ということなのだが、俺は王子付きの親衛隊なので、ただ護衛をするだけなのだ。しかも、下っ端なので、めちゃくちゃ扉寄りの場所に立っているだけだ。
いわゆる休めの体制で立っているので、若干肩がこる。首をコキコキしていたら、隣りにいる同僚に肘でつつかれた。
どうやら、大人しくしていろ。と言うことのようだ。
大広間の一段高い場所に玉座があり、そこに王と王妃、その脇に王子と王女が立っている。そのだいぶ手前に賢ばった大臣?が立っていて、何か目録を読み上げていた。
それに合わせて着飾った貴族が前に出てくる。ちょっとした団体さんなのだが、令嬢に見覚えがあった。アンリエッタだ。
エトワール子爵が伯爵の爵位を賜ったようだ。
つまり、アンリエッタがゲームと同じ伯爵令嬢になったのだ。ついにゲームが動き出す。と言うことか。俺は静かに胸が高なった。
ここからが本格的なゲームの攻略ルートとなる。既に接触している攻略対象たちは、もしかするとフラグが立っている可能性がある。それを回収するか、へし折るか。これからの立ち回り方が俺の人生を左右するわけだ。と、考え込んでいたら、とんでもないものを目にした。
赤い。
居並ぶ貴族たちの中に、赤い物体が、いた。
そのあまりの異質さに、俺は釘付けになった。1度見た、目を離せなくなったのだ。
赤い縦ロールの髪型。
赤いドレス。
赤い手袋。
赤い靴。
赤い唇。
そのあまりの赤に、目が離せなくなっていた。
何が何だか分からないぐらいに赤い。
「おい」
隣から肘でつつかれて、ようやく視線がそれた。
「あ、ああ」
不敬だと言われればそれまでな程に、俺は赤いご令嬢を見続けていた。
攻略対象だ。
ゲーム画面で見ていた時は、赤にそれなりのグラデーションがあったため、ここまでケバケ…派手な印象はなかったのだが、こうして現実に赤い縦ロールを見てしまうと、ブラウン管テレビだったら画面の明度が死んでるよな。としか思えないほどに目がやられた。染色技術の問題なんだろうけど。
赤いご令嬢は、デュルク伯爵令嬢イシス。
別名レディレッド
情熱的なご令嬢である。
同僚に、注意されたが、俺は再びイシスをガン見してしまった。
本当は、アンリエッタを見たかったのだけれど、視覚的に赤い縦ロールは強烈だったのだ。
俺が随分とガン見をしたからだろうか、イシスは俺を怪訝そうな顔で見ていた。だからといって、目が合うとか、そういった事は起こらなかった。
なにせ遠い。イシスはあくまで式典に招待された貴族であって、俺はあくまでも王族の護衛だ。
大広間のあっちとこっちみたいな距離感だったのだが、俺がイシスをガン見しているのは向こうにバレてたし、俺もイシスが俺に見られているのに気づいている。っていうのをしっかりと感じていた。
で、当然怒られた。
またもや王子直々に。
「お前は、誰を護衛しているのだ?」
「もちろん、あなたです」
「式典の最中、ご令嬢を凝視していたそうだな」
「初めて見たものですから」
「仮にも伯爵令嬢だぞ」
あれ、王子ってば、それとなく見てしまう俺の気持ちを理解しましたね?
「そうなんですか?」
俺はイシスを知らないふりをした。あくまでも初めて見た赤いご令嬢に驚いた田舎者の体をとった。
「仮にも親衛隊となったのに、そんなことも知らないのか」
王子は、人差し指でイライラと机を叩いた。その程度のコツコツ音だが、執務室には十分すぎるぐらいよく響いた。
「申し訳ございません」
俺じゃない。後ろに控えていた名前も知らない先輩が頭を下げた。要するに、新人の俺の教育が行き届いていなかった。ってことなわけだ。
「よく教えておけ」
「承知致しました」
後ろからやたらと勢いの良い返事が聞こえた。
と、思ったら、俺は背後からがっちりと羽交い締めにあい、そのまま後ろに引きづられるように執務室から退場させられたのだった。
**************************************
「どういうことなんだ」
王子が、ご立腹である。残された親衛隊たちはどうやってご機嫌をとるか考えては見たものの、答えは見つからなかった。
なにしろ、王子自らが選んだはずなのに、そいつが何も考えず自由気ままに行動をし、王子の機嫌をそこねるのだ。
「どうしてあいつは俺を見ていなかったんだ?」
王子のご立腹の理由が明かされた。だが、迂闊に返事はできない。
「式典の最中、あいつはほとんどイシス嬢を見ていたぞ。俺の親衛隊では無いのか?」
そう言って、王子はまた指先で机をトントンと叩く。
そんな王子の独り言のようなつぶやきに、この場にいる親衛隊たちは返事ができなかった。
本音は、どうしてあいつがずっとイシス嬢を見ていたことをあなたが知っているんですか?と言ってやりたい。つまり、王子自身も式典の間、式典そっちのけであいつを見ていたことにほかならない。
だがしかし、そんなことを指摘する訳には行かないので、親衛隊たちはただ、黙って王子のことを見守るしかないのである。そして、内心、あいつを連れてさっさと逃げた隊員に悪態をついていた。一人だけ逃げた裏切り者である。
*********************************
そんなわけで俺は、貴族名鑑なるものを読まされていた。
ご丁寧に写真がついた豪華なものだった。写真の技術と印刷の技術があるようで、貴族名鑑は五年ごとに発行されているらしい。
貴族たちは、この名鑑に写真を載せるのがステータスらしく、名鑑の編集される時期が来ると、頼んでもいないのに自分を含めた家族写真を持参してくれるそうだ。
しかしながら、この貴族名鑑、基本はその爵位を持っている人物が主となって編集されてるので、その子どもたちともなるも、なかなか写真が載っていなかったりする。
王子の親衛隊なので、それなりの貴族たちの顔と名前と爵位を覚えろと、俺はお勉強をさせられている。
講師は俺を羽交い締めにして執務室から引きづり出した先輩である。
元々、王子の親衛隊は騎士からの特別部隊だ。構成員は貴族である。故に城に出入りする貴族の顔と名前を覚えていて当たり前なのだ。
学校に通い、騎士としての心得を学び、日常では社交界やなんやらで貴族としての務めをこなしているのだから、当然の事として覚えている先輩たちと違い、生まれも育ちも田舎の平民で、通ったのは兵士の訓練所という俺とはわけが違うのである。
全くのゼロスタートとなった俺は、何よりも長ったらしいお貴族様の名前に辟易した。そりゃあ、日本人の名前と漢字を覚えるよりはマシかもしれないが、とにかく人数がべらぼうに多い。
少しづつ覚えるならまだ、ましなんだが、突然に大量のため、俺の頭はパンク寸前だった。
式典は、本気で退屈だった。
爵位を賜る。ということなのだが、俺は王子付きの親衛隊なので、ただ護衛をするだけなのだ。しかも、下っ端なので、めちゃくちゃ扉寄りの場所に立っているだけだ。
いわゆる休めの体制で立っているので、若干肩がこる。首をコキコキしていたら、隣りにいる同僚に肘でつつかれた。
どうやら、大人しくしていろ。と言うことのようだ。
大広間の一段高い場所に玉座があり、そこに王と王妃、その脇に王子と王女が立っている。そのだいぶ手前に賢ばった大臣?が立っていて、何か目録を読み上げていた。
それに合わせて着飾った貴族が前に出てくる。ちょっとした団体さんなのだが、令嬢に見覚えがあった。アンリエッタだ。
エトワール子爵が伯爵の爵位を賜ったようだ。
つまり、アンリエッタがゲームと同じ伯爵令嬢になったのだ。ついにゲームが動き出す。と言うことか。俺は静かに胸が高なった。
ここからが本格的なゲームの攻略ルートとなる。既に接触している攻略対象たちは、もしかするとフラグが立っている可能性がある。それを回収するか、へし折るか。これからの立ち回り方が俺の人生を左右するわけだ。と、考え込んでいたら、とんでもないものを目にした。
赤い。
居並ぶ貴族たちの中に、赤い物体が、いた。
そのあまりの異質さに、俺は釘付けになった。1度見た、目を離せなくなったのだ。
赤い縦ロールの髪型。
赤いドレス。
赤い手袋。
赤い靴。
赤い唇。
そのあまりの赤に、目が離せなくなっていた。
何が何だか分からないぐらいに赤い。
「おい」
隣から肘でつつかれて、ようやく視線がそれた。
「あ、ああ」
不敬だと言われればそれまでな程に、俺は赤いご令嬢を見続けていた。
攻略対象だ。
ゲーム画面で見ていた時は、赤にそれなりのグラデーションがあったため、ここまでケバケ…派手な印象はなかったのだが、こうして現実に赤い縦ロールを見てしまうと、ブラウン管テレビだったら画面の明度が死んでるよな。としか思えないほどに目がやられた。染色技術の問題なんだろうけど。
赤いご令嬢は、デュルク伯爵令嬢イシス。
別名レディレッド
情熱的なご令嬢である。
同僚に、注意されたが、俺は再びイシスをガン見してしまった。
本当は、アンリエッタを見たかったのだけれど、視覚的に赤い縦ロールは強烈だったのだ。
俺が随分とガン見をしたからだろうか、イシスは俺を怪訝そうな顔で見ていた。だからといって、目が合うとか、そういった事は起こらなかった。
なにせ遠い。イシスはあくまで式典に招待された貴族であって、俺はあくまでも王族の護衛だ。
大広間のあっちとこっちみたいな距離感だったのだが、俺がイシスをガン見しているのは向こうにバレてたし、俺もイシスが俺に見られているのに気づいている。っていうのをしっかりと感じていた。
で、当然怒られた。
またもや王子直々に。
「お前は、誰を護衛しているのだ?」
「もちろん、あなたです」
「式典の最中、ご令嬢を凝視していたそうだな」
「初めて見たものですから」
「仮にも伯爵令嬢だぞ」
あれ、王子ってば、それとなく見てしまう俺の気持ちを理解しましたね?
「そうなんですか?」
俺はイシスを知らないふりをした。あくまでも初めて見た赤いご令嬢に驚いた田舎者の体をとった。
「仮にも親衛隊となったのに、そんなことも知らないのか」
王子は、人差し指でイライラと机を叩いた。その程度のコツコツ音だが、執務室には十分すぎるぐらいよく響いた。
「申し訳ございません」
俺じゃない。後ろに控えていた名前も知らない先輩が頭を下げた。要するに、新人の俺の教育が行き届いていなかった。ってことなわけだ。
「よく教えておけ」
「承知致しました」
後ろからやたらと勢いの良い返事が聞こえた。
と、思ったら、俺は背後からがっちりと羽交い締めにあい、そのまま後ろに引きづられるように執務室から退場させられたのだった。
**************************************
「どういうことなんだ」
王子が、ご立腹である。残された親衛隊たちはどうやってご機嫌をとるか考えては見たものの、答えは見つからなかった。
なにしろ、王子自らが選んだはずなのに、そいつが何も考えず自由気ままに行動をし、王子の機嫌をそこねるのだ。
「どうしてあいつは俺を見ていなかったんだ?」
王子のご立腹の理由が明かされた。だが、迂闊に返事はできない。
「式典の最中、あいつはほとんどイシス嬢を見ていたぞ。俺の親衛隊では無いのか?」
そう言って、王子はまた指先で机をトントンと叩く。
そんな王子の独り言のようなつぶやきに、この場にいる親衛隊たちは返事ができなかった。
本音は、どうしてあいつがずっとイシス嬢を見ていたことをあなたが知っているんですか?と言ってやりたい。つまり、王子自身も式典の間、式典そっちのけであいつを見ていたことにほかならない。
だがしかし、そんなことを指摘する訳には行かないので、親衛隊たちはただ、黙って王子のことを見守るしかないのである。そして、内心、あいつを連れてさっさと逃げた隊員に悪態をついていた。一人だけ逃げた裏切り者である。
*********************************
そんなわけで俺は、貴族名鑑なるものを読まされていた。
ご丁寧に写真がついた豪華なものだった。写真の技術と印刷の技術があるようで、貴族名鑑は五年ごとに発行されているらしい。
貴族たちは、この名鑑に写真を載せるのがステータスらしく、名鑑の編集される時期が来ると、頼んでもいないのに自分を含めた家族写真を持参してくれるそうだ。
しかしながら、この貴族名鑑、基本はその爵位を持っている人物が主となって編集されてるので、その子どもたちともなるも、なかなか写真が載っていなかったりする。
王子の親衛隊なので、それなりの貴族たちの顔と名前と爵位を覚えろと、俺はお勉強をさせられている。
講師は俺を羽交い締めにして執務室から引きづり出した先輩である。
元々、王子の親衛隊は騎士からの特別部隊だ。構成員は貴族である。故に城に出入りする貴族の顔と名前を覚えていて当たり前なのだ。
学校に通い、騎士としての心得を学び、日常では社交界やなんやらで貴族としての務めをこなしているのだから、当然の事として覚えている先輩たちと違い、生まれも育ちも田舎の平民で、通ったのは兵士の訓練所という俺とはわけが違うのである。
全くのゼロスタートとなった俺は、何よりも長ったらしいお貴族様の名前に辟易した。そりゃあ、日本人の名前と漢字を覚えるよりはマシかもしれないが、とにかく人数がべらぼうに多い。
少しづつ覚えるならまだ、ましなんだが、突然に大量のため、俺の頭はパンク寸前だった。
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