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おまけの話
セドリックの許嫁という事
しおりを挟むセドリックの許嫁であるエレントは、二つ年上だ。つまり、今年度で学園は卒業する。騎士科に所属しているから、卒業後は騎士団に入るのが通常ではあるが、許嫁がいる身であるから、嫁ぎ先に合わせ花嫁修業をすることもある。
エレントは幼い頃から「英雄を産みなさい」と言われて育ってきた。だから、許嫁であるセドリックが英雄の称号を得た時、事実上自分はお払い箱だと思った。隣に立つ、頭一つ所では無い小さな子爵子息。入学した時は魔術学科に所属していたのに、なぜか騎士科にやってきて自分の許嫁であるセドリックの隣に当たり前の顔をしていた。
それどころか、彼はセドリックを英雄にするべく剣を作るための素材を一緒に集め、剣を完成させ、そして、セドリックはその剣で手柄を立てて英雄となってしまった。
だから、あの日、許嫁が誇らしげに称号を授与されるのを見て、自分は捨てられるのだと思ったのだ。英雄を生み出した子爵子息、ロイが王子たちの子を成すための器役を果たしたことは聞いていた。
だから、セドリックの子になる核をロイが生み出すのだと思った。そこに自分は必要とされない。そう、思っていたのに。
「卒業したらダンジョンを巡る」
そうロイが宣言して、あろうことかセドリックを誘ったのだ。けれど、それを聞いた時、エレントの心は完全に変わっていた。素晴らしいと褒めたたえてしまうほどに、エレントはロイを好いていた。
だから、二人で世界をめぐり、魔物を討伐することを、止めるつもりなんてこれっぽっちも思わなかった。それどころか、ついて行きたいなんてあさましい気持ちも湧かなかった。こんなにも気持ちが変わるなんて、エレント自身が一番驚いていた。
だから、卒業をまじかに控え、こんなお願いをしてしまった事を恥じた。なんともはしたないお願いであったから。
「セドリックとの子が欲しい。卒業したらすぐにでも」
もちろん、二人っきりの時にセドリックにオネダリをしたのだ。器役にはロイを指名して。もちろん、王子たちの器役をロイがしたから、縁起担ぎということもあるけれど、何よりウォーエント家の魔力量には心惹かれる。自分の手で英雄を育てるなら、基礎から高い方がいいに決まっている。そこはあさましい考えがあるのだが、セドリックに悟られないように誘導した。
「器役をお願いすれば、誰の邪魔もなくロイを抱けます」
我ながらなんとハレンチな事を口にしたものか。一瞬目を見開いたセドリックの顔が忘れられない。けれど、エレントは分かっていた。あれだけ一緒にいても、セドリックはロイと最後まで致してはいない。未だに許嫁であるセドリックは童貞だ。聞かなくてもわかってしまう自分が恥ずかしい。
まじめなセドリックは、ロイに対して抱く心に蓋をして、許嫁である自分に操を立ててくれていたのだ。たがら、エレントはセドリックを、早く解放してあげたかった。
「初めてでは、体の大きなあなたがロイを傷つけるでしょう」
そう言って、セドリックの初めては自分に捧げてもらった。エレントは許嫁のために閨教育をきちんと受けていた身である。男同士でどうするのか、どうやって受け入れればいいのか、きちんと教育を受けていた。
反対に、英雄になるための教育しか受けてこなかったセドリックは、男同士でのやり方なんてしらないのだ。年上で許嫁であるエレントが教えれば済むことだから。
「恥ずかしいでしょう?英雄であるあなたが童貞だなんて」
エレントはゆっくりと風呂の中でセドリックの肩をもんだ。緊張しているセドリックは、ガチガチに体を硬くしている。
「いいですか、男同士でするには手順があります。魔法で浄化してからゆっくりとならしてあげなくてはいけないのです」
そう言って、セドリックの手を取る。
向かいあわせで湯船に浸かるセドリックは、随分と大人しくエレントの説明を聞いている。
「浄化魔法は使えるようになりましたか?」
エレントがそう質問をすると、セドリックは黙って頷いた。きっと、ロイと一緒にダンジョンを潜っていたとき、当たり前の顔をして浄化魔法を使うロイを見ていたのだろう。冒険者であれば、初級程度であっても浄化魔法の習得は必須だ。使えなければ武器の劣化を早めるし、不衛生なままで冒険を続けるのは生命の危険を誘発する。
もっとも、セドリックが英雄となった今。浄化魔法が使える冒険者を雇えば済む話ではあるのだけれど。
「大丈夫ですよ、セドリック。同じ男であるからこそ、手に取るように分かるというものです」
「ああ」
「そんなに緊張しては、ロイが怯えます。あなたは堂々としていなくては」
「わかっている」
――――――――――
本来なら、緊張を解さなくてはならないのはセドリックではなくロイの方であったはずだ。それなのに、ロイは友人が遊びに来てくれた。程度の気安さでベッドの上に寝転がっていたのだ。
確かに、一緒に夕食をとり、その後はお菓子を食べながら談笑もした。その時に説明もしたはずなのに、ロイは緊張とは程遠い態度だったのだ。
「許嫁でもある私が立会人でもあります。籠の支度も出来ていますので、ご心配なく」
子をなすためのゆりかごである、蔓草で編み上げた籠は、エレントがちゃんと自分で編み上げた。もちろん、蔓草は自分で用意した。さすがにウォーエント家の領地にあるダンジョンで探すのは厳しかったので、ブロッサム公爵領の森で採取させてもらった。強い魔物がいる森なので、ダンジョンで取れるものには劣るかもしれないけれど、それでもその辺の森で採取するものよりは格段に質がいい。それに、ちゃんと自分で採取したものだ。それを自分の手で編み上げた。
エレントはその籠をロイのベッドの横に既に置いてきてある。それを見れば嫌でもこれからのことが分かりそうなのに、ロイはとても嬉しそうだった。
「さあ、行きましょう」
身支度を整えて、エレントはセドリックの肩を叩いた。随分と広い背中になったものだ。
「セド」
姿を見るなり、ロイの方から声をかけてきた。そして、自分の隣をポンポンとたたく。つまりは、ここに座れということだ。
「……ロイ、その」
セドリックはどうにも緊張が隠せていなかった。確かにいろいろあったけれど、お互い初めてではないし、同意の上なのだから、ここに来てやっぱりやめたは起こるはずはない。
「大丈夫だよ。心配しないで、俺、やじゃないよ」
ロイがそんなことを口にするから、セドリックは思わず喉を鳴らした。
ゆっくりと腕を動かし、ロイの肩を掴むと、セドリックは優しくロイに唇を重ねた。それを合図にセドリックとロイの間で魔力が行き交う。
「んっ、ふぅぅ」
段々と体勢が動いて、ロイがセドリックの下側へとなってくると、ロイの喉が忙しなく上下するようになってきた。魔力の注入が始まって、ロイ体がセドリックの魔力に馴染もうと準備されていく。
「ロイ」
自分に向けるのとは明らかに違う許嫁の顔を見て、エレントは思わず顔を背けなくなった。けれど、それさえも受け入れられると自分は覚悟を決めたのだ。だから、決して目をそらさない。
「んぁ、セドの美味しぃ」
やはりロイは上質な魔力を美味しいと感じられる体質で、英雄となったセドリックの魔力はかなりお好みのようだ。セドリックとの間にうっすらと出来た透明な糸を舌で舐めとるように口へと運ぶ。その仕草は完全にセドリックを誘っていた。
「ロイ、ロイ、ロイ」
熱にうかされるようにセドリックがロイの上へとその大きな体を被せてきた。何度も名前を呼びながら、ロイの顔へと唇を落とす。それではロイが魔力を受け取れないのだけれど、粘膜が触れるからそれはそれで心地の良い魔力が触れてロイには嬉しい刺激となる。
「んぁぁぁん」
セドリックの唇がロイの首筋を通り、鎖骨からさらに下の肌へと移動した。そうして、色の違う皮膚をセドリックの赤い粘膜が刺激する。皮膚の色が違ければ、皮膚の厚みも違う。つまりは、そこからも魔力は注がれるのだ。
「ロイ、ロイ」
熱に浮かされるようにセドリックはロイの体に跡を残す。その行為はある意味無意味である意味有効だった。朱の跡はいわば血の跡。そこに集まった小さな塊が触れ合うたびに僅かでもセドリックの魔力を拾う。
そうなれば、ロイの体はさらにセドリックへの反応を高まらせるのだ。
「あ、っんん……セド、せ、どぉ」
ロイの手が宙をさまよいセドリックの首にかかる。項あたりの僅かな髪を指に絡め、口を開いて赤い舌を見せる。白い歯列の上をもどかしげに動く様を見て、セドリックはたまらなくなり自身の歯で甘噛みをした。
柔い肉の感触はどうしようもない劣情を誘う。しかし、ロイの手が回されたうなじのあたりから、冷静になれと自身に言い聞かせる。
この手を離されたくはない。
「ロイ、も、う少し、ま、ってくれ」
チリチリとした何かが心を焚きつけるけれど、努めて冷静にならなくてはならない。ロイの体を傷つけるなどあってはならないことだ。
セドリックはゆっくりとロイの後ろに手を回した。エレントからきつく言われたこと「あなたの手は大きいのですからね」だ。エレントの手と比べられて、納得はした。
幼い頃から剣を握っていたセドリックの手は、大きくて指も長く節くれている。おまけに沢山作っては潰れていった豆の後は硬くなっている。「なれないうちはあなたの指さえ凶器です」とエレントに言われて、つたいなくも想像はしてみた。だが、随分とハレンチな妄想になってしまいエレントに叱られたのだ。
「ひゃあぁぁぁぁぁぁ」
ゆっくりと縁をなぞるように動かしながら水魔法を発動させ、ゆっくりとロイの胎内に挿入ていったつもりだったのだが、やはり自分の指は太いのだと思い知らされた。
第一関節がずっ、と入り込んだ時ロイが背中をのけぞらせ、それでもセドリックの首に回した手を離さず指先に力を込めたのだ。
「っ、ロイ」
慌てるセドリックの視界に腕が伸びてきた。その腕はロイの肌を撫でるように動き、視界の下へと移動する。
「セドリック、言ったではありませんか。あなたの指は太いのです」
エレントがいつの間にかに寝台にあがり、ロイに手を伸ばしていた。
「こうすると、気が逸れます。気持ちの良いことの方が優先されるのですよ」
エレントの腕が自分とロイの間に伸びていて、セドリックはどうにも気になって仕方がない。けれど、それをどう伝えればいいのか分からない。
「やだ、そこ……さわっちゃ」
ロイが切なそうな声を出す。だが、そんな声を聞いてしまえば、セドリックの中に対抗心が生まれてしまう。
エレントがどういうふうに触っているのか気になって、思わずセドリックは視線を下げた。
「っう」
二人でダンジョンに潜った時に見たし触れた。けれど、その時とは違い寝台の上で薄い皮膚を上気させているロイはセドリックを焚き付けてくるだけだった。
エレントの手がやんわりとロイを包み込むように握り、親指の腹が先端を撫でるように動く。既にロイの先端からは透明な液体が溢れていて、その液体を指に纏いながらエレントの親指が、先端を撫でる動きを変える。
「あっ、あああ」
ロイの体がビクビクと揺れる。セドリックがエレントに負けまいと指の動きを変えたからだ。一番長い中指を根元まで一気に射し込んで、浄化の魔法を放つ。その刺激がロイの内部にじんわりと広がったのだろう。セドリックの指に強い締め付けがきた。
「ロイ、いい子だ」
セドリックは手首を返すときに、ほんの少し指を曲げてみた。太い指の節がロイの胎内を抉るように動く。
「やぁぁぁ」
またロイ体に力が入り、セドリックの指を強く挟んだ。けれど、その反応が嬉しくてセドリックは指を二本に増やす。その様子を見ているエレントは、ロイの意識を後ろに行かないよう前への刺激を緩めない。
「セドリック、ゆっくりですよ。焦らないで下さい。時間はあるのですから」
「分かった」
エレントに言われ、セドリックは二本の指をゆっくりと抜き差しした。重ねているから関節の部分が出入りする度にロイの体が大きくはねる。けれど、この程度でこんな反応をされては、自分のモノではロイはどのようになってしまうのか?想像してセドリックは唾を飲み込んだ。
「セドリック、丁寧にお願いしますよ」
気色ばんだセドリックの顔を見て、エレントが釘を刺す。何度もエレントで練習をさせたけれど、まだ若いだけあってセドリックはだいぶ性急だった。おかげでエレントは全く余韻に浸れなかった。もはやセドリックの閨指導と言ってもいいほどに何から何まで教えこんだ。
何ろロイはエレントよりも体が小さい。先に対応した王子様方は閨教育を受けているし、それなりに遊びも経験されている。その方たちと比べてしまえば、セドリックは恐ろしい程に素人だ。初心なところが可愛い。なんていえる余裕があるほどエレントだって大人ではない。まして、翻弄されているロイにおいては、性急に欲望を押し付けられてはたまらないだろう。
「そこだめぇ」
セドリックがエレントに言われた通りに丁寧に指を動かし、内側を丁寧になぞらえていると、ロイが一際大きく反応した。
「えっ」
ロイ反応に驚いたセドリックは思わず体を大きく動かした。
「やぁぁぁん」
セドリックが大きく動いたせいで、ロイの中でセドリックの指がロイの言うダメな箇所を強く押し上げた。
「セドリック、慌てないで」
やらかしたことに気づいたエレントがセドリックを叱責する。
「大きく動かしてはいけません。と何度も教えたではありませんか」
エレントに言われてセドリックは固まってしまった。手の動きが止まってしまい、目線だけでエレントを伺う。
「いやぁ、押しちゃダメなのぉ、せどぉ」
大きく動いた後にそのままの体勢だから、ロイは強い刺激を受けたところをいつまでもセドリックの太い指で押されたままだ。
「セドリックっ」
エレントが慌ててセドリックの腕を掴んだ。それでようやくセドリックはロイから指を抜き出した。
「済まない、ロイ」
セドリックがそう言うと、ロイは肩で大きく息をしているような状態になっていた。
「っやぁ、もう。そこばっかり……は、やだぁ」
ロイが訴えればエレントはすぐに対応した。ロイの上気した肌をゆっくりと撫で回す。そうしてロイの片足を掴んで、セドリックに合図を送る。
「ロイ、いい子だもう少し、頑張ってくれ」
セドリックは二本の指でゆっくりとロイの入口を広げた。浄化魔法と水魔法を練り合わせて丹念に指を動かせば、ロイの入口は柔らかくセドリックの指を向かい入れた。あと少し、あと少し。
はやる気持ちを抑えながらセドリックはゆっくりと三本目を挿入する。それに合わせてエレントはロイの口を塞いだ。
上からエレントの魔力をロイに注ぐ。セドリックが付けた朱の跡に手のひらを添えれば、そこからじんわりと注ぎ込む。体に注がれる魔力を感じ取り、ロイは強請るように腰を動かした。
「ロイ、もう少し待ってくれ」
ロイを傷付けたくないセドリックは、ゆっくりロイの胎内で指を開いた。温かくて柔らかいロイの胎内でセドリックの指はその壁を優しく押し広げる。浅い場所を丁寧にすれば、ロイの腰がさらに強請るように動いた。
「セドリック、もう大丈夫のようです」
エレントがロイの間に臍の辺りを見て言った。うっすらと何かが浮かび上がってきている。エレントがゆっくりと魔力を注いだから、先に注がれたセドリックの魔力と合わさって、受け入れの準備が始まったのだ。
「ゆっくりと、ですよ」
「わ、かった」
セドリックはロイ膝裏に手を添えた。抱えあげた太ももの向こうにはロイの顔が見える。エレントとの魔力の交わりでロイの唇は濡れていた。その唇さえも欲しいと思ったけれど、一度にそこまではまだセドリックには難しい。
エレントの目に制されて、セドリックはゆっくりとロイに自身をあてがった。ゆっくりとほぐしたそこは、軽く触れただけでセドリックを温かい熱を持って向かい入れてきた。自身の一番敏感な部分がロイの温かな熱に触れ、セドリックはそれだけで満足してしまいそうになる。
「セド、早くぅ」
ロイがかすれた声で言うので、セドリックは一瞬身震いをしたが、すぐに気を持ち直して腰をゆっくりと進めた。ロイの膝裏をつかんでいるから、自分の目で自身がロイの胎内に飲まれていく様がよく見える。
「っロイ」
後頭部が焼ききれそうな熱を感じて、セドリックは身震いをしたが、それでも性急に動くようなことはしなかった。ゆっくりと慎重に、ロイの胎内に自身を埋めるように動かし、そうして最後まで自身を埋めることができると、ようやく肩の力が抜けた。
「上手ですよ、セドリック」
根元まで挿入ったことを確認したエレントは、セドリックをねぎらいはしたものの、ここからが正念場なのだと自分に言い聞かせた。婚約者であるセドリックが想い人を抱くのだ。自分はそれを最後まで見届ける。
この残酷な儀式を提案したのは自分なのだから、受け入れる覚悟はあるのだ。セドリックを受け入れ悦ぶロイの姿を見ることを。
「ああああああ、セドっ、奥ぅ」
セドリックが抽送を始めれば、ロイの小さな体はその動きに翻弄されて揺さぶられる。ロイの手はいつの間にかにシーツの上をさまよいまだ剣を握り慣れていない皮膚の薄い指先は赤くなっていた。その手をエレントはとり、慌ててセドリックに握らせる。そうするとロイの方から指を絡ませて握り返してきた。
「ロイ、ロイ」
セドリックはしきりにロイの名を呼び、汗に額に浮かべながら抽送の速度を上げていった。終わりの時を感じてエレントはロイの唇に自分の唇を重ねた。ロイの口内の粘膜に擦り込むように自分の魔力を流し込む。そうしてロイの薄い腹にハッキリと魔法陣が浮かび上がるのを確認した。
――――――――――――――
「では、私は公爵家にまいります」
蔓草で編んだゆりかごを大切に抱きしめたエレントは、ロイに深々と頭を下げた。ロイエンタール公爵領に転移する魔法陣はすでに準備が整っているから、後は発動するだけだ。
「うん、元気で丈夫な子を産んでね」
几帳面なエレントが編んだだけに、ゆりかごはとても綺麗な作りだ。
「ではロイ、また学園でな」
セドリックがエレントの肩を抱いた。そんなことをされてエレントはたいそう驚いた顔をしたけれど、目の前のロイが親指を立てて笑ったので、微笑み返したのだった。
「またねっ」
ロイがそう言うと魔法陣が発動し、二人の姿は消えてしまった。
「セドの赤ちゃんかぁ」
ロイが思わずつぶやくと、侯爵となった父が人の悪い笑みを浮かべた。
「う……今度はなに?」
「ロイも欲しくなったのか?」
「ぅえ、でも……俺、相手いないし」
「相手なんていらんよ」
侯爵は悪巧みの笑みを浮かべた。そうしてロイにそっと耳打ちをする。
「ウォーエント家の秘術を教えてやる」
「え?なにそれ」
「一子相伝の秘術だ。なぁに、お前になら簡単にできるさ」
それを聞いてロイの瞳は輝いた。だって、なんだかとても面白そうだから。
それからロイは学園にもどったけれど、ウォーエント領の屋敷には、蔓草で編まれたゆりかごを揺らすアリアナの姿があった。
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