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おまけの話
王子様のナイショ話
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朝は慌ただしい。
商人でなくとも、農家でなくとも、たかだか学生、しかも王子であっても、朝は忙しい。
王子であるからこそ、身だしなみは人並み以上を求められるし、国民の手本となるべく、きちんとした食事をとり、ゆとりを持って登校せねばならない。だからと言って、早過ぎてはならない。
本来なら学園の寮にいるはずなのに、諸事情により離宮に住むことになってしまったから、周りの時間が見えなさ過ぎて、本日も要領を得ていなかった。
「あぁ、もう」
絶望的なため息とともに、指先に集めた魔力が霧散した。
「まぁた失敗したの?」
背後からからかうように言われたものだから、レイヴァーンは思わずそちらを睨みつけた。
「睨まないの、レイ」
相変わらずの軽口で名前を呼び、こちらの気持ちなど御構い無しに抱きついてきた。
「離れろマイセル。邪魔だ」
レイヴァーンがそう言っても、マイセルは離れたりなんてしない。むしろ、余計に抱きつく力を強めてきた。
「俺たちの大切なベビたんのための魔力飴、どーしてレイは作れないのかなぁ」
そんなことを言われれば、思わず俯いてしまう。
「愛情がないわけじゃないもんね?レイ」
思わず俯いたレイヴァーンの耳元で、マイセルが囁く。
「魔力を指先でコネコネするだけなのになぁ」
そう言って、マイセルは自分の指先に魔力を集め、人差し指と中指、親指の三本で、魔力をこね始めた。
徐々に指先に魔力が集まり、集めた魔力の色をした飴玉が出来上がった。風と火が混じり合った飴玉は、青と赤のマーブル模様だ。出来上がった飴玉を、マイセルは銀のトレイに載せた。
「何見てるの?ほら、レイも作らないと」
言われて慌てて指先に魔力を集めるが、こね始めた途端に霧散する。力加減があっていないらしい。
「もぉ、レイってば意外と不器用さんだね」
マイセルにからかうように言われると、思わずムッとしてしまう。
「ここをこねるみたいに優しくするんだよ」
そう言って、マイセルはレイヴァーンの服に中に手を入れた。
「なっ……何をする」
きちんと着ていたはずの制服なのに、ちょっと油断した隙に、マイセルはボタンを外していた。そうしてマイセルの右手がレイヴァーンの胸の飾りを摘んでいたのだ。
「ほら、こんな風に優しくコネコネするんだよ」
マイセルはそう言って器用に強弱をつけてこねくり回す。そんなことをされて、レイヴァーンは思わず声を上げた。
「あっ…ぁぁ」
指先に魔力は込められず、背中が仰け反る。
「ほらぁ、俺が教えてあげてるんだから、まじめにやって。ベビたんがお腹すかせてるよ」
マイセルはそう言いながら指の動きを止めることはしない。
「やぁ、止めろっ……離せ」
レイヴァーンは必死でマイセルの手を払いのけようとしたが、マイセルはレイヴァーンの胸の尖を摘んだままだ。
「ぁ…」
思わぬ刺激に思わず唇をひき結んだ。
「あれぇ、レイってば、こうされるの好きなのかな?」
レイヴァーンの反応が面白くて、マイセルはさらに強弱をつけて弄び、ついでに空いている方の尖を爪先で弾いた。
「っひ」
びくん、とレイヴァーンの体が跳ねて、ソファーの座面に体が沈んでいく。
口は閉じたままだが、潤んだ瞳がマイセルに訴えていた。
「やだなぁ、レイは。こねるより、こねられる方が好きなんだ」
そう言って、マイセルは楽しそうに両方の尖をこね始めた。
「あっ……ぁあ、だ、めだ…」
レイヴァーンが力なくマイセルを押しのけようとした時、声が降ってきた。
「何してんの、レイ」
ソファーの背面から、同じ顔をしたアレックスがこちらを見ている。
「………っ」
頰のあたりに熱が集まったのがわかった。
「遊んでる時間なんてないよ。……腹空かせてたから私のを与えてきた。一人二個ずつ作らないと、学園に通う間の補給が間に合わないと言われているだろう?」
アレックスは不機嫌そうにそういうと、テーブルの上の銀のトレイに目をやった。
「レイ、まじめに」
そうは言われても、指先で魔力が霧散してしまうのだ。いまはこのようにマイセルが邪魔をする。
「おかしいねぇ、レイは魔術学科なのに、どうしてこんなことができないのかなぁ」
そう言って笑いながら、マイセルはさらにレイヴァーンの胸の尖をこねまわす。
「……………」
「だから魔術学科なんだ」
答えたのはアレックスだった。
「双子なのにレイは不器用だから、魔術学科になったんだ」
「上達してないじゃない」
マイセルがからかう様に言うと、レイヴァーンは涙目のまま睨みつけてきた。
「そんな顔しないの、俺がちゃぁんと教えてあげるから」
マイセルはそういうと、楽しそうにまたこねくり始めた。
「あっあっ……あぁ」
マイセルが楽しそうに摘んで、揉んで、引っ張った。そのせいで、レイヴァーンの背中は仰け反ったままで、口は開いたままだ。
「授業に間に合わない」
アレックスはボソリと呟くと、開いたままのレイヴァーンの口に、己のそれを重ねた。
「んっ、んん」
驚いて目を見開くレイヴァーンだったが、何をされているのかわかってしまったため、大人しくそれを受け入れた。
アレックスの指先に、魔力が集まり、ゆっくりと丸みを帯びてくる。それに気がついたマイセルは、テーブルから銀のトレイをとった。アレックスの前に差し出すと、アレックスは出来上がったばかりの魔力飴を載せた。
そうして、そのまま二個めを作る。
その間、アレックスはレイヴァーンの口を塞いだままだ。
器用にクルクルと魔力をまとめあげ、アレックスはそのままさらに三つ作り上げた。
「私の魔力も混ざってるだろうから、多めに作ったよ。レイ」
言われてレイヴァーンは黙って頷く。
「私はもう学園に行く。愛しのロイが待っているからね」
そう言うと、アレックスは銀のトレイを乳母に渡した。
「今日も頼んだよ」
乳母は黙って頭を下げると、ゆっくりと扉に向かって歩き出した。そうして、部屋を出る直前に口を開いた。
「若様のお世話はおまかせくださいませ。人払いいたしますので、どうぞごゆっくり」
扉が閉まる音がして、レイヴァーンはようやく状況が飲み込めた。アレックスと一緒に乳母が入ってきていたのだ。つまり、レイヴァーンの痴態を乳母は見ていた。けれど、乳母は自分が世話をする赤子の親を聞かされているから、驚きもしなかったと言うわけだ。ただ、あらぬ誤解が生まれたのは確かかも知れない。
「なっ、な、な、な」
「な?」
口を動かすわりに、言葉が出てこないレイヴァーンを、マイセルは面白そうに見下ろしていた。
「不器用なレイには、俺が特別講師をしてあげるからね」
そう言うと、マイセルは再びレイヴァーンの胸の尖を指で摘んだ。
今度はふたつ同時にだ。
「ひっ」
レイヴァーンが驚いて声を上げると、マイセルは楽しそうに目を細めた。
ゆっくりと唇を舐めると、組しく形で下になっているレイヴァーンを見た。
「レイ、今日は個人授業しようね」
そう言って、マイセルはレイヴァーンの首筋あたりに顔を寄せてきた。
「ま、まてっ、そう言って昨日もやすんだじゃないか」
「仕方がないでしょ、レイがあんまりなんだもん。俺が恥ずかしくない程度に仕込んで、あ・げ・る」
休みの届け出を出していない。とレイヴァーンが文句を言ったけれど、昨日も今日もアレックスが出していた。もともとはこの二人が婚約者同士だったのだ、「親交を深めています」とアレックスが大真面目な顔で言えば、疑う者など誰もいないのである。
ただ、アーシアが鏡を胸に抱いて「尊いわ」と呟いていたのをテオドールが冷ややかな目でみてはいたけれども。
商人でなくとも、農家でなくとも、たかだか学生、しかも王子であっても、朝は忙しい。
王子であるからこそ、身だしなみは人並み以上を求められるし、国民の手本となるべく、きちんとした食事をとり、ゆとりを持って登校せねばならない。だからと言って、早過ぎてはならない。
本来なら学園の寮にいるはずなのに、諸事情により離宮に住むことになってしまったから、周りの時間が見えなさ過ぎて、本日も要領を得ていなかった。
「あぁ、もう」
絶望的なため息とともに、指先に集めた魔力が霧散した。
「まぁた失敗したの?」
背後からからかうように言われたものだから、レイヴァーンは思わずそちらを睨みつけた。
「睨まないの、レイ」
相変わらずの軽口で名前を呼び、こちらの気持ちなど御構い無しに抱きついてきた。
「離れろマイセル。邪魔だ」
レイヴァーンがそう言っても、マイセルは離れたりなんてしない。むしろ、余計に抱きつく力を強めてきた。
「俺たちの大切なベビたんのための魔力飴、どーしてレイは作れないのかなぁ」
そんなことを言われれば、思わず俯いてしまう。
「愛情がないわけじゃないもんね?レイ」
思わず俯いたレイヴァーンの耳元で、マイセルが囁く。
「魔力を指先でコネコネするだけなのになぁ」
そう言って、マイセルは自分の指先に魔力を集め、人差し指と中指、親指の三本で、魔力をこね始めた。
徐々に指先に魔力が集まり、集めた魔力の色をした飴玉が出来上がった。風と火が混じり合った飴玉は、青と赤のマーブル模様だ。出来上がった飴玉を、マイセルは銀のトレイに載せた。
「何見てるの?ほら、レイも作らないと」
言われて慌てて指先に魔力を集めるが、こね始めた途端に霧散する。力加減があっていないらしい。
「もぉ、レイってば意外と不器用さんだね」
マイセルにからかうように言われると、思わずムッとしてしまう。
「ここをこねるみたいに優しくするんだよ」
そう言って、マイセルはレイヴァーンの服に中に手を入れた。
「なっ……何をする」
きちんと着ていたはずの制服なのに、ちょっと油断した隙に、マイセルはボタンを外していた。そうしてマイセルの右手がレイヴァーンの胸の飾りを摘んでいたのだ。
「ほら、こんな風に優しくコネコネするんだよ」
マイセルはそう言って器用に強弱をつけてこねくり回す。そんなことをされて、レイヴァーンは思わず声を上げた。
「あっ…ぁぁ」
指先に魔力は込められず、背中が仰け反る。
「ほらぁ、俺が教えてあげてるんだから、まじめにやって。ベビたんがお腹すかせてるよ」
マイセルはそう言いながら指の動きを止めることはしない。
「やぁ、止めろっ……離せ」
レイヴァーンは必死でマイセルの手を払いのけようとしたが、マイセルはレイヴァーンの胸の尖を摘んだままだ。
「ぁ…」
思わぬ刺激に思わず唇をひき結んだ。
「あれぇ、レイってば、こうされるの好きなのかな?」
レイヴァーンの反応が面白くて、マイセルはさらに強弱をつけて弄び、ついでに空いている方の尖を爪先で弾いた。
「っひ」
びくん、とレイヴァーンの体が跳ねて、ソファーの座面に体が沈んでいく。
口は閉じたままだが、潤んだ瞳がマイセルに訴えていた。
「やだなぁ、レイは。こねるより、こねられる方が好きなんだ」
そう言って、マイセルは楽しそうに両方の尖をこね始めた。
「あっ……ぁあ、だ、めだ…」
レイヴァーンが力なくマイセルを押しのけようとした時、声が降ってきた。
「何してんの、レイ」
ソファーの背面から、同じ顔をしたアレックスがこちらを見ている。
「………っ」
頰のあたりに熱が集まったのがわかった。
「遊んでる時間なんてないよ。……腹空かせてたから私のを与えてきた。一人二個ずつ作らないと、学園に通う間の補給が間に合わないと言われているだろう?」
アレックスは不機嫌そうにそういうと、テーブルの上の銀のトレイに目をやった。
「レイ、まじめに」
そうは言われても、指先で魔力が霧散してしまうのだ。いまはこのようにマイセルが邪魔をする。
「おかしいねぇ、レイは魔術学科なのに、どうしてこんなことができないのかなぁ」
そう言って笑いながら、マイセルはさらにレイヴァーンの胸の尖をこねまわす。
「……………」
「だから魔術学科なんだ」
答えたのはアレックスだった。
「双子なのにレイは不器用だから、魔術学科になったんだ」
「上達してないじゃない」
マイセルがからかう様に言うと、レイヴァーンは涙目のまま睨みつけてきた。
「そんな顔しないの、俺がちゃぁんと教えてあげるから」
マイセルはそういうと、楽しそうにまたこねくり始めた。
「あっあっ……あぁ」
マイセルが楽しそうに摘んで、揉んで、引っ張った。そのせいで、レイヴァーンの背中は仰け反ったままで、口は開いたままだ。
「授業に間に合わない」
アレックスはボソリと呟くと、開いたままのレイヴァーンの口に、己のそれを重ねた。
「んっ、んん」
驚いて目を見開くレイヴァーンだったが、何をされているのかわかってしまったため、大人しくそれを受け入れた。
アレックスの指先に、魔力が集まり、ゆっくりと丸みを帯びてくる。それに気がついたマイセルは、テーブルから銀のトレイをとった。アレックスの前に差し出すと、アレックスは出来上がったばかりの魔力飴を載せた。
そうして、そのまま二個めを作る。
その間、アレックスはレイヴァーンの口を塞いだままだ。
器用にクルクルと魔力をまとめあげ、アレックスはそのままさらに三つ作り上げた。
「私の魔力も混ざってるだろうから、多めに作ったよ。レイ」
言われてレイヴァーンは黙って頷く。
「私はもう学園に行く。愛しのロイが待っているからね」
そう言うと、アレックスは銀のトレイを乳母に渡した。
「今日も頼んだよ」
乳母は黙って頭を下げると、ゆっくりと扉に向かって歩き出した。そうして、部屋を出る直前に口を開いた。
「若様のお世話はおまかせくださいませ。人払いいたしますので、どうぞごゆっくり」
扉が閉まる音がして、レイヴァーンはようやく状況が飲み込めた。アレックスと一緒に乳母が入ってきていたのだ。つまり、レイヴァーンの痴態を乳母は見ていた。けれど、乳母は自分が世話をする赤子の親を聞かされているから、驚きもしなかったと言うわけだ。ただ、あらぬ誤解が生まれたのは確かかも知れない。
「なっ、な、な、な」
「な?」
口を動かすわりに、言葉が出てこないレイヴァーンを、マイセルは面白そうに見下ろしていた。
「不器用なレイには、俺が特別講師をしてあげるからね」
そう言うと、マイセルは再びレイヴァーンの胸の尖を指で摘んだ。
今度はふたつ同時にだ。
「ひっ」
レイヴァーンが驚いて声を上げると、マイセルは楽しそうに目を細めた。
ゆっくりと唇を舐めると、組しく形で下になっているレイヴァーンを見た。
「レイ、今日は個人授業しようね」
そう言って、マイセルはレイヴァーンの首筋あたりに顔を寄せてきた。
「ま、まてっ、そう言って昨日もやすんだじゃないか」
「仕方がないでしょ、レイがあんまりなんだもん。俺が恥ずかしくない程度に仕込んで、あ・げ・る」
休みの届け出を出していない。とレイヴァーンが文句を言ったけれど、昨日も今日もアレックスが出していた。もともとはこの二人が婚約者同士だったのだ、「親交を深めています」とアレックスが大真面目な顔で言えば、疑う者など誰もいないのである。
ただ、アーシアが鏡を胸に抱いて「尊いわ」と呟いていたのをテオドールが冷ややかな目でみてはいたけれども。
応援ありがとうございます!
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