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第51話 ダンジョンの目的は?

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 扉が閉められると、昼間だと言うのに建物内部は随分と暗かった。
 この程度の明るさなら、昼間でもアンデッドが出るのも頷ける。窓が近くに無い廊下の曲がり角などは、完全なる暗闇にしか見えない。ここが砦であったことが理解出来る。

「さすがに暗すぎるわよね」

 そう言って、アーシアがあかりの魔法を展開した。ちょっとした人の頭部ほどの大きさで燈を灯せば、八人全員の足元がよく照らし出された。

「ここは、いつ頃の戦争の名残なんだ?」

 堅牢な造りの砦であるのに、アンデッドが出現するような施設になってしまうとなると、相当な死者が出た戦いがあったのだろう。そう思ったからこそ、テリーは何気なく聞いた。
 しかし、それにしては建物にそれを裏付ける傷跡か見当たらない。

「え?この砦で戦争なんてしてないよ」

 先頭を歩くロイが意外そうな顔で振り返った。

「戦争をしていない?」

 言い方は悪いが、国の外れにある子爵の領地だ。ダンジョンがあることから、それを争っての砦だったのではないのか?

「ここにはいる時に聞いたでしょ?湿地にアンデッドが出るんだよね。湧いて出てくるアンデッドが領地に広まらないように建てた砦だよ。隣国の領主と同じ造りになるよう盟約は結んでるけど」

 ロイがあっさりと口にした内容を聞いて、テリーだけではなく、その場にいた全員が顔をひきつらせた。

「ちょっと待って、ロイ」

 もちろん、一番慌てたのはアーシアだ。一応は女の子だし、聖女だし。

「うん、なに?」

「この砦、初めから人は住んでなかった?」

「いや、アンデッドを誘き寄せるために仮住まいとして、冒険者に依頼して一ヶ月ぐらい住まわせたらしいよ」

 だから、一階にはちゃんと店や食堂の施設が残されている。井戸もあるし、教会もある。

「誘き寄せるため?」

 アーシアの顔が益々ひきつる。

「教会はさ、ちゃんとセーフティーゾーンとして機能してるから。危なくなったら駆け込めばいいよ。地下はねぇ、よく分からないけど隣国の砦と繋がってんの。でも俺もまだ駆け抜けたことは無いよ」

 ロイの説明を聞いて、心の中で「試すなっ」と突っ込んだのはアーシアだけでなく、セドリックもだろう。

「なんで、地下が隣国の砦に繋がってるってわかったの?」

「冒険者に頼んで、あっちの砦に入ってもらったんだ。そしたら、地下で出会ったの。でも、廊下がすっごく長いの。魔力が、ねじれて繋がってる感じ」

「それダメじゃない。そんなところ歩いたら、魔界に行っちゃうわよ」

 アーシアが正論を言うから、ロイはやっぱり?と笑っていた。分かってはいるけれど、試してみたかったのだろう。

「でもねぇ、魔法は通ったんだよ」

「そりゃ、魔法だもの」

「だよね」

 ロイとアーシアがどうでもいいような事を話しているうちに、砦の中の開けた場所に出た。
 屋根がなく、ちょっとした広場のような作りだ。噴水があって、花壇もある。けれど、花は咲いていない。
 そこだけとても明るいのだけれど、木陰にはアンデッドらしい姿が見える。

「この広場を、調べても?」

 マイセルが聞いてきた。

「いいよ。いいけど、このままだと危ないからちょっと待ってて」

 そう言って、ロイがセドリックに合図をした。セドリックも理解したようで、剣を手にして前に出る。

「試したい技がある」

 大きく息を吸って、セドリックは剣を構えた。セドリックの魔力が魔石に乗っていくのが分かる。一番強く輝きを増したのは光の魔石だ。

「もしかしてっ」

 近くで見ながら、ロイは興奮した。これは、ゲームでよく見ていたエフェクトの魔法が放たれるのでは無いか?ロイの期待値が増した時、セドリックが剣を下から上へと切り上げた。刀身が白く輝き、無数の光が放たれたのが見えた。

「キター」

 興奮したロイは、アーシアの腕を掴んで振り回す。

「キタキタキタキタ」

 セドリックの剣から放たれた無数の光は、まるで意志を持っているかの如く動き、暗闇に潜むアンデッドに突き刺さった。

「ねぇ、みた?アーシア!セドの剣、凄いっ!かっこいい」

「見たわよ、凄いわ。って、痛いから離しなさい」

 一応、転生者であるから、アーシアだってそのくらいわかっている。まるでゲームで見た必殺技のエフェクトのようだった。だからといって、アーシアはここまで興奮するような感動はない。

「もう、アーシアはロマンが分かってないなぁ」

「なんのロマンよ。あんたと一緒にしないで、私には私のロマンがあるんだから」

 そう言って、アーシアはロイを突き放した。けれど、ロイは別にめげるわけでもなく、そのままセドリックに駆け寄った。

「凄い、セド!もっかいやって。今度は『ホーリーアロー』って言いながらやって」

「え?な、ホーリー?」

 ロイが駆け寄ってきて、飛びつくようにしてくるから、セドリックはロイのことを受け止めはしたものの、ロイが言っていることが良くききとれない。

「ホーリーアローって、言いながらやってみて」

「ホーリーアロー?なぜだ?」

 何かを口にしながら剣を振るったことなどないから、セドリックは難色を示した。それに、剣を振りながらなにか叫んでいたら、戦場では目立つ。おまけに、恥ずかしい。

「もう、分かってないなぁ、男のロマンじゃん」

「は?ロマン?」

 聞きなれない単語が出てきて、さらにセドリックは混乱した。ロイは一体何をさせようと言うのだろうか。

「もう、魔力を放つんだから、魔法を使うとの一緒だよ。呪文唱えるようなもんだよ。無詠唱もかっこいいけど、英雄なら、技の名前があった方がかっこいいじゃん」

 ロイの主張は、最後のかっこいいなんだけれど、セドリックからしたら、『英雄』という、ワードを出されると弱い。

「……分かった、もう一度やってみよう」

 セドリックは納得しきれないまま、剣を握り直し、噴水の近くまで進んだ。さっきより、広場の中に踏み込んだことになる。噴水の水はおそろしく濁っていて、中に何かが潜んでいてもおかしくはないだろう。

そもそも、腐ったような臭いがやたらとする。その臭いの元は、この噴水だけでは無さそうだ。
 セドリックは大きな溜息にも似たの呼吸をして、剣を握り直した。

「…ホーリーアロー」

 剣を振り切るのに合わせて言葉を発すれば、そのタイミングに合わせて光の矢が放たれた。
 確かに、呪文と同じで、言葉にすると放たれる魔力がより具現化するようだ。
 先程は、ただ光が放たれただけにしか見えなかったけれど、今回は言葉の通りに矢の形をしている。

「これは、なかなかだな」

 ロイよりも後ろで眺めるだけに終始していたアレックスは、そう口にしながらもテリーに意味ありげの視線を向けた。

「俺の剣ではアンデッドは一体づつしか切れませんよ。しかも、核を切り損ねれば一撃とはいきません」

「ふぅん、そうなると、やはり大掃除はセドリックに任せるのがいいということか」

「そうですね。さすがに私と聖女では、あそこまで広範囲に攻撃はできません」

 話に割って入ってきてのはテオドールで、普段は見かけない杖を片手に持っていた。

「浄化魔法を施さないと、アンデッドが寄ってくるのですよ」

 杖に視線がきたことに気づいたテオドールは、そう言って杖を軽く振った。セドリックの剣から放たれた光に似た、小粒の光が辺りに散っていく。

「それが浄化魔法?」

 普段見かけない魔法を見て、アレックスは光の粒の行く先を眺めた。足元がわずかだが、明るくなったのがわかる。全体的には、アーシアのライティングの魔法で明るくはなっている。それが上からの明るさで、テオドールの魔法で足元が正しく明るくなった。

「不思議なものだな。明かりの魔法でも十分に明るいというのに、浄化魔法が施されると、床の造りがハッキリと見える」

「それだけ足元に歪みが生じているということです。ロイの話を聞いていましたので、足元注意です。地下は魔力の歪みが生じているのでしょう。浄化魔法を施さないと、それこそ足元を掬われます」

 テオドールは、そのままアレックスとテリーを皆のいる方へ促した。バラバラに立たれていると、それだけ浄化魔法をばら撒く労力を強いられるからだ。
 将来的に仕える身ではあるけれど、だからこそ、今のうちからしつけておく必要もあるのだ。

「凄いセド!かっこいい」

 ロイはセドリックに飛びついて、べた褒めをしている。それを羨ましいと見ればいいのか、呆れればいいのか、全くもって分からない。

「明るいですし、あらかたアンデッドは駆除されたので大丈夫でしょう」

 テオドールがそう言うと、ようやくマイセルが広場の中を歩き始めた。花の咲いていない花壇を一つづつ丁寧に確認している。

「ねぇ、何探してんの?」

 その様子を見たロイが声をかけると、すかさずセドリックがロイの頭を叩いた。

「ロイ、口の利き方に気をつけろ。隣国の王子だぞ」

「なんでぇ、俺は手伝おうと思ったんだよぉ」

 叩かれた頭を擦りながらも、ロイはマイセルの手元を覗き込む。

「蔓草を探しているんだ」

「蔓草?」

 聞きなれない言葉に、ロイは首を傾げる。

「ツタって言ったら分かるかな?」

「ああ」

 ようやく理解して笑顔になったロイを見て、マイセルは笑った。その笑顔を見て、セドリックは顔を少し歪める。

「何を編まれるのですか?」

「やだなぁ、そんな怖い顔して……籠だよ」

 マイセルが笑いながら答えると、ロイは無邪気に答えた。

「沢山いる?長い方がいいの?」

「そうだね。長い方が編みやすいかな」

 マイセルがそう答えると、ロイは頷いて上を指さした。

「そこの壁に結構あるよ」

 この広場を見下ろすような作りになったテラスから、ツタのような植物が垂れ下がっているのが見えた。

「本当だ。でも、上にはどこから登れば?」

 マイセルが、そんなことを言っているうちに、ロイは風魔法を使って自分の体を浮上させた。そうして、テラスより上に行くと、剣を抜いてテラスへ向けて剣を振り下ろす。

「ライトニングボルト!」

 前世で聞いたことがあるような、それっぽい言葉を叫んでみると、案外効果があるようだ。激しい稲妻が剣先から飛び出して、テラスの中で弾け飛ぶ。
 ロイは、時分が適当に放った稲妻が消えるのを待って、ゆっくりとテラスに降りた。

「うん、大丈夫だな」

 剣を鞘にしまうと、短剣を取り出して、壁にはうツタの根を切っていく。

「私も手伝います」

 テオドールがロイの場所にまで飛び上がり、ツタを取るのを手伝い始めた。
 セドリックは風魔法が不得意であるから、上に行くのは諦めた。それよりも、下にいて周囲に気を張った方が良さそうだ。

「籠を編むのか」

 セドリックが、独り言のように呟いたのをしっかりとアーシアは聞いていた。もちろん、アーシアは知っている。マイセルがなぜ籠を編むのかを。それに、蔓草を取る場所、全部で三箇所だ。ゲームでプレイ済みだから、場所もしっかりと覚えている。

(籠を編むってことは、今夜はイベント発生よね)

 アーシアは一人心躍らせていた。
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