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第49話 指導致します

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 これはゲームの設定と同じだったので、アーシアは特に驚きもしなかった。
 ロイはここが実家だから、自分の部屋がある。そんなわけで、のんびりと客間で残ったお菓子を食べていると、アーシアが転移魔法で現れた。

「うわっ、な、なに?」

 行儀悪く椅子ではなく床に座っていたロイは、驚いてアーシアを見上げた。

「何?じゃないわよ。あんた分かってるの?新しい攻略対象者よ。隣国の王子マイセル様」

「へ?」

 レイヴァーンの婚約者であるから、当然魔術学科に転校してくる設定だ。つまりはアーシアの攻略対象者ではないのだろうか?

「アーシアの方の人じゃないの?」

 自分には関係ないと思っているロイは、適当に返事をした。

「バカね、出現の時期が早いのよ。本来なら二年生になってから転校してくるのよ。それなのに、もう現れた。しかも、転校していないのに、ここにやってきたのよ」

 アーシアはなんだか興奮している。けれど、ロイは意味がわからないから、小首を傾げるだけだ。

「隠しルートが開いてると思う。王子が、3人揃ってあんたの実家にやってきた。つまり三人の王子の好感度が爆上がりするってこと」

「なんで?マイセル王子は初対面だよ」

「忘れたの?ダンジョンを一緒に攻略すると好感度が跳ね上がるじゃない」

「………そうだね」

 大切なことを思い出して、思わずロイの口からお菓子がこぼれた。

「英雄の剣の完成が早まったから、イベントが前倒しになって乱立してるのよ。あんたの食堂での断罪イベントも進行がおかしかったもの」

「え?あれイベントだったの?」

 ロイは自分側のゲームをプレイしていないから、イベントも何もさっぱり分かっていなかった。

「そうよ。あんたを断罪するところからの救済イベント。スチル絵もあったのに、ゲームのイベントと流れが違ってたわ」

 おかげでスチル絵がみられなかったから、アーシアはご不満だ。

「ゲームと流れが違うとなんかまずいの?」

 自分が悪役令息とわかっているから、ロイは内心ビクビクしているのだ。悪役令息として断罪されたらどうなるのか?よく目にしたラノベの断罪イベントは、極寒の地に幽閉とか、奴隷とし売られるとか、最悪は斬首刑もあったと記憶している。とにかくそんなのは嫌だから、ロイとしては断罪されないように努力をしているのだ。

「あんたが悪役令息として成立してくれないと、そもそもの設定崩壊じゃないのよっ」

 アーシアはそう言ってロイの鼻をつまんだ。地味に痛い。

「どーすりゃ、いいんだよ」

 鼻をつままれたから、ロイは目尻に涙を浮かべた。

「それ!そのうるうるお目目で可愛く振舞って攻略しちゃいなさいよ。言ったでしょ?NTR、ね・と・ら・れ」

「なんだよ、それ」

 そもそも、ロイからすればNTRそのものが、なんなのか理解がしづらい。

「なに、カマトトぶってんのよ。寝とるのよ。寝るの、攻略対象者と」

「はぁ?」

 聖女の設定のはずなのに、アーシアは随分とあけすけだ。聞いてしまったロイの方が恥ずかしくなる。

「なによ、あんなにセドリックと二人っきりで過ごしたのに、何もしてないの?」

 アーシアが意味深に聞いてきた。何も?何もとは、ナニをさすのだろうか?

「え?何もって……」

 思わずモゴモゴしてしまうと、すぐにアーシアが口を開いた。

「騎士科のお約束ぐらいしたんでしょ?どうだった?セドリックは優しくしてくれた?」

 アーシアがニヤニヤしながら聞いてくるので、ロイはますます口ごもる。

「お互いの手を使ったの?それとも口?もっと大胆に素股とか?」

 アーシアの目が生き生きとしているのは多分気のせいじゃない。ロイはその時のことを思い出して恥ずかしくなった。今更だけど、そう言われるとそうなのだ。

「な、なに言ってんだ、よ」

「やぁだ、赤くなっちゃって!魔力の讓渡で皮膚や粘膜の接触ぐらいするんだから、当然摂取もしたんでしょ?」

 アーシアが目線を逸らしてくれない。ここで逸らしたら負けだ。けれど、なんであんなことをしたのか考えても答えが出てこない。それが強制力だと言われれば、納得してしまうだろう。というより、強制力のせいにしたいところだ。

「いーのよ、隠さなくても。だって、私はゲームをプレイしてるんだもの、ちゃんと知ってるわよ。だから安心して」

 全く安心なんて出来ない。

「大丈夫よ、なんたって、これからダンジョンに行くんだもの。みんなとの好感度が爆上がりするわよ。嬉しみね」

 そう言い残して、アーシアは転移魔法でさっさといなくなってしまった。ロイはしばらく考え込んだけれど、ゆっくりと立ち上がった。

「とりあえず、トイレに行こ」

 小さい頃からの習慣である。
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