49 / 75
第48話 改めておさらいをしましょう
しおりを挟む
昨日、あんな騒ぎがあったせいで、夕食をまともに食べられなかったロイは、普段よりたくさんの朝食をお盆に載せていた。
そんなロイをきちんと座らせて、ミシェルは慌てて食べないように見守っていた。ロイは食べ終わると、すぐに部屋に戻って、支度をして、待ち合わせの場所に向かった。
なんてことは無い、待ち合わせの場所は学園の門で、騎士科からも魔術学科からも距離がほぼ同じだからだ。
ロイが着くと、既にアーシアはいたし、セドリックの隣にはエレントがいた。エレントは見送りに来ただけだと言って、授業に遅れるからと挨拶をして去っていった。
「外出の申請をしていないからな」
テオドールがそう言うと、アーシアが口を開いた。
「申し訳ないけれど、砦のダンジョンに挑めるほどの魔力を持ってないのよね」
ハッキリと言われて、セドリックは苦笑いをした。エレントの魔力の質はいいものだけど、圧倒的に量が足りない。まぁ、ここに揃ったメンバーと比較して、のことだけれども
「まずは、ウォーエント子爵にお会いしてご挨拶をしなくてはならないな」
テオドールがそう言うと、アレックスが頷いた。さすがに王子であっても、いや、王子であるからこそ、家臣の領地に赴くのだから、挨拶は欠かせない。
「わかった。じゃあ、みんな揃ってる?」
ロイがそう言うと、足元に魔法陣が広がった。
「ロイ、これは?」
転移魔法の魔法陣を初めて見たセドリックが尋ねた。
「うん、人数多いからね」
これだけの人数を、正しく実家の屋敷へ飛ばすとなると、なかなかの魔力を消費する。さらに、仲良く手を繋いでとかするのもめんどくさい。
ロイは珍しく杖を取り出して、魔法陣に魔力を注いだ。
「ロイ、よろしく頼みますよ」
テオドールがそう言うと、ロイは満面の笑みで答えた。
ウォーエント子爵家の玄関ホールに正しく着地をしたけれど、まさかいきなり内部に案内されるとは思っていなかった面々は、だいぶ驚いた。
「ようこそお越しくださいました」
全員が着地した場所を認識したとたん、ウォーエント子爵家の執事が挨拶をしてきた。
「突然の訪問を受け入れていただきありがとうございます。ブロッサム公爵家が嫡男テオドールと申します。ウォーエント子爵が領地にある砦のダンジョンに入る許可を頂きにまいりました」
宰相の息子であるテオドールが代表で挨拶をすると、執事は心得たとばかりに客間へと案内をしてくれた。
案内をされながら、セドリックはこの間の部屋と違う事に気がついた。けれど、人数が多いからなのだと思い黙ってついて行った。
「どうぞ」
執事が扉を開け、客間に通されると、先頭にいたテオドールが無言で一歩下がりアレックスに先を譲った。けれど、そうされたアレックスは立ちどまる。
「どういうことだ?」
案内された客間には、先客がいて、ソファーに座りお茶を飲んでいた。
「待っていたよ、アレックス」
そう言ったレイヴァーンの隣には、婚約者であるマイセルが座っていた。
「マイセル様もご一緒でしたか」
テオドールは別段驚きもせずに二人の側に立った。
「座ったらどうだい?」
レイヴァーンはまるで自分の家のように振る舞うから、アレックスは納得がいかない。そもそも、アレックスは、このことを聞いてなどいない。すました顔でレイヴァーンの側に立つテオドールを睨みつけた。
アレックスがセドリックの英雄の技を見ようと、今日こちらに来ることを、レイヴァーンに教えたのは当然テオドールだ。口止めをしていなかったのだから、テオドールが今日のことを話すのは当たり前のことなのだ。だからアレックスが怒るということは間違いだ。
しかし、婚約者である隣国の王子まで来ているのには驚いた。アレックスは連れてきてなどいないというのに。
けれど、そんなことで喧嘩をしている場合ではないから、アレックスはレイヴァーンの向かいに座った。婚約者ではないけれど、一応レディーファーストでアーシアを座らせた。メインではないソファーにロイが座り、セドリックを隣に呼んだ。
テリーとテオドールは、座らずに立ったままだ。それぞれの仕える王子の傍らに立っているのが対照的で、ロイは不思議そうに眺めていた。
出されたお茶を飲み、お菓子をつまんでいると、ようやく子爵がやってきた。しかも、夫人も同行だ。
「よく来てくださったわね、ロイのお友だち」
ウォーエント子爵夫人であるアリアナが、両手を広げて感慨の意を示し、無難なところでアーシアがそれに応えた。さすがに王子たちが答えるのは体裁が宜しくないし、かと言って、他の三人が応じるのも関係性がおかしくなりそうだった。
「砦のダンジョンへの許可だったね」
子爵はそう言うと、小さな魔石のついたペンダントを見せてきた。
「これが許可証なんだ。一回だけ命の危機に晒された時に、転移魔法が発動して外に脱出出来る」
子爵がそう説明をすると、数人のメイドがお盆を持ってやってきた。お盆の上には子爵が説明したペンダントが載せられている。
「つまり、一度発動させてしまったら、許可は終わりということですね?」
ペンダントを受け取って、テオドールが確認をする。
「そう、だから発動する前に自力で脱出してくれればいいよ」
子爵にそう言われて、全員が顔を見合せた。転移魔法を覚えていないと砦のダンジョンには挑めない。と言われていたのは、つまりこういうことらしい。
「ダンジョンとは言っても、入る度に造りが変わっている訳では無い。ただ、扉が開かなくなったりするだけだ。それに、なぜだか隣国の砦と繋がっているんだ。必ず入ってきた扉から外に出られる保証はない」
ざっくりとした説明だったけれど、全員が理解出来た。つまり、入る時はトビラから入り、出る時は転移魔法を使わないと出られない。
「それから、一つだけ注意して欲しいことごある」
子爵がとても真面目な顔をして言ってきた。
「魔法が発動しない部屋が稀にある。その部屋ではペンダントも発動しないから注意してくれよ」
子爵がそう言うと、次にメイドたちが各自が休憩するための部屋を案内してくれた。脱出しての帰還ポイントに、この部屋を設定して構わないと言われたので、各自そのようにした。アーシアだけが女の子なので、通された寝室が別棟になった。
そんなロイをきちんと座らせて、ミシェルは慌てて食べないように見守っていた。ロイは食べ終わると、すぐに部屋に戻って、支度をして、待ち合わせの場所に向かった。
なんてことは無い、待ち合わせの場所は学園の門で、騎士科からも魔術学科からも距離がほぼ同じだからだ。
ロイが着くと、既にアーシアはいたし、セドリックの隣にはエレントがいた。エレントは見送りに来ただけだと言って、授業に遅れるからと挨拶をして去っていった。
「外出の申請をしていないからな」
テオドールがそう言うと、アーシアが口を開いた。
「申し訳ないけれど、砦のダンジョンに挑めるほどの魔力を持ってないのよね」
ハッキリと言われて、セドリックは苦笑いをした。エレントの魔力の質はいいものだけど、圧倒的に量が足りない。まぁ、ここに揃ったメンバーと比較して、のことだけれども
「まずは、ウォーエント子爵にお会いしてご挨拶をしなくてはならないな」
テオドールがそう言うと、アレックスが頷いた。さすがに王子であっても、いや、王子であるからこそ、家臣の領地に赴くのだから、挨拶は欠かせない。
「わかった。じゃあ、みんな揃ってる?」
ロイがそう言うと、足元に魔法陣が広がった。
「ロイ、これは?」
転移魔法の魔法陣を初めて見たセドリックが尋ねた。
「うん、人数多いからね」
これだけの人数を、正しく実家の屋敷へ飛ばすとなると、なかなかの魔力を消費する。さらに、仲良く手を繋いでとかするのもめんどくさい。
ロイは珍しく杖を取り出して、魔法陣に魔力を注いだ。
「ロイ、よろしく頼みますよ」
テオドールがそう言うと、ロイは満面の笑みで答えた。
ウォーエント子爵家の玄関ホールに正しく着地をしたけれど、まさかいきなり内部に案内されるとは思っていなかった面々は、だいぶ驚いた。
「ようこそお越しくださいました」
全員が着地した場所を認識したとたん、ウォーエント子爵家の執事が挨拶をしてきた。
「突然の訪問を受け入れていただきありがとうございます。ブロッサム公爵家が嫡男テオドールと申します。ウォーエント子爵が領地にある砦のダンジョンに入る許可を頂きにまいりました」
宰相の息子であるテオドールが代表で挨拶をすると、執事は心得たとばかりに客間へと案内をしてくれた。
案内をされながら、セドリックはこの間の部屋と違う事に気がついた。けれど、人数が多いからなのだと思い黙ってついて行った。
「どうぞ」
執事が扉を開け、客間に通されると、先頭にいたテオドールが無言で一歩下がりアレックスに先を譲った。けれど、そうされたアレックスは立ちどまる。
「どういうことだ?」
案内された客間には、先客がいて、ソファーに座りお茶を飲んでいた。
「待っていたよ、アレックス」
そう言ったレイヴァーンの隣には、婚約者であるマイセルが座っていた。
「マイセル様もご一緒でしたか」
テオドールは別段驚きもせずに二人の側に立った。
「座ったらどうだい?」
レイヴァーンはまるで自分の家のように振る舞うから、アレックスは納得がいかない。そもそも、アレックスは、このことを聞いてなどいない。すました顔でレイヴァーンの側に立つテオドールを睨みつけた。
アレックスがセドリックの英雄の技を見ようと、今日こちらに来ることを、レイヴァーンに教えたのは当然テオドールだ。口止めをしていなかったのだから、テオドールが今日のことを話すのは当たり前のことなのだ。だからアレックスが怒るということは間違いだ。
しかし、婚約者である隣国の王子まで来ているのには驚いた。アレックスは連れてきてなどいないというのに。
けれど、そんなことで喧嘩をしている場合ではないから、アレックスはレイヴァーンの向かいに座った。婚約者ではないけれど、一応レディーファーストでアーシアを座らせた。メインではないソファーにロイが座り、セドリックを隣に呼んだ。
テリーとテオドールは、座らずに立ったままだ。それぞれの仕える王子の傍らに立っているのが対照的で、ロイは不思議そうに眺めていた。
出されたお茶を飲み、お菓子をつまんでいると、ようやく子爵がやってきた。しかも、夫人も同行だ。
「よく来てくださったわね、ロイのお友だち」
ウォーエント子爵夫人であるアリアナが、両手を広げて感慨の意を示し、無難なところでアーシアがそれに応えた。さすがに王子たちが答えるのは体裁が宜しくないし、かと言って、他の三人が応じるのも関係性がおかしくなりそうだった。
「砦のダンジョンへの許可だったね」
子爵はそう言うと、小さな魔石のついたペンダントを見せてきた。
「これが許可証なんだ。一回だけ命の危機に晒された時に、転移魔法が発動して外に脱出出来る」
子爵がそう説明をすると、数人のメイドがお盆を持ってやってきた。お盆の上には子爵が説明したペンダントが載せられている。
「つまり、一度発動させてしまったら、許可は終わりということですね?」
ペンダントを受け取って、テオドールが確認をする。
「そう、だから発動する前に自力で脱出してくれればいいよ」
子爵にそう言われて、全員が顔を見合せた。転移魔法を覚えていないと砦のダンジョンには挑めない。と言われていたのは、つまりこういうことらしい。
「ダンジョンとは言っても、入る度に造りが変わっている訳では無い。ただ、扉が開かなくなったりするだけだ。それに、なぜだか隣国の砦と繋がっているんだ。必ず入ってきた扉から外に出られる保証はない」
ざっくりとした説明だったけれど、全員が理解出来た。つまり、入る時はトビラから入り、出る時は転移魔法を使わないと出られない。
「それから、一つだけ注意して欲しいことごある」
子爵がとても真面目な顔をして言ってきた。
「魔法が発動しない部屋が稀にある。その部屋ではペンダントも発動しないから注意してくれよ」
子爵がそう言うと、次にメイドたちが各自が休憩するための部屋を案内してくれた。脱出しての帰還ポイントに、この部屋を設定して構わないと言われたので、各自そのようにした。アーシアだけが女の子なので、通された寝室が別棟になった。
24
お気に入りに追加
538
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる