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第41話 お出かけお出かけ

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 ウォーエント子爵領にある屋敷では、子爵夫婦が仲睦まじく朝食をとっていた。
 これは、平日の朝の行事である。
 週末、夫人は社交に忙しいため、早起きは出来ないからだ。
 夫人であるアリアナは、社交界の華と呼ばれるだけあって、今でも可憐で美しい。そんな彼女は豊富で質の良い魔力を持っている。だからこそ、朝食のために王都のタウンハウスから領地の屋敷に転移魔法で移動することなんて、本当の意味で朝飯前なのだ。

「今朝のオムレツはトマトが入っているのね」

 ダンジョンがあるだけに、土地自体も豊富な魔力を有していて、野菜は季節に関係なく新鮮で味の良い物が収穫されている。だから、アリアナは王都のレストランよりも領地の食事の方を好んでいた。

「ただいまっ」

 食堂の扉をけたたましく開けて、ロイがやってきた。もちろん、セドリックの手を引いて。

「お、おはようございます。朝から失礼致します」

 セドリックは扉を入って直ぐに深々と頭を下げた。寄りにもよって、子爵夫婦水入らずの時間を遮っている。

「おかえり、ロイ」

「いらっしゃい、セドリック」

 夫人であるアリアナは、セドリックのことをじっくりと眺めた。そして、口を開くと、

「セドリックには、ロイの2倍ほど作ってあげて」

 メイドにそう伝えた。
 指示されたメイドは直ぐに料理長の元へと移動した。
 ロイと、セドリックは案内されるままに席に着いた。ロイは席に着くなり話し始める。

「剣が出来たんだ。ねぇ、砦のダンジョンに入ってもいいよね?」

 通常、ダンジョンに入るのには通行料を払うのだが、砦のダンジョンは別物で、その昔ウォーエント子爵が戦の際に建てたものだから、管理を今でも子爵がしているのだ。
 通行料はとられないが、昼間でもアンデッドが出現するため、子爵の許可がおりなければ入ることは出来ない。

「二人で?」

「ううん、みんなと」

 ロイの返事の仕方は、ちょっと公園にでも遊びに行く小学生のようだ。

「みんな?ロイ、みんなとは誰だい?学園のお友だちのことかな?」

 そう聞く子爵の目は笑ってなどいない。顔は大変人の良さそうな笑顔が張り付いているのだが、目で夫人に合図を送っているのがわかる。おそらく夫人のお眼鏡にかなっていない者には、許可が下りないのだろう。

「えっとねぇ、アーシアとテオでしょ。あと王子とテリー、それにセド」

 ロイがつらつらと名前を上げれば、夫人が都度小さく頷いているのがわかった。だからこそセドリックは、子爵の顔を見ながらも、夫人の反応を確認せずにはいられない。

「王子も砦に興味があったとは、ね」

 子爵は感心した様に相槌をうつと、食後のお茶を一口飲んだ。ロイは出てきた食事に夢中の様で、子爵のつぶやきに反応をしめさない。仕方がないので、代わりにセドリックが口を開いた。

「アレックス様は俺の英雄の技を見てみたいと」

「アレックス様が?」

 セドリックがアレックスの名前を出すと、子爵はすぐに反応をした。

「はい。同じ騎士科ですので」

「あ、ああ。そう言えば、ロイは騎士科に移ったのだったね」

 子爵がそう言えば、ようやくロイが顔を上げた。

「うん。俺もセドに興味がある」

 ロイがそんな言い方をするから、子爵の片眉が上がった。それに対して夫人は涼しい顔だ。

「あら?ロイは英雄の技に興味があるのでしょう?自分の分も作らせたそうじゃない?」

 王都にいたはずなのに、夫人は随分と耳がいい様だ。

「うん。セドのおじいちゃんの剣を借りた時にできたからさ」

「なるほど。相性があえば使いこなせる、ということか」

 子爵はとても興味深げだ。

「ぜひ最初に見せてくれないか?」

「うん、わかった」

 ロイは返事をして、朝食を食べ終えた。
 セドリックも食べ終えていたため、メイドがロイとセドリックにお茶を出してきた。
 セドリックはお茶を飲みながら、なんだか落ち着かない気持ちになった。この後剣を取りに行き、しかも子爵に見せると言う。おそらく子爵は英雄であった祖父の技を、父よりも詳しく見ていただろう。ロイが見せると言うことは、セドリックも見せると言うことになるだろう。

「それじゃあ、私も見ていこうかしら?」

 ニッコリとアリアナが笑った。
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