【完結】知っていたら悪役令息なんて辞めていた

久乃り

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第40話 出来ちゃった?

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 そう言ってセドリックは、ロイの服を脱がせてやった。
 ロイは相変わらずセドリックを信じきっていて、何をしても拒否をしない。だから、セドリックはまるで侍従の様にロイの世話をする。裸にしたロイの手を引いて浴室に招き入れると、バスタブに座らせた。背後からロイを抱きかかえるような態勢をとって、腰のあたりまで湯を張った。
 ロイの片足を自分の膝に乗せれば、自分のモノとロイのモノが丁度近づく。

「俺に任せていいから」

 ロイの耳元でそう言うと、セドリックは右手で二人分を包んだ。左手をそっとロイの胸にあてると、少し早いロイの鼓動を感じて、余計にセドリックは興奮した。

「んっ」

 セドリックの手が緩やかに動きだすと、自然にロイの手がセドリックの二の腕あたりを掴んできた。セドリックの手の動きに合わせて、腰のあたりまでしか張られていない湯が、ゆっくりと波を立てる。体温とは違う温かさが一定のリズムで優しく包んでは離れていくのは、また違った気持ち良さを生み出す。

「どうだ?」

 唇を外耳に押し付ける様にして問いかけると、ロイは後頭部をセドリックの肩に擦り付けてきた。

「き、もちぃ…」

 その反応を見て、セドリックの手がより一層早くなり、あっという間に二人分の白濁が湯船に散った。そうして、ロイと自分を綺麗にすると、脱衣所に立った。

「セド、浄化魔法覚えたんだ」

 まだセドリックの腕を掴んだまま、ロイが言う。

「お前にばかりやらせては申し訳ないからな。騎士であるからには覚えておく魔法だと思った」

 セドリックは少し照れた様に答えると、タオルと着替えを持って脱衣所をあとにした。
 冷静になるために慌てて出てきたものの、浄化魔法を使ったから、今更タオルの必要はなかった。セドリックは失敗したと思いつつ、服を着た。取り敢えず、これ以上があってはならないために、ズボンをはいて自身を落ち着かせていると、部屋の扉を叩く音がした。まだ朝の早い時間だ。食堂で朝食が始まったばかりぐらいだ。
 だが、扉の外からの気配に覚えがあったため、セドリックは入室を許可した。

「おはようございます」

 入室とともに挨拶してきたのは、許婚のエレントだった。学園に入学してから、エレントがセドリックの部屋を訪ねてきたのはこれが初めてだ。いままでなんの音沙汰のない許婚であっただけに、セドリックは不思議に思った。

「…おはよう、エレント。何か用か?」

 セドリックはこの年上の許婚に、どう接したら良いのかわからなかった。幼い頃に両親が決めたことだから、当たり前に受け入れているけれど、二人でなにかをしたとか、でかけたとか、そんな思い出なんてないのだ。それなのに、急にこんな朝早く部屋を訪ねてくるなんて、どういう風の吹き回しなのだろうか?

「用がなければ来てはいけませんか?」

「?何を言っているんだ」

 エレントの態度を不審に思いつつも、その言動が不快だと言って部屋を追い出す訳には行かない。セドリックは着替えの途中であったので、シャツを着ようとベッドの上に置いておいたシャツを掴んだ。
 エレントは、セドリックの着替えを手伝うでもなく、黙って見ているだけだ。許婚だからといって、積極的にセドリックにシャツを羽織らせるわけでもなく、何かを話してくる訳でもない。
 家格的にセドリックの方が上だから、騎士になって部隊にはいれば、自動的にセドリックの方が階級は上になる。それに、許婚という立場上、エレントはセドリックの世話をするはずなのに。

「セド、このシャツ違う」

 そう叫んでロイが脱衣場から飛び出してきた。
 見れば、ロイは随分と大きなシャツを羽織っていた。袖は長くて手が出ていないし、裾が長いから膝近くまでシャツがある。
 そんな破壊力抜群の格好で、よりにもよってセドリックの許婚であるエレントの前に出てきたのだ。

「っ、ロイ」

 慌てたのはセドリックで、エレントは無言でその様子を眺めていた。口も開かなければ、手も出してこない。

「あ!それ俺のシャツ」

 セドリックの手からシャツを奪い取ると、ロイは素早くシャツを着替える。着ていたセドリックのシャツは、脱いだ途端にセドリックに投げつける始末だ。

「ズボン、ズボン」

 言いながらまた脱衣場に、戻っていく。
 セドリックは投げつけられたシャツに無言で袖を通す。制服のジャケットをハンガーから外すのも自分でやってボタンをとめる。その間もエレントは無言で何もしてこなかった。
 セドリックが最後のボタンをとめたころ、ロイが脱衣場からでてきたけれど、制服のボタンは1つもとまっていなかった。

「ロイ、ボタンをとめないとダメだろう」

 おそらくブーツの紐をキチンと縛ることに専念した結果なのだろう。セドリックは許婚であるエレントの前で、甲斐甲斐しくロイの世話を焼いていた。

「どうするの?ご飯は食べてく?」

 早く出発したくて仕方がないロイは、ボタンをとめてもらっている立場なのに、セドリックを急かす。

「どこかに出かけるのですか?」

 ようやく口を開いたエレントが咎めるような口調で聞いてきた。1ヶ月ほど前にも、セドリックとロイが二人で出かけていたのは知っている。そのせいでエレントは実家から物凄く咎められたのだ。「なぜ同行しなかった」と言われても、二人はエレントの前で転移魔法を使ってしまったから、同行のしようがなかった。そもそも、二人で訓練をしていたのをただ見ていただけなのはエレントなのだが。

「剣が出来たんだ、セドの剣」

 エレントの気持ちなんか知りもしないロイは、本当のことをそのまま口にした。

(剣?剣とは英雄の剣のことか?)

 エレントの顔が引きつる。血の気が引いているのか、頬から赤みが消えていった。

「朝食ぐらい食べていかないと…」

 セドリックがそう口にした途端、ロイが大きな声を出した。

「俺んち行こう!父さんと一緒にご飯食べよう!」

 セドリックが驚いているすきに、ロイが手を繋いで転移魔法を発動させようとした。

「こんな早朝、失礼だろう」

「大丈夫、朝は母さんもいるんだ」

 それは、余計に大丈夫ではない。
 セドリックは大いに焦ったけれど、ロイはお構い無しだ。

「あ、セド、お金もった?」

「それは、空間収納を覚えたから」

 なんとか発動を阻止しようとセドリックは言葉を紡ぐけれど、ロイにはそれが、承諾だと捉えられてしまったようだ。

「じゃあ、行こう!あ、エレントさん、俺たち剣を受け取りに行ってくるからね」

 ロイはエレントに手を振ると転移魔法を発動させて、エレントの前からセドリックと共に消え去った。
 取り残されたエレントは、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。両親から言われていたことが、ついに起きてしまった。

「そんな、英雄の剣が完成し、た?」

 英雄を産むと言う約束でなされた許婚であったのに、許婚のセドリックが英雄となってしまえば、英雄を産んだのはセラフィムとなる。エレントの次代の英雄を生み出すという約束は不要となる。
 なにより、英雄の剣を作り出す手助けをしたロイは、ロイエンタール公爵家からすれば最大の恩人となるのだ。

「私は、不要……か…」

 何もしなかったのではない。何をすればいいのか分からなかっただけだ。
 誰も教えてくれなかったから。
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