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第30話 知らない事情
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「ずいぶんと役に立たないこと」
セラフィムはサロンのソファーに優雅に腰掛け、目の前に突っ立っているだけのライハム伯爵夫人目掛けて手にした扇を投げつけた。
「英雄を産ませてみせます。って話はどうなっているのかしら?」
決して怒鳴っているなどそんなことは無いのだけれど、公爵夫人であるセラフィムは大層なお怒りだ。英雄を生み出すのに一役買ってくれているウォーエント家のアリアナを、強引にサロンに招いたというのに、まるで主役のようなドレスを着て、主のごとく振る舞われた。
もとから、アリアナは社交界の華ではあった。
そのアリアナが産んだ一粒種の息子が、どうやら学園で人気らしいと耳にした。
アリアナに似て小柄で可愛らしく、豊富な魔力量から織り成す魔法は学園で一二を争うと言う。領地にダンジョンがあるから、子爵としては豊かな暮らしぶりで、ダンジョン目当てに各地から冒険者が集まる。有事の時には、冒険者が騎士団以上の働きができるとあって、国王からも一目置かれているのだ。
宰相のブロッサム公爵家が狙っているとの噂は聞いていた。人材と資金が集まる子爵領を、国から切り離したくない。そんな思惑が透けて見えている。
「まだ、学生の身ですから……」
何度聞いた言い訳だろうか?流石に今回もその言い訳を聞いてやるつもりはない。
「そうねぇ、でもね…どうやら私が『英雄』を産めそうよ?」
セラフィムが笑いながら告げると、ライハム伯爵夫人の顔色が青ざめた。今日のお茶会の前に、事前情報としてきいてはいたが、どうにも信じ難いことである。
「そ、それは一体どう言うことでしょう?」
このままでは、ライハム家にとって最悪な事態を招いてしまう。だからと言って、それの邪魔をすれば、家が取り潰される事になりかねない。
「分かっているでしょう?我が息子のことよ」
セラフィムが片眉をあげた。
「ウォーエント家の子息と訓練をしていると……」
自分の息子はしたことがないけれど、下級貴族のウォーエント家の息子は早々に訓練に誘ったと言う。夜に二人っきりで訓練なんて、醜聞を気にしない下級貴族のする事だ。
「『英雄』の技に興味があるのですって、夜分に息子と二人で訪ねて来たわ」
ライハム伯爵夫人の喉が鳴った。先程セラフィムが言っていた事の意味が、じわじわと理解される。
「そ、それは……不躾なのでは」
夜分に初訪問なんて礼儀がなっていない事だ。上流階級の貴族なら、そんなことはしない。まして、『英雄』についてのことならば、きちんと手順を踏んでから行うべきだ。何しろ国の宝なのだから。
「息子の剣から火の玉が出たそうよ?不思議ねぇ」
セラフィムが楽しそうに言えば、反対にライハム伯爵夫人の顔色が悪くなる。
「そ、それは……」
見たことはないが、英雄の技と言われるものだ。剣から魔力を放出して、敵を一網打尽にすると言う。ただ、先代が英雄であり、その能力が引き継がれるものではないと聞いて、質の良い魔力を持つ息子を許婚に推したのだ。そして、見事に許婚となり、学園に入学してからはその能力を上げるために鍛錬を重ねさせた。
「お披露目の際には、招待状ぐらい送らせるわ」
セラフィムからそう告げられると、ライハム伯爵夫人の近くの扉が開いた。もはやなにかを語る時間は過ぎ去ったらしい。
セラフィムはサロンのソファーに優雅に腰掛け、目の前に突っ立っているだけのライハム伯爵夫人目掛けて手にした扇を投げつけた。
「英雄を産ませてみせます。って話はどうなっているのかしら?」
決して怒鳴っているなどそんなことは無いのだけれど、公爵夫人であるセラフィムは大層なお怒りだ。英雄を生み出すのに一役買ってくれているウォーエント家のアリアナを、強引にサロンに招いたというのに、まるで主役のようなドレスを着て、主のごとく振る舞われた。
もとから、アリアナは社交界の華ではあった。
そのアリアナが産んだ一粒種の息子が、どうやら学園で人気らしいと耳にした。
アリアナに似て小柄で可愛らしく、豊富な魔力量から織り成す魔法は学園で一二を争うと言う。領地にダンジョンがあるから、子爵としては豊かな暮らしぶりで、ダンジョン目当てに各地から冒険者が集まる。有事の時には、冒険者が騎士団以上の働きができるとあって、国王からも一目置かれているのだ。
宰相のブロッサム公爵家が狙っているとの噂は聞いていた。人材と資金が集まる子爵領を、国から切り離したくない。そんな思惑が透けて見えている。
「まだ、学生の身ですから……」
何度聞いた言い訳だろうか?流石に今回もその言い訳を聞いてやるつもりはない。
「そうねぇ、でもね…どうやら私が『英雄』を産めそうよ?」
セラフィムが笑いながら告げると、ライハム伯爵夫人の顔色が青ざめた。今日のお茶会の前に、事前情報としてきいてはいたが、どうにも信じ難いことである。
「そ、それは一体どう言うことでしょう?」
このままでは、ライハム家にとって最悪な事態を招いてしまう。だからと言って、それの邪魔をすれば、家が取り潰される事になりかねない。
「分かっているでしょう?我が息子のことよ」
セラフィムが片眉をあげた。
「ウォーエント家の子息と訓練をしていると……」
自分の息子はしたことがないけれど、下級貴族のウォーエント家の息子は早々に訓練に誘ったと言う。夜に二人っきりで訓練なんて、醜聞を気にしない下級貴族のする事だ。
「『英雄』の技に興味があるのですって、夜分に息子と二人で訪ねて来たわ」
ライハム伯爵夫人の喉が鳴った。先程セラフィムが言っていた事の意味が、じわじわと理解される。
「そ、それは……不躾なのでは」
夜分に初訪問なんて礼儀がなっていない事だ。上流階級の貴族なら、そんなことはしない。まして、『英雄』についてのことならば、きちんと手順を踏んでから行うべきだ。何しろ国の宝なのだから。
「息子の剣から火の玉が出たそうよ?不思議ねぇ」
セラフィムが楽しそうに言えば、反対にライハム伯爵夫人の顔色が悪くなる。
「そ、それは……」
見たことはないが、英雄の技と言われるものだ。剣から魔力を放出して、敵を一網打尽にすると言う。ただ、先代が英雄であり、その能力が引き継がれるものではないと聞いて、質の良い魔力を持つ息子を許婚に推したのだ。そして、見事に許婚となり、学園に入学してからはその能力を上げるために鍛錬を重ねさせた。
「お披露目の際には、招待状ぐらい送らせるわ」
セラフィムからそう告げられると、ライハム伯爵夫人の近くの扉が開いた。もはやなにかを語る時間は過ぎ去ったらしい。
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