【完結】知っていたら悪役令息なんて辞めていた

久乃り

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第18話 英雄知ってる?

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 服やら靴やら、とりあえず身につけられるものは身につけて、ロイは転移魔法で自室に戻って来た。服をキチンと着たのは、同室者を驚かせないためだ。さすがに下半身丸出しでは、驚かせてしまうだろう。いろんな意味で。

「疲れたぁ」

 ベッドにダイブして、大の字になり目を閉じた。噂には聞いていたけれど、本当にしていたとは思わなかった。なかなか学園と言うものは、特殊な世界で構成されている様だ。

「王子のは、テリーがしているのかな?」

 あの場には、二人ともいなかった。まあ、あんな所で、王子であるアレックスのモノをさらすわけにはいかないだろうことぐらい、ロイにだって分かる。うっかりそんなことで、アレックスのプライドを潰すわけにはいかないだろう。

「正解」

 ロイが驚いて目を開けると、目の前にテリーの顔があった。

「な、なんで?」

 大の字になっているロイを、上手いことテリーは覆いかぶさる様にして、上から見下ろしていた。テリーがこの部屋に来たことはない。それなのに、こんなに上手に転移してきた。座標が分かれば転移できるタイプということは、ロイより上手いと言う事だ。ロイはぼんやりとテリーを見ていたけれど、力の差をしっかりと認識した。
 つまりは側近候補筆頭で、父親は現役の騎士団長だ。緊急時には、王族を確実に守らなくてはならないのだ。転移魔法の習得は必須だろう。

「ロイ、お前は『英雄』を目指しているのか?」

 テリーの問いかけを聞いて、ロイはゆっくりと口を開いた。

「『英雄』って、セドリックの家系のことか?戦争でもない限り、必要とはされないんじゃないの?」

 ロイがそう答えると、テリーは上からニンマリと笑った。その笑い方は、テオドールに似たものがある。何かを含んだ、何かを隠している。そんな笑い方だ。

 大規模な戦争は起こっていないけれど、魔物はよく出現している。戦争を仕掛ける代わりに、他国の要所近くにスタンピードを仕掛ける事もある。魔物がかってに攻め入ってくれて、助ければ恩を着せられるし、疲弊した国に有利に外交をすすめられる事もある。

 特に、代替わりする時が狙われやすい。困ったことに、この国の次代の王は双子の王子だ。回りが勝手に優劣をつけたがる事もある。頼んでもいないのに派閥が生まれることもある。そんなことになれば、そこを狙う他国が現れないとも限らない。

「アレックス様が望んでいたら?」

 テリーがそんなことを言ってきたから、ロイは思わず喉がなった。純粋に、ロイにとっては『英雄』が使う技に興味がある。文献で読んだだけだけれど、なかなかに興味深い魔法だった。
 そして、何より。前世の記憶があるロイからすれば、完全にゲームの世界の必殺技だ。主人公しか使えないレベルの、最強の必殺技。
 文献で読んだ時、単純にやってみたいと思った。そして、今。ものすごくやってみたい!と思っている。できたら無双だ。あのゲームのような光景が自分の目の前に広がったら、なんて面白いことか。

「望んでるの?」

 思わずロイの声が、上擦ったことは言うまでもない。
 だって、それはつまり『やってもいい』ということではないか。

「随分と、乗り気だな」

 テリーの口の端が軽く釣り上がる。
 ロイはそれが挑発なのだと解釈した。もちろん、ロイがやってみたいというのは当たり前なのだけれど、英雄の血族であるセドリックにもやって欲しい。あれだ、国民的RPGみたいに、親から子ではなく、孫に託される的な感動的なのが見てみたい。

「やってもいいの?俺、やっちゃうけど」

 組み敷かれるような体勢でいるのに、ロイは下から生意気な顔でテリーを見た。家格的にもロイの方が下だけれど、そんな挑発を受けて無視できるほどロイは大人ではない。バリバリ子どもだ。しかも、転生者なのだから、ラノベで読んできたような展開に興奮している。もしかしたら、俺TUEEEEが出来ちゃうかもしれないと思ったら、興奮してきたのだ。

「今ごろこんなになるのか、お前は」

 ロイの体の変化に気付いたテリーは、苦笑した。
 もちろん、ロイからしたら余計なお世話だ。

「俺、いまめちゃくちゃ興奮してるよ」

 ロイはそう言うと、テリーを押しのけた。
 興奮していることを、隠そうともしないで、ベッドの上に胡座をかいた。その格好で頭をガシガシとかいで、なにやら考える。基本直感で動いているから、座標の数値は頭には浮かばない。

「セドリックに相談するっ」

 思い浮かんだのはセドリックだ。英雄の家系なら、何かしらのヒントが得られる気がしたのだ。
 そう叫んだロイは、ベッドの上から姿を消した。

「脳筋なのか?」

 魔術学科から移動してきた割に、ロイが猪突猛進の様なことをするから、テリーは首をひねった。小柄で、小動物のような見た目をして、それなのに口を開けば遠慮がない。なかなか面白い人材ではある。聖女絡みで、レイヴァーンが捨て駒にしようとしていた意味が分からないというものだ。もっとも、いまでは、テオドールが気に入ってしまっているようだけれど。

「ロイは単なる魔術バカですよ」

 いつから居たのか、同室者がテリーの独り言に答えてくれた。相変わらず、自分の勉強机の椅子に座り、体を斜めにしてロイのテリトリーの方を向いている。足を組んで斜めに構える姿は、毎日ほぼ同じだ。

「子爵家だと聞いているが」

 テリーが自分の情報の確認をした。基本上位貴族になれば魔力量が多くなる。魔力は優性遺伝子だ。魔力量が多ければ、見た目にも反映する。

「母親が伯爵家の出です。ロイの家は子爵家でも、領地を持っているので」

 それを聞いてテリーは納得した。ウォーエントの名前にすぐ気づかなかったのは、基本自分が文官系に興味がないせいだ。国境近くに領地があるから、税収がよく、大きめな冒険者ギルドもあるなかなかな街を持っている。
 金回りの良さから、伯爵令嬢が嫁いでいるのは聞いていた。しかも、その伯爵令嬢は領地にはおらずタウンハウスに住んでいる。社交界では何かと中心的な人物の一人だったはずのご夫人だ。

「なるほど、理解した」

 テリーは直ぐに頭の中で考えた。テオドールほどではないが、貴族の中にできている派閥の事だ。ウォーエント家の当主は領地経営で首都にはほとんど居ない。だから夫人は独身時代と変わらずに、社交界を楽しんでいる。

「ロイは夫人の社交の駒か」

 テリーがそうつぶやくと、ロイの同室者は微笑んだ。
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