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第15話 演習でチート?

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    咄嗟に転移魔法を発動させたとはいえ、ちゃんと考えてはいた。座標は昨日の演習場。誰がどこにいるのか分からないので、そっと壁際に着地した。
 真ん中辺りにセドリックが見えたので、ゆっくりと近づこうとしたら、急に肩を掴まれた。

「うっわ」

 驚きすぎて、ロイは少し大きな声を出してしまった。

「ロイ、声が大きいわよ」

 そう言ってきたのはミシェルで、可愛らしい口の前に指を一本立てている。

「だって、いきなり肩を掴むから」

「それを言うなら、ロイだっていきなり現れたじゃないの」

 お互い様なので、顔を見合わせて笑った。

「エレント様に、絡まれた?」

 ミシェルに言われて、ロイは目を見開いた。あの場所には、誰もいなかったはずなのに。

「大丈夫よ、見ていた訳では無いの。ただ、私も最初絡まれたから」

 ミシェルも入学当初、エレントに絡まれたらしい。理由は、学年で唯一の女子生徒であるために、総代を務めるセドリックが安全のために常にそばにいるから。
 それを勘違いするな。とわざわざ言いに来たそうだ。
 なんともめんどくさい人物である。

「そーゆーのって、セドリックは知ってるの?」

「知らないんじゃないかしら? 学園内で、二人がいる所を見た事もないし」

 ミシェルと話しながら、演習場の真ん中に歩いていく。

「え? 許嫁って聞いたけど?」

「だからじゃない? セドリックは気にもしていないのよ。親が決めたことだから」

「そんなもんなんだ」

「そんなものよ」

 ミシェルと話をしている間に、組み分けがされたらしく、ロイとミシェルはセドリックのチームに入っていた。対するはアレックスのチームだ。

 演習場に陣地を作り、二手に分かれての戦闘訓練だ。
 教師が演習場の真ん中に深い堀を作り出した。コレを超えるのもなかなか考えるところがある。
 戦闘に慣れていないロイは、大人しくミシェルの隣に立っていた。ミシェルの一族は、代々後宮の護衛を務めているから、このような戦闘は苦手だ。

「遠距離攻撃をするのかしら?」

 ミシェルが呟いた。確かに、あの深い堀を超えて攻撃に向かうのは宜しくない。相手に狙われるだけだ。

「テリーが少し魔法を使えたはずだ」

「土魔法でしたったけ?」

 セドリックの隣で、メモをとっているのが参謀役なのだろう。
 作戦会議は10分と時間が短い。
 あちらがどんな策をしてくるか、ある程度予測しなくてはならない。それに対策をして、攻め込む手段を考える。

「こちらには土魔法が、使える者がいませんからね」

 敵のテリーがあの堀を埋めたところが、決戦場所になるのだろう。

「壁を作ればいいの?」

 ロイが口を開いた。

「勝手に発言するな」

 参謀役がロイを叱り付ける。

「時間ないんだからさぁ、もう少しテキパキしてよ。俺、魔法使えるよ。壁が欲しい? それとも高台? 俺の方がテリーより魔力量あるよ」

 ロイがそう言ったところで、ようやくセドリックが気がついた。

「ああ、忘れていた。ロイ、お前、この間まで魔術学科だったな」

「そうだよ、早く思い出してよ。で? 俺に何して欲しい?」

「開始の合図とともに、壁と高台を作ってくれ」

「いーよ、砦ってこと?」

 ロイがそう言うと、参謀役が口を開いた。

「砦が作れる?」

「作れるよ。授業で習ったやつしか作れないけど」

「それで十分です」

 参謀役が喜んだ。
 もちろん、他の生徒も喜んでいる。

「俺戦えないから、サポートならガンガンするよ。これって、実践訓練なんでしょ?」

「ああ、そうだ、戦闘不能になると、あそこにいる教師に退場させられるんだ」

 セドリックが指さす場所に、教師が二人立っていた。騎士科の教師のようだが、魔力量がなかなかにある。

「あっちは、テリーの他に魔法使えるの?」

「いる。アレックス様は、かなりのものが使えるそうだが、こういった時は軍師に徹されるから、あまり魔法を使わないな」

「じゃあ、俺もそこそこ抑える……として、あの堀を埋めるんなら、場所を指示してくれよな」

 開始の合図とともに、ロイは一気に砦を作り上げた。
 授業で習ったものだから、いちばん簡単な形をしている。
 それでも、軍師役のセドリックが演習場を一望できるだけの高さは作り出せた。

「すげぇな」

 そんなことを呟いたのは、俺たち平民とか言っていた生徒だった。

「そんなに驚くこと?」

 ロイが聞き返す。

「俺たち平民は、戦闘能力と体力でもって、学園に入学を許可されたんだ。聖女みたいに特別なものがある訳じゃない」

「ふぅん」

 ロイにとってはどうでもいい話だったけれど、人員を見れば何となく理解出来た。要するに、王子であるアレックスのチームには平民を、入れていないのだ。

「テリーが、土魔法で壁を作っている」

 見れば、地形が変形されていくのが分かった。

「ひゃあ」

 何かが飛んできて、ロイの前で弾けた。

「目眩しだ」

 確かに、弾けた何かは強烈な光を放ってくれた。そのせいで、こちらの大半が視界を奪われた。

「もぉっ」

 ロイは腰の剣を抜いた。
 杖ほどではないが、それでも、剣先に魔力を載せると、シールドを展開した。

「堀を埋めて攻め込んできた」

 誰かが叫んだ。堀よりこちらに来てしまったということは、攻め込まれている。ロイが作ったのは砦だけなので、周りを囲まれたら終わりだ。
 外で戦っている生徒たちが見えたけれど、どう見てもこちらが押されている。
 アレックスのチームには、貴族の子息たちしかいない。生まれも育ちも恵まれているから、平民の生徒より体の厚みが違うのだ。

「やな感じ!」

 ロイはそう言うと、自軍の生徒たちに強化魔法をかけた。杖の代わりに剣先から魔法を発動させる。

「ロイ、それはなんだ?」

 強化魔法を知らないセドリックが聞いてきた。

「これ? 強化魔法だよ、体が一時的に強くなるの」

 押され気味だった平民の生徒たちが、アレックスのチームの生徒を倒すのが見えた。

「ロイ、その魔法は、どれくらい持つんだ?」

「え? この演習中ぐらいは保つんじゃないかな?」

 実際、他人にかけたのは初めてだけど、なかなか効果があるようだ。

「ねぇ、セドリック、早く指示を出して」

 実践がどんなものだか分からないから、ロイは強化魔法を施したあと、何をすればいいのか分からない。

「あ、あそこの団子状になっているあたり、あの付近の堀を埋めてくれ」

 セドリックが大きく腕を動かしたのが見えたせいか、また、何かが飛んできた。

「セドリックが、的にされてるみたいだね」

 ロイはそう言うと、飛んできた何かを剣で打ち返した。上手いこと弾き返せたソレは、アレックスの陣地に落ちて爆発した。

「そんなことができるのですか?」

 参謀役が感心したように言ってきた。

「剣に強化魔法をかけたの。あんたのにもかける?」

「ロイ、私の剣にかけて」

 ミシェルが、そう言って剣を出してきた。

「分かった」

 ロイがすぐに施すと、ミシェルは飛んでくる何かを弾き返した。

「凄い! 剣が壊れないわ」

 どうやら、あちらから飛んできているのは火の玉みたいなもので、地面に着くと爆発する仕様のようだ。

「だいぶ、戦局が面白くなりましたね」

 参謀役がそんなことを言っている時、ロイは目に付いた所に魔法を発動させた。

「何をした?」

 セドリックは、ありえない光景をみて、だいぶ驚いていた。アレックスのチームの生徒が、堀に落ちているのだ。

「テリーの作った橋を落とした」

 ちょうど、テリーの作った橋を、アレックスのチームの生徒が渡っているのが見えたので、ロイはその橋を落としたのだ。おかげで橋の上にいた生徒が堀に落ちて、その衝撃で戦闘不能になっていた。

「そんなことまでできるのか?」

「地形を変えただけ、何も難しいことはないよ」

 ロイが施した強化魔法のおかげで、セドリックのチームが完全に押していた。テリーの作った壁のおかげで、アレックスが、守られている状態に近い。

「アレックスが魔法を使ったら全員やられるよね?」

「そうだな」

「ねぇ、王手しちゃう?」

 ロイが楽しそうに笑った。
 アレックスの目の前で、セドリックの陣営の生徒たちが、驚く程によく動いていた。アレックスには理解出来る程度の強化魔法がかけられているからだ。体格差で押していたアレックスのチームは、どんどん押されて、随分と攻め込まれてしまった。

「面倒なことですね」

 テリーがボヤきながら、土魔法で敵の足元をすくう。一見地味だが、かなり効果はある。

「私が蹴散らしましょうか?」

 そう言って、テリーが一歩踏み出そうとした時、アレックスはセドリックの姿が消えたことに気がついた。

「待て、様子がおかしい」

 アレックスがそう言って、テリーを呼び止めた時、背後に何かが落ちてきた音がした。

「その首、もらった」

 アレックスの首元に、練習用の剣が当てられていた。

「バカな」

 姿が消えたセドリックが、いつの間にかにアレックスの背後まで移動していたのだ。

「ダメだよ、油断しちゃ。いつもいつも同じことしてたら、飽きちゃうでしょ」

 セドリックの後ろからロイが、顔を出した。

「お前……」

 ロイに気を取られたテリーが、平民の生徒に叩かれたのはその瞬間だった。
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