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第14話 イベント発生かもしれない

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「夢じゃ無かった」

 朝目覚めて、ロイは現実を思い出した。ここは学園の寮で、ロイは悪役令息だ。騎士科の学生に何人か攻略対象者がいる。魔術学科は、聖女であるアーシアのフィールドだ。話が進んでいくと、新しい攻略対象者が増えてきて、最後の卒業式に誰か一人と結ばれる。らしい。

 しかも、攻略対象者は全員婚約者がいる。ロイが攻略すると所謂NTRが発生する。らしい。
 らしい、とするのにはわけがある。
 だって、NTRが、発生するということは、ロイが攻略対象者とそういうことをするということだ。
 つまり、入学するまで精通もしていなかったのに、テオドールに初出しをされて、次は攻略対象者の誰かに童貞か処女を捧げるわけだ。

 何その無理ゲー

 起きてそうそうに、ロイは頭を抱えた。
 同室者は、ゲーム内におけるナビゲーターのようなものなのだ。だから、ロイは部屋を移らない。

「おはよう。ロイ、早起きだね」

 同室者が声をかけてきた。珍しく早起きしたロイに驚いている。

「ああ、うん。おはよう」

 ロイはベッドから降りて、クローゼットの前に立った。騎士科の制服に着替えると、同室者と一緒に食堂へ向かった。

「食堂ぐらいは騎士科を使ったら?」

 同室者が歩きながらそんなことを言ってきた。

「え? 朝からあんなに食べられないよ」

 アシンメトリーに作られた、騎士科の食堂を見れば、朝からみんな沢山食べている。パンの量だって、魔術学科の2倍はのっている。ロイは半分にしてもらっているのが普段なのに、騎士科の食事をまともに食べたら四倍の量だ。

「うん、まぁ、確かに、ね」

 同室者もさすがにあの量をみて、頬の辺りが引きつっていた。とりあえず、ロイの目標としては、魔術学科の食事を、ちゃんと一人前食べられるようにするところからだ。

 食事を終えて、部屋で身だしなみを整えると、ロイは時間を確認した。まだ、昨日の登校時間より早い。セドリックが世話をしてくれると言っていたから、セドリックに時間を合わせた方がいいのだろうか?
 騎士科の寮の位置は、昨日のおかげで把握した。入口近くに着地して、セドリックを待てばいいのだろうか?けれど、待ち合わせの約束なんかしていない。

「少しうろつくか」

 転移ポイントを増やすためにも、場所を把握する必要が有る。昨日のおかげで、騎士科の寮の位置と、知りたかった訳では無いけれど、アレックスの部屋の場所も分かった。
 昨日覚えた騎士科の校舎前に着地した。人気がほとんどないので、わざわざ木の影に着地してしまって、あたりの様子を伺うのが逆に面倒だった。

 昨日の午後の授業で、使用した場所に行ってみると、朝から訓練をしている生徒がいて驚いた。魔術学科ではそんなことをする生徒はいなかった。
 しかも、一人ではなくて、複数いる。
 ロイが驚いて、いつまでも眺めていると、生徒たちが切り上げてロイの方へと歩いてきた。

「あれ? 見学者がいた」

 一人がロイに気がついて声を発した。
 そうすると、その場にいた全員がロイを見る。

「随分とちいさいな」

 ロイをみて、誰かが言った。

「噂の編入生か」

「ロイ・ウォーエントだよ」

 ロイの視界ではないところから、ロイの名前を言われた。周りにいる誰もが大きくて、ロイは皆を見上げている。

「へぇ、魔術学科からの編入生?」

 そう言って、ロイの頭を撫でてきた。

「やめとけ、アレックス様のお手付って噂だ」

「セドリックが、世話係になっている」

 それを聞いて、ロイの頭から手がなくなった。

「え? まじで?」

「ユースル様のが、数倍も美人なのに?」

 やっぱり、王子であるアレックスには婚約者がいた。しかも、ロイは何もしていないのに、既にアレックスと何か起きていることにされているようだ。

「え? 俺、王子とはなんともないし」

 ロイがそう言うと、目の前の生徒が口を開いた。

「何も無くても、アレックス様が部屋に誘ったのだからそう取られる」

「俺たち平民には分からないけれど、お貴族様は愛人とか側室とか持てるんだろ?」

「え、それはヤダ」

 思わずロイは、否定した。もちろん、アーシアの言うNTRも嫌だけど、側室とか愛人って、だいぶ微妙な立場だ。

「でも、ユースル様より劣るけど、お貴族様なだけあって、顔立ちは整ってるよな」

 頬を突然撫でられて、ロイは驚いて後ろに下がった。

「俺、そう言うの興味無いから」

 もう一歩下がって、ロイは転移魔法を発動させた。もうめんどくさいので、教室にした。座標はきちんと合わせたから、教卓のスペースにきちんと着地した。
 教室にはまだ、そんなに生徒がいなかったようで、昨日と同じ席にミシェルが座っていた。

「おはよう」

「…おはよう、ロイ。本当に転移魔法を使えるのね」

 ミシェルは目を見開いて驚いていた。けれど、すぐに笑顔になって、挨拶をしてくれた。

「使わないと、座標のズレが生じても気づかなくなる」

 ロイはそう言いながら、ミシェルの隣に座った。

「セドリックは?」

 うっかり忘れていたけれど、セドリックが世話係だった。転移魔法を使えることは教えてはいたけれど、直接教室に登校することを伝えていなかった。

「登校はしていたわよ。ほら」

 ミシェルが昨日の席にセドリックの教科書が、あることを教えてくれた。

「ほんとだ」

 ロイはそう言いつつ、教科書を空間収納から取り出した。
「やだ、あなたったら、空間収納も使えるの?」

 ミシェルが、あまりにも大きな声で言ったから、教室の視線がロイに集まった。

「え? 使っちゃダメなの?」

 ロイが困ったように言うと、ミシェルは首を左右に振った。

「違うわよ。騎士科では使える生徒がほとんどいないから」

 なるほど、またもやロイは、貴重な存在になってしまったらしい。

「おはようロイ」

 そんなことをしているうちに、セドリックがやってきた。昨日と同じ席に座ることが当たり前かのように、セドリックはロイの隣に座る。魔術学科にいたから、ロイは座学が苦ではなかったけれど、騎士科の座学は戦術だったりするので、ロイにはだいぶ難しかった。

 午後の実習の前、ロイが一人で歩いていると、横から誰かが出てきた。
 ぶつかる訳ではなく、ロイが認識できるだけの余裕のある行動だった。

「君がロイ・ウォーエント?」

 目の前に立ったのは、同じ騎士科の生徒で、3年生だった。

「そ、う…ですけど?」

 ちょっと中性的な顔立ちをしてはいるけれど、声を聞く限り男性だと分かる。綺麗な立ち姿で、将来は近衛騎士になりそうな雰囲気だ。

「私はエレント・ライハム。同じ騎士科の3年に所属している」

 騎士らしい自己紹介に、ロイはなんと返したらいいのか分からなくて、瞬きを繰り返した。

「君の世話係をしている1年の総代セドリック・ロイエンタールは私の許嫁だ」

 それを聞いた途端、ロイの頭の中では警告音が鳴り響いた。これはイベント発生と言うやつではなかろうか? ロイは思わず逃げ出しそうになったけれど、まだ、何もされていないのに、逃げてしまっては変に勘ぐられる。

「はぁ」

 なんと返事をしたらいいのか分からなくて、ロイは何となく相づちをうつ。

「総代だから仕方がないこととはいえ、許嫁である私以外の者の体を洗ったと聞いた」

 昨日のことだとわかったけれど、未遂だ。セドリックがロイを、脱がそうとしたのは事実だけど、脱がされていないし、洗われてもいない。

「そこは否定させて! 俺、脱がされてないし洗われてもいない」

 ロイが全力で否定をすると、エレントは眉をひそめた。

「脱がす?」

 よりにもよって、そんなワードに引っかかられても困る。

「だから、違う。俺が王子に会う前にシャワーを使おうとしなかったから」

「王子? アレックス様にお目通りをするのに、シャワーを浴びなかったのか?」

 今度はそこに引っかかってきて、エレントの眉間にシワがよる。

「シャワーは、浴びなかったけど、浄化魔法を使ったから、シャワー浴びるより綺麗にしたよ」

 ロイがそう言い返すと、今度は驚いた顔をされた。

「浄化魔法を使える?」

「俺は使えるの。魔力量も割とあるから、大したことじゃない」

 ロイがそんなことを言ったものだから、エレントはロイのことをじっくりと見た。

「セドリックにも浄化魔法を?」

「したよ」

 聞かれたから即答した。ロイを洗おうとしたのだから、ロイが浄化魔法をかけたって問題はないだろう。

「私のセドリックに?」

 なんだかめんどくさい発言が聞こえたので、ロイは少しだけエレントから離れた。

「別に、浄化魔法をかけるぐらい普通だし」

 なんなら、使った食器を洗うのと何も変わらない。

「……私の許嫁、だ」

 よく分からないけれど、沸点がちょっと違うようだ。なんだかめんどくさい空気を感じたので、ロイはゆっくりと後ずさる。

「エレント様、申し訳ないですが、次の授業がありますので失礼しますね」

 後ろに走る素振りを見せて、そのまま転移魔法を発動させた。
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