【完結】知っていたら悪役令息なんて辞めていた

久乃り

文字の大きさ
上 下
12 / 75

第11話 仲良くしよう

しおりを挟む
 セドリックに引かれて着いた教室は、魔術学科と同じすり鉢状ではあったけれど、教卓のスペースが広かった。セドリックは、ロイをグイグイと引っ張って、何故か教卓のスペースに立たせた。魔術学科と違って、騎士科の生徒は少ない。貴族の子息子女は、わざわざ危険な職につかないのだ。王家に由来するような家柄から、近衛騎士になるための人員と、騎士団に所属すると親を持つ者が積極的に騎士科に入って、後は家督を継ぐこともできず、行先もないような貴族の子息が騎士科に来ていた。

 つまり、後者が厄介な生徒たちだ。選民意識だけが高く、なんの取り柄もない。重責に付けるだけの頭もない。騎士科で、体だけ鍛えられて、統率力がないものだから、地方の前線に送り出される。そんなヤツらを牽制するために、セドリックはわざわざロイを紹介するのだ。
 公爵家の子息で、総代を務める俺が面倒を見ているぞ。そう知らしめるために。

「ロイ・ウォーエントだ。今日から騎士科に編入してきた。仲良くしてやってくれ」

 セドリックが、やたらと大きな声でロイを紹介した。ロイはセドリックよりも頭一つ以上小さいので、背後に立つセドリックに、まるで抱き抱えられているように見える。

「よろしく」

 ロイの声は、実質セドリックの五分の一ぐらいの声量だった。それでも、騎士科の生徒たちは気にしてはくれなかったらしく、目の前の席に座る女子生徒からは、軽くウィンクされてしまった。彼女の方がロイより大きい。多分、体の厚みもある。
 セドリックは、そのままロイを一番前の席に座らせた。隣に自分が座る。

「ミシェル・オランドよ。よろしく」

 女子生徒に挨拶をされて、改めてロイは挨拶をした。

「ロイ・ウォーエントです」

 握手を交わしてわかったことは、ミシェルの方が手が大きくて、剣を握ってできたタコがあるということだった。
 騎士科の教卓スペースが広いのは、座学とは言えど、型の説明のために実践するからだった。

 教師の説明を聞いていると、横からセドリックが解説をしてくる。しかも、左隣に座っているからなのか、ロイの教科書を指さすために、毎回ロイの肩を抱くような体勢をとってくる。これが女の子だったら勘違いしてしまうところだけど、ロイは男だ。隣のミシェルにしてもらえたら、少しは嬉しいかもしれない。ロイがそんなことを考える度に、ミシェルは分かっているのか微笑んでくれた。

「午後は実技だぞ」

 そう言って、セドリックはロイを立たせた。ロイが不思議そうに見つめていると、セドリックはちょっとだけ目線を外した。

「だから、しっかり食べないとついてこれないぞ」

 そう言って、ロイの肩を叩いた。上から叩かれたから、ロイの体が若干小さくなる。

「セドリック、ロイが痛そうよ」

 ミシェルが注意すると、セドリックは少し慌ててロイの背筋を正してきた。

「食堂へ行こう」

 セドリックはまた、ロイの手をグイグイと引っ張る。座席から抜け出す際に、ロイは後ろの席を振り返る形になった。その時にようやくテリーの姿を見つけた。隣に座っているのは、

「王子?」

 遠目からでもハッキリと分かるぐらいに、高貴な雰囲気をまとった王子が座っていた。
 ロイのつぶやきが聞こえたのか、一瞬王子と目線があったような気がした。
 けれど、ロイのつぶやきなんか聞いちゃいないセドリックは、どんどん進んでいく。その後ろをミシェルが付いてきた。

 昼食は定食のスタイルだから、トレイをもって厨房の前で食べたいものをコールする。騎士科のメニューはメインが全て肉だった。
 既に食べ始めている上級生の姿を見て、ロイはうんざりした。

(昼にステーキ二枚とか、どんな胃袋なの?)

 オマケになんだか汗臭い。実技の後はシャワーを浴びると聞いているのに、おかしい。しかも、ここは食堂なのに、食べ物の匂いよりも汗臭いなんて意味がわからなかった。

「チキンサラダ」

 ロイはそれだけを口にした。何も言わなくてもパンの載った皿が置かれる。しかも二個。魔術学科の食堂だと、皿のパンは一つだ。
 ロイは慌ててトレイを引っ込めると、セドリックの後ろに隠れた。スープを配膳している人が、ロイの分をそのままミシェルのトレイに乗せた。

「ロイ、好き嫌いはダメよ」

 ミシェルに窘められたが、ロイは首を左右に振る。

「そんなにたくさんは無理」

 だって、スープの入ったカップが大きい。魔術学科の食堂のスープは、カフェオレボールぐらいの大きさなのに、ここのはどんぶりサイズだ。そんなにたくさん飲めないし、そもそもこぼさずに運べる自信が無い。
 セドリックの後ろに隠れるようにして、ロイは席に着いた。

「ロイ、午後は実技だと言っただろう?」

 セドリックがロイのトレイを見て言う。

「いきなりそんなには食べられない」

 ロイは首を左右に振る。汗臭くてたまらないから、自然とミシェルのそばに行ってしまう。

「じゃあ、ロイ。ぜんぶ食べられたらデザートを貰いましょう」

 ミシェルの提案にロイは頷いた。
 もちろん美味しかった。美味しかったけれど、飲み物が牛乳だ。しかも注がれたグラスが大きい。必死でパンを食べて、牛乳で流し込んだ。
 ミシェルがデザートを取ってこようとしたけれど、ロイは慌ててとめた。

「むり、これ以上食べたら動けない」

 ロイが上目遣いにそう言うと、ミシェルは少しだけ頬を赤くした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

処理中です...