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第11話 仲良くしよう
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セドリックに引かれて着いた教室は、魔術学科と同じすり鉢状ではあったけれど、教卓のスペースが広かった。セドリックは、ロイをグイグイと引っ張って、何故か教卓のスペースに立たせた。魔術学科と違って、騎士科の生徒は少ない。貴族の子息子女は、わざわざ危険な職につかないのだ。王家に由来するような家柄から、近衛騎士になるための人員と、騎士団に所属すると親を持つ者が積極的に騎士科に入って、後は家督を継ぐこともできず、行先もないような貴族の子息が騎士科に来ていた。
つまり、後者が厄介な生徒たちだ。選民意識だけが高く、なんの取り柄もない。重責に付けるだけの頭もない。騎士科で、体だけ鍛えられて、統率力がないものだから、地方の前線に送り出される。そんなヤツらを牽制するために、セドリックはわざわざロイを紹介するのだ。
公爵家の子息で、総代を務める俺が面倒を見ているぞ。そう知らしめるために。
「ロイ・ウォーエントだ。今日から騎士科に編入してきた。仲良くしてやってくれ」
セドリックが、やたらと大きな声でロイを紹介した。ロイはセドリックよりも頭一つ以上小さいので、背後に立つセドリックに、まるで抱き抱えられているように見える。
「よろしく」
ロイの声は、実質セドリックの五分の一ぐらいの声量だった。それでも、騎士科の生徒たちは気にしてはくれなかったらしく、目の前の席に座る女子生徒からは、軽くウィンクされてしまった。彼女の方がロイより大きい。多分、体の厚みもある。
セドリックは、そのままロイを一番前の席に座らせた。隣に自分が座る。
「ミシェル・オランドよ。よろしく」
女子生徒に挨拶をされて、改めてロイは挨拶をした。
「ロイ・ウォーエントです」
握手を交わしてわかったことは、ミシェルの方が手が大きくて、剣を握ってできたタコがあるということだった。
騎士科の教卓スペースが広いのは、座学とは言えど、型の説明のために実践するからだった。
教師の説明を聞いていると、横からセドリックが解説をしてくる。しかも、左隣に座っているからなのか、ロイの教科書を指さすために、毎回ロイの肩を抱くような体勢をとってくる。これが女の子だったら勘違いしてしまうところだけど、ロイは男だ。隣のミシェルにしてもらえたら、少しは嬉しいかもしれない。ロイがそんなことを考える度に、ミシェルは分かっているのか微笑んでくれた。
「午後は実技だぞ」
そう言って、セドリックはロイを立たせた。ロイが不思議そうに見つめていると、セドリックはちょっとだけ目線を外した。
「だから、しっかり食べないとついてこれないぞ」
そう言って、ロイの肩を叩いた。上から叩かれたから、ロイの体が若干小さくなる。
「セドリック、ロイが痛そうよ」
ミシェルが注意すると、セドリックは少し慌ててロイの背筋を正してきた。
「食堂へ行こう」
セドリックはまた、ロイの手をグイグイと引っ張る。座席から抜け出す際に、ロイは後ろの席を振り返る形になった。その時にようやくテリーの姿を見つけた。隣に座っているのは、
「王子?」
遠目からでもハッキリと分かるぐらいに、高貴な雰囲気をまとった王子が座っていた。
ロイのつぶやきが聞こえたのか、一瞬王子と目線があったような気がした。
けれど、ロイのつぶやきなんか聞いちゃいないセドリックは、どんどん進んでいく。その後ろをミシェルが付いてきた。
昼食は定食のスタイルだから、トレイをもって厨房の前で食べたいものをコールする。騎士科のメニューはメインが全て肉だった。
既に食べ始めている上級生の姿を見て、ロイはうんざりした。
(昼にステーキ二枚とか、どんな胃袋なの?)
オマケになんだか汗臭い。実技の後はシャワーを浴びると聞いているのに、おかしい。しかも、ここは食堂なのに、食べ物の匂いよりも汗臭いなんて意味がわからなかった。
「チキンサラダ」
ロイはそれだけを口にした。何も言わなくてもパンの載った皿が置かれる。しかも二個。魔術学科の食堂だと、皿のパンは一つだ。
ロイは慌ててトレイを引っ込めると、セドリックの後ろに隠れた。スープを配膳している人が、ロイの分をそのままミシェルのトレイに乗せた。
「ロイ、好き嫌いはダメよ」
ミシェルに窘められたが、ロイは首を左右に振る。
「そんなにたくさんは無理」
だって、スープの入ったカップが大きい。魔術学科の食堂のスープは、カフェオレボールぐらいの大きさなのに、ここのはどんぶりサイズだ。そんなにたくさん飲めないし、そもそもこぼさずに運べる自信が無い。
セドリックの後ろに隠れるようにして、ロイは席に着いた。
「ロイ、午後は実技だと言っただろう?」
セドリックがロイのトレイを見て言う。
「いきなりそんなには食べられない」
ロイは首を左右に振る。汗臭くてたまらないから、自然とミシェルのそばに行ってしまう。
「じゃあ、ロイ。ぜんぶ食べられたらデザートを貰いましょう」
ミシェルの提案にロイは頷いた。
もちろん美味しかった。美味しかったけれど、飲み物が牛乳だ。しかも注がれたグラスが大きい。必死でパンを食べて、牛乳で流し込んだ。
ミシェルがデザートを取ってこようとしたけれど、ロイは慌ててとめた。
「むり、これ以上食べたら動けない」
ロイが上目遣いにそう言うと、ミシェルは少しだけ頬を赤くした。
つまり、後者が厄介な生徒たちだ。選民意識だけが高く、なんの取り柄もない。重責に付けるだけの頭もない。騎士科で、体だけ鍛えられて、統率力がないものだから、地方の前線に送り出される。そんなヤツらを牽制するために、セドリックはわざわざロイを紹介するのだ。
公爵家の子息で、総代を務める俺が面倒を見ているぞ。そう知らしめるために。
「ロイ・ウォーエントだ。今日から騎士科に編入してきた。仲良くしてやってくれ」
セドリックが、やたらと大きな声でロイを紹介した。ロイはセドリックよりも頭一つ以上小さいので、背後に立つセドリックに、まるで抱き抱えられているように見える。
「よろしく」
ロイの声は、実質セドリックの五分の一ぐらいの声量だった。それでも、騎士科の生徒たちは気にしてはくれなかったらしく、目の前の席に座る女子生徒からは、軽くウィンクされてしまった。彼女の方がロイより大きい。多分、体の厚みもある。
セドリックは、そのままロイを一番前の席に座らせた。隣に自分が座る。
「ミシェル・オランドよ。よろしく」
女子生徒に挨拶をされて、改めてロイは挨拶をした。
「ロイ・ウォーエントです」
握手を交わしてわかったことは、ミシェルの方が手が大きくて、剣を握ってできたタコがあるということだった。
騎士科の教卓スペースが広いのは、座学とは言えど、型の説明のために実践するからだった。
教師の説明を聞いていると、横からセドリックが解説をしてくる。しかも、左隣に座っているからなのか、ロイの教科書を指さすために、毎回ロイの肩を抱くような体勢をとってくる。これが女の子だったら勘違いしてしまうところだけど、ロイは男だ。隣のミシェルにしてもらえたら、少しは嬉しいかもしれない。ロイがそんなことを考える度に、ミシェルは分かっているのか微笑んでくれた。
「午後は実技だぞ」
そう言って、セドリックはロイを立たせた。ロイが不思議そうに見つめていると、セドリックはちょっとだけ目線を外した。
「だから、しっかり食べないとついてこれないぞ」
そう言って、ロイの肩を叩いた。上から叩かれたから、ロイの体が若干小さくなる。
「セドリック、ロイが痛そうよ」
ミシェルが注意すると、セドリックは少し慌ててロイの背筋を正してきた。
「食堂へ行こう」
セドリックはまた、ロイの手をグイグイと引っ張る。座席から抜け出す際に、ロイは後ろの席を振り返る形になった。その時にようやくテリーの姿を見つけた。隣に座っているのは、
「王子?」
遠目からでもハッキリと分かるぐらいに、高貴な雰囲気をまとった王子が座っていた。
ロイのつぶやきが聞こえたのか、一瞬王子と目線があったような気がした。
けれど、ロイのつぶやきなんか聞いちゃいないセドリックは、どんどん進んでいく。その後ろをミシェルが付いてきた。
昼食は定食のスタイルだから、トレイをもって厨房の前で食べたいものをコールする。騎士科のメニューはメインが全て肉だった。
既に食べ始めている上級生の姿を見て、ロイはうんざりした。
(昼にステーキ二枚とか、どんな胃袋なの?)
オマケになんだか汗臭い。実技の後はシャワーを浴びると聞いているのに、おかしい。しかも、ここは食堂なのに、食べ物の匂いよりも汗臭いなんて意味がわからなかった。
「チキンサラダ」
ロイはそれだけを口にした。何も言わなくてもパンの載った皿が置かれる。しかも二個。魔術学科の食堂だと、皿のパンは一つだ。
ロイは慌ててトレイを引っ込めると、セドリックの後ろに隠れた。スープを配膳している人が、ロイの分をそのままミシェルのトレイに乗せた。
「ロイ、好き嫌いはダメよ」
ミシェルに窘められたが、ロイは首を左右に振る。
「そんなにたくさんは無理」
だって、スープの入ったカップが大きい。魔術学科の食堂のスープは、カフェオレボールぐらいの大きさなのに、ここのはどんぶりサイズだ。そんなにたくさん飲めないし、そもそもこぼさずに運べる自信が無い。
セドリックの後ろに隠れるようにして、ロイは席に着いた。
「ロイ、午後は実技だと言っただろう?」
セドリックがロイのトレイを見て言う。
「いきなりそんなには食べられない」
ロイは首を左右に振る。汗臭くてたまらないから、自然とミシェルのそばに行ってしまう。
「じゃあ、ロイ。ぜんぶ食べられたらデザートを貰いましょう」
ミシェルの提案にロイは頷いた。
もちろん美味しかった。美味しかったけれど、飲み物が牛乳だ。しかも注がれたグラスが大きい。必死でパンを食べて、牛乳で流し込んだ。
ミシェルがデザートを取ってこようとしたけれど、ロイは慌ててとめた。
「むり、これ以上食べたら動けない」
ロイが上目遣いにそう言うと、ミシェルは少しだけ頬を赤くした。
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