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第10話 今日からよろしく

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 今までより30分早起きをして、ロイは同室者と一緒に朝食をとった。一応は肉と野菜をバランスよく自分なりに食べたつもりだ。
 朝食がバイキング形式なのはありがたい。衝立の向こうに見える騎士科の生徒たちと比べると、ロイの食事は半分以下だ。それでもきちんと朝食をとったのは、学園に入って初めてだった。

「これ以上食べたら、校舎に着く前にお腹痛くなる」

 お茶で流し込むように、最後のパンを飲み込んで、ロイは席を立った。同室者はそんなロイを眺めて笑っている。

「昼食はどうするの?騎士科は量が多いよ?」

「受け取る前に、減らしてもらう」

 ロイは即答した。注文する時に、初めから半分で!っと言えばいいのだ。どんなにお腹がすいたって、あんな量はロイの胃袋には、収まらない。
 騎士科の制服をきると、同室者はロイをじっくりと眺めた。

「なかなか、似合うね絵本の王子様みたいだ」

「絵本ってなんだよ」

 褒められたかもしれないけれど、絵本限定というのが引っかかる。

「え?それはねぇ、ロイはどう見てもちっちゃい」

 そう言って、頭をポンポンされると、どうにもならない。身長と顔立ちが絵本の王子様なのだ。
 時間割が分からないので、騎士科の教科書を全部空間収納に突っ込んだ。魔術学科の生徒でも、これができるのは数少ない。騎士科ともなれば、いないかもしれない。

「剣が重たそうだね」

 同室者が指摘する。どうしても、まだ体が偏る。訓練用の剣なのに、ロイの体からすると重たいのだ。

「重心が偏る。慣れたら体が常に傾きそう」

 ロイはそう言って、鏡で身だしなみをチェックした。

「じゃあ、おさきに」

 魔術学科の寮からだから、騎士科の校舎は遠い。とりあえず、場所を把握さえすれば、明日からは転移魔法で行ける。今日だけの我慢だ。ロイは頑張って歩いて、騎士科の敷地にたどり着いた。前方を歩いている生徒は、どう見てもロイより、頭一つは大きい。

 校舎近くの着地ポイントを探しながら歩くと、騎士科の生徒たちの波にのっていた。回りにはなんだか筋肉質な生徒しか見当たらない。小さなロイが気になるのか、追い抜く際に顔を見ていく生徒が多い。誰も彼もが初めましてのロイは、不躾な視線に耐えるしか無かった。

 校章の縁どりの色で学年が分かる。ありがたいことに、頭一つ小さいロイの視界に、校章がちょうどあった。同じ一年の黄色を探すと、ちょうどロイを追い越していく生徒が黄色だった。どうやらロイは歩くのが遅いようだ。
 教室の確認のためについて行こうとしたら、その生徒が振り返ってロイの前に立った。

「!!」

 ロイが驚いて立ち止まると、目の前の生徒に肩を掴まれた。

「お前がロイ・ウォーエント?」

 うえからものを言われて、ロイは面食らった。
 まぁ、確かにロイより頭一つ以上は大きな生徒だ。

「そ、う…ですけ、ど?」

 ロイは瞬きを繰り返して、相手を見た。大きいし、なにより金髪が眩しい。

「俺は騎士科一年の総代を務めている」

「はぁ」

 総代ってなんだろう?ロイは考えた。魔術学科にもいたような気がする。あまり関わった記憶が無いから、目の前の相手の尊大な態度の意味がわからなかった。

「俺はセドリック・ロイエンタールだ。当面お前の面倒を見てやるからありがたく思え」

 そう挨拶されてロイは内心うんざりした。

(ゲームキャラの自己紹介まんまじゃん)

 どうやら、この、キラキライケメン俺様と、当面の間御一緒しなくてはいけないらしい。なんとも面倒な事である。

「ロイは小さいから、よく目立った」

 頼んでもいないのに、手を繋いで歩いてくれるセドリックは、全くロイの歩調に合わせるつもりは無いらしい。コンパスの違いを気にする様子もなく、ロイの手を引っ張るようにして歩いていく。

「ちいさくて目立つって」

 見たまんまのことだけど、小さいのに目立つとはこれ如何に?登校する生徒たちの中に埋もれていたのでは無いだろうか?

「ロイがいるところだけ、穴が空いているようだった」

 なるほど、小さなロイは見えないけれど、そこにいるから遠目からは穴が空いているような空間になっていたと言うことか。
 しかし、それを分かりながら、なぜ歩調を合わせない?どう考えてもロイのコンパスの方が短いではないか。セドリックは、女の子とデートをしたことがないのだろうか?

「俺のことはセドと呼んでくれ」

 出会って五分以内に愛称呼びとか、なかなかなものだ。どれだけ俺様なのだろうか。

「あ、うん、わかった……セド?」

 とりあえず呼んでみると、セドリックは満足そうに返事をした。若干面倒臭いヤツと思ったことは口にはしない。
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