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第8話 後悔するかもしれない
しおりを挟む一旦タウンハウスに戻って、ロイは普段着になってから学園に帰った。
制服一式が入ったカバンという荷物が増えたため、馬車で送ってもらった。学園に入ってからは自分で運んだけれど、魔力を使えば多少の荷物ぐらいは難なく運べる。
部屋に帰って勉強机を見ると、なにやらメッセージが置かれていた。
《魔術学科の制服を返却されたし》
事務室からのメッセージだった。同室者は不在なようであるから、メッセージは魔道具の一種なのだろう。おそらく、事務室から直接ロイの勉強机の上に届けられたと思われる。
ロイは、騎士科の制服を取り出して、代わりに魔術学科の制服を詰め込む。一応は浄化の魔法をかけておく。そうして、学園の事務室へと向かった。
何度か行ったことがあるので、事務室のある建物では転移魔法で移動した。人目がないことを確認してから、ロイは建物に向かって歩き出した。転移魔法は使えるものが少ない。教師たちに見つかると、やたらとこき使われると聞いている。要するに、荷物持ちにされるということなのだろう。
ロイが事務室の扉をノックすると、すぐに返事が来た。中に入ると、事務職員たちが数名仕事をしていた。
「ロイだね」
学園の中では敬称を使われないから、事務職員からも名前で呼ばれる。
ロイは自分を呼んだ職員のところに行き、制服の入ったカバンをさしだした。
「うん、全部揃っているね」
職員はカバンの中身を確認すると、紙を一枚ロイの前に出した。
「はい、返却確認」
ロイは用紙の内容を確認して、名前を書く。書き終わると、用紙はキレイに燃え尽きた。
「はい、どうも」
事務職員は人の良さそうな笑顔を向けて、ロイを見る。
「ところで、寮の部屋は移動する?」
あまり、やる気のなさそうな聞き方だった。
おそらく、貴族ではあっても子爵家である。すなわち、部屋は2人部屋だ。騎士科の寮に、二人部屋の空きがないのかもしれない。
もしくは、あっても伯爵家の子息が入っている部屋だとか。
「空きはあるんですか?」
ロイは聞いてみた。別に、騎士科の寮に入らなくても、転移魔法が使えるから、移動は大変ではない。むしろ、汗臭いと言われる騎士科の寮に入らなくてもいいのなら、その方がいい。
「二人部屋が丸ごと空いてるんだよね。つまり、相方がいない」
二人部屋を一人で使わせたくないということだった。子爵家の子息が、二人部屋を一人で使ったら、侯爵家の子息の一人部屋より広くなる。使えるスペースは狭いけれど、一人の空間の問題だ。学園の平等とか言ってはいるが、私生活を送る場所では、階級によって部屋が区別されている。
「別に、移らなくていいのなら、このままがいい」
荷物を移動させるのが面倒だし、なにより同室者が良い奴だ。一度徒歩で騎士科の建物に行けば、後は転移魔法で何とかなる。騎士科の必要な場所を覚えるのも面倒だけど。
ロイがそう返事をしたので、事務職員は安堵の顔になった。余程子爵の子息が1人で二人部屋を使うのが嫌だったようだ。
ロイは魔術学科の制服を返して、寮の部屋を移動しないことを申請して、事務室を後にした。ある程度歩いて、転移魔法で自室に帰る。
「とーちゃくっ」
ボブんという、音がしそうな勢いで、ロイはベッドの上に無事到着した。靴を履いているから、すぐには降りるけれど、前世で観ていたアニメみたいで面白くて、自室に戻る時は、場所をベッドにしている。誰かに遭遇することもないので安全だ。
ロイがおもうぞんぶん大の字になって、ぎゅーっと瞑った目を開けると、誰かが自分を見ていた。
パチパチとまぶたを動かして、それが幻影でないことを確認すると、勢いよく起き上がった。
「なんでいるの?」
まるであの日のように、ロイの勉強机の椅子に、テオドールが座っていた。
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