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第7話 ぐるっと回って味方?
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戻ってきた執事は背筋を正してきっちりと立ち、そうしてゆっくりと口を開いた。
「坊っちゃまの学科移動の手続きは、全て完了致しました。騎士科の制服一式を、預かって参りました」
そう言って、執事が大きなカバンをあけると、魔術学科の制服とは色の違う制服が入っている。
魔術学科は紫がかった黒であったが、騎士科は緑がかった黒だった。
「素敵ね。ロイ、早く着てみせて」
「分かりました、母上」
ロイは執事と一緒に移動して、執務室で着替えた。今日は休日だったから、着ていたのは普段着だ。
「少し大きいかな?」
ロイが鏡を見ながらそう言うと、執事が鏡越しに返事をする。
「いえいえ、騎士科はよく動きますから、大きめに仕立てられております」
なるほど、この格好のまま剣術を習うのか。見た目重視とは、恐れ入る。
「こちらの剣を腰にさげれば完成ですよ」
執事に、渡された剣を腰にさげてみる。魔術学科で仕込んでいた杖とは違い、大きいし重たい。
「体のバランスが変だね」
鏡に映る自分の姿を見て、ロイは言った。剣を提げた左側に少し傾いている。
「騎士を目指す方は幼き頃より帯剣なさいますからね。坊っちゃまはこれから慣れるしかございませんので、少々大変かと」
執事が、遠回しになんか言ってくれてはいるが、これでも訓練用の剣だから軽くはできている。
「ちょっと魔法で補正しておくよ」
ロイはそう言って、体のバランスを魔力で補正した。
「では、奥様にお見せいたしましょう」
執事に促されて、ロイは母親の元へ戻った。
「まぁ、なんて素敵なのかしら」
ロイの姿を見るなり、母親は立ち上がって褒めてきた。確か、魔術学科の制服を初めて着てみせた時も、こんな、反応だった気がする。
「やっぱり、男の子は騎士科よねぇ」
そんなことを言い出したので、やはり心は少女のままらしい。
「素敵ねぇ……ねぇ、このまま、お出かけしない?」
「はぁ?」
思わず声が大きくなった。
「自慢したいわ」
「え?なんで」
ロイは訝しんだ。一体誰に自慢するつもりなのだろうか。先程口にしたロイエンタール家は、家格も上すぎて約束もなしに会えるわけもない。誰か友だちなのだろうか?魔術学科に、子どもが所属している人がいるのだろうか?
「これからお茶会があるの。ちょっとでいいから顔を出してくれない?」
それを聞いて納得した。今更ながら、息子をマスコット代わりにして連れ歩くつもりなのだ。
「挨拶をしてくれたら、先に帰ってくれていいから。ね?お願い」
そんなことを言いながら、これはお願いではなく、決定なのだとロイも、執事も理解した。
騎士科の制服のまま、ロイは母親の参加するお茶会について行った。お茶会に参加するのはもう、10年ぶりぐらいだ。基本お茶会は女子どものものだから、ある程度の年齢になったら、男はお茶会に参加しなくなる。目安としては家庭教師を、雇ったら。
ただ、こうやって息子を売り出したい時には、参加させることがある。ロイはお茶やお菓子が嫌いではないから、構わないが、話のネタにされるのが辛い。
「マリー、お招きありがとう」
母親が、挨拶をしている相手が、今回のお茶会の主催者なのだろう。素敵な庭園でのお茶会だけに、どちらの女性もカラフルなドレスを身にまとっている。
「来てくれて嬉しいわ、アリアナ。ところで?」
マリーの目線が完全にロイに向けられている。
挨拶の順番が来たことを察したロイは、丁寧にお辞儀をした。
「初めまして、ウォーエント家のロイと申します」
恭しくマリーの手を取り、口付けの真似事をする。恐らく、ご夫人だろう。
「あら、嫌だ。昼間なのだから、してくれても構わなかったのに」
そんなことを言われても、ロイの母親の友人なら、年齢だって母親みたいなものだろう。間違えるとか無理だ。
案内された庭園には、だいぶ年齢の幅のあるご婦人方が集まっていることが分かった。ロイを見て嬉しそうにしたのは多分、ロイと年齢が近いのだろう。
言われるままに挨拶を順にして、お茶を少しだけ頂いてお暇した。ロイ程の年齢の男が、長居をするものでは無い。
ロイが帰ってから、マリーがアリアナに聞いた。
「そちら狙いだったの?」
「ううん、ブロッサム家のご子息とは、気が合わなかったみたいなの」
アリアナが何事もないかのようにそう言うと、マリーを始めとしたご婦人方は、「あらまぁ」と声を潜めた。
「大丈夫よ、うちの息子には婚約者はいないから」
アリアナがそう言うと、マリーが扇で口元を隠しながら耳打ちをしてきた。
「大胆ねぇ」
アリアナも言い返す。
「子爵なんて、嫌じゃない?」
「坊っちゃまの学科移動の手続きは、全て完了致しました。騎士科の制服一式を、預かって参りました」
そう言って、執事が大きなカバンをあけると、魔術学科の制服とは色の違う制服が入っている。
魔術学科は紫がかった黒であったが、騎士科は緑がかった黒だった。
「素敵ね。ロイ、早く着てみせて」
「分かりました、母上」
ロイは執事と一緒に移動して、執務室で着替えた。今日は休日だったから、着ていたのは普段着だ。
「少し大きいかな?」
ロイが鏡を見ながらそう言うと、執事が鏡越しに返事をする。
「いえいえ、騎士科はよく動きますから、大きめに仕立てられております」
なるほど、この格好のまま剣術を習うのか。見た目重視とは、恐れ入る。
「こちらの剣を腰にさげれば完成ですよ」
執事に、渡された剣を腰にさげてみる。魔術学科で仕込んでいた杖とは違い、大きいし重たい。
「体のバランスが変だね」
鏡に映る自分の姿を見て、ロイは言った。剣を提げた左側に少し傾いている。
「騎士を目指す方は幼き頃より帯剣なさいますからね。坊っちゃまはこれから慣れるしかございませんので、少々大変かと」
執事が、遠回しになんか言ってくれてはいるが、これでも訓練用の剣だから軽くはできている。
「ちょっと魔法で補正しておくよ」
ロイはそう言って、体のバランスを魔力で補正した。
「では、奥様にお見せいたしましょう」
執事に促されて、ロイは母親の元へ戻った。
「まぁ、なんて素敵なのかしら」
ロイの姿を見るなり、母親は立ち上がって褒めてきた。確か、魔術学科の制服を初めて着てみせた時も、こんな、反応だった気がする。
「やっぱり、男の子は騎士科よねぇ」
そんなことを言い出したので、やはり心は少女のままらしい。
「素敵ねぇ……ねぇ、このまま、お出かけしない?」
「はぁ?」
思わず声が大きくなった。
「自慢したいわ」
「え?なんで」
ロイは訝しんだ。一体誰に自慢するつもりなのだろうか。先程口にしたロイエンタール家は、家格も上すぎて約束もなしに会えるわけもない。誰か友だちなのだろうか?魔術学科に、子どもが所属している人がいるのだろうか?
「これからお茶会があるの。ちょっとでいいから顔を出してくれない?」
それを聞いて納得した。今更ながら、息子をマスコット代わりにして連れ歩くつもりなのだ。
「挨拶をしてくれたら、先に帰ってくれていいから。ね?お願い」
そんなことを言いながら、これはお願いではなく、決定なのだとロイも、執事も理解した。
騎士科の制服のまま、ロイは母親の参加するお茶会について行った。お茶会に参加するのはもう、10年ぶりぐらいだ。基本お茶会は女子どものものだから、ある程度の年齢になったら、男はお茶会に参加しなくなる。目安としては家庭教師を、雇ったら。
ただ、こうやって息子を売り出したい時には、参加させることがある。ロイはお茶やお菓子が嫌いではないから、構わないが、話のネタにされるのが辛い。
「マリー、お招きありがとう」
母親が、挨拶をしている相手が、今回のお茶会の主催者なのだろう。素敵な庭園でのお茶会だけに、どちらの女性もカラフルなドレスを身にまとっている。
「来てくれて嬉しいわ、アリアナ。ところで?」
マリーの目線が完全にロイに向けられている。
挨拶の順番が来たことを察したロイは、丁寧にお辞儀をした。
「初めまして、ウォーエント家のロイと申します」
恭しくマリーの手を取り、口付けの真似事をする。恐らく、ご夫人だろう。
「あら、嫌だ。昼間なのだから、してくれても構わなかったのに」
そんなことを言われても、ロイの母親の友人なら、年齢だって母親みたいなものだろう。間違えるとか無理だ。
案内された庭園には、だいぶ年齢の幅のあるご婦人方が集まっていることが分かった。ロイを見て嬉しそうにしたのは多分、ロイと年齢が近いのだろう。
言われるままに挨拶を順にして、お茶を少しだけ頂いてお暇した。ロイ程の年齢の男が、長居をするものでは無い。
ロイが帰ってから、マリーがアリアナに聞いた。
「そちら狙いだったの?」
「ううん、ブロッサム家のご子息とは、気が合わなかったみたいなの」
アリアナが何事もないかのようにそう言うと、マリーを始めとしたご婦人方は、「あらまぁ」と声を潜めた。
「大丈夫よ、うちの息子には婚約者はいないから」
アリアナがそう言うと、マリーが扇で口元を隠しながら耳打ちをしてきた。
「大胆ねぇ」
アリアナも言い返す。
「子爵なんて、嫌じゃない?」
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