【完結】知っていたら悪役令息なんて辞めていた

久乃り

文字の大きさ
上 下
8 / 75

第7話 ぐるっと回って味方?

しおりを挟む
戻ってきた執事は背筋を正してきっちりと立ち、そうしてゆっくりと口を開いた。

「坊っちゃまの学科移動の手続きは、全て完了致しました。騎士科の制服一式を、預かって参りました」

 そう言って、執事が大きなカバンをあけると、魔術学科の制服とは色の違う制服が入っている。
 魔術学科は紫がかった黒であったが、騎士科は緑がかった黒だった。

「素敵ね。ロイ、早く着てみせて」

「分かりました、母上」

 ロイは執事と一緒に移動して、執務室で着替えた。今日は休日だったから、着ていたのは普段着だ。

「少し大きいかな?」

 ロイが鏡を見ながらそう言うと、執事が鏡越しに返事をする。

「いえいえ、騎士科はよく動きますから、大きめに仕立てられております」

 なるほど、この格好のまま剣術を習うのか。見た目重視とは、恐れ入る。

「こちらの剣を腰にさげれば完成ですよ」

 執事に、渡された剣を腰にさげてみる。魔術学科で仕込んでいた杖とは違い、大きいし重たい。

「体のバランスが変だね」

 鏡に映る自分の姿を見て、ロイは言った。剣を提げた左側に少し傾いている。

「騎士を目指す方は幼き頃より帯剣なさいますからね。坊っちゃまはこれから慣れるしかございませんので、少々大変かと」

 執事が、遠回しになんか言ってくれてはいるが、これでも訓練用の剣だから軽くはできている。

「ちょっと魔法で補正しておくよ」

 ロイはそう言って、体のバランスを魔力で補正した。

「では、奥様にお見せいたしましょう」

 執事に促されて、ロイは母親の元へ戻った。

「まぁ、なんて素敵なのかしら」

 ロイの姿を見るなり、母親は立ち上がって褒めてきた。確か、魔術学科の制服を初めて着てみせた時も、こんな、反応だった気がする。

「やっぱり、男の子は騎士科よねぇ」

 そんなことを言い出したので、やはり心は少女のままらしい。

「素敵ねぇ……ねぇ、このまま、お出かけしない?」

「はぁ?」

 思わず声が大きくなった。

「自慢したいわ」

「え?なんで」

 ロイは訝しんだ。一体誰に自慢するつもりなのだろうか。先程口にしたロイエンタール家は、家格も上すぎて約束もなしに会えるわけもない。誰か友だちなのだろうか?魔術学科に、子どもが所属している人がいるのだろうか?

「これからお茶会があるの。ちょっとでいいから顔を出してくれない?」

 それを聞いて納得した。今更ながら、息子をマスコット代わりにして連れ歩くつもりなのだ。

「挨拶をしてくれたら、先に帰ってくれていいから。ね?お願い」

 そんなことを言いながら、これはお願いではなく、決定なのだとロイも、執事も理解した。
 騎士科の制服のまま、ロイは母親の参加するお茶会について行った。お茶会に参加するのはもう、10年ぶりぐらいだ。基本お茶会は女子どものものだから、ある程度の年齢になったら、男はお茶会に参加しなくなる。目安としては家庭教師を、雇ったら。

 ただ、こうやって息子を売り出したい時には、参加させることがある。ロイはお茶やお菓子が嫌いではないから、構わないが、話のネタにされるのが辛い。

「マリー、お招きありがとう」

 母親が、挨拶をしている相手が、今回のお茶会の主催者なのだろう。素敵な庭園でのお茶会だけに、どちらの女性もカラフルなドレスを身にまとっている。

「来てくれて嬉しいわ、アリアナ。ところで?」

 マリーの目線が完全にロイに向けられている。
 挨拶の順番が来たことを察したロイは、丁寧にお辞儀をした。

「初めまして、ウォーエント家のロイと申します」

 恭しくマリーの手を取り、口付けの真似事をする。恐らく、ご夫人だろう。

「あら、嫌だ。昼間なのだから、してくれても構わなかったのに」

 そんなことを言われても、ロイの母親の友人なら、年齢だって母親みたいなものだろう。間違えるとか無理だ。

 案内された庭園には、だいぶ年齢の幅のあるご婦人方が集まっていることが分かった。ロイを見て嬉しそうにしたのは多分、ロイと年齢が近いのだろう。
 言われるままに挨拶を順にして、お茶を少しだけ頂いてお暇した。ロイ程の年齢の男が、長居をするものでは無い。
 ロイが帰ってから、マリーがアリアナに聞いた。

「そちら狙いだったの?」

「ううん、ブロッサム家のご子息とは、気が合わなかったみたいなの」

 アリアナが何事もないかのようにそう言うと、マリーを始めとしたご婦人方は、「あらまぁ」と声を潜めた。

「大丈夫よ、うちの息子には婚約者はいないから」

 アリアナがそう言うと、マリーが扇で口元を隠しながら耳打ちをしてきた。

「大胆ねぇ」

 アリアナも言い返す。

「子爵なんて、嫌じゃない?」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...