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アリス目線5

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 高等部に入っても、リヒト様が私についてくる。朝の日課である机拭きは日本人のサガなのかやめられない。どうしても早起きをしてしまうのだ。一応は貴族の端くれでもある男爵令嬢であるから、数は少ないけれど使用人がいて、私自身にも専属のメイドがいたりする。それなのに、私は自分の身の回りのことをついつい自分でしてしまうのだ。だから時々メイドが大きなため息をついている。
 けれど男爵令嬢であるから、そうそうお嬢様暮らしができているわけでもなく、将来的に上位貴族に嫁げる可能性も極めて低い。何しろピンクの髪にピンクの目だからだ。だったら自分のことは自分でできた方が何かと都合がいいと思う。さすがに時折見かけるラノベのように、手作りのお弁当なんて物は無理だけど、おかし作りはやらせてもらえた。ちょっとした掃除はやらせてもらえたけれど、そこはやはり使用人の領域を侵してはならないために自粛せざるを得なかった。
 だからもちろん、簡素な服を着て土をいじるなんてもってのほかなのだ。そもそも、女性がズボンを履くなんてありえないことだから。乗馬はどうするのかだって?貴重な女性が落馬の危機がある乗馬なんてするわけがないのだ。
 そんなわけで、平民ではなく男爵令嬢の私アリスは、前世の記憶に基づき長い髪を両サイドで三つ編みにしてみた。髪をアップにして項を見せるのは成人した証である。だが、三つ編みという謎の髪型にしたことで、他のご令嬢たちが大いに戸惑っていた。なぜなら学園で項を見せることは『婚約者募集中』ということだからだ。
 なにやらリヒト様との仲を噂されているようだけれども、私は気にせず温室のバラの手入れをしていた。

「肥料はこちらでよろしいですか?」
「ありがとう」

 学園の管理人に肥料をお願いしたら、ものすごく変な顔をされたけれど、親切にも温室まで運んでくれた。花がなかなか咲かないので、肥料をあげて見ることにしたのだ。っというのもゲームの受け売りである。制服を汚さないように割烹着のような服を着る。肥料は魔法で生成されたもので、前世で言うところの化成肥料のようだ。

「肥料をあげるとセレスティン様のルートが進んで……葉の剪定をすると、アルト様ルートが進むのよね、確か」

 私は記憶を確認しながら作業をした。セレスティン様には申し訳ないが、私とリヒト様とのルートをこれ以上進めるわけにはいかないのだ。セレスティン様とアルト様のルートを進めることによって、赤いバラを咲かせない作戦だ。

「アリス、なにしてるんだ?」

 作業に夢中になっていると、背後から声をかけられた。聞き覚えのあるこの声はセレスティン様だ。私はしゃがんだ姿勢のままゆっくりと振り返った。そこにはセレスティン様だけではなく、リヒト様とジークフリート様もいた。これはいけない、と思って立ち上がろうとした時、私は心臓が跳ね上がる思いをした。

「ユキちゃん」

 たしかにそう聞こえた。

「今、なんてっ」

 私は勢いよく立ち上がった。その名前を口にしたのは間違いなくセレスティン様だった。そうして立ち上がったセレスティン様に問いかけようとしたところ、セレスティン様が倒れてしまった。

「セ、セレスティン様?」

 まさしく私に向かって倒れてきたため、思わず私はセレスティン様を抱きしめる形になってしまった。目の前には驚きすぎて目を見開くジークフリート様がいる。

「なにがおきた?」

 ジークフリート様の顔はわかりやすいぐらいに青ざめていった。そうして私に問いかけるような目線を送ってきた。事態が飲み込めていない私は無言で首を左右に振るのが精一杯だった。

「とにかく医務室に連れて行った方がいい」

 落ち着いた声でリヒト様が言うと、戸惑いながらもジークフリート様は、かろうじて私に寄りかかるような体勢で意識を失っているセレスティン様を抱えて去って行った。
 その後ろ姿を見て、私は急に体から力が抜けた。そうしてへなへなとその場に座り込むと、リヒト様が近づいてきて私の前に片膝をついた。

「アリス、先程セレスティンはなんと言ったのだろうか?」
「え?」
「残念ながら私には聞き取れなかった。だが君には聞こえたのだろう?」
「え……あの……」

 あんなにはっきりとした声で私を呼んだのに、リヒト様には聞き取れなかったらしい。
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