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第29話 行くぜ俺
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俺への誕生日プレゼントだという公爵家の別邸は、きっちりと期限を守って完成した。そう、翌年の俺への誕生日プレゼントとして。
家具が何も無いので、ゆっくりと揃えていくことになっているのだが、嫁入り道具?としてウィンス伯爵家から応接セットみたいなのを一式購入することになってしまった。一番在り来りなことらしい。が、つまり、俺は何年かぶりにウィンス伯爵家と一緒に行動をしなくてはならないということだ。気が重たくて仕方がないが、拒否することも出来ずに日程が決められていた。
「しばらく見ないうちに大きくなったなぁ」
待ち合わせの家具屋で俺の事を見て、父であるアランはそんなことを言った。しばらくって、この間の誕生日パーティーで顔を合わせたと思うのだが?
「この間、俺の誕生日パーティーで会ったよね?」
「そうだけど、そうじゃなくて」
俺の当たり前のツッコミに対して、アランはとても大きな身振り手振りで否定してきた。
「ジークフリートくんと婚約した時にはまだこんなにちっちゃかったのに、もう嫁入り道具を買う歳になったんだなぁ、ってことだよ」
「……………………」
そんなことかよ。と思ってしまった俺はついアランのことを冷めた目で見てしまった。そんなちっちゃい子を婚約者の家に一人で放り込んだのはお前らだろって気持ちしかない。本日一緒に来ているのはシャロンと、弟のルークだ。ルークはすっかり大きくなって、あの頃の俺より随分と立派な体格をしていた。若い頃のアランにそっくりらしい。生まれた時から、もとい産まれる前から離れて過ごしてきたから、俺とってはルークは血の繋がった他人である。俺から話しかけるつもりは無い。
「ほら、公爵家に持参しても恥ずかしくない家具を買わなくちゃね」
一人張り切っているのはシャロンで、色々なデザインのソファーに夢中になっている。もしかしなくても、ついでに自分の分も買おうとしている気がする。
「大きさなどはいかほどをご検討でしょうか?」
家具屋の店員がシャロンに声をかけてきた。先程のシャロンの言葉を聞いていれば無難な判断だろう。一応公爵家への嫁入り道具?だ。母親?にお伺いを立てるのが一番無難な対応だ。
「ねぇ、セレスティン。置くのは一階のサロン?それとも自室?」
「え?……サロンじゃないかな?」
「じゃあ大きい方がいいね」
「……ふぅん」
はっきり言ってしまえば、俺は興味などなかった。どんな家具だろうとどうでもいいのだ。嫁入り道具なんて、単なる体裁の為のものだから。六年以上離れて暮らしていたせいで家族と言う実感があまりない上に、今更ながらに『家を出る』と言う体裁を取り繕うと言うのが面倒なのだ。本当に、単なる体裁でしかない。何しろ、支度金を出されてしまったのだ。支度金でさえ今更感が否めない。俺は今現在公爵家に住んでいると言うのに。シャロンは何も気にしていないようだけど、面の皮が厚いのだろうか。
「木材は白木などいかがでしょう?明るいサロンには合うかと」
「へえ、手入れが大変そうだけど、あのサロン日当たりがいいから明るい色の方がいいよね?」
そう言ってシャロンが唐突に俺に話を振ってきた。
「え?ああ……変な花柄とかはやだな」
「え?花柄がダメなの?」
シャロンが大げさに驚いてみせた。だって、俺からしたら花柄なんて猫足家具とロリータファッションしか連想されないのだ。前世の記憶なんだけど、どう頑張っても俺がそんな柄したソファーに座ってお茶をするとか想像できないのだ。
「ではこちらの縞模様などいかがでしょう?それともこう言った幾何学模様などもございます」
店員は見本の布地をソファーの背もたれにどんどんかけていく。俺からしたら、幾何学模様なんて金持ちの家の絨毯という概念しかない。
「シンプルな縞模様がいいな。色は薄い茶色とかクリーム色」
「それでしたら、この辺りでいかがでしょう?当店で取り扱う最高級の毛織物にございます」
店員はここぞとばかりに奥から見本を出してきた。次々にソファーの背もたれにかけられる布は、めちゃくちゃに光沢を放っていた。
「手触りも大変宜しゅうございますよ」
そう言って一歩ソファーから離れた。つまり、俺に触って欲しいということらしい。シャロンも俺に向かって目配せをしてくる。俺は仕方なくかけられた布に触れてみた。確かになめらかな手触りで、程よく厚みのある生地だ。色合いで考えるなら、俺の好みは薄い茶色にオレンジ系の糸で縞模様が入っている物だ。が、ここでふと考えるのは、ここにも婚約者であるジーク様の色を持ってこなくてはならないのか?ということだった。でもそうすると明るい色合いにはならない。俺は自分の中で自問自答すること数秒、直感で気に入った布を指差した。
「これがいい」
「かしこまりました」
誰も何も言ってこないからいいんだろう。合わせるテーブルも白木で揃えた。絨毯がどうのとか言ってきたから、屋敷を見に来てくれるように言ってしまった。サイズなんて俺にわかるはずがない。帰ったら執事長に伝えなくちゃだよな。めんどくさい。
「お茶して帰ろう?」
シャロンがそんなことを言うから、みんなでカフェに行き、甘いものを食べた。ルークが嬉しそうにしていたのでそこだけは良かったと思う。
公爵家に戻り、執事長に話をしたら、離れの屋敷については専属の執事が決まったと言って紹介されてしまった。
「カインと申します。よろしくお願いいたします」
綺麗なお辞儀をしてきた。カインは貴族子息で、家督を継げないから学園を卒業してすぐに公爵家に就職したそうだ。子爵家ではあるけれど、親は男女の夫婦であったため、子どもが四人もいるそうだ。二人目の子が女の子で、淡い金髪であったため侯爵家に嫁げたそうで、両親が調子に乗って三人四人と産んでしまったそうだ。だが産まれたのは男子で、青みがかった銀髪と赤茶色の髪だった。そんなわけで、赤茶色の髪をしたカインは自力でなんとかしたと言うわけだ。陽の光が当たると赤が目立つけれどキラキラしていて綺麗だな。とは思う。それを伝えたら、ジーク様の耳に入るとよろしくないとたしなめられた。
つまり、俺は男の人を褒めたらダメらしい。
「かしこまりました。家具屋と日程を調整しまして絨毯のサイズを確認いたします」
「色とか俺が決めるの?」
「ご希望がございますか?」
「いや、面倒だからカインが決めといてくれないかな?俺よくわかんないからさぁ、あとカーテンもさ、ソファーの色に合わせておいて」
「よろしいのですか?」
「うん。俺そう言うの興味ないからさ、執事であるカインが俺に似合うように手配してよ」
「重大な任務を……賜りました。必ずやご期待にお答えいたします」
「ああ、うん。よろしく」
シーリー様は俺にこの屋敷をプレゼントしてくれたけど、婚約破棄をしたら出て行かなくちゃいけないだろうから、出来るだけ自分で決めたくはないんだよな。カインを利用しちゃったけど、別にいいよな。寝室は自分で考えたし。てか、なんだって屋敷の中に家具が一つもないんだよ。俺はぶうぶうと不満をぶちまけながら一人で屋敷の中を歩いて行った。
家具が何も無いので、ゆっくりと揃えていくことになっているのだが、嫁入り道具?としてウィンス伯爵家から応接セットみたいなのを一式購入することになってしまった。一番在り来りなことらしい。が、つまり、俺は何年かぶりにウィンス伯爵家と一緒に行動をしなくてはならないということだ。気が重たくて仕方がないが、拒否することも出来ずに日程が決められていた。
「しばらく見ないうちに大きくなったなぁ」
待ち合わせの家具屋で俺の事を見て、父であるアランはそんなことを言った。しばらくって、この間の誕生日パーティーで顔を合わせたと思うのだが?
「この間、俺の誕生日パーティーで会ったよね?」
「そうだけど、そうじゃなくて」
俺の当たり前のツッコミに対して、アランはとても大きな身振り手振りで否定してきた。
「ジークフリートくんと婚約した時にはまだこんなにちっちゃかったのに、もう嫁入り道具を買う歳になったんだなぁ、ってことだよ」
「……………………」
そんなことかよ。と思ってしまった俺はついアランのことを冷めた目で見てしまった。そんなちっちゃい子を婚約者の家に一人で放り込んだのはお前らだろって気持ちしかない。本日一緒に来ているのはシャロンと、弟のルークだ。ルークはすっかり大きくなって、あの頃の俺より随分と立派な体格をしていた。若い頃のアランにそっくりらしい。生まれた時から、もとい産まれる前から離れて過ごしてきたから、俺とってはルークは血の繋がった他人である。俺から話しかけるつもりは無い。
「ほら、公爵家に持参しても恥ずかしくない家具を買わなくちゃね」
一人張り切っているのはシャロンで、色々なデザインのソファーに夢中になっている。もしかしなくても、ついでに自分の分も買おうとしている気がする。
「大きさなどはいかほどをご検討でしょうか?」
家具屋の店員がシャロンに声をかけてきた。先程のシャロンの言葉を聞いていれば無難な判断だろう。一応公爵家への嫁入り道具?だ。母親?にお伺いを立てるのが一番無難な対応だ。
「ねぇ、セレスティン。置くのは一階のサロン?それとも自室?」
「え?……サロンじゃないかな?」
「じゃあ大きい方がいいね」
「……ふぅん」
はっきり言ってしまえば、俺は興味などなかった。どんな家具だろうとどうでもいいのだ。嫁入り道具なんて、単なる体裁の為のものだから。六年以上離れて暮らしていたせいで家族と言う実感があまりない上に、今更ながらに『家を出る』と言う体裁を取り繕うと言うのが面倒なのだ。本当に、単なる体裁でしかない。何しろ、支度金を出されてしまったのだ。支度金でさえ今更感が否めない。俺は今現在公爵家に住んでいると言うのに。シャロンは何も気にしていないようだけど、面の皮が厚いのだろうか。
「木材は白木などいかがでしょう?明るいサロンには合うかと」
「へえ、手入れが大変そうだけど、あのサロン日当たりがいいから明るい色の方がいいよね?」
そう言ってシャロンが唐突に俺に話を振ってきた。
「え?ああ……変な花柄とかはやだな」
「え?花柄がダメなの?」
シャロンが大げさに驚いてみせた。だって、俺からしたら花柄なんて猫足家具とロリータファッションしか連想されないのだ。前世の記憶なんだけど、どう頑張っても俺がそんな柄したソファーに座ってお茶をするとか想像できないのだ。
「ではこちらの縞模様などいかがでしょう?それともこう言った幾何学模様などもございます」
店員は見本の布地をソファーの背もたれにどんどんかけていく。俺からしたら、幾何学模様なんて金持ちの家の絨毯という概念しかない。
「シンプルな縞模様がいいな。色は薄い茶色とかクリーム色」
「それでしたら、この辺りでいかがでしょう?当店で取り扱う最高級の毛織物にございます」
店員はここぞとばかりに奥から見本を出してきた。次々にソファーの背もたれにかけられる布は、めちゃくちゃに光沢を放っていた。
「手触りも大変宜しゅうございますよ」
そう言って一歩ソファーから離れた。つまり、俺に触って欲しいということらしい。シャロンも俺に向かって目配せをしてくる。俺は仕方なくかけられた布に触れてみた。確かになめらかな手触りで、程よく厚みのある生地だ。色合いで考えるなら、俺の好みは薄い茶色にオレンジ系の糸で縞模様が入っている物だ。が、ここでふと考えるのは、ここにも婚約者であるジーク様の色を持ってこなくてはならないのか?ということだった。でもそうすると明るい色合いにはならない。俺は自分の中で自問自答すること数秒、直感で気に入った布を指差した。
「これがいい」
「かしこまりました」
誰も何も言ってこないからいいんだろう。合わせるテーブルも白木で揃えた。絨毯がどうのとか言ってきたから、屋敷を見に来てくれるように言ってしまった。サイズなんて俺にわかるはずがない。帰ったら執事長に伝えなくちゃだよな。めんどくさい。
「お茶して帰ろう?」
シャロンがそんなことを言うから、みんなでカフェに行き、甘いものを食べた。ルークが嬉しそうにしていたのでそこだけは良かったと思う。
公爵家に戻り、執事長に話をしたら、離れの屋敷については専属の執事が決まったと言って紹介されてしまった。
「カインと申します。よろしくお願いいたします」
綺麗なお辞儀をしてきた。カインは貴族子息で、家督を継げないから学園を卒業してすぐに公爵家に就職したそうだ。子爵家ではあるけれど、親は男女の夫婦であったため、子どもが四人もいるそうだ。二人目の子が女の子で、淡い金髪であったため侯爵家に嫁げたそうで、両親が調子に乗って三人四人と産んでしまったそうだ。だが産まれたのは男子で、青みがかった銀髪と赤茶色の髪だった。そんなわけで、赤茶色の髪をしたカインは自力でなんとかしたと言うわけだ。陽の光が当たると赤が目立つけれどキラキラしていて綺麗だな。とは思う。それを伝えたら、ジーク様の耳に入るとよろしくないとたしなめられた。
つまり、俺は男の人を褒めたらダメらしい。
「かしこまりました。家具屋と日程を調整しまして絨毯のサイズを確認いたします」
「色とか俺が決めるの?」
「ご希望がございますか?」
「いや、面倒だからカインが決めといてくれないかな?俺よくわかんないからさぁ、あとカーテンもさ、ソファーの色に合わせておいて」
「よろしいのですか?」
「うん。俺そう言うの興味ないからさ、執事であるカインが俺に似合うように手配してよ」
「重大な任務を……賜りました。必ずやご期待にお答えいたします」
「ああ、うん。よろしく」
シーリー様は俺にこの屋敷をプレゼントしてくれたけど、婚約破棄をしたら出て行かなくちゃいけないだろうから、出来るだけ自分で決めたくはないんだよな。カインを利用しちゃったけど、別にいいよな。寝室は自分で考えたし。てか、なんだって屋敷の中に家具が一つもないんだよ。俺はぶうぶうと不満をぶちまけながら一人で屋敷の中を歩いて行った。
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