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第27話 ばーらが咲いたバーラが咲いた?

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 別邸のリフォーム工事はなんだかとても大掛かりだった。毎日学園に行く時に馬車の窓から見えるんだけど、職人さんたちが大勢来ていた。

「なんだかすごいことになってる」

 てっきり魔法でぱぱぱぱぱって、出来るものだと思っていたけれど、どうやら違うらしい。そんなチートは乙女ゲームの世界には存在しなかったようだ。多分「俺TUEEEE」系の異世界転生もの限定のチートスキルなんだろうな。その代わり子作りに関するトンデモ魔道具があるからな。侮れない。

「楽しみだね?セレスティン」
「え、う……ああ、うん」

 独り言が結構な声量だったようで、向かいに座るアルトがニヤニヤしながら言ってきた。

「セレスティンも大きなお風呂を欲しがった。って、聞いたけどホント?」

 うわぁ、どこから漏れるんだろう。そんな情報。って、アレか、アルトは白い大理石のお風呂を欲しがってる。って言っていたよな。

「うん。大きな湯船でゆっくりお湯に漬かりたいんだ」
「そうなんだ。意外だなぁ」
「え?そう?」
「うん。僕、セレスティンはお風呂が嫌いなんだと思ってた」
「なんで?」
「だって、メイドに手伝わせてないって聞いたから」

 ああ、それかぁ、って俺は内心頭を抱えた。メイドさんに手伝って貰わないのは俺の意思じゃないんだ。ないんだけど……お年頃になって思う。女の人に体を洗ってもらうなんて、恥ずかしいじゃないか。

「そ、それは……ジーク様が、その」
「兄上が?」
「俺の裸をメイドさんたちに見せたくないって」
「……え?」

 しばしの沈黙の後、アルトは数回瞬きをして爆笑した。ゴウジャス美人が台無しになるほどに、それは大きな声で笑ったのだ。御者さんが驚いているに違いない。

「い、今更だけど、兄上ってそんなに嫉妬深かったんだ。知らなかった。じゃあ最初の頃は大変だったでしょ?」
「いや別に、俺元から一人で風呂に入っていたし、頭を洗うのが少し大変だったぐらいかな」
「そうなんだ?」
「だって、最初の頃はいきなり公爵家に来たから緊張してたし、むしろ一人の時間が取れてほっとしてたかな」

 そうだ。あのころは一人になれるのが唯一風呂の時間だったから、のんびり入っていたんだ。でも、貴族らしい猫足系のバスタブはあまりリラックス出来ないんだよな。今では足を伸ばすと外に出ちゃうからなぁ。幅もなんか狭いし。

「ふぅん」

 自分で聞いておきながら、なんだか不満そうな顔をするアルトに俺はちょっぴり辟易した。相変わらずなんだよな。さすがブラコン兄弟って感じだ。

「どのくらいで完成するの?」
「シーリー様が誕生日プレゼントって言ってたけど?」
「来年の?」
「来年?」
「だって今年はもう誕生日終わったじゃない」
「そう、だよな」

 そう、今年の誕生日プレゼントには服を貰ったんだ。一応部屋着ってことらしいけど、仕立てのいい服だったしなにより布地が高級だった。肌触りが半端ない。確かにこの肌触りの部屋着を着たらリラックス出来ちゃうよね。って感じがした。

「まぁ確かに。あの屋敷だとリフォームするのに時間かかりそう」
「なんで?」
「だって、僕のひいおじい様が建てたって話だし、その後誰も使ってないんだもん。傷んでると思う」
「そんな話は聞いたかなぁ」
「建物って、使わないと傷むんだって」
「そうなんだ」

 建物は使わないと傷むって、どこの世界でも同じなんだな。前世の記憶でも古い日本家屋をリノベーションして古民家カフェとか、賃貸にするの流行っていたよな。まぁ、あの屋敷は古民家とは程遠い外観してるけどな。白亜の豪邸って感じで前世の感覚で表現すると南フランスのリゾートとか地中海の海辺のリゾートってイメージの建物だ。庭にプールでもあればイメージとして完璧なんだけど、この世界にプールは無い。あるのは噴水だ。やっぱり乙女ゲームの世界だからなのかもしれない。エロゲーならプールや海で水着になるのは必須だったんだけどなぁ。

「それで、もう決まったの?」
「まだ。だってジーク様の部屋とかがあるし、客間の数は俺じゃ決められないから」
「客間ねぇ、兄上のことだから誰も泊めないんじゃない?」
「ええっ」
「本邸に行ってくれ。とか言いそう」
「……確かに」

 そんな話をしているうちに学園に着いて、その後はいつも通りにすごした。最近はもう昼休みは一人で過ごすことにしている。食堂では食べず、ランチボックスを持ってその日その日で場所を変えている。天気が良ければベンチに座ったり、温室に入ったり、美術室なんかで誰かの描きかけの絵を眺めたりしながら食べていた。そしてその後は例の温室に行き、薔薇の咲き具合を確認している。

「咲かないのがせめてもの救いだよな」

 相変わらず緑色のつぼみと青色のつぼみが並んでいる。1ヶ月以上経過しているのに咲かないなんて本当にすごいことだ。

「セレスティン様とジークフリート様の仲が進展していない証拠ですね」

 俺の独り言にアリスが後ろから答えてくれた。アリスはいつも俺よりだいぶ遅れて温室にやってくる。アルトの監視に対する配慮らしい。主人公ちゃんなのに、とか思ったけれど、主人公ちゃんだからこその気の使い様なんだろう。

「そうなんだ?じゃあさぁ、これは……」

 そう言って俺は青いつぼみのやや下にある、赤いつぼみに目線を移した。急激にでは無いけれど、膨らんできているのが分かる。色もハッキリとした赤だし、その隣のピンク色したつぼみはまだ固いけど、青いつぼみよりは膨らんでいるように見える。

「そ、それは言わないでくださいませ。このアリス一生の不覚でございます」

 アリスがガックリと膝を着いた。なんでも日課の机拭きをしていると、リヒト様がやってきて挨拶をされるらしい。他愛のない言葉なのだけど、強制力なのかついつい好感度があがる受け答えをしてしまうらしい。

「でもさぁ、乙女ゲームなんだからいいんじゃないの?」
「……ええ、それは確かに、乙女ゲーム……ではありますが、その……私が恋愛をするゲームではありませんのよ?」
「へ?」
「最初に軽く申し上げたかと思いますけれど、ここにカップルができると瞳の色の薔薇が咲きますのよ?」
「うん?」
「ですから、あの……私が恋のキューピット役でして、皆様の恋の手助けをするんですの。沢山のカップルを成立させてこの温室を薔薇の花でいっぱいにするんです」
「は?……え?って、え、ええっ!」

 なんだそれはっ、なんだそれ。俺はものすごい勘違いをしていたのか?乙女ゲームって、主人公ちゃんが攻略対象者を攻略してラブラブになるゲームなんじゃないの?

「あのですね……ジャンルは乙女ゲーム、つまり恋愛シュミレーションゲームなんですよ?ただ、その私は皆様と恋はしないのです」

 俺の思考はしばらく止まっていた。

「ですから、ここにほら、オレンジに黄色、そして淡い紫つまりはすみれ色の薔薇のつぼみが並びましたでしょ?」
「ああ、うん……」
「私の目標とするリバップル、モリル様とデヴイット様、そこに挟まれるアルト様と言う夢のサンドイッチが」

 そう話すアリスは恍惚の表情をしていた。俺の脳みそではもはや理解不能だ。

「これはセレスティン様が積極的にお三人様と別行動を取ってくださったおかげですわ」

 アリスが、いや、アリスの笑顔が恐ろしい。

「セレスティン様、薔薇の咲き方も色々ありますのよ?早く逃げないと、とんでもない薔薇が咲いてしまいましてよ?」
「だ、だって、アリスが教えてくれた方法って、成人しないとダメなんじゃ……」
「でも教会に行って確認ぐらいできますでしょ?されてらっしゃらないみたいですけど?」
「だ、だって一人で外出出来ないんだ」
「あらぁ、ジークフリート様とご一緒に行けばよろしいではないですか。神父様とお話がしたい。って言えばジークフリート様はちゃんと外で待ってくださいますわよ?」
「そうなの?」
「ええ、だって、ゲームではそうでしたもの」
「それを早く言ってよぉ」
「ですから私、確認だけでもされてみては?って、言いましたわ」
「行くっ、今度の休みに教会に行くっ」
「ええ、是非ともそうしてくださいませ」

 再びアリスの助言を得た俺は、決意を新たに教会へ行く決心をしたのだった。
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