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第26話 俺はいったいどこにいく?

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「こちらの館を、ね。セレスティンくんとジークの住居として使ってもらおうと思って」
「はぁ」

 誕生日プレゼントをあげるから、なんてシーリー様に言われて連れてこられたのは公爵家の庭にある別邸だった。以前聞かされてはいたけれど、嫌すぎてすっかり忘れていたのだ。って、誕生日プレゼントっていつの?今年はとっくに過ぎている。盛大に誕生日パーティーなんぞされて、俺は公開処刑よろしく盛大に祝われた。
 もちろん隣にはジーク様がずっといて、大量の招待客は全部公爵家の絡みだった。そんな中に俺の家族……も入っていた。アランにそっくりな弟から渡されたのは花束だった。直ぐに花瓶に飾ってもらい、パーティーの間会話に困ったら話題のひとつとして使わせてもらった。貰ったプレゼントが膨大すぎて、お礼状を書くだけで週末が無くなったほどだ。俺が中等部に進学したからこの手のパーティーが解禁になったそうだ。つまり来年もあるということだ。辛い。
 俺が黙ってついてあるいるのに、シーリー様はお構い無しによく喋る。

「先々代が建てたのだけど、誰も住んでいなかったからやっぱり傷んでるのかな?手入れはしていたんだけどね。人が住んでいないとなかなかねぇ」

 シーリー様と執事長に連れられて俺はこじんまりとした、とは言ってもあくまでも公爵家の本邸に比べての話だけど、別邸に連れてこられている。後ろにはメイドさんも着いてきた。

「壁紙はどんな色がいいかな?」
「壁紙?」
「そうだよ。一番面積が大きいからね。イメージ変わるよ」
「……はぁ、あの、俺一人で決めていいんですか?」

 一応、ここはハスヴェル公爵家の別邸で、住むのは俺とジーク様と言うことになっている。だとすれば、嫡男でもあるジーク様の意見を聞かなくてはいけないのではないだろえか?

「いいんだよ。だって、ジークよりセレスティンくんの方がいる時間が長いんだし、この別邸はセレスティンくんへの誕生日プレゼントになるんだからね」
「そ、そう、なんですか?」

 地味なプレッシャーだ。要するに、学園を卒業したら俺は就職しないでこの屋敷で過ごすということだ。学生のうちは結婚しないという約束だ。だから、まぁ、焦ってはいないのだけど、婚約期間が長くなって、ああやってお披露目の回数が増えれば、婚約破棄した時の俺へのダメージが大きくなる。

「そうだよぉ。セレスティンくんにとって居心地のいい場所にして欲しいからね。絨毯ひとつでも印象が変わるから、ゆっくり考えて」
「はぁ」
「でも間取りは先に決めないといけないから」

 そう言って案内されたのは二階で、部屋が沢山あった。使用人の部屋は三階だと聞いていたけれど。

「客間はいつくか必要だと思うんだ。ああ、でも、寝室は繋がっていた方が一般的だよね」

 そんなことを言ってシーリーさまが開けた扉は大きくて、それに比例して室内も広かった。

「ここが寝室になるんだけど、別れていた方がいいよね?」
「は、はいっ」

 俺は思わず食い気味に返事をしてしまった。そりゃ、一人になりたいじゃん。毎晩同じ布団と無理だから。

「入口は1つで、ここに扉作って隣の部屋に行く感じ?で、ここがクローゼットでどうかな?」

 シーリー様がざっくりとした間取りを説明してきた。

「そんなに俺服持ってないです」
「やだなぁ、これからだよ。これから増えるよ」
「増えるん、ですか……」
「そりゃあ、次期公爵だからね。結婚したら二人で公式行事に参加しなくちゃいけなくなるよ」
「うう」
「そんな顔しないの」

 そう言ってシーリー様が俺の背中を叩いた。

「あ、お風呂は?」

 俺は思わず口にした。そう、お風呂だ。元日本人として風呂は重要だ。肩までゆっくりと浸かりたい。幸い、ジーク様のかん口令のおかげで俺は一人で風呂に入れている。だが、この屋敷で二人で住むことになったら、成人したら性的なお触り解禁とあっては、ジーク様と二人でお風呂……なんて、ことになるのは必然だ。

「やっぱり専用が欲しいよね?」
「欲しいです。一人でゆっくり入れる風呂が欲しいです」

 俺が力強く言ったものだから、シーリー様が若干笑っていた。

「お風呂好きなんだ」
「はいっ、好きです。一人でのんびりまったり入るのが好きです」
「そうか、じゃあ、広い浴槽を用意しなくちゃだね」
「出来ますか?」
「出来るよ。一階に使用人用の大きい浴槽があるけどね。タイル張りで地味だからなぁ、セレスティンくん用のは豪華なのにしようか?」
「あ、あの……俺、木で出来たやつが、いいなぁ」
「木?」
「そう、その……ヒノキ、とか」

 あれ?この世界にヒノキって、あったかな?ないんだっけ?いや、でも、日本人が作った乙女ゲームの世界ならあるだろう。

「へぇ、セレスティンくんは案外渋い趣味してるんだねぇ。うちのアルトなんて、白い大理石のお風呂が欲しい。なんて言ってたっていうのになぁ」

 シーリー様がそう言うと、後ろの執事長が無言で頷いていた。そうか、こちらの世界でもヒノキって若者には受けてないのか。まぁそうだよね。手入れが大変だし……いや、大変じゃないのか。魔法でお手入れ簡単なんだ。

「セレスティン様、浴槽のイメージなどございましたら後ほど頂きたいのですが」
「は、はい」

 無言だった執事長さんが口を開いたからびっくりした。イメージ、イメージねぇ、そりゃもう温泉のイメージになっちゃうんだけど、乙女ゲームの世界でそれはありなのかな?

「寝室の壁紙は?これ重要だと思うよ」
「うーん、落ち着いた色がいいですよね」
「そうだねぇ、温かみのある色合い?」
「暖色系かぁ」
「見本が、届いております」

 執事長さんがそう言って分厚い本のような物をとりだした。

「こちらが黄色系の壁紙の見本にございます。こちらは赤系になります」

 それは魔道具だったようで、執事長さんが壁に当てると色が変わった。

「赤系は濃すぎなければ可愛らしくなるよね」
「そうですねぇ……」

 センスの問題なんだろうか?部屋が赤系とかちょっと無理だ。だって、ピンクの寝室なんて落ち着くわけが無い。ラブホじゃないんだからさぁ、なんて俺が考えているうちにも執事長さんがもつ魔道具は色を変えていく。

「あ、あの……黄色い方……が、見たい、です」
「はい、かしこまりました」

 執事長さんが黄色の方の見本を壁にかざしてくれた。うん、こっちの方がいい。

「あ、そのへん……白が入った感じの」

 多分クリーム色っぽい感じの色合いが出てきたので一旦止めて貰い、その後ゆっくりと色を変えてもらった。そうして色が決まったところで、今度は柄を決めます。とか言ってまた魔道具がでてきた。

「……柄…………」

 何それ……俺の記憶だと、壁紙って既製品なんだけど、もしかして貴族、公爵家ともなると壁紙もオーダーメイドなのか?
 そんなふうに俺が戸惑っているうちにシーリー様がセンスのいい柄をいくつかピックアップしてくれたので、俺の決めた色に載せて確認をして、ようやく壁紙が決まった。なんだか全然でよく行っていたイタリアン系のファミレスみたいな感じになってしまった感は否めない。だって、天井に天使みたいな絵が描いてあったんだ。そういや今の部屋にもあったよな。なんて、今更思うのだった。
 更にそのあと一階のサロンとか食堂も決めるとかで、途中食事をしたりお茶をしたり一日かかってしまったのだった。
 ちなみにジーク様は、リヒト様が外出されるとかで仕事でいない。休日返上とか結構ブラックだよな。
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