上 下
11 / 43

第11話 テンプレ2度目

しおりを挟む
 制服の注文だけでものすごく時間がかかった。俺はお茶を飲んでお菓子を食べて、時々笑顔で頷くというのを、何回か繰り返したのだった。
 で、既に昼過ぎてしまい、これまた外出した時の公爵家御用達のレストランに連れてこられた。予約しているのかなんてもう、どうでもよかった。俺はジークフリートに手を引かれ、奥の個室に通された。
 エスコートしてくれるジークフリートが、俺のために椅子を引き、座らせてくれた。俺が「ありがとう」と言うと、ジークフリートは少し照れたような顔をした。

「前菜にございます」

 注文してないのに料理が出てきてだいぶ驚いていると、ジークフリートに肉と魚はどちらが好きか聞かれた。日本人なので塩焼きの魚が食べたい欲求がずっとあったため、思わず「魚の塩焼きが食べたい」と答えてしまった。
 だって、家にいてもこころが休まらない。シャロンを見ると嫌でも婚約したことを意識させられて、十年後の俺をただ、絶望する。だからといって気軽に出かけられる訳もなく、部屋にこもってひたすら本を読むしかないのが、現状だ。一度庭を走っていたら、「転んで顔に怪我をしたらどうするんだ」とシャロンに怒られた。
 でも体力と言うか持久力がないと体が鍛えられないから、本を読む時に立ったままとか、そんなことはしている。
 で、最近のシャロンの体調に合わせているのか、とにかく料理がこってりしているのだ。悪阻が治まったのだろうか?なんて思っているのだが、同じ食事を六歳児の体に摂取させるのはどうなんだ?と思うわけで、俺は若干胃もたれをしていると思う。
 マリにハーブ水を用意してもらって飲んでいるんだけど、喉越しはスッキリするんだけど、なんか違くて、それがアレだと今気がついた。

「キャベツが食べたい」

 そう、日本人なら胃もたれにはあの薬だろう。だからトンカツにはキャベツの千切りがついてるんだよな?

「セレスティン、いまなんて?」

 俺の言った言葉が聞き取れなかったらしく、ジークフリートに、聞き返された。

「メインは魚料理をシンプルな味付けで頼んだが、今なんと言ったんだ?」
「キャベツ」

 多分千切りと言うワードが分からなかったのだろう。千切りって、日本語かな?

「サラダを追加されますか?」

 給仕が俺の言ったキャベツに反応してきた。

「ドレッシングのかかってないキャベツが食べたい」

 俺は給仕の人にハッキリと伝えてみた。キャベツ、キャベツはこの世界にもあった。サラダの中に少し入っていたんだけれど、ドレッシングは油分を含んでいるから、なんか後味がさっぱりしない。そう考えると日本で売られていたノンオイルドレッシングってすごいわ。

「味付けをしない事をお望みで?」

 給仕が目をぱちくりさせている。うん、それはわかるんだけど、俺はとにかくさっぱりしたものが食べたいんだ。どうせ今夜もチーズがのってこってりとした肉を食べさせられるんだから。

「うん。ほそーく切ったキャベツが食べたいんだけど、ダメかな?」

 俺がそう言うと、給仕は直ぐに「かしこまりました」って部屋を出ていった。

「細く切ったキャベツとはなんだ?」

 給仕が出ていったあと、ジークフリートが聞いてきた。

「うん、家で出てくる食事がすっごくこってりでさ、さっぱりしたものが食べたかったんだ」
「キャベツはさっぱりした食べ物なのか?」
「ドレッシングがかかってなければ、野菜は全部サッパリしてると思う」
「そうか」

 ジークフリートは俺の話を結構真剣に聞いてくれた。でも、家の食事にまで口出しは出来ないから、俺の我儘を許してくれたんだと思う。普通に考えたら、婚約者が勝手に料理を注文したんだ。公爵家のお金で食べてるのにワガママだよな。
 出てきたキャベツは本当に細く細く切られていた。さすがは公爵家の御用達だけはある。料理人の技術がすごいな。

「それだけ細ければ、セレスティンは食べやすいのか」

 俺がモグモグとキャベツの千切りを食べていると、ジークフリートが感心していた。多分初めて見たんだろうなぁ、こんな細かいキャベツ。

「食べてみる?」

 俺が聞くと、ジークフリートは黙って頷いた。で、食べさせようとしたんだけど、フォークだから千切りのキャベツって取りにくいんだよな。手を使わないようにして、そーっとフォークにキャベツを乗せて、こぼさないようにゆっくりとジークフリートの方へと動かした。

「…………」

 無言で口を開けるジークフリートに、俺はちょっと戸惑ったけれど、「食べる?」って聞いたのは俺の方なので、今更照れるのも可笑しい。そーっとジークフリートの口にフォークを入れる。ゆっくりとジークフリートの口が閉じられたので、俺はゆっくりとフォークを抜いた。箸と違ってやりにくいものだ。

「うん。随分と細かく切られているのに、噛みごたえがあるのだな」
「うん、キャベツ美味しいよね?……はぁ、家のご飯ヤダな」

 そもそも量が多いし、ホントにこってりしてるんだよな、最近。アランはシャロンにベタ惚れだから、シャロンの食べたいものを料理人に作らせるのを容認してて、そこには子どもである俺にはまったくの配慮がないのだ。

「そうなのか?じゃあ、好きな物を沢山食べていいぞ」
「え?いいの?ありがとう」

 そんなことを話していたら、タイミングよく魚料理が出てきて、俺は嬉しくなった。魚を焼くのではなく蒸してくれたようで、上にハーブが乗っていたのだ。

「うぅ、美味しい」

 ふっくらとした魚の身に、ハーブの香りが乗っていて魚の旨味を存分に味わえた。身と皮の間に油ものっていて大変に美味しかった。
 食べ終えて俺が満足していると、ジークフリートは店の従業員に何かを告げていた。そうしているうちにいかにもな感じの人がやってきた。そう、どう見ても料理を作る人だ。

「セレスティン、こちらはこの店の料理長だ」

 サラッと紹介されたけど、公爵家御用達の店だけあって、料理長も随分と威厳のある人だ。俺、こんな人にキャベツの千切りさせちゃった?

「あのっ、初めましてセレスティンです。お料理とても美味しかったです。あと、キャベツ、ありがとうございます」

 よし、何とか言えたかな?料理人を労うのは貴族として当たり前のことだ。なにせ、わざわざジークフリートが呼びつけちゃったんだから。俺も無茶振りを言ってしまったわけだから、ここはひとつ、労いの言葉をかけなくてはマナー違反となってしまう。しかし、紹介された婚約者がこんな子どもでさぞやガッカリしたことだろう。

「お口にあったようでようございました」

 料理長が恭しく頭を下げると、ジークフリートがすぐに口を開いた。

「セレスティンが、キャベツをたいそう気に入っていた。俺も食べてみたが、素晴らしかった」
「お褒めに預かり光栄にございます」

 凄い、ものすごくセレブな会話だ。まだ成人してなくても公爵家の長男なだけはある。俺なんかとは全く違う生き物だと痛感した。
 支払いはこの部屋でそのまま料理長の持つトレイに置かれて、俺はジークフリートに促されるまま店を出た。随分な人数の従業員に見送られ、俺はジークフリートのエスコートを受けながら馬車に乗り込む。

 次に着いたのはカバン屋だった。
 通学カバンって、学校指定?とか考えていたら、またまた個室に通されて、色んなサンプルが並べらて、お茶とお菓子が並べられた。

「初等部にご入学でしたら、このような肩掛けカバンがよろしいかと」

 って、ずらりと並んだサンプルたち。リクルートカバンを彷彿とさせるデザインだ。

「セレスティンは華奢なので、ベルトが細いと肩にくい込みそうだな」
「それでしたら、弟君のように幅のあるデザインはいかがでしょう?皮も柔らかい雌の子牛はどうでしょう?」

 さっきも言われたけど、やっぱり先にアルトが作りに来てるんだなぁ。そりゃそうか、俺はあくまでも婚約者だもんな。公爵家の恥にならない程度のものを身につける義務があるけれど、シャロンがアレだから……って話したのかな?一緒に出かけられないからって、ジークフリートにお願いしたのか?それとも、シャロンがアレなのをシーリー様が知って手配してくれたのかな?

 なんかヤダな。

 俺がそんなことを考えていると、ジークフリートが俺の顔を覗き込んできた。

「疲れたか?」
「っ、あ、大丈夫です」
「そうか?なら大きさを確認したいから立ってカバンを持ってみてくれ」
「はい」

 俺は言われるままにまた鏡の前にたち、サンプルのカバンを持たされた。大きさやベルトの長さなどを調整するようで、ジークフリートがやたらと細かい指示を出していた。
 何を言っているのか分からないけれど、初等部って日本の小学校と同じで6年間あるわけで、当然俺も成長すると思うんだけどな。

「ベルトは消耗品ですので、年に一度はお取替えのためのメンテナンスを致しますから」
「そうだな、セレスティンの背も伸びるだろうからな」

 ほほう、ベルトを消耗品と言い切るなんて、凄いな。まぁ、確かに毎日教科書とか入れて持ち歩いたら、ベルトの摩耗は激しいんだろうな。いや、ほんと、ランドセルの方がよくね?って、思ったけど、通学が馬車だから背負ったままだと座れないのか。
 ジークフリートがほとんど決めてくれるから、俺はほとんど何もしないで済んでしまった。だって、皮の種類とか全然わかんねぇのよ。オスよりメスのほうが柔らかい。とか言われて触っても違いなんか全然なわけよ。だから、違いのわかる男であるジークフリートに丸投げした。それに、ここでも支払いは公爵家だったのだ。
 って、よく考えたら俺お金持ってないわ。
 そもそも、俺が出かけるのにアランもシャロンも見送りに出てこなかったわけで、それはきっとジークフリートが俺の部屋に来る前に挨拶をしたからだと推測する。きっとその時に支払いについてアランとジークフリートが話したのだろう。うん、俺はまだ未就学児だからな。財布なんて持てるわけが無い。
 次はどこに行くんだろう?なんて考えながていたはずなんだけど、俺はどうやら眠ってしまったようだ。
 だって、目が覚めたら見知らぬ天井だったんだからな!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移要素はありません。

逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?

左側
BL
陽の光を浴びて桃色に輝く柔らかな髪。鮮やかな青色の瞳で、ちょっと童顔。 それが僕。 この世界が乙女ゲームやBLゲームだったら、きっと主人公だよね。 だけど、ここは……ざまぁ系のノベルゲーム世界。それも、逆ざまぁ。 僕は断罪される側だ。 まるで物語の主人公のように振る舞って、王子を始めとした大勢の男性をたぶらかして好き放題した挙句に、最後は大逆転される……いわゆる、逆ざまぁをされる側。 途中の役割や展開は違っても、最終的に僕が立つサイドはいつも同じ。 神様、どうやったら、僕は平穏に過ごせますか?   ※  ※  ※  ※  ※  ※ ちょっと不憫系の主人公が、抵抗したり挫けたりを繰り返しながら、いつかは平穏に暮らせることを目指す物語です。 男性妊娠の描写があります。 誤字脱字等があればお知らせください。 必要なタグがあれば付け足して行きます。 総文字数が多くなったので短編→長編に変更しました。

俺の婚約者は、頭の中がお花畑

ぽんちゃん
BL
 完璧を目指すエレンには、のほほんとした子犬のような婚約者のオリバーがいた。十三年間オリバーの尻拭いをしてきたエレンだったが、オリバーは平民の子に恋をする。婚約破棄をして欲しいとお願いされて、快諾したエレンだったが……  「頼む、一緒に父上を説得してくれないか?」    頭の中がお花畑の婚約者と、浮気相手である平民の少年との結婚を認めてもらう為に、なぜかエレンがオリバーの父親を説得することになる。  

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

婚約破棄された公爵令息は、周囲に溺愛される

白鳩 唯斗
BL
卒業パーティーで皇太子ユーリスの婚約者である公爵令息レインは、皇太子の浮気相手を虐めたとして婚約破棄をされてしまう。平然とした様子で婚約破棄を受け入れるも、ユーリスを好きだったレインは涙を流した。 主人公が老若男女問わず好かれるお話を目標にします。貴族間の難しいお話は正直書きたくないです。主人公は優しすぎて多分復讐とか出来ません。 ※作者の精神が終了したので主人公が救われる話が書きたいだけです。適当に気分で書きます。いつ更新停止してもおかしくありません。お気に入りあまりしないで欲しいですm(_ _)m 減るとダメージ凄いので······。

処理中です...