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第6話 ママなんて大っ嫌いだ
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「俺の部屋だ」
目が覚めるとそこは俺の部屋だった。寝巻きもちゃんと着ている。布団も肩までかけられていて、いつもと変わらない朝を迎えている。心なし、この年齢にしては疲労感が残っているのはなぜだろう?
俺は上半身だけを起こしてみた。うん、なんだか気怠い。たっぷり休んだはずなのに気持ちの付いてこない月曜の朝のようだ。
「お目覚めでございますか?セレスティン様」
メイドのマリがワゴンを押しながらやってきた。って、俺が起きたことを確認してから声をかけてんだよな、これって。魔法で俺の気配を読んでるのかな?毎日タイミングピッタリすぎるもんなぁ。
「うん、起きた。おはようマリ」
って、言ってはみたものの、やっぱりなんかだるい。声に力が入らない。
「今朝はスッキリするようにハーブティーをご用意いたしました。蜂蜜も入れましょうか?」
「うん、入れて」
なんだか疲れがとれていない気がするから、蜂蜜で栄養補給だ。マリは器用にポットにお湯を注いで、ハーブティーを入れていた。この世界では蜂蜜は貴重品らしい。養蜂はしているようだが、蜂の大きさが前世の俺の知っているサイズではないのだ。魔法がある世界だからある程度覚悟はしていたのだが、蜂の大きさが小型犬ほどあるのだ。つまり、養蜂家は命がけの仕事なのだ。まぁ、前世でも蜂蜜って結構いい値段してたよな。
そんなことを考えながらマリの入れてくれたハーブティーを口にする。スッキリとしていて、蜂蜜の甘さがしつこくなくて朝の一杯に最適だ。そして俺は、だんだんとハッキリとしてきた頭で、昨日何があったのかを思い出したのであった。
思い出してしまったことで、俺のテンションはだだ下がりだ、なぜかって、そりゃあシャロンから絶対に叱言を聞かされるに決まっているからだ。俺の記憶は途中からなくなってはいるけれど、シャロンは絶対に俺が悪いと決めつけているに違いない。
うんざりとした気分で食堂に行くと、すでにアランとシャロンが席についていた。
「おはようございます。父上、母上」
一応朝の挨拶は貴族らしくしている。家族三人で朝食を食べていると、やはりシャロンが口を開いた。
「昨日の件だけどね。セレスティン」
美味しいものを食べている時に(前世日本人の俺の味覚でも濃すぎない味付けなのだ)、嫌な記憶を呼び起こすのはやめて欲しいものだ。
「昨日のこと?」
俺は聞き返した。昨日のなんのことなのかが重要なのだ。
「ああ、昨日セレスティンは倒れたそうだね?気分はどうなんだ?」
アランが心配そうに聞いてきた。
「うん、なんかダルい」
俺がそう答えると、シャロンがキッと睨みつけてきた。
「ダルいじゃないよ、セレスティン。ハスヴェル公爵家で泣き叫んで気絶するなんて前代未聞だ。シーリー様に気を使わせてしまって、俺は申し訳なくてなきたくなったよ」
「じゃあ泣けば良かったのに」
「なっ」
俺の返しにシャロンの顔が赤くなった。うん、怒ったよな。
「シャロン、落ち着いて。ね?ところでセレスティン?何があったの?俺はその場にいなかったから教えて欲しいな」
アランが優しく聞いてきた。それなのに、
「セレスティンがジークフリートくんに失礼なことをしたんだよ。それで怒られたのに泣き叫んで俺のところに逃げてきたんだ」
シャロンが俺より先に口を開いた。完全に俺が悪者のシャロン主観の話だ。
「え?そうなの?」
それを聞いたアランが驚いて聞き返す。
「違う。俺は悪くない」
「何言ってんだ!ジークフリートくんを怒らせたのはセレスティンだろう」
「怒らせてなんかいない!あっちがいきなり怒ってきたんだ。初対面で挨拶も交わしてないのに、俺の頭に絶対零度の冷気を落としてきたんだぞ。死ぬかと思ったんだからな」
俺がそう反論すると、アランが目を丸くした。
「え?ええ?冷気?冷気を頭上から?」
そして俺の言った言葉を理解しようとなにやら考え込んだ。だが、またしてもシャロンが口を開いた。
「なにいってるんだよ、セレスティン!初対面で相手を怒らせたんだろう?何を言ったの?ジークフリートくんは公爵家の嫡男なんだよ?場合によっては不敬罪に」
「うるせぇなぁ!俺は何も言ってねぇって言ってんだろ!!」
俺を一方的に悪者にするシャロンの態度にいい加減我慢ならなかったので、俺は大きな声でシャロンに向かって怒鳴った。俺が怒鳴ったものだから、シャロンは驚きのあまり目も口も大きく開いたまま固まってしまったようだ。
「俺の事全く信じてないじゃないか!っも、もう、シャロンなんか大嫌いだぁ」
俺はそう叫ぶと食堂を飛び出した。ご馳走様なんて言ってない。今日は休日だからゆったりとした朝食のはずで、この後美味しいデザートが出てくる予定だった。けれど、とてもじゃないけどそんな気分では無い。
俺は食堂を飛び出した勢いのまま、廊下を走り自分の部屋に飛び込んだ。扉だって勢いよく音を立てて閉めてしまった。
「鍵かけてやる」
俺は閉めた扉の鍵をかけた。これで俺を追いかけてきたシャロンが、扉を開けることはできない。食べてる最中だったとはいえ、それなりに口にしていたから急に走って脇腹が痛い。俺は鍵をかけた扉の前で座り込んだ。
こんなの前世でのマラソン大会以来の痛さだ。吐き気なんかよりも脇腹の痛さが辛い。走って脇腹が痛くなるのって、筋肉がないから内蔵が動いて内蔵が擦れて痛いんだっけ?って、考えたら余計に痛いわ。
ドンドンドンドンドン
と、目の前の扉が乱暴に叩かれた。
「セレスティン?開けなさい」
俺が脇腹の痛みに着いて考えている間に、シャロンがやってきて扉を開けようとしたようだ。そして開かなかったから、扉を叩いている。らしい。
が、随分と乱暴だ。
「もう、親である俺に向かって暴言吐くなんて、許さないからな」
扉の向こうでシャロンが叫んでいる。
どうやら俺の捨て台詞が気に入らなかったようだ。後ろでアランがなだめているけれど、シャロンの怒りは治まらないようで、扉の鍵を執事からもらってくると言うのが聞こえた。
「鍵あけられちゃうじゃん」
俺は慌てて部屋の中を見渡した。まだ学園に入学していないから机はあるが本棚は小さいのがひとつしかない。扉を押さえるのに使えそうだが、六歳児の体では無理だ。
「これなら、どうだ?」
俺はひとりがけのソファーをグイグイとおして扉の前においた。もちろん背もたれを扉側にした。次はローテーブルだ。毎日朝のお茶を飲むことにしか使わないのに、やらたと存在感のあるやつだ。それをズリズリと引きずってソファーの前に置く。
そうして俺は急いでカーテンをとめている紐を取りに行った。確かタッセルとか言う名前だった気がする。田舎のヤン車が何故かバックミラーにぶら下げていたりする。が、今はこれが俺にとっての命綱だ。急いで扉の取っ手に引っ掛けた。強い力で押された、ソファーやローテーブルなんかじゃ負けてしまうだろうけれど、このタッセルでドアノブを止めてしまえばドア自体が開かなくなるはずだ。
ひとつじゃ心許ないので、部屋にある全てのタッセルをドアノブに引っ掛けた。
「あっ、開かない!」
ソファーの上に立っていた俺の前で、両開きの扉が微かに動いた。だが、俺の乗っているソファーに阻まれて扉は開かなかった。そのため、外からシャロンの悔しそうな声が聞こえた。
「もう、セレスティン!何してくれてんのさ」
シャロンが、叫ぶけれど俺は返事をしない。シャロンはおそらく怒りの沸点を通り越しているのだ。あの状態では俺の話なんか聞かないだろう。まぁ、こうなったのは少しは俺が悪いかもしれないけれど、昨日から俺の話をまるで聞かないシャロンの方が絶対に悪い。
俺はドアの向こうから聞こえるシャロンの叫び声をまるっと無視して普段はあまり座らない二人がけのソファーに腰掛けた。
目が覚めるとそこは俺の部屋だった。寝巻きもちゃんと着ている。布団も肩までかけられていて、いつもと変わらない朝を迎えている。心なし、この年齢にしては疲労感が残っているのはなぜだろう?
俺は上半身だけを起こしてみた。うん、なんだか気怠い。たっぷり休んだはずなのに気持ちの付いてこない月曜の朝のようだ。
「お目覚めでございますか?セレスティン様」
メイドのマリがワゴンを押しながらやってきた。って、俺が起きたことを確認してから声をかけてんだよな、これって。魔法で俺の気配を読んでるのかな?毎日タイミングピッタリすぎるもんなぁ。
「うん、起きた。おはようマリ」
って、言ってはみたものの、やっぱりなんかだるい。声に力が入らない。
「今朝はスッキリするようにハーブティーをご用意いたしました。蜂蜜も入れましょうか?」
「うん、入れて」
なんだか疲れがとれていない気がするから、蜂蜜で栄養補給だ。マリは器用にポットにお湯を注いで、ハーブティーを入れていた。この世界では蜂蜜は貴重品らしい。養蜂はしているようだが、蜂の大きさが前世の俺の知っているサイズではないのだ。魔法がある世界だからある程度覚悟はしていたのだが、蜂の大きさが小型犬ほどあるのだ。つまり、養蜂家は命がけの仕事なのだ。まぁ、前世でも蜂蜜って結構いい値段してたよな。
そんなことを考えながらマリの入れてくれたハーブティーを口にする。スッキリとしていて、蜂蜜の甘さがしつこくなくて朝の一杯に最適だ。そして俺は、だんだんとハッキリとしてきた頭で、昨日何があったのかを思い出したのであった。
思い出してしまったことで、俺のテンションはだだ下がりだ、なぜかって、そりゃあシャロンから絶対に叱言を聞かされるに決まっているからだ。俺の記憶は途中からなくなってはいるけれど、シャロンは絶対に俺が悪いと決めつけているに違いない。
うんざりとした気分で食堂に行くと、すでにアランとシャロンが席についていた。
「おはようございます。父上、母上」
一応朝の挨拶は貴族らしくしている。家族三人で朝食を食べていると、やはりシャロンが口を開いた。
「昨日の件だけどね。セレスティン」
美味しいものを食べている時に(前世日本人の俺の味覚でも濃すぎない味付けなのだ)、嫌な記憶を呼び起こすのはやめて欲しいものだ。
「昨日のこと?」
俺は聞き返した。昨日のなんのことなのかが重要なのだ。
「ああ、昨日セレスティンは倒れたそうだね?気分はどうなんだ?」
アランが心配そうに聞いてきた。
「うん、なんかダルい」
俺がそう答えると、シャロンがキッと睨みつけてきた。
「ダルいじゃないよ、セレスティン。ハスヴェル公爵家で泣き叫んで気絶するなんて前代未聞だ。シーリー様に気を使わせてしまって、俺は申し訳なくてなきたくなったよ」
「じゃあ泣けば良かったのに」
「なっ」
俺の返しにシャロンの顔が赤くなった。うん、怒ったよな。
「シャロン、落ち着いて。ね?ところでセレスティン?何があったの?俺はその場にいなかったから教えて欲しいな」
アランが優しく聞いてきた。それなのに、
「セレスティンがジークフリートくんに失礼なことをしたんだよ。それで怒られたのに泣き叫んで俺のところに逃げてきたんだ」
シャロンが俺より先に口を開いた。完全に俺が悪者のシャロン主観の話だ。
「え?そうなの?」
それを聞いたアランが驚いて聞き返す。
「違う。俺は悪くない」
「何言ってんだ!ジークフリートくんを怒らせたのはセレスティンだろう」
「怒らせてなんかいない!あっちがいきなり怒ってきたんだ。初対面で挨拶も交わしてないのに、俺の頭に絶対零度の冷気を落としてきたんだぞ。死ぬかと思ったんだからな」
俺がそう反論すると、アランが目を丸くした。
「え?ええ?冷気?冷気を頭上から?」
そして俺の言った言葉を理解しようとなにやら考え込んだ。だが、またしてもシャロンが口を開いた。
「なにいってるんだよ、セレスティン!初対面で相手を怒らせたんだろう?何を言ったの?ジークフリートくんは公爵家の嫡男なんだよ?場合によっては不敬罪に」
「うるせぇなぁ!俺は何も言ってねぇって言ってんだろ!!」
俺を一方的に悪者にするシャロンの態度にいい加減我慢ならなかったので、俺は大きな声でシャロンに向かって怒鳴った。俺が怒鳴ったものだから、シャロンは驚きのあまり目も口も大きく開いたまま固まってしまったようだ。
「俺の事全く信じてないじゃないか!っも、もう、シャロンなんか大嫌いだぁ」
俺はそう叫ぶと食堂を飛び出した。ご馳走様なんて言ってない。今日は休日だからゆったりとした朝食のはずで、この後美味しいデザートが出てくる予定だった。けれど、とてもじゃないけどそんな気分では無い。
俺は食堂を飛び出した勢いのまま、廊下を走り自分の部屋に飛び込んだ。扉だって勢いよく音を立てて閉めてしまった。
「鍵かけてやる」
俺は閉めた扉の鍵をかけた。これで俺を追いかけてきたシャロンが、扉を開けることはできない。食べてる最中だったとはいえ、それなりに口にしていたから急に走って脇腹が痛い。俺は鍵をかけた扉の前で座り込んだ。
こんなの前世でのマラソン大会以来の痛さだ。吐き気なんかよりも脇腹の痛さが辛い。走って脇腹が痛くなるのって、筋肉がないから内蔵が動いて内蔵が擦れて痛いんだっけ?って、考えたら余計に痛いわ。
ドンドンドンドンドン
と、目の前の扉が乱暴に叩かれた。
「セレスティン?開けなさい」
俺が脇腹の痛みに着いて考えている間に、シャロンがやってきて扉を開けようとしたようだ。そして開かなかったから、扉を叩いている。らしい。
が、随分と乱暴だ。
「もう、親である俺に向かって暴言吐くなんて、許さないからな」
扉の向こうでシャロンが叫んでいる。
どうやら俺の捨て台詞が気に入らなかったようだ。後ろでアランがなだめているけれど、シャロンの怒りは治まらないようで、扉の鍵を執事からもらってくると言うのが聞こえた。
「鍵あけられちゃうじゃん」
俺は慌てて部屋の中を見渡した。まだ学園に入学していないから机はあるが本棚は小さいのがひとつしかない。扉を押さえるのに使えそうだが、六歳児の体では無理だ。
「これなら、どうだ?」
俺はひとりがけのソファーをグイグイとおして扉の前においた。もちろん背もたれを扉側にした。次はローテーブルだ。毎日朝のお茶を飲むことにしか使わないのに、やらたと存在感のあるやつだ。それをズリズリと引きずってソファーの前に置く。
そうして俺は急いでカーテンをとめている紐を取りに行った。確かタッセルとか言う名前だった気がする。田舎のヤン車が何故かバックミラーにぶら下げていたりする。が、今はこれが俺にとっての命綱だ。急いで扉の取っ手に引っ掛けた。強い力で押された、ソファーやローテーブルなんかじゃ負けてしまうだろうけれど、このタッセルでドアノブを止めてしまえばドア自体が開かなくなるはずだ。
ひとつじゃ心許ないので、部屋にある全てのタッセルをドアノブに引っ掛けた。
「あっ、開かない!」
ソファーの上に立っていた俺の前で、両開きの扉が微かに動いた。だが、俺の乗っているソファーに阻まれて扉は開かなかった。そのため、外からシャロンの悔しそうな声が聞こえた。
「もう、セレスティン!何してくれてんのさ」
シャロンが、叫ぶけれど俺は返事をしない。シャロンはおそらく怒りの沸点を通り越しているのだ。あの状態では俺の話なんか聞かないだろう。まぁ、こうなったのは少しは俺が悪いかもしれないけれど、昨日から俺の話をまるで聞かないシャロンの方が絶対に悪い。
俺はドアの向こうから聞こえるシャロンの叫び声をまるっと無視して普段はあまり座らない二人がけのソファーに腰掛けた。
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