【完結】第三王子は逃げ出したい

久乃り

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天に戻るにあたり、リシュデリュアルは竜の姿になり空を飛んでいた。天は竜の住まう領域、そこを自在に飛べるのは竜族のみとなる。
 空の色に近い鱗を持った竜が、天の城に近づき嘶いた。そうして自分の浮島へとゆっくりと降り立った。
 その足元に集まるのは侍従の竜族たち。三本爪の者たちだ。三本爪の者たちは、ニンゲンのように番い妊娠出産する。竜化したところで魔力も弱い。
 集まった侍従たちは、主の姿を見ないよう膝をつき下を向いた。気高き五本爪の竜は、侍従たちを確認してから竜化を解いた。
「僕の大切なヒトが休まる部屋の用意を」
 一言命じれば、侍従たちはすぐに行動に移す。
 庭を見渡せる、一番眺めのいい部屋に寝台が運び込まれた。くつろぐためのソファーやクッション、調度品を並べる。それらは落ち着きのある色で統一されていた。
 侍従たちは、降り立った主の姿を見てすぐに察した。そしてすぐに下を向いた。主が成人したことをすぐさま確認し、用意する部屋の目的を理解した。
 出産育児に適した部屋を。
 相手の姿は見えないが、気配は感じられるので、側に来ていることは間違いないのだろう。竜族を受け入れたニンゲンの気配が確かにあった。
「よろしいでしょうか?」
 主に部屋の確認を促す。
「ああ、いいね。でも、上掛けをもう少し用意して」
 リシュデリュアルがそう言うと、すぐに上掛けが追加される。
「蜜水と果物も」
 テーブルにすぐさま並べられた。
「ありがとう」
 リシュデリュアルが言うと、侍従たちは静かに退出した。
 寝台に腰掛けて、フィートルから渡された袋を置く。指で摘んでみるが、どう考えても袋の中に入っているとは思えなかった。
 しばらく考えて、リシュデリュアルは袋の口に向かって声をかけてみた。
「ねぇ、着いたよ」
 どの程度の音量で話すのが正解なのか分からず、いつもの調子で言ってみる。すると、袋の口から手袋をした手が現れて、そのままフィートル本人が寝台の上に姿を見せた。
「………なに、してんの?」
 睨みつけるようにリシュデリュアルを見た。
「え、なにって?」
「準備が、出来てないじゃないか」
「え、ええ?」
 リシュデリュアルは慌ててしまった。なにの準備だろう?
「俺、魔力切れを起こしてんだよ?」
「うん」
 リシュデリュアルがキスをしようとすると、フィートルの手がそれを止めた。
「分かってねーな。そんなんで足りるわけないだろ?」
 フィートルの手がそのままリシュデリュアルの股間に伸びた。
「っ!」
「準備ができてないだろう?早く挿せよ」
「え、僕、そんな急には…」
 リシュデリュアルがオロオロとしていると、フィートルは寝台に、身体を預けるように横になった。
「早くしろよ、俺、死んじゃうよ?」
 その誘い文句でその気になれるのなら、リシュデリュアルはとっくに挿すことが出来ていただろう。



「早くしろよ」
 まなの実のなる木の下での情熱を微塵も感じさせない冷ややかな言い方に、リシュデリュアルは萎えそうだった。
「こんなムードのないのなんて、僕」
 唇を重ねて、そこからも魔力を渡してはいるがまったく足りないらしい。
 魔力切れを起こしているから、と言って催促されてしまうと、なんだか自分が情けなくなってきて、リシュデリュアルは泣きそうだった。
「早く中に出してくれよ」
 しかも、全く甘い空気もなければ、扇情的でもない言い方をされている。
「うん、もうちょっと」
 リシュデリュアルはとにかく頑張って腰を振るしか無かった。千年待って巡り会えた愛しき相手が、折角孕んでくれたのに、孕んだ卵が恐ろしい勢いで魔力を食べているのだ。母体?となったフィートルが魔力切れを起こして死にかけている。死にそうにもない顔をしてはいるけれど、指先や足が冷たくなっている。
 今だって、抱えるフィートルの足が冷たい。
「ん、もっと奥がいい」
 煽るような目付きで言われれば、それに答えるように更に膝を抱えるように持ち上げる。血の通う近い箇所に触れているのに、そこも冷たくて恐ろしくなる。
 言われるままに奥を探せば、満足そうに笑われた。
「あ、出る」
 フィートルが、笑った時の微かな動きに刺激され、言われた通りの奥に吐き出した。
「うん、なかなかいいね」
 赤い舌で唇を舐めながらフィートルはそう言った。けれど、抱えているはずの足が、リシュデリュアルを挟み込んで離さない。
「全然足りないよ。後、三回ぐらいかなぁ」
 喉の奥で笑いながら催促してくる。
「え、うん、待って…そんなすぐには」
 抜かせてさえくれないらしく、足と腰を使って催促されると、それなりに熱量が戻ってくる。
「お前の卵だぞ。責任取れよ」
「言い方っ、言い方あるでしょう」
 組み敷いてるはずなのに、下から見つめてくる黒い瞳は支配者のようだ。
「手前から、一気に奥まで来てよ」
 少し熱が戻った指先が、リシュデリュアルの腕を掴んで強請ってきた。
「う、うん。頑張る」
 言われるままに身体を動かすと、掴んできた指先に力が入ったのがわかる。
「ん、いい……そこ」
 呼吸に声が乗っているような、そんな言葉を聞くとリシュデリュアルの背中がゾクリとした。
「ここが、いいの?」
 耳元で囁くように聞けば、吐息のような返事が来た。そこから感じる空気の密に、たまらず首筋に歯を立てた。
「っ、うん」
 痛くはなかったらしく、口角が、上がったように見えた。それだけでまた、煽られていると錯覚を起こす。
「奥だよ、奥」
 言われるままに先程同様、奥にたどり着くよう角度を取ると、今度はゆっくりとそこを目指した。
「ん、ここ?」
 リシュデリュアルが探り当てるかのように揺らしてみると、当たりなのか嬌声が上がった。それを聞いた途端、ガマンが出来ずに二度目を放った。
「うん、熱い」
 満足そうに笑う目とあったが、まだ白い指先がリシュデリュアルの、髪を引っ張った。
「まだ足りない。もっとだ」
 腰を揺らされて催促される。体勢を変えるつもりは無いらしい。魔力切れを起こして体温が低下しているせいなのか、フィートルはまったく涼しい顔をしている。それに比べてリシュデリュアルは汗だくだ。
「うん、もぉ」
 決して嫌では無いため、リシュデリュアルもすぐに答えるように動き始めた。
「角度は変えてくれよ」
 オマケにワガママな事を言われ、リシュデリュアルは焦った。この体勢から?
 とりあえず、両膝を抱えるようにしていたので、少しズレて片足だけを自分の肩に乗せるようにしてみた。
「あ、ああ、っん」
 満足そうに目を細めると、腰使いで誘われているのが分かった。
「わがままだなぁ、もう」
 言いながらリシュデリュアルも笑っていた。




「やっと体が温かい」
 リシュデリュアルからたっぷりと魔力讓渡をされて、フィートルは満足そうにくつろいでいる。
 蜜水を飲んで喉を湿し、自分の小刀を取り出して果物を剥いていた。
 甘い果実を小刀にのせて、そのままリシュデリュアルの口に入れてくる。
「大食らいだから、産まれるまで毎日」
「ふぇ、毎日?」
「そうだな。毎日三回は必要かな?」
「さっきみたいに?」
 リシュデリュアルは上目遣いに聞いてみた。毎日あんな風に煽られてでは悲しくなってくる。
「今日は俺が死にそうだったからだ」
 両手で頬を挟まれて、顔を向き合わされる。熱っぽい目で、見つめられるとどうにも落ち着かない。
「だって、してくれなくちゃ俺が死んじゃうよ?」
「っ、………」
 リシュデリュアルの顔だけでなく、耳までが赤くなった。何かを言おうとして口が途中まで開くが、言葉が出てこない。
「ふ、…っん」
 そこをすかさず塞がれると、声なのか息なのか分からないものが隙間からこぼれるように出てきた。
 舌先を吸い上げるようにされれば、湿った音がしてますます顔が赤くなった。
「約束」
 仕上げに輪郭を舐めるようにして、名残惜しげに離れていく。その動きをただ見つめてしまえば、返事は首を縦に振ることだった。
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