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木の下で
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近づくほどに妙な圧迫感が、強くなった。
ここにいる生き物は、自分と隣にいる人族だけ。羽虫の一匹も飛んではいなかった。
「え、これ、風?な、の」
頬に触れるなにかが、なんなのか、体感で理解できなかった。
「南半球はこの木しかない」
「南半球……」
リシュデリュアルははるか上を見上げた。遠近感も何もかも、今まで自分が信じてきたものを凌駕するほどの存在だった。
木の枝が揺れることで新しい風が起きる。その風が次の枝を揺らし、また風がおきる。それが繰り返されているようだ。
木の葉の一枚は、大きさは普通なのだろう。花の大きさだって普通だ。何も巨大ではない。大きいのは、この木だ。
「ああ、あった」
フィートルが何かを拾ってリシュデリュアルに見せた。
「まなの実?」
こんなにもあっさりと拾えるほど、ここには沢山落ちていた。
「生き物がいないからな、落ちたらそのまま」
フィートルは拾ったまなの実を、なんの躊躇いもなく口にした。
「美味い」
果実を口にし、その汁が口の端についた。それを舌で舐めとるその仕草をリシュデリュアルは眺めていた。
(舐めたい)
衝動が湧き上がった。
なにの、何なのかはわからない。だが、明確に欲した。自分もアレが舐めたい。と。
見つめていると、気がついたのか食べかけの果実を口元にあてがわれた。
舌で舐めてみる。果汁が舌を伝って口内に広がる。唇より、歯よりも先に舌をあてがうとはなんと宜しくないことか。果実を味わうふりをして、リシュデリュアルはそれを手に持つ人族を見つめていた。
口に屠るは甘い。空腹などはなかった。なぜ欲したのかなど知らない。
舐めて、味わい、喰んでみる。
自分の喉が鳴ったのを、こんなにも良くないと感じたことはかつてなかった。
ああ、欲しい。
千年生きて、初めての感情が目を覚ました。
甘い果実。
甘い匂い。
喰むことは罪なのか?
だから、ここには生き物がいないのか?
いや、いる。
ここに、二人。
喰らいたいと、己の中で初めての欲が目を覚ました。
フィートルが手にする果実を、その手を押さえたまま食べ尽くすと、リシュデリュアルはその手に着いた汁さえ舐めた。
「探せばまだあるぞ」
黒い目を愉快そうに揺らしてフィートルはリシュデリュアルを見ていた。
フィートルが他の果実を拾おうと体を動かした時、リシュデリュアルは掴んだその手に力を込めた。
「まって、僕」
言われて、フィートルが立ち止まる。掴まれた手とリシュデリュアルの顔を交互に見つめる。
「……なんだ?」
「僕、僕ね」
リシュデリュアルは千年生きて、初めて口にした。
「僕、発情しちゃった」
長い沈黙の後、フィートルはまじまじとリシュデリュアルを見つめ、口を開いた。
「確認したいことがある」
「うん」
「俺は男だ」
「うん」
「竜族は雄にしか変態しないと聞いている」
「うん」
「なぜ発情した?」
「うん」
「会話になってないだろう」
フィートルがうんざりした顔をしたとき、なにかが回りで動いているのを確認した。
「なにが、動いている?」
「ん?」
「……もしかして、お前の尻尾、か?」
「うん」
「なにをしている?」
「巣作り」
「ちょっと待て」
フィートルは慌ててリシュデリュアルの尻尾を止めようとしたが、両手をリシュデリュアルの手で掴まれた。
「うん、待てない」
「いや、待て。俺は納得していない」
「これからゆっくり納得させてあげる」
リシュデリュアルはニコニコと微笑んでフィートルを見つめている。
「だから、俺は男だ」
「大丈夫だよ」
「なんでだよ」
フィートルは、どんどん目の前に出来上がっていく何かこんもりとした、リシュデリュアルの言うところの巣が大きくなっていくのを驚愕の目で見ていた。
「心配しないで、竜族は卵から孵るから」
「……いや、た…た、まご?」
「大丈夫だよ。孕むのは卵だから」
「いや、だから俺は男だ」
「大丈夫だよ。産道がなくても産めるから」
「………なっ」
「だって鶏の卵はどこから出てくる?」
「…………」
「男でも卵、産めるよね?」
「…………………」
「大丈夫だよ、だいたいこのぐらいの大きさだから」
そう言って、リシュデリュアルはまなの実を見せた。
「いや、な、にが、大丈夫って…」
「鶏の卵と比較したら、君の体に対してだいぶ小さいと思うよ」
リシュデリュアルはニッコリと微笑んだ。だが、その笑顔を向けられたところで、フィートルが納得出来るわけがない。
「だから、なんで俺が孕む前提なんだ」
「え、だって、僕雄に変態するし」
「俺も男だ」
「だからぁ、卵は産道が、なくても産めるよ」
「なんで、俺が雌役設定なんだよ」
「だって、僕孕めないし」
「…………」
フィートルは、リシュデリュアルから離れようとした。幸い、片手は既に離れている。
「ねぇ、逃げられないよ?」
「っく」
左手をしっかりと掴まれて、フィートルは掴まれたその、左手を凝視した。
「知ってるよね?」
「…………っ」
リシュデリュアルの顔が近づく。
「竜族からの求愛は絶対だよ?」
「……………」
「王族なら、分かってるよね?」
リシュデリュアルの手が左手をひとなですると、手の甲の紋章がむき出しになった。
「ね?」
「………くっ」
リシュデリュアルの片方の手が、フィートルの肩に回りゆっくりと撫で降りていく。背中に回って、ゆっくりと背骨のラインに沿って降りて最後に腰に止まった。
フィートルは空いている方の手で、リシュデリュアルとの距離を取ろうとした。
「俺は納得していないんだが?」
「だからぁ、これからゆっくりと納得させてあげるよ」
距離を取ろうとしたフィートルの手が、リシュデリュアルの胸に添えられていたが、それを無視してリシュデリュアルはフィートルの腰を引き寄せた。
「っ、人の話を聞け」
「うん、聞いてるよ」
頭一つ大きいリシュデリュアルは、引き寄せたフィートルの頭の匂いをクンクン嗅いでいる。
「聞いてないだろう」
空いている手でリシュデリュアルの頭をどかそうと体を少し捻ったら、そのまま体勢が動いた。
「………っ」
膝から崩れて、地面に膝を着く形になったが、それでもリシュデリュアルはフィートルを離さなかった。
「体勢がおかしいだろう」
「そんなことないよ」
膝立ちの状態でも、頭一つ大きいのは変わらなかった。頭の匂いを嗅いでいたリシュデリュアルは今度は首の匂いを嗅いでいた。
「おい、やめろ」
リシュデリュアルの頬に手をあてて顔を逸らそうとした。だが、その手の指を軽く舐められて、驚いた時、ようやく目が合った。
「……あ」
目線が逸らせないままむかい入れていた。
下になった側では拒否は出来ない。ゆっくりと口内を巡るのは魔力では無いものを含んでいた。
ここにいる生き物は、自分と隣にいる人族だけ。羽虫の一匹も飛んではいなかった。
「え、これ、風?な、の」
頬に触れるなにかが、なんなのか、体感で理解できなかった。
「南半球はこの木しかない」
「南半球……」
リシュデリュアルははるか上を見上げた。遠近感も何もかも、今まで自分が信じてきたものを凌駕するほどの存在だった。
木の枝が揺れることで新しい風が起きる。その風が次の枝を揺らし、また風がおきる。それが繰り返されているようだ。
木の葉の一枚は、大きさは普通なのだろう。花の大きさだって普通だ。何も巨大ではない。大きいのは、この木だ。
「ああ、あった」
フィートルが何かを拾ってリシュデリュアルに見せた。
「まなの実?」
こんなにもあっさりと拾えるほど、ここには沢山落ちていた。
「生き物がいないからな、落ちたらそのまま」
フィートルは拾ったまなの実を、なんの躊躇いもなく口にした。
「美味い」
果実を口にし、その汁が口の端についた。それを舌で舐めとるその仕草をリシュデリュアルは眺めていた。
(舐めたい)
衝動が湧き上がった。
なにの、何なのかはわからない。だが、明確に欲した。自分もアレが舐めたい。と。
見つめていると、気がついたのか食べかけの果実を口元にあてがわれた。
舌で舐めてみる。果汁が舌を伝って口内に広がる。唇より、歯よりも先に舌をあてがうとはなんと宜しくないことか。果実を味わうふりをして、リシュデリュアルはそれを手に持つ人族を見つめていた。
口に屠るは甘い。空腹などはなかった。なぜ欲したのかなど知らない。
舐めて、味わい、喰んでみる。
自分の喉が鳴ったのを、こんなにも良くないと感じたことはかつてなかった。
ああ、欲しい。
千年生きて、初めての感情が目を覚ました。
甘い果実。
甘い匂い。
喰むことは罪なのか?
だから、ここには生き物がいないのか?
いや、いる。
ここに、二人。
喰らいたいと、己の中で初めての欲が目を覚ました。
フィートルが手にする果実を、その手を押さえたまま食べ尽くすと、リシュデリュアルはその手に着いた汁さえ舐めた。
「探せばまだあるぞ」
黒い目を愉快そうに揺らしてフィートルはリシュデリュアルを見ていた。
フィートルが他の果実を拾おうと体を動かした時、リシュデリュアルは掴んだその手に力を込めた。
「まって、僕」
言われて、フィートルが立ち止まる。掴まれた手とリシュデリュアルの顔を交互に見つめる。
「……なんだ?」
「僕、僕ね」
リシュデリュアルは千年生きて、初めて口にした。
「僕、発情しちゃった」
長い沈黙の後、フィートルはまじまじとリシュデリュアルを見つめ、口を開いた。
「確認したいことがある」
「うん」
「俺は男だ」
「うん」
「竜族は雄にしか変態しないと聞いている」
「うん」
「なぜ発情した?」
「うん」
「会話になってないだろう」
フィートルがうんざりした顔をしたとき、なにかが回りで動いているのを確認した。
「なにが、動いている?」
「ん?」
「……もしかして、お前の尻尾、か?」
「うん」
「なにをしている?」
「巣作り」
「ちょっと待て」
フィートルは慌ててリシュデリュアルの尻尾を止めようとしたが、両手をリシュデリュアルの手で掴まれた。
「うん、待てない」
「いや、待て。俺は納得していない」
「これからゆっくり納得させてあげる」
リシュデリュアルはニコニコと微笑んでフィートルを見つめている。
「だから、俺は男だ」
「大丈夫だよ」
「なんでだよ」
フィートルは、どんどん目の前に出来上がっていく何かこんもりとした、リシュデリュアルの言うところの巣が大きくなっていくのを驚愕の目で見ていた。
「心配しないで、竜族は卵から孵るから」
「……いや、た…た、まご?」
「大丈夫だよ。孕むのは卵だから」
「いや、だから俺は男だ」
「大丈夫だよ。産道がなくても産めるから」
「………なっ」
「だって鶏の卵はどこから出てくる?」
「…………」
「男でも卵、産めるよね?」
「…………………」
「大丈夫だよ、だいたいこのぐらいの大きさだから」
そう言って、リシュデリュアルはまなの実を見せた。
「いや、な、にが、大丈夫って…」
「鶏の卵と比較したら、君の体に対してだいぶ小さいと思うよ」
リシュデリュアルはニッコリと微笑んだ。だが、その笑顔を向けられたところで、フィートルが納得出来るわけがない。
「だから、なんで俺が孕む前提なんだ」
「え、だって、僕雄に変態するし」
「俺も男だ」
「だからぁ、卵は産道が、なくても産めるよ」
「なんで、俺が雌役設定なんだよ」
「だって、僕孕めないし」
「…………」
フィートルは、リシュデリュアルから離れようとした。幸い、片手は既に離れている。
「ねぇ、逃げられないよ?」
「っく」
左手をしっかりと掴まれて、フィートルは掴まれたその、左手を凝視した。
「知ってるよね?」
「…………っ」
リシュデリュアルの顔が近づく。
「竜族からの求愛は絶対だよ?」
「……………」
「王族なら、分かってるよね?」
リシュデリュアルの手が左手をひとなですると、手の甲の紋章がむき出しになった。
「ね?」
「………くっ」
リシュデリュアルの片方の手が、フィートルの肩に回りゆっくりと撫で降りていく。背中に回って、ゆっくりと背骨のラインに沿って降りて最後に腰に止まった。
フィートルは空いている方の手で、リシュデリュアルとの距離を取ろうとした。
「俺は納得していないんだが?」
「だからぁ、これからゆっくりと納得させてあげるよ」
距離を取ろうとしたフィートルの手が、リシュデリュアルの胸に添えられていたが、それを無視してリシュデリュアルはフィートルの腰を引き寄せた。
「っ、人の話を聞け」
「うん、聞いてるよ」
頭一つ大きいリシュデリュアルは、引き寄せたフィートルの頭の匂いをクンクン嗅いでいる。
「聞いてないだろう」
空いている手でリシュデリュアルの頭をどかそうと体を少し捻ったら、そのまま体勢が動いた。
「………っ」
膝から崩れて、地面に膝を着く形になったが、それでもリシュデリュアルはフィートルを離さなかった。
「体勢がおかしいだろう」
「そんなことないよ」
膝立ちの状態でも、頭一つ大きいのは変わらなかった。頭の匂いを嗅いでいたリシュデリュアルは今度は首の匂いを嗅いでいた。
「おい、やめろ」
リシュデリュアルの頬に手をあてて顔を逸らそうとした。だが、その手の指を軽く舐められて、驚いた時、ようやく目が合った。
「……あ」
目線が逸らせないままむかい入れていた。
下になった側では拒否は出来ない。ゆっくりと口内を巡るのは魔力では無いものを含んでいた。
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