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55.由緒正しきやり取りです
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55.
「お礼参りをしたいんです」
義隆に言われて貴文は首を傾げた。ごくごく普通のベータ家庭に生まれ育った貴文にとって、お礼参りと言えばヤンキーが卒業式の後に学校の先生に突撃するアレである。が、由緒正しき名家名門一之瀬家に生まれ育ったアルファの義隆の言う『お礼参り』とは、言葉の意味そのままに正しき意味を持つ。
つまり、願いがかなったので神社に報告と感謝を伝えに行く。ということだ。
「ほへぇ」
そんなこと初めて知った貴文は、ただただ頷くしかない。本気で自分はおバカさんなのだと実感してしまう。社会人としてどーなのよ?的な事だ。
「予約を入れてありますので、このまま本殿に入ります」
秘書の田中にしれっと言われ貴文はまたもや黙って頷いた。
車が止まり、田中が先におりたので、貴文は義隆に手を引かれて降りた。確かに周りには黒塗りの車が数台止まっていて、黒いスーツのガタイのいい男の人が数名立っていた。明らかにリーダーらしき人が先に歩き、その後を着いていく。本殿に上がると背もたれのない椅子が用意されており、そこに座った。
儀式が一通り終わると、またもや護衛らしき人たちに囲まれて車に移動した。車の向こうの方にカメラが数台見えた。
「貴文さん、足元に気をつけて下さいね」
義隆に気を使われながら車に乗りこんだ。
「ご自宅までお送りします。本日何かご予定はありましたか?」
「特にないです」
貴文はそう返事をしてふと隣に座る義隆の顔を見た。歩いている時からずっと手を握りしめられていて、未だに離してくれないのだ。
「義隆くん?」
貴文が覗き込むようにして声をかけると、義隆は一瞬驚いたような顔をした。
(やっぱり緊張してたのかな?)
いい加減腕が疲れてきたので離して欲しいのだが、こんな顔を見てしまうとこのままでいいかと思ってしまうのだ。
「あの、ですね」
義隆が、ぎこちなく口を開いた。
「ゆっくり出来なくて申し訳ありません」
唐突に謝罪を口にされたので、貴文は驚いた。神社でゆっくり出来なかったことだろうか?秘書の田中が予約した。と言っていたのだから、それは仕方の無いことなのではないだろうか?きっと発表を見てお礼参りの予約を入れた人は他にもいるのだろうから。
「別に全然、大丈夫。大丈夫だから」
そう返事をしながら、貴文はふと自分の顔に違和感を感じた。空いている方の手で確認すれば、マスクをつけたままだった。道理で喋りにくいし息苦しいわけだ。貴文はそう思って片手で器用にマスクを外すことにした。右と左と、耳にかかったゴム紐を外す。
「今年は色々……たから、来年は、……ぃの出雲大社に行きませんか?」
「え?本当に?」
貴文は外したマスクを握りしめ、義隆に聞き返した。
「はい。貴文さんは他の場所がいいですか?」
義隆に問われ、貴文はすぐさま否定した。
「そんなことない。一度行ってみたかったんだ。本当に?本当に連れてってくれるの?」
食い気味に話す貴文を見て、義隆は嬉しそうにへんじをする。
「一度だなんて、気に入っていただけたのなら毎年。そうです。毎年行きましょう」
「まじで?すっげー嬉しい。ありがとう。義隆くん」
貴文は満面の笑みを浮かべ義隆と繋いでいた手を握りしめた。その手の上に義隆も手を重ねる。
「はい。お約束します」
二人のそのやり取りを、秘書の田中は黙って見ているのだった。
「お礼参りをしたいんです」
義隆に言われて貴文は首を傾げた。ごくごく普通のベータ家庭に生まれ育った貴文にとって、お礼参りと言えばヤンキーが卒業式の後に学校の先生に突撃するアレである。が、由緒正しき名家名門一之瀬家に生まれ育ったアルファの義隆の言う『お礼参り』とは、言葉の意味そのままに正しき意味を持つ。
つまり、願いがかなったので神社に報告と感謝を伝えに行く。ということだ。
「ほへぇ」
そんなこと初めて知った貴文は、ただただ頷くしかない。本気で自分はおバカさんなのだと実感してしまう。社会人としてどーなのよ?的な事だ。
「予約を入れてありますので、このまま本殿に入ります」
秘書の田中にしれっと言われ貴文はまたもや黙って頷いた。
車が止まり、田中が先におりたので、貴文は義隆に手を引かれて降りた。確かに周りには黒塗りの車が数台止まっていて、黒いスーツのガタイのいい男の人が数名立っていた。明らかにリーダーらしき人が先に歩き、その後を着いていく。本殿に上がると背もたれのない椅子が用意されており、そこに座った。
儀式が一通り終わると、またもや護衛らしき人たちに囲まれて車に移動した。車の向こうの方にカメラが数台見えた。
「貴文さん、足元に気をつけて下さいね」
義隆に気を使われながら車に乗りこんだ。
「ご自宅までお送りします。本日何かご予定はありましたか?」
「特にないです」
貴文はそう返事をしてふと隣に座る義隆の顔を見た。歩いている時からずっと手を握りしめられていて、未だに離してくれないのだ。
「義隆くん?」
貴文が覗き込むようにして声をかけると、義隆は一瞬驚いたような顔をした。
(やっぱり緊張してたのかな?)
いい加減腕が疲れてきたので離して欲しいのだが、こんな顔を見てしまうとこのままでいいかと思ってしまうのだ。
「あの、ですね」
義隆が、ぎこちなく口を開いた。
「ゆっくり出来なくて申し訳ありません」
唐突に謝罪を口にされたので、貴文は驚いた。神社でゆっくり出来なかったことだろうか?秘書の田中が予約した。と言っていたのだから、それは仕方の無いことなのではないだろうか?きっと発表を見てお礼参りの予約を入れた人は他にもいるのだろうから。
「別に全然、大丈夫。大丈夫だから」
そう返事をしながら、貴文はふと自分の顔に違和感を感じた。空いている方の手で確認すれば、マスクをつけたままだった。道理で喋りにくいし息苦しいわけだ。貴文はそう思って片手で器用にマスクを外すことにした。右と左と、耳にかかったゴム紐を外す。
「今年は色々……たから、来年は、……ぃの出雲大社に行きませんか?」
「え?本当に?」
貴文は外したマスクを握りしめ、義隆に聞き返した。
「はい。貴文さんは他の場所がいいですか?」
義隆に問われ、貴文はすぐさま否定した。
「そんなことない。一度行ってみたかったんだ。本当に?本当に連れてってくれるの?」
食い気味に話す貴文を見て、義隆は嬉しそうにへんじをする。
「一度だなんて、気に入っていただけたのなら毎年。そうです。毎年行きましょう」
「まじで?すっげー嬉しい。ありがとう。義隆くん」
貴文は満面の笑みを浮かべ義隆と繋いでいた手を握りしめた。その手の上に義隆も手を重ねる。
「はい。お約束します」
二人のそのやり取りを、秘書の田中は黙って見ているのだった。
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