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53.報道規制は我が姉にも強いてください
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「ほらほらほら、CM開けたら受験のニュースだってよ、貴文」
夕方、自宅に戻りソファーの上でダラダラしている貴文に、姉が嬉しそうに言ってきた。もちろん、父親と母親も一緒になってテレビを見ている。最初にこの報道に気がついたのは母親だった。ゆっくりお茶をしながら今週の総まとめをしているワイドショーを見ていたら、そこになんと、息子の姿が映し出されたからだ。
きっと夕方のニュースでもか取り上げられるはずだと、可能な限り夕方のニュース番組を録画予約して今に至る。
「なんの事?」
部屋着兼パジャマのスエット上下を着ている貴文は、頭だけをテレビの方へと向けた。
『本日は大学入試の一日目、どこの会場にも受験生を応援する保護者の姿が見られました』
冷静な声でニュースを読むアナウンサーが映し出され、それから試験会場の大学の映像へと切り替わった。
『こちらの大学には、あの名家一之瀬家の義隆様が受験されると聞いて大勢の報道陣が詰めかけています。なんと一之瀬義隆様は一般入試を受けられているのです』
テレビには今日見た大学の風景が映し出され、試験が終わりゾロゾロと会場から出てくる受験生の姿が映し出された。
『一之瀬義隆様が出てきました。手応えがあったのでしょうか?微笑まれております』
カメラがズームして義隆の顔を大きく映し、テロップには『一之瀬義隆(18)』と書かれていた。ゆっくりと歩く義隆を、カメラが追いかける。門を出るのを待ち構えているレポーターがマイクを持って義隆に近づこうと身構えているのがよくわかった。
が、リポーターが義隆に駆け寄るより早く、義隆が走り出し誰かの元へと向かってしまった。そして、そこまで見てしまい、貴文はガバッと起き上がった。
「んぎゃあぁぁぁぁぁぁ」
ソファーから転げるように降り、そのままバタバタとテレビに向かう、そして、
「お、お、俺が映ってるぅ」
テレビにははにかむ様に笑う貴文を、抱きしめる義隆の姿がアップで映し出されていた。当たり前だがそんな姿を家族に見られるなんて恥ずかしい以外の感情など生まれるはずがない。
「貴文、うるさいわよ。それ、全国放送だから」
冷ややかな姉の声がリビングに響き渡った。貴文は首をゆっくりと動かし姉の方を見る。もちろん、そこには父親と母親の顔もあった。
『なんと、一之瀬義隆様の番様です。番様が応援にいらしていた模様です』
興奮したレポーターの声が聞こえてきた。
「番様?」
貴文の目がさまよった。
「そうなのよ。大問題よ貴文」
母親が不安そうな顔で貴文を見た。いや、父親の顔も若干青ざめている。
「番様って、俺ベータだよ」
アルファと番になれるのはオメガだ。貴文は保険証にも記載されているとおりベータである。つまり番にはなれない。
「そう、それ」
姉がパンっと、気持ちよく手を鳴らした。
「事実ではないけれど、こうして全国放送で貴文が一之瀬義隆様の番だと言われてしまった。これは一之瀬家が報道規制を敷いてないからだと思われるのよ。まぁ、会社へは送り迎えしてもらってるから大丈夫だと思うけど、問題はうなじよ」
そう言って姉は貴文の首根っこを掴んだ。着古したスエットであるから首周りはヨレヨレだ。
「番になっているのなら、ここに噛み跡がないといけないの。でも貴文はベータだからつくわけが無い」
「そりゃそうだ」
父親が頷いた。
「でも報道されてしまった。ではどうすればいいのか……答えはひとつ。貴文、あんた明日からハイネックのシャツしか着ちゃダメよ」
姉の出した答えに母親が頷いた。
「そうよねぇ、こればっかりはどうにもならないもの。ネックガードなんか今更買えないし、ご近所の手前もあるからうなじを隠すしかないわよねぇ」
母親は困ったわねぇと、頬に手を当てて考え込んだ。
「貴文、お前そんな服持ってるのか?」
父親に聞かれ、貴文は首を左右に振った。
「しゃーない。明日私が量販店で買ってくるわ。だから貴文、あんたは明日……明日も行くの?」
家族の目線が一斉にテレビに向いた。
「いか……行けるわけ、ない」
貴文の答えは考えるまでもなかった。テレビからは興奮した感じのアナウンサーの声が聞こえてきて、『明日もいらっしゃるんでしょうか?楽しみですね』と締めくくっていた。
「楽しまれてんの?俺……」
貴文はガックリと項垂れたのであった。
「ほらほらほら、CM開けたら受験のニュースだってよ、貴文」
夕方、自宅に戻りソファーの上でダラダラしている貴文に、姉が嬉しそうに言ってきた。もちろん、父親と母親も一緒になってテレビを見ている。最初にこの報道に気がついたのは母親だった。ゆっくりお茶をしながら今週の総まとめをしているワイドショーを見ていたら、そこになんと、息子の姿が映し出されたからだ。
きっと夕方のニュースでもか取り上げられるはずだと、可能な限り夕方のニュース番組を録画予約して今に至る。
「なんの事?」
部屋着兼パジャマのスエット上下を着ている貴文は、頭だけをテレビの方へと向けた。
『本日は大学入試の一日目、どこの会場にも受験生を応援する保護者の姿が見られました』
冷静な声でニュースを読むアナウンサーが映し出され、それから試験会場の大学の映像へと切り替わった。
『こちらの大学には、あの名家一之瀬家の義隆様が受験されると聞いて大勢の報道陣が詰めかけています。なんと一之瀬義隆様は一般入試を受けられているのです』
テレビには今日見た大学の風景が映し出され、試験が終わりゾロゾロと会場から出てくる受験生の姿が映し出された。
『一之瀬義隆様が出てきました。手応えがあったのでしょうか?微笑まれております』
カメラがズームして義隆の顔を大きく映し、テロップには『一之瀬義隆(18)』と書かれていた。ゆっくりと歩く義隆を、カメラが追いかける。門を出るのを待ち構えているレポーターがマイクを持って義隆に近づこうと身構えているのがよくわかった。
が、リポーターが義隆に駆け寄るより早く、義隆が走り出し誰かの元へと向かってしまった。そして、そこまで見てしまい、貴文はガバッと起き上がった。
「んぎゃあぁぁぁぁぁぁ」
ソファーから転げるように降り、そのままバタバタとテレビに向かう、そして、
「お、お、俺が映ってるぅ」
テレビにははにかむ様に笑う貴文を、抱きしめる義隆の姿がアップで映し出されていた。当たり前だがそんな姿を家族に見られるなんて恥ずかしい以外の感情など生まれるはずがない。
「貴文、うるさいわよ。それ、全国放送だから」
冷ややかな姉の声がリビングに響き渡った。貴文は首をゆっくりと動かし姉の方を見る。もちろん、そこには父親と母親の顔もあった。
『なんと、一之瀬義隆様の番様です。番様が応援にいらしていた模様です』
興奮したレポーターの声が聞こえてきた。
「番様?」
貴文の目がさまよった。
「そうなのよ。大問題よ貴文」
母親が不安そうな顔で貴文を見た。いや、父親の顔も若干青ざめている。
「番様って、俺ベータだよ」
アルファと番になれるのはオメガだ。貴文は保険証にも記載されているとおりベータである。つまり番にはなれない。
「そう、それ」
姉がパンっと、気持ちよく手を鳴らした。
「事実ではないけれど、こうして全国放送で貴文が一之瀬義隆様の番だと言われてしまった。これは一之瀬家が報道規制を敷いてないからだと思われるのよ。まぁ、会社へは送り迎えしてもらってるから大丈夫だと思うけど、問題はうなじよ」
そう言って姉は貴文の首根っこを掴んだ。着古したスエットであるから首周りはヨレヨレだ。
「番になっているのなら、ここに噛み跡がないといけないの。でも貴文はベータだからつくわけが無い」
「そりゃそうだ」
父親が頷いた。
「でも報道されてしまった。ではどうすればいいのか……答えはひとつ。貴文、あんた明日からハイネックのシャツしか着ちゃダメよ」
姉の出した答えに母親が頷いた。
「そうよねぇ、こればっかりはどうにもならないもの。ネックガードなんか今更買えないし、ご近所の手前もあるからうなじを隠すしかないわよねぇ」
母親は困ったわねぇと、頬に手を当てて考え込んだ。
「貴文、お前そんな服持ってるのか?」
父親に聞かれ、貴文は首を左右に振った。
「しゃーない。明日私が量販店で買ってくるわ。だから貴文、あんたは明日……明日も行くの?」
家族の目線が一斉にテレビに向いた。
「いか……行けるわけ、ない」
貴文の答えは考えるまでもなかった。テレビからは興奮した感じのアナウンサーの声が聞こえてきて、『明日もいらっしゃるんでしょうか?楽しみですね』と締めくくっていた。
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貴文はガックリと項垂れたのであった。
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