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45.ちょっとした言い間違いなんです
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「拭きますね」
義隆は新しいタオルで貴文の腰のあたりからゆっくりと拭き始めた。特に貴文にばれてはいけないのは、尻の汚れだ。あまり腰を持ちあげるわけにはいかないので、田中と逆方向に貴文の体を向かせた。そうして自分の体で貴文の尻を隠したのだ。
「え、あ、はいっ」
この年になって尻を丸出しにされるとは思ってもいなかった貴文の声は裏返っていた。だが、義隆にはそんなことを気にする余裕などない。いかに手早く丁寧に貴文の尻を綺麗にするかに神経を集中させているからだ。とにかく雑念を捨てなくてはならないのだ。
(だ、駄目だ。口呼吸だと口の中で貴文さんのフェロモンを味わってしまう)
貴文本人はまったく自覚はしていないが、発情期のオメガは全身からフェロモンを発していると言ってもいい。全身の毛穴から、汗と共に分泌されているのだ。そして、わずかながらだが、貴文の尻は胎内からの分泌液で濡れていた。つまりそれこそが最もアルファを誘う匂いなのである。それを口いっぱいに吸い込んでしまっては、若く免疫のない義隆にとってはとんでもない爆薬だった。まして、一目惚れをした相手である。義隆のアルファがその匂いを最も好ましいと記憶してしまったのだ。
「熱くないですか?」
ぎこちなくないように口に出してみたが、どこか機械的な発音になってしまった。だが、貴文の柔らかい尻タブを広げてその奥までをタオルで拭いたのだ。義隆の手が若干震えてしまったとしても誰も文句は言えないだろう。
だが、唯一何かを言ってもいい人物はいる。
「ひゃ、ひゃあっ。だ、だめ、そこは自分でぇ……」
貴文は横を向いた体勢のままなんとか体を捻って義隆を見た。
(だ、駄目だ。顔面偏差値が高すぎる)
一度義隆の顔を見て、唾を飲み込んでから貴文は言った。
「そんなところ優しくされたらムラムラしちゃう……」
そこまで言って貴文の顔が赤くなった。いや、耳まで赤かった。
「ち、ちがぁうっ、違うから、違わないけど、いや、違う」
義隆の手からタオルを奪い取り、布団の中に貴文はもぐりこんだ。
「自分でする。自分でするからぁ」
貴文にそんなことを言われては、素直に引き下がるしかない。
「貴文さん。新しい下着とパジャマの下はここに置いておきますから」
そう言い残して義隆は寝室を後にした。
ズンズンといった感じでリビングに向かい、そうしてたどり着くなりソファーに身を任せる義隆は、だいぶ興奮していた。
「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁああ」
アルファらしからぬ奇声をあげてマスクを外し、鼻から黄色い耳栓を取り外す。そのままゴミ箱に投げ込んだ。普段ならやらないが、今はとにかく何かに当たりたい気分なのだ。たとえそれが小さな耳栓であっても、だ。
「頑張りましたね義隆様」
ねぎらいの言葉を口にしながら田中が出してきたのはコーヒーだった。しかもかなり香りが強いものだ。
「口の中が貴文さんの匂いでいっぱいになられましたよね?」
「ああ」
「仕方のないことです。舌には味蕾という組織がありますからね。オメガのフェロモンは一般的に言われるように甘いんです。つまり、味覚でいうところの甘味として認識されてしまうのですよ」
「で?なんでコーヒーを?」
義隆からすれば、ものすごく邪魔な香りに過ぎなかった。
「いつまでも味わっていらしたらおかしいでしょう」
さあ飲め。と言わんばかりに田中は義隆に無理やりカップを持たせた。そして、義隆の傍らに置かれたかごをとった。
「あ」
義隆が奪い返そうとしたが、手にはアツアツのコーヒーの入ったカップがある。
「こちらはすべて備え付けの洗濯機で洗わせていただきます」
非情なことを無常な顔をして宣言する田中なのであった。
「拭きますね」
義隆は新しいタオルで貴文の腰のあたりからゆっくりと拭き始めた。特に貴文にばれてはいけないのは、尻の汚れだ。あまり腰を持ちあげるわけにはいかないので、田中と逆方向に貴文の体を向かせた。そうして自分の体で貴文の尻を隠したのだ。
「え、あ、はいっ」
この年になって尻を丸出しにされるとは思ってもいなかった貴文の声は裏返っていた。だが、義隆にはそんなことを気にする余裕などない。いかに手早く丁寧に貴文の尻を綺麗にするかに神経を集中させているからだ。とにかく雑念を捨てなくてはならないのだ。
(だ、駄目だ。口呼吸だと口の中で貴文さんのフェロモンを味わってしまう)
貴文本人はまったく自覚はしていないが、発情期のオメガは全身からフェロモンを発していると言ってもいい。全身の毛穴から、汗と共に分泌されているのだ。そして、わずかながらだが、貴文の尻は胎内からの分泌液で濡れていた。つまりそれこそが最もアルファを誘う匂いなのである。それを口いっぱいに吸い込んでしまっては、若く免疫のない義隆にとってはとんでもない爆薬だった。まして、一目惚れをした相手である。義隆のアルファがその匂いを最も好ましいと記憶してしまったのだ。
「熱くないですか?」
ぎこちなくないように口に出してみたが、どこか機械的な発音になってしまった。だが、貴文の柔らかい尻タブを広げてその奥までをタオルで拭いたのだ。義隆の手が若干震えてしまったとしても誰も文句は言えないだろう。
だが、唯一何かを言ってもいい人物はいる。
「ひゃ、ひゃあっ。だ、だめ、そこは自分でぇ……」
貴文は横を向いた体勢のままなんとか体を捻って義隆を見た。
(だ、駄目だ。顔面偏差値が高すぎる)
一度義隆の顔を見て、唾を飲み込んでから貴文は言った。
「そんなところ優しくされたらムラムラしちゃう……」
そこまで言って貴文の顔が赤くなった。いや、耳まで赤かった。
「ち、ちがぁうっ、違うから、違わないけど、いや、違う」
義隆の手からタオルを奪い取り、布団の中に貴文はもぐりこんだ。
「自分でする。自分でするからぁ」
貴文にそんなことを言われては、素直に引き下がるしかない。
「貴文さん。新しい下着とパジャマの下はここに置いておきますから」
そう言い残して義隆は寝室を後にした。
ズンズンといった感じでリビングに向かい、そうしてたどり着くなりソファーに身を任せる義隆は、だいぶ興奮していた。
「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁああ」
アルファらしからぬ奇声をあげてマスクを外し、鼻から黄色い耳栓を取り外す。そのままゴミ箱に投げ込んだ。普段ならやらないが、今はとにかく何かに当たりたい気分なのだ。たとえそれが小さな耳栓であっても、だ。
「頑張りましたね義隆様」
ねぎらいの言葉を口にしながら田中が出してきたのはコーヒーだった。しかもかなり香りが強いものだ。
「口の中が貴文さんの匂いでいっぱいになられましたよね?」
「ああ」
「仕方のないことです。舌には味蕾という組織がありますからね。オメガのフェロモンは一般的に言われるように甘いんです。つまり、味覚でいうところの甘味として認識されてしまうのですよ」
「で?なんでコーヒーを?」
義隆からすれば、ものすごく邪魔な香りに過ぎなかった。
「いつまでも味わっていらしたらおかしいでしょう」
さあ飲め。と言わんばかりに田中は義隆に無理やりカップを持たせた。そして、義隆の傍らに置かれたかごをとった。
「あ」
義隆が奪い返そうとしたが、手にはアツアツのコーヒーの入ったカップがある。
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非情なことを無常な顔をして宣言する田中なのであった。
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