38 / 66
38.自称平凡ベータです
しおりを挟む
38
「どっからどう見たっておじさんじゃん」
フォークの先のケーキから、目線をそちらに移動させると、唇を真一文字に引き結んだ男の子?が立っていた。
「はぁ、まぁ」
なんとも歯切れの悪い言葉しか出てこなかった。確かに貴文は彼から見たら立派なおじさんである。目の前にいる彼は、多分高校生ぐらいだろう。
「来年高校を卒業したら義隆様とお見合いをするのは僕だったのにっ」
悔しそうにそんなことを言われれば、それは確かに申し訳ない気持ちになってくる。着ているものは、貴文と同じようにタキシードであった。そして襟元を注意してよく見れば、肌の色に近いネックガードが巻かれていた。だから彼はきっとオメガで、一之瀬本家の跡取り息子の番候補なのだろう。
「ああ、うん。受験勉強の息抜きだって言ってたよ?」
正確にそう言っていたわけではないけれど、おおむねそんなところであっているだろう。貴文はそういって、さっきっから目の前でお預けをされているフォークの先にあるものを口に入れた。よくぞ重力に負けないでいてくれた。とねぎらいの気持ちは忘れない。
(うん、おいしい。さすがは一流ホテルのクオリティ)
口の中に広がるのは素晴らしい世界だった。みずみずしいシャインマスカットの果汁と甘みを抑えた生クリームに、きめの細やかなスポンジ。口の中でゆっくりと反芻をすれば、きちんと交じり合って最高の味わいになった。
貴文がもう一口味わおうとフォークを伸ばすと、なぜかその手を止められた。
「ちょちょちょちょっと」
がっしりとつかまれたので、仕方がなく相手の顔を見た。
「えっと、まだなんかあった?」
貴文にとっては千載一遇の大チャンスなのである。こんなにおいしいケーキ、次はもう来ないかもしれないのだ。なにしろ平凡なベータ家庭に生まれ育ったのだ、一つ上の姉は結婚しそうにもないし、地味婚というか会費制の結婚式が多すぎて、そこまで豪華な食事の出る披露宴に参加したことなどないのだ。もちろん、部屋で食べたサンドイッチもおいしかった。軽食はあちらの縦長のコック棒をかぶった人が立っているあたりのようなので、ケーキを食べ終わったら行ってみようと考える貴文なのであった。
「なんかって、なんかって、なんで僕を無視するんだよぉ」
アルコールは出ていないはずなのに、なんとも情緒不安定なものだ。もしかすると発情期が近いのかもしれない。
「君大丈夫?お腹が空いてるの?それとも疲れちゃった?」
床に座り込み半べそをかいているおそらくオメガの子に声をかける。
(俺ベータだから触っても大丈夫だよな?)
恐る恐る手を伸ばし、背中をさすってやる。
「そうじゃないでしょお、僕嫌味を言ってやったのにぃ」
ぽろぽろと涙を流すあたり、本当はいい子なのだろう。
「うんうん、頑張ったんだねぇ」
そう言って頭を撫でて、口の中にブッシュドノエルのチョコクリームの部分だけを入れてやった。
「うん、もぉ。甘いぃ」
文句を言いながらも飲み込んで、口を開けてきた。催促なのだと解釈して貴文はスポンジも合わせてフォークに乗せ、口の中に入れてやった。
「もおおぉ。韮崎の作るケーキはおいしいんだから、残したら承知しないんだからね」
よくわからない捨て台詞を残して去って行ってしまった。
注目を浴びたようで、あまりそんなでもなかったことに安堵した貴文は、椅子に座り直し続きを食べようとした。
「少しは俺のことも見てください。貴文さん」
今度は眉尻を下げ、困ったような顔をした義隆が目の前に座っていたのだった。
「どっからどう見たっておじさんじゃん」
フォークの先のケーキから、目線をそちらに移動させると、唇を真一文字に引き結んだ男の子?が立っていた。
「はぁ、まぁ」
なんとも歯切れの悪い言葉しか出てこなかった。確かに貴文は彼から見たら立派なおじさんである。目の前にいる彼は、多分高校生ぐらいだろう。
「来年高校を卒業したら義隆様とお見合いをするのは僕だったのにっ」
悔しそうにそんなことを言われれば、それは確かに申し訳ない気持ちになってくる。着ているものは、貴文と同じようにタキシードであった。そして襟元を注意してよく見れば、肌の色に近いネックガードが巻かれていた。だから彼はきっとオメガで、一之瀬本家の跡取り息子の番候補なのだろう。
「ああ、うん。受験勉強の息抜きだって言ってたよ?」
正確にそう言っていたわけではないけれど、おおむねそんなところであっているだろう。貴文はそういって、さっきっから目の前でお預けをされているフォークの先にあるものを口に入れた。よくぞ重力に負けないでいてくれた。とねぎらいの気持ちは忘れない。
(うん、おいしい。さすがは一流ホテルのクオリティ)
口の中に広がるのは素晴らしい世界だった。みずみずしいシャインマスカットの果汁と甘みを抑えた生クリームに、きめの細やかなスポンジ。口の中でゆっくりと反芻をすれば、きちんと交じり合って最高の味わいになった。
貴文がもう一口味わおうとフォークを伸ばすと、なぜかその手を止められた。
「ちょちょちょちょっと」
がっしりとつかまれたので、仕方がなく相手の顔を見た。
「えっと、まだなんかあった?」
貴文にとっては千載一遇の大チャンスなのである。こんなにおいしいケーキ、次はもう来ないかもしれないのだ。なにしろ平凡なベータ家庭に生まれ育ったのだ、一つ上の姉は結婚しそうにもないし、地味婚というか会費制の結婚式が多すぎて、そこまで豪華な食事の出る披露宴に参加したことなどないのだ。もちろん、部屋で食べたサンドイッチもおいしかった。軽食はあちらの縦長のコック棒をかぶった人が立っているあたりのようなので、ケーキを食べ終わったら行ってみようと考える貴文なのであった。
「なんかって、なんかって、なんで僕を無視するんだよぉ」
アルコールは出ていないはずなのに、なんとも情緒不安定なものだ。もしかすると発情期が近いのかもしれない。
「君大丈夫?お腹が空いてるの?それとも疲れちゃった?」
床に座り込み半べそをかいているおそらくオメガの子に声をかける。
(俺ベータだから触っても大丈夫だよな?)
恐る恐る手を伸ばし、背中をさすってやる。
「そうじゃないでしょお、僕嫌味を言ってやったのにぃ」
ぽろぽろと涙を流すあたり、本当はいい子なのだろう。
「うんうん、頑張ったんだねぇ」
そう言って頭を撫でて、口の中にブッシュドノエルのチョコクリームの部分だけを入れてやった。
「うん、もぉ。甘いぃ」
文句を言いながらも飲み込んで、口を開けてきた。催促なのだと解釈して貴文はスポンジも合わせてフォークに乗せ、口の中に入れてやった。
「もおおぉ。韮崎の作るケーキはおいしいんだから、残したら承知しないんだからね」
よくわからない捨て台詞を残して去って行ってしまった。
注目を浴びたようで、あまりそんなでもなかったことに安堵した貴文は、椅子に座り直し続きを食べようとした。
「少しは俺のことも見てください。貴文さん」
今度は眉尻を下げ、困ったような顔をした義隆が目の前に座っていたのだった。
25
お気に入りに追加
329
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。


学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる