【オメガバース】替えのパンツは3日分です

久乃り

文字の大きさ
上 下
35 / 66

35.分かっちゃいるけど疲れはたまる

しおりを挟む
35
「ああ、どうしよう」

 貴文は目が覚めて愕然とした。スマホの目覚ましアラームに気が付かなくて、たった今義隆から届いたメッセージの着信音で目が覚めたのだ。年末進行で仕事が押せ押せなので、普段より疲れてはいた。だが、帰りの車でマッサージを受けているから体が軽くなって失念していたが、体はしっかり疲れていたらしい。

「とりあえず顔を洗おう」

 ベッドから飛び降りて階段を一気に駆け下りた。

「貴文、朝からうるさいわよ」

 背中から追いかけるように姉の声がした。だが、かまっている場合ではない。義隆のメッセージだと、あと一時間もしないうちに迎えに来てしまう。

「うわ、水冷たっ」

 慌てていたからそのまま蛇口をひねって水を思いっきり顔にかけてしまった。もちろん洗顔フォームなんて使わない。アラサー独身ベータ男子何て所詮こんなものなのだ。だから彼女ができないのだと言われればそれまでなのだが、それでも顔を洗っているのだからそのあたりは褒めてほしいところだ。

「なあに、貴文。そんなに慌てて」

 タオルで顔を拭いた後、今度は歯磨きを始めた貴文を、母親が不思議そうに見てきた。

「ひゃいへん、時間……がにゃい」

 何とか口の中を爽やかなミントの香りにすると、ブラシで適当に髪を撫でつけた。

「なあに?出かけるの?」

 コーヒーを飲んでいたらしい母親は、マグカップを持ったまま洗面所にやってきた。

「うん。そう。迎えが来るんだ」

 寝癖がないか確認をしながら貴文は答えた。

「迎えって、あんた、まさか?」

 母親の目が見開かれた。もはや杉山家において貴文の迎えと言えば、なのだ。

「うん、そう。クリスマス会に誘われててさ」

 クリスマス会なんてかわいらしい言い方ではあるが、あの一之瀬家の催しである。昼から開催されるのは子どもの部で、夕方あたりから大人が参加し始めアルコールも提供される大人の部になるらしい。一応18時を境に未成年は退出させられるらしい。貴文は義隆に招待されるため、昼からの子どもの部に参加となる。アルコールが飲めないのは致し方がないが、一之瀬家のパーティーなので、食事に期待したいところだ。

「クリスマス会って、あんた、手ぶら?」

 貴文を頭から足元まで見て母親はため息交じりに聞いてきた。

「何も持って行かないよ。てか、逆に何を持っていくんだよ。ホテルの一室を使って開催されるっていうのに、持ち込みなんかできるわけないじゃないか」

 貴文がそんな風に言い返していると、二階から姉の慌てた声が響いた。

「貴文、車っ、車が来たわよっ」

 姉の部屋から通りを走る車が見えたらしい。もはや毎日見ているから、車種もナンバーも覚えてしまった。

「うそっ、早いよ。俺まだパジャマ」

 冬用寝巻のトレーナー上下を着たままの貴文は狼狽えたが、もはやどうにもならなかった。無情にもインターホンが鳴ってしまったのだ。父親が対応しているうちに手早くトイレを済ませ、スマホを片手に玄関に顔を出した。

「ごめん。寝坊した」

 グレーの無地のトレーナー上下姿の貴文を見て、義隆は少し驚いた顔をした。

「だ、大丈夫です。着替えは用意してありますから」

 相当衝撃的だったのか、義隆は貴文の手を無言でつないで車まで案内した。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

嘘つき純愛アルファはヤンデレ敵アルファが好き過ぎる

カギカッコ「」
BL
さらっと思い付いた短編です。タイトル通り。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...