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28.こんな平凡ですけど?
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「あんたに一目惚れしたんですって」
人は、衝撃の度合いが強すぎると、意識がどこかに飛ぶらしい。
「ねえ、聞いてんの?」
姉に揺さぶられて貴文はハッとした。
「聞いた、けど……冗談」
「ではないのっ」
姉が遮るように言ってきた。もちろん肩を掴まれたままだから、貴文の体は揺れていた。
「あんたに一目惚れしたんだって、そんでその瞬間アルファのフェロモンを放ってしまったんですって。だからあんたが倒れてしまったんだそうよ」
姉の指先に力が入り、地味に貴文の肩に食い込んできた。
「うっそーん」
貴文の口から出てきたのは、なんとも情けない言葉だった。と、いうより、今この瞬間、語彙力なんて死んでいた。むしろ、生きて活躍させられるベータがいるのなら見てみたいものだ。
「ガチよ」
姉は静かにそう言った。真一文字に結ばれた唇を見れば分かる。ふざけていい話題では無い。だが、どうしてこれを真面目に受け取れるのだろうか。
(無理。絶対無理)
声に出してははばかられるため、貴文はこころの内で盛大に叫んだ。もちろんその叫びが姉に聞こえるはずもない。
結果的に黙り込んだ貴文を見て、姉が顔を覗き込んできた。
「大丈夫?しっかりしなさい。話にはまだ続きがあるんだから」
この上追い打ちをかけるつもりらしい。
「一之瀬の名前とか、アルファの権力とかそういうことは使わないで全力であんたを口説き落とすつもりなんだって」
それを聞いた瞬間、貴文の中でなにかのスイッチが切れた。
「あんたがベータだって、もちろん伝えたわよ。でもね、惚れてしまったのでどうしようもないんだって言ってたわ。だからね、悪いんだけど私たち家族は見守ることしか出来ないんだよね。だからさぁ、まぁ、頑張ってよ」
姉はそう締めくくり貴文の肩を優しく叩いた。おそらく其れは労いなのだろう。
「どうやって口説くのかな?って思ってはいたんだけど、まさか送迎するとは思わなかったわよ」
おそらく家族は邪魔をしないことを約束したのだろう。
「ズルはしたくないからって、あんたの携番も聞いてこなかったのよね。ようやく連絡先交換されちゃったかぁこれは毎朝毎晩連絡が来るわね」
「え?毎朝?」
貴文は驚いた。それはそうだ。毎朝って、毎朝迎えに来るのに連絡も来るというのか?
「だって、お迎えに来るんだもん。寝坊したら迷惑だし、風邪ひいて休むとか、そんなこともあるかもしれないでしょう?」
姉はキッチンでカレーが入っているであろう鍋を火にかけた。
「ご飯は後10分ぐらいで炊けるから、一度部屋に戻ってきなさい」
姉に言われて部屋に戻り、ベッドに腰掛けてスマホのメッセージを改めて見た。他愛のない挨拶と、メッセージがちゃんと届いたのかの確認だった。だから貴文も当たり障りのない返事をして、夕飯は多分姉の作ったカレーであることを描いてみた。
「やっぱり名家だど夕飯にカレーとか出ないんだろうな」
そう呟いて部屋着のポケットにスマホを入れて下に降りる。キッチンを見れば姉がカレーを盛り付けていた。
「運んでよ」
「へいへーい」
適当な返事をしてカレーをテーブルに並べ、母親が作って置いたらしいポテトサラダを冷蔵庫から出した。
「福神漬け……」
「ああ、こっちよ」
貴文のつぶやきが聞こえたらしい。姉が袋から福神漬けを出していた。
「いっただきまー」
姉が手を合わせてスプーンをカレーに差し込もうとした時、貴文がスマホのシャッターをきった。
「何してんの?」
姉が手を止めて聞いてきた。
「ん?うちのカレーを見たいって言うから」
貴文はそう言ってスマホを操作する。
「って、あんた、その相手って、いや、まさか、ちょっと」
慌てた姉が貴文のスマホに手を伸ばしたが、もう遅い。
「送信してんじゃないわよ。あんた馬鹿じゃないのー」
姉の絶叫が響き渡ったのだった。
「あんたに一目惚れしたんですって」
人は、衝撃の度合いが強すぎると、意識がどこかに飛ぶらしい。
「ねえ、聞いてんの?」
姉に揺さぶられて貴文はハッとした。
「聞いた、けど……冗談」
「ではないのっ」
姉が遮るように言ってきた。もちろん肩を掴まれたままだから、貴文の体は揺れていた。
「あんたに一目惚れしたんだって、そんでその瞬間アルファのフェロモンを放ってしまったんですって。だからあんたが倒れてしまったんだそうよ」
姉の指先に力が入り、地味に貴文の肩に食い込んできた。
「うっそーん」
貴文の口から出てきたのは、なんとも情けない言葉だった。と、いうより、今この瞬間、語彙力なんて死んでいた。むしろ、生きて活躍させられるベータがいるのなら見てみたいものだ。
「ガチよ」
姉は静かにそう言った。真一文字に結ばれた唇を見れば分かる。ふざけていい話題では無い。だが、どうしてこれを真面目に受け取れるのだろうか。
(無理。絶対無理)
声に出してははばかられるため、貴文はこころの内で盛大に叫んだ。もちろんその叫びが姉に聞こえるはずもない。
結果的に黙り込んだ貴文を見て、姉が顔を覗き込んできた。
「大丈夫?しっかりしなさい。話にはまだ続きがあるんだから」
この上追い打ちをかけるつもりらしい。
「一之瀬の名前とか、アルファの権力とかそういうことは使わないで全力であんたを口説き落とすつもりなんだって」
それを聞いた瞬間、貴文の中でなにかのスイッチが切れた。
「あんたがベータだって、もちろん伝えたわよ。でもね、惚れてしまったのでどうしようもないんだって言ってたわ。だからね、悪いんだけど私たち家族は見守ることしか出来ないんだよね。だからさぁ、まぁ、頑張ってよ」
姉はそう締めくくり貴文の肩を優しく叩いた。おそらく其れは労いなのだろう。
「どうやって口説くのかな?って思ってはいたんだけど、まさか送迎するとは思わなかったわよ」
おそらく家族は邪魔をしないことを約束したのだろう。
「ズルはしたくないからって、あんたの携番も聞いてこなかったのよね。ようやく連絡先交換されちゃったかぁこれは毎朝毎晩連絡が来るわね」
「え?毎朝?」
貴文は驚いた。それはそうだ。毎朝って、毎朝迎えに来るのに連絡も来るというのか?
「だって、お迎えに来るんだもん。寝坊したら迷惑だし、風邪ひいて休むとか、そんなこともあるかもしれないでしょう?」
姉はキッチンでカレーが入っているであろう鍋を火にかけた。
「ご飯は後10分ぐらいで炊けるから、一度部屋に戻ってきなさい」
姉に言われて部屋に戻り、ベッドに腰掛けてスマホのメッセージを改めて見た。他愛のない挨拶と、メッセージがちゃんと届いたのかの確認だった。だから貴文も当たり障りのない返事をして、夕飯は多分姉の作ったカレーであることを描いてみた。
「やっぱり名家だど夕飯にカレーとか出ないんだろうな」
そう呟いて部屋着のポケットにスマホを入れて下に降りる。キッチンを見れば姉がカレーを盛り付けていた。
「運んでよ」
「へいへーい」
適当な返事をしてカレーをテーブルに並べ、母親が作って置いたらしいポテトサラダを冷蔵庫から出した。
「福神漬け……」
「ああ、こっちよ」
貴文のつぶやきが聞こえたらしい。姉が袋から福神漬けを出していた。
「いっただきまー」
姉が手を合わせてスプーンをカレーに差し込もうとした時、貴文がスマホのシャッターをきった。
「何してんの?」
姉が手を止めて聞いてきた。
「ん?うちのカレーを見たいって言うから」
貴文はそう言ってスマホを操作する。
「って、あんた、その相手って、いや、まさか、ちょっと」
慌てた姉が貴文のスマホに手を伸ばしたが、もう遅い。
「送信してんじゃないわよ。あんた馬鹿じゃないのー」
姉の絶叫が響き渡ったのだった。
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