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ヤリ逃げオメガ

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「父の忘れ物を届けに来ました」

 城の裏門で、受けは門番にそう告げた。
 裏門の門番なんて、下級貴族の息子が大半だから、結構顔パスで入れるものだ。 
 今日は3件隣の次男坊だった。

「気をつけてな」

 気さくに見送られ、受けは城の中に入っていく。
 年齢的に受けも官吏にでもならなくてはいけない年頃なのだが、試験を受ける前に検査をしたら、なんとオメガだ った。
 国の規則でオメガは働くことが出来ない。
 もちろん、色町なんて、論外だ。
 受けは首の周りにスカーフを巻いただけ頭から布を被って顔を隠すなんて、そんな暑苦しい格好は受けは嫌いだった。
 そもそも、髪を長くして、三つ編みにして首に巻くのだって暑苦しいのに。
 下級官吏の父の職場はしっている。
 受けはひょいひょいと廊下を歩いて行った。

「お届けものです」

 なんて言って、父の職場に顔を出せば、見知った顔が並んでいる。
 そこから父がひょっこり出てきて、受けの荷物を受け取りながら廊下の隅に隠れるように受けを立たせた。

「え?何?」

 驚く受けに父親は人差し指を唇に当ててくる。

「妹が隣国に行くのが早まった」

 受けにはベータの妹がいるのだが、困ったことに隣国から来ていた役人に見初められ、結婚してしまったのだ。しかも、相手の任期が終わってしまい、引き継ぎが済んでしまったらしい。
 通い婿を願っていた父は顔面蒼白だ国の指示で男なのに働けないオメガの受けは、通い婿を見つけないとお家取り潰しになってしまう。
だって働き手が居ない貴族の家なんて、金の無駄だ。

「お前城の中で相手を探しなさい」

 忘れ物なんて実はない。
 荷物の中は発情剤だった。
 バレたら一大事だけど、働くことが許されていないオメガは、意中の相手を通い婿にするために発情剤を当たり前に使っていた。
 既成事実ということで、つがってしまえばそれでいいのだ。
 オメガは必ずアルファを産むから。

「役職が上の方がアルファ率が高いからな」

 耳打ちする父親に頷く受け。

「着物の色で役職が違うことぐらい知っているな?」

 念を押されて受けはまた頷いた。
 さすがに上級官吏の着物の色ぐらいしっている。
 通い婿だから、既婚者でも問題は無い。
 受けはお手洗いに行くふりをして、様子を伺った。
 用足しをする間は誰もが無防備だ。着物の色を確認して、それからブツの確認をする。
 初めてだから、見た目優しい感じがいいと思ったのだ。明らかにアルファらしい凶暴なブツは怖くていただけない。
 そんな中、若くて優しそうな顔をした上級官吏がいたのでそれとなく隣に立った。
 チラとみれば、随分と綺麗な色をしている。
 受けはこいつに決めたと、さりげなく後ろを着いて行った。

「あれ?出口はどこだ?」

 わざとらしいセリフを口にした。

「どうしました?」

 目の前を歩く上級官吏の若者が、受けを気遣う。

「父の忘れ物を届けて、厠に寄ったんですが、帰り道が分からなくなりました」

 しれっと嘘をついてみたが、相手は疑わない。

「それはお困りですね」

 なんて言って受けの手を取る。
 手を繋いだ途端、電気が走ったみたいにしびれた。だが、相手は気づいていないようだ。
 どうやら静電気ではなく、相手のアルファ性が強いようだ。
 発情剤など使わなくても、受けの心臓はドキドキしてきてしまった。
 これはマズイ

「あ、あの、手を離し…」

 言葉が続かない。

「ひんっ」

 強烈な痛みがやってきて、受けは驚いた。
 どうしようもなく気持ちいいのと、下半身になんとも言い表せない違和感があるのだ。

「ああ、気がついたんだ」

 受けの背後から声がする。
 驚いて振り返るとそこにはあの優しそうな顔の上級官吏

「こんなところで済まない」

 謝られたから、受けも返事に困る。あなたをはめようとしたのは受けなのに、

「責任は取ります」

 そんなことを言いながらも、後ろからガンガン突かれる。初めてなのに、どうにも気持ちいい受けは、それでもこ こはどこだろうと確認した。
 どうやら書庫で、受けは粗末な机の上に腹ばいにされていた。
 着物の下をめくられて、尻だけ出して突かれているようだった。
 それでも気持ちいいのは、相手がアルファだからだろう。

 しかも、項を噛まれてしまっていた。
 一通りの行為が終わり、攻めが名前を聞いてきた。
 通い婿になってもらわないとだから、ここで名乗るのは宜しくない。

「ご、ごめんなさい」

 気の利いた言葉なんて浮かんでこなくて、受けは咄嗟に首に巻いていた布を相手に押し付けた。

「ではこれを」

 相手からなにかの布を渡されたが、確認もしないで頭から被って一目散に部屋を後にする。
 廊下ではなく庭に降りて裏門をめざし、門番に挨拶をしてさっさと家へと帰った。

「うわぁ」

 部屋で頭に被ってきた布を見て後悔した。
 そうとう身分が上なことが分かるぐらいの上等な布。
 しかも家紋らしきものが織り込まれていた。
 夜になり、父に聞かれた。

「もう、バッチリ」

 そう言って噛まれた項を見せた。
 3日後には隣国に行く妹と家族4人でお祝いをした。
 妹は隣国の役人と結婚したから、当然隣国の役人たちが帰国するとあって、城の官吏たちは忙しい。
 受けとつがってくれた攻めも、受けを探せないほど忙しいようだ。
 引き継ぎだの歓迎だので、城が騒がしい。

「俺が渡した布は、市場で沢山売られているからな」

 そうそう攻めに見つかることは無いとタカをくくって、受けはのほほんと過ごした。
 攻めに見つかることなく子どもが産まれ、安堵していると、受けの部屋に隠しておいた例の布を産婆が見つけてしまった。
 オメガの出産に必ず立ち会う産婆は、国の役人だ。
 産まれた子供を国に登録しなくてはならない。
 父親が分からなければ、産婆が代わりに探し出したりもする。
 そんなことをすっかり忘れていた受けは、産婆が注意深く自分の子どもを観察していたなんて思わなかった。
隠されていた布と、赤子の瞳の色を見て産婆は確信した。

「出生届は私目が致します」

 産婆は受けの母に頭を下げて出ていった。出仕する時に出すと言った父の手を断ってまでだ。
 出生届を出しさえすれば、受けの産んだ垢後は受けの家の子どもだ。
 これでお家取り潰しは免れた。
 どこからどう見ても赤子はアルファだ。

「こちらは受けの家で間違いないか」

 ある晩人が訪ねてきた。
 父が恐る恐る玄関を開けると、そこには美丈夫が立っていた。

「こちらの布を交わした仲です」

 父の顔そばに出されたのは、確かにあの日受けが渡した布だ。市場で沢山売られてはいるが。

「こちらです」

 父は仕方なく攻めを受けの部屋に案内した。
 母が父の様子を伺うが、父は首を振った。どうにもならない相手が来てしまったのだ。

「まったく、よくも逃げおおせてくれたものだ」

 攻めが受けの正面に座り言い放った。
 攻めはあの日よりももっと上等な着物を着ていた。

「で、でも、出生届を出したから、この子は俺の子だ」

「それは困る。受けにはこちらに来てもらいたい」

 予想通りのことを言われた。

「ダメだね。制度通りあんたは通い婿。2人目が産まれたらあんたのもんだ」

 受けがそう言うと、扉が開いて上級官吏が入ってきた。

「確かに聞きました」

「え?なにを?」

「あなたのお言葉を」

 驚きすぎて目が白黒している受けをよそに、話がまとまる。
 なんと攻めは上級官吏ではなくて、国王だった。
 受けと会った時はまだ王太子で、城がバタバタしていたのは譲位と結婚のためだったのだ。
 隣国の姫を妃に迎え、攻めは国王となっていた。

 だがしかし、隣国の姫はベータだった。

 ベータではアルファは産めない。つまり、世継ぎは望めない。
 そんなわけで保留にしていた受けを探すことになったそうだ。まぁ、届出があったから知っていたけれど。

 約束通り攻めは国王なのに通い婿になった。

 受けの家は懐が潤い、やがて受けは2人目を産んだ。
 世継ぎの誕生と国をあげて祝われた。
 その後も赤子を受けは産んだけど、攻めが通い婿なのは変わらなかった。
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