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2年生始まりました

第26話 ソレを否定するな

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「誰か来るのかなぁ」

 佐々木がお茶を飲みながら呟いた。
 司会をしていたから、新入生の反応はしっかりと見えていた。佐藤が講堂に登場したのは背後だったから、スポットライトを浴びて前にやってきた明るい髪色の生徒会長をみてまず驚く。次に、壇上で挨拶を始めた途端に英語だ。それに面食らっているうちに挨拶が終わって、締めくくりにサラッと問題を言われて、ほとんどがポカン顔をしていたのだ。
 ちゃんと挨拶を聞いていたのかさえ怪しい。

「来るとすれば一人だな」

 パソコン画面から顔を出てきた佐藤が言った。

「そーだねー、一人だけ来そうなのがいるよね」

 相葉が楽しそうに相槌をうった。

「一人だけって?」

 遠山がそのワードに反応する。

「新入生代表挨拶したやつ」

 相葉が答えると、その場にいた全員が反応した。

「前会長の弟?」
「そう、史彦な」

 佐藤が、楽しそうに名前を呼んだ。

「中等部の時に同じ部活だったんだよね」

 相葉があっさり答えを言った。

「地味なパソコン部ね」
「え?あの二階堂さんの弟がパソコン部?」

 驚いた佐々木が声を出した。

「あの兄貴から逃げてんだよ、あいつは」

 佐藤がそう言って笑うと、相葉が意地悪そうな顔をした。

「ユーヤだって逃げてたじゃん」
「俺はカラコンつけてたから運動したくなかっただけ」

 佐藤が笑いながら答える。ちょっと前までなら、佐藤はこんな顔をしなかった。

「カラコンといえば、会長のその髪」

 佐々木が指を指す。

「僕、司会してたから最初に見えちゃうでしょ?叫びそうになって我慢するの大変だった」
「俺はだいたいわかっていたけどね」

 下総がサラッと言ったので、相葉が下総を凝視した。

「なんで?」

 相葉は小等部から一緒にいたから、佐藤の元の色を知っていた。けれど、中等部からの下総が、佐藤の色を知っていた?

「ほら、あの時佐藤くんと一緒にお風呂にはいったからね」

 下総が上目遣いでそんなことを言うので、慌てた佐藤が椅子から慌てて立ち上がる。

「その時に、ちょっと・・・」

 佐藤が慌てて下総の口を塞いだ。

「余計なことを言うな」

 佐藤は下総の膝の上にまで乗り上げて口を塞いでいる。下総は口を塞がれて少し笑っているようだった。佐藤がそんなに必死になるとは思わなかったから。

「だって佐藤くん、この指輪」

 口を塞ぐ佐藤の左手をとる。

「なんだよ、校則違反じゃない」

 そこじゃない。と皆が思った。

「違うよ、俺って愛人?」

 それも違う。

「なんだよ、愛人って」

 佐藤は下総の膝に乗ったままなので、傍から見たらそれはそれでおかしい。

「佐藤くんが嫁に行ったから、俺は愛人なのかなぁ?って」

 下総の意味不明な問いかけを聞いて、遠山は内心泣きたくなった。まともなやつだと思っていたのに、下総は残念なコだったらしい。思考が斜めにうごている。本人が気づいていないのが問題だ。

「こんなのネタだろ。この学園ならではのネタ」

 佐藤がそういった時、生徒会室の扉が開いた。

「酷いな裕哉、堂々と浮気するなんて」

 セキュリティを無視して生徒会室の扉を開けたのは藤崇だった。

「お久しぶりー、みんな元気?」

 その後に神山と元会長がいた。電子ロックを解除したのはこの2人だったらしい。
 神山の手には菓子折があった。

「一応ね、差し入れ」

 神山は佐々木に渡して、空いている席に腰掛ける。元会長会長も何となく座るけれど、藤崇はそのまま佐藤の側まで歩み寄る。

「初めまして、下総くん」

 藤崇は佐藤を持ち上げながら下総に、挨拶をする。

「初めまして」

 下総は挨拶を返すが、初対面ではあるけれど、誰だかは分かった。

「佐藤くんの旦那さんですか?」
「はい、そうです」

 藤崇が嬉しそうに答えると、抱き抱えられた佐藤はだいぶムッとした。

「何しに来たんだよ」
「裕哉の仕事ぶりと、お友だちに御挨拶」

 藤崇は、そう言って相葉を見た。

「久しぶり、明李くん」
「お久しぶりですね、藤崇さん」

 小等部からの仲だから、相葉は藤崇と何度かあっている。

「俺はここの卒業生で、風紀委員長だったんだよ?」

 佐藤に言い聞かせるように藤崇が言うと、佐藤はだいぶうんざりした顔をした。

「この学園に染まるとふじくんみたいな大人になるのかよ」

 佐藤が悪態をつく。

「なんだよ、俺みたいなって」

 藤崇は苦笑するけれど、相葉は何となく理解した。藤崇はいい人だけど、そういう人だ。よくも悪くも、この学園の卒業生だ。

「下総くん、裕哉と仲良くしてあげてね」

 藤崇が、そんなことを言うから下総は嬉しそうに返事をした。他の役員もいるのだが、なんだかもういいや、と皆が思っていた。
 神山の差し入れに、改めて紅茶を入れて、みんなで歓談をする。
 話の内容は新入生歓迎会だ。

「ずっと鬼ごっこなんだな」

 資料を読みながら藤崇が嬉しそうだ。

「藤崇さんの時代も鬼ごっこだったんですか?」

 佐々木が尋ねる。

「うん、鬼ごっこかかくれんぼだったんだけどね。かくれんぼだと風紀が取り締まりに対応出来なくなるから」

 藤崇が笑いながらそう言うから、何となくその意味を全員が察する。隠れている人を探すのが鬼だから、風紀委員が邪魔をする訳にも行かず、かと言ってそれがゲームの行為なのか違うのか、判断しずらいとなると、事故の場合は手遅れだ。

「それで鬼ごっこが残ったのか」

 遠山は去年の鬼ごっこを思い出す。

「去年、佐藤は逃げ切ったもんな」
「当たり前だ、やられてたまるか」

 逃げ切った佐藤は、逃げる理由が明確すぎる。自分の容姿を正しく理解してこその逃げ切りだろう。

「やっぱり裕哉はチワワ?」
「はいそうです!中身は猛獣だけど」

 神山が嬉しそうに答える。

「うん、中身は猛獣だよね、懐かない」

 藤崇は佐藤を、正しく理解してもらえて嬉しいようだ。

「俺の評価どんなだよ」

 佐藤は座る場所がなかったからと、何故か元会長の膝にいた。

「ところで、どうして佐藤くんはそこに座ってるの?」

 下総が何気に聞いてきた。去年の終わりごろは確かにそんな状態で作業をしていたけれど。

「席がない。ふじくんの膝はヤダ、お前の膝は屈辱だ」
「なにそれ」

 下総は納得いかなくて立ち上がって佐藤を抱き抱えた。

「なんだよ」
「だって俺が公認の愛人なのに」

 下総がまた斜め上にズレた発言をした。

「そーだねー、下総くんは俺の公認だねぇ」

 藤崇が同意したので神山が笑いだした。

「ふふ、二階堂くんは非公認なんだぁ」
「俺は愛人希望などしてない」

 元会長が、憮然とした顔をしている。

「俺だって、そんな俺様ヤリチンなんかと愛人になりたくねーよ」
「だれがヤリチンだよ」

 元会長がソコを言い返すと、藤崇が笑っていた。

「俺の時と変わんないなぁ」
「藤崇さんの時代も生徒会長ってこんなんだったんですか?」

 神山が元会長を指さしながら聞く。

「指を指すな」

 元会長はその指を払う。

「俺の時代の方が凄かったかもね。知識なんてないのに性欲だけあるから本当に無法地帯」

 藤崇が言う時代はまだまだネットもそこまで発達していなかったから、パソコンが扱えなければその手の知識も手に入らない。無知なやつに襲われる生徒を助ける為に、風紀委員はやたらと知識を習得したそうだ。
 そのせいで藤崇がこんなになった。と佐藤は改めて思うのだった。
 そんな歓談のなか、扉を叩く音がした。

「はーい、どちら様」

 去年は神山が対応していたけれど、今は遠山が対応する。
 神山が扉の前まで行くと、外から声がした。

「入学式の会長挨拶を訳してきました」
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