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第17話 そして
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卒業祝いだからと、確かに言われたけれど、まさかそのまま旅行に行くとは思っていなかった。福岡の方なら桜が咲いているかもしれないから。なんて、小山田が適当なことを言って飛行機に乗せられた。
相変わらず荷物はなくて、現地に着替えが用意されていた。終始小山田が将晴の腰に手を回しているので、傍から見れば立派なアルファとオメガのカップルだった。
お土産を色々買って、帰宅する先は、将晴の自宅ではなかった。
「ここ、どこ?」
将晴には既に記憶のない祖父母の家だった。
「思い出せないかな?」
玄関を素通りして、中庭に続く柵をぬけ、飛び石を渡って進んでいくと、何となく将晴にも記憶にある風景が出てきた。
「あっ」
不意に思い出したのは、春の日にランドセルを背負ってやってきたあの日の風景だ。
「思い出した?」
小山田がいつの間にかに横に立って、聞いてきた。
「うん、何となく」
将晴がゆっくりと建物の方へと目線を動かすと、そちらから誰か画駆け寄ってくるのが見えた。
「兄さん」
聞き覚えのない声がそう言って、将晴目掛けて飛びついてきた。
「それは、無理」
あと少しのところで、将晴を腕に押し込めたのは小山田で、すんでのところで取り上げられてしまって少し不貞腐れた顔したのは、誰あろう将晴の弟だった。
「約10年ぶりの兄弟の感動的な再会を邪魔するな」
「ダメですね。たとえ兄弟とは言えど、俺のオメガにアルファが抱きつくなんて許せません」
小山田が将晴を隠すようにすると、その腕の影から将晴はもはや記憶とはかけ離れすぎた弟を見つめた。
「うわ、俺よりデカい。まだ中学生でそのデカさなの?本当に将行?」
記憶にあるのはまだ三歳の姿の可愛らしい弟で、今目の前にいる、見上げなくてはならない程の大男が弟だとは到底信じられなかった。
「そうだよ、将行だよ。って、もしかして番ってないの?」
将行は、鼻をスンと鳴らすようにして匂いを嗅ぐと、驚いたような顔をした。
「ええ、番ってなんかいませんよ。いけませんか?」
さも当たり前だと言わんばかりに、小山田が答える。
「なんで?約10年も待っていたくせに?兄さんだって、一緒に、旅行……」
「でも、ヒートじゃなかったから。次のヒートは4月だからね」
将晴が真面目に指折り数えて答えたのに、小山田はそんな将晴を抱きしめながらこう言った。
「俺は絶対に将晴の項を、噛んだりなんかしません。だって、綺麗な項を見るとたまらなく興奮するんです。噛んでしまったら、もう噛み跡のある汚い項になってしまう。そんな勿体ないことできるはずがない」
それを聞いて将行は心底嫌そうな顔した。
「うわ、変態兄弟だよ」
そんなつぶやきを口にして、将行は慌てて後ろを振り返る。
振り返った目線の先には、変態兄弟と称した片方が立っていた。
「将行、親を捕まえて随分な言い方だな」
そんなことを言いながらも、ちっとも怒っている様子はなく、隣に立つ母親を嬉しそうに見つめていた。
「将晴おかえりなさい。旅行楽しかった?」
母親が、屈託のない笑顔でそう言うから、将晴は「楽しかった」と、答えて催促しているらしいお土産を手渡した。
「裕二さんから色々聞いたのでしょう?」
母親は、自分の口から説明することはないという感じで話をする。
「え、うん?聞きたけど?」
将晴がそう答えると、母親は嬉しそうだった。
「そう、良かった。今日はね、将晴の卒業祝いと、将行の高校の合格祝いを兼ねてるから」
支度を手伝って。と本日の主役たちに言い残し、母親は、奥へと引っ込んでしまった。
「え?マイペースすぎるんだけど」
ずっとそう思っていたけれど、やはり母親はちょっと変わっているようで、それを弟からも指摘されれば納得出来るというものだ。
「俺らが手伝うの?何をさせるつもりなんだか」
将行はそう言いつつも靴を脱いで中に入っていく。
「置いてかないでよ」
将晴も、慌ててついて行こうとしたけれど、小山田が将晴を離さない。
「一緒に行こう、将晴」
ずっと見ていた薄い笑いを浮かべて、小山田が隣を歩く。
この庭が始まりだったから、またこの庭から始まるのだろう。
相変わらず荷物はなくて、現地に着替えが用意されていた。終始小山田が将晴の腰に手を回しているので、傍から見れば立派なアルファとオメガのカップルだった。
お土産を色々買って、帰宅する先は、将晴の自宅ではなかった。
「ここ、どこ?」
将晴には既に記憶のない祖父母の家だった。
「思い出せないかな?」
玄関を素通りして、中庭に続く柵をぬけ、飛び石を渡って進んでいくと、何となく将晴にも記憶にある風景が出てきた。
「あっ」
不意に思い出したのは、春の日にランドセルを背負ってやってきたあの日の風景だ。
「思い出した?」
小山田がいつの間にかに横に立って、聞いてきた。
「うん、何となく」
将晴がゆっくりと建物の方へと目線を動かすと、そちらから誰か画駆け寄ってくるのが見えた。
「兄さん」
聞き覚えのない声がそう言って、将晴目掛けて飛びついてきた。
「それは、無理」
あと少しのところで、将晴を腕に押し込めたのは小山田で、すんでのところで取り上げられてしまって少し不貞腐れた顔したのは、誰あろう将晴の弟だった。
「約10年ぶりの兄弟の感動的な再会を邪魔するな」
「ダメですね。たとえ兄弟とは言えど、俺のオメガにアルファが抱きつくなんて許せません」
小山田が将晴を隠すようにすると、その腕の影から将晴はもはや記憶とはかけ離れすぎた弟を見つめた。
「うわ、俺よりデカい。まだ中学生でそのデカさなの?本当に将行?」
記憶にあるのはまだ三歳の姿の可愛らしい弟で、今目の前にいる、見上げなくてはならない程の大男が弟だとは到底信じられなかった。
「そうだよ、将行だよ。って、もしかして番ってないの?」
将行は、鼻をスンと鳴らすようにして匂いを嗅ぐと、驚いたような顔をした。
「ええ、番ってなんかいませんよ。いけませんか?」
さも当たり前だと言わんばかりに、小山田が答える。
「なんで?約10年も待っていたくせに?兄さんだって、一緒に、旅行……」
「でも、ヒートじゃなかったから。次のヒートは4月だからね」
将晴が真面目に指折り数えて答えたのに、小山田はそんな将晴を抱きしめながらこう言った。
「俺は絶対に将晴の項を、噛んだりなんかしません。だって、綺麗な項を見るとたまらなく興奮するんです。噛んでしまったら、もう噛み跡のある汚い項になってしまう。そんな勿体ないことできるはずがない」
それを聞いて将行は心底嫌そうな顔した。
「うわ、変態兄弟だよ」
そんなつぶやきを口にして、将行は慌てて後ろを振り返る。
振り返った目線の先には、変態兄弟と称した片方が立っていた。
「将行、親を捕まえて随分な言い方だな」
そんなことを言いながらも、ちっとも怒っている様子はなく、隣に立つ母親を嬉しそうに見つめていた。
「将晴おかえりなさい。旅行楽しかった?」
母親が、屈託のない笑顔でそう言うから、将晴は「楽しかった」と、答えて催促しているらしいお土産を手渡した。
「裕二さんから色々聞いたのでしょう?」
母親は、自分の口から説明することはないという感じで話をする。
「え、うん?聞きたけど?」
将晴がそう答えると、母親は嬉しそうだった。
「そう、良かった。今日はね、将晴の卒業祝いと、将行の高校の合格祝いを兼ねてるから」
支度を手伝って。と本日の主役たちに言い残し、母親は、奥へと引っ込んでしまった。
「え?マイペースすぎるんだけど」
ずっとそう思っていたけれど、やはり母親はちょっと変わっているようで、それを弟からも指摘されれば納得出来るというものだ。
「俺らが手伝うの?何をさせるつもりなんだか」
将行はそう言いつつも靴を脱いで中に入っていく。
「置いてかないでよ」
将晴も、慌ててついて行こうとしたけれど、小山田が将晴を離さない。
「一緒に行こう、将晴」
ずっと見ていた薄い笑いを浮かべて、小山田が隣を歩く。
この庭が始まりだったから、またこの庭から始まるのだろう。
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