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第12話 戯れ

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 ぐちゃぐちゃな下半身のまま、将晴は強い陽射しを浴びながら手を動かす。座り込んでしまっているから、どうしたって下半身で触れる場所は限られてくる。
 片手で胸の頂きを弄んでみたものの、そんな刺激では足りない。
 既に塗ってしまった日焼け止めから、発情剤の成分が肌から将晴の胎内に入り込んでいる。それが熱を生み出して、どんなに頑張っても吐き出す息が熱いままだ。

「あっあっあっ」

 胸をまさぐって、自分の指で刺激を与えるけれど、皮膚についた発情剤は軽い刺激をも倍増する。指の腹で摘んだつもりなのに、腰が震えるほどの刺激になった。けれど、もうそれでは物足りなくて、膝立ちで、腰を少し浮かせてしまった。前から下に手を伸ばし、ぐちゃぐちゃになった場所に指をあてる。
 それだけで身震いするほどで、将晴の身体が小刻みに揺れる。

「ふぁ、あ、あ、あ、あ、あぁ」

 足指に、力が入って、自分の指を締め付けてしまった。どうにもバランスが取りにくくて、内腿に力が入る。

「っあ……やぁだ…」

 上手く支えられなくなって、将晴の身体が折りたたまれるようにラグに沈み込む。ラグの下は砂だから柔らかいけれど熱い。

「んっ……あつ…い」

 身体の下からくる熱と、上から降り注ぐ太陽光と、自分の胎内から沸き起こる熱とがあわさって、将晴はとにかくうかされる。
 セーラー服の襟が将晴の動きに合わせてヒラヒラと揺れて、前に倒れ込んだせいで、白い臀が青い海を背景に動く。

「っはぁ、せぇん、ぱぁ…い、あつ…い」

 将晴の口からかろうじて出てきた言葉をきいて、アルファが一瞬腰をうかした。けれど、立ち上がることは出来ず、ゆっくりと座り直す。将晴の耳には届かない、小さな電子音がアルファの耳には届いたのだ。
 アルファが足に力を入れているのか、足元の砂が掘られていく。
 チリチリと焼け付くような日差しの下で、将晴のことをただアルファは見つめるだけだ。
「もっ……むりぃ……んぁ」
 将晴の腰が揺れて、白い臀が空に向かって跳ねた。それと同時に水が飛び散る音がした。

「あっ…あっ…あっ…あぁぁ」

 将晴の身体が小刻みに震えている。うつ伏せに近い体勢であるからみえはしなかったものの、将晴は吐精していた。
 しばらくその体勢でいたものの、将晴の手がゆっくりと動く。塗ってしまった日焼け止めからの成分が、一回の吐精では治まらなかった。
 将晴は日焼け止めを自分の臀に直接かけた。塗り広めるないと日焼けしてしまう。そんな気持ちがあったことはあったけれど、すぐに違う気持ちがやってくる。

 将晴の臀は海を向いているから、顔がアルファの方を向いている。前屈みではあるけれど、だからこそ顔が下から上へと向けられる。
 見上げる将晴の顔を、アルファが見つめている。
 そんな体勢で将晴は、白い日焼け止めを塗り広めて、指にたっぷりとつけたまま二つの頂の間に移動させた。
 アルファからどこまで見えているかなんて、将晴は知らない。ただ、気の向くままに自らの指を動かすだけだ。

「……っあ、ああぁ……」

 自分の指を咥え込ませて、自ら腰を振っている。ヒートではないからそこまで激しくはないけれど、その分昼間の太陽の元、幼く淫らな白い臀となっている。
 本来ならそこに存在するはずのない少年が、アルファの前で腰を振り、白い臀をさらけ出して乞うような眼差しを向けている。

 けれど、アルファはそれに答えるわけにはいかない。
 アルファが何も動かないために、将晴はどうにもならない昂りを持て余してしまう。塗り込んでしまった日焼け止めからは、肌に浸透していく発情剤が全身に広まっていた。

「…せぇ、んぱぁぃ」

 ヒートではないため、将晴にはそれなりの理性があった。だから石崎に言われた通り、アルファを先輩と呼ぶ。ただ、呂律が上手く回らないだけだ。
 青い海をバックに将晴の白い臀が小刻みに揺れ続ける。そこの双丘に伸びるのは将晴の手で、忙しなく指が動いて隠微な音を立て続ける。

「ぁぁ……っん…っも、がまん…でき、なっぃ」

 後ろも前も自分で刺激して、続けて二回は正直に言う辛い。この暑さも手伝って、将晴の体力をどんどん削っていく。汗もかくし、日に晒されているから、日焼け止めを塗らないと皮膚が赤くなる。

「やだ、手伝って」

 手の届く範囲に塗ってしまったせいで、どこそこ触れるだけで気持ちがいい。下に敷いたラグの程よい硬さが肌には適度な刺激になってしまう。胸を押しつぶすようにラグに押し付けるだけで、下から来る砂の暑さとラグの刺激が心地よい。腰を振るのにあわせて胸の尖りは刺激を受け続けた。

 不意にアルファが立ち上がって水を飲んだ。
 将晴を上からじっくりと眺める。ネックガードを外して晒される白い項も、めくれ上がったセーラーの上着から覗く細い腰も、そこから続く白い臀、半袖のセーラーから伸びる二本の腕は、細すぎず、それでいて逞しい訳でもない、成長途中の少年の幼さを残しつつ、筋肉が己を主張していた。肘の骨が動くと、その伸びた先から卑猥な音を発生させる。
 この光景を望んだのはアルファ自身で、思い描いた情景が繰り広げられたことに満足する。
 目の前にいる少年から、懇願されたことに答えることは決してできず、小さく鳴り響く電子音に促されてアルファは、ゆっくりと背を向けた。
 砂地を革靴画踏みしめる音がして、やがて聞こえなくなった。

 終わった。

 けれど、だからといって将晴の疼きが止まるわけではなく、もどかしさに将晴は仰向けになってしまった。足を広げて隠すことなく晒しだしたところで、誰かに見られる訳では無い。プライベートビーチだから、さっきのアルファが帰ったからこそ、将晴一人だ。

「最悪だ」

 自分の手で自身を慰めるけれど、手にはたっぷりと日焼け止めが付いていて、何とかしようとすれば塗り広めるだけなのだ。
 膝を立てて、とりあえず今のたかまりを何とかしようと手を伸ばした時、将晴に影がさした。

「な、に?」

 うっすらと目を開ければ、石崎が見下ろしていた。

「運ぶよ」

 何事もないかのように、石崎は将晴を抱えて歩き出した。オメガにしてはだいぶ育っている将晴を、石崎はなんともなしに横抱きで運ぶ。

「ジャクジーだから、一応風呂ね」

 八角形のそれのそばに寝かされて、石崎がシャワーをかけてきた。

「だいぶ赤いな」

 スーツ姿の石崎が、苦笑しながらも水に近いシャワーを将晴に、浴びせてくる。

「誰のせいだよ」

 将晴は悪態をつくけれど、全身にかかるシャワーが気持ちいい。

「お客さんの要望だから」

 石崎が薄い笑いを浮かべながら答える。

「先に教えて」

 将晴が下から睨むと、石崎はシャワーを止めた。

「教えたらつかわないでしょ?ジャクジー動かして水流で落とせるかな」

 そう言いつつ、石崎は将晴をジャクジーの中に下ろした。自分で高めてしまっておいて、将晴は正直だるい。ジャクジーの中も随分と温かった。

「スイッチはここ」

 石崎がボタンを操作すると水流が発生して、敏感になっている身体が過剰に反応する。

「っう、ひゃあ」

 縁にきつく指を絡めて耐えてると、石崎が操作するパネルに目をやった。

「MAXで動かすとか、鬼かよ」

 パネルにある水流の強さのゲージは、ランプが全部ついていた。そんな強い水流を当てられたら、また達してしまいそうだった。

「普段の状態でも、気持ちいいもんだよ」

 石崎はそう言い残すと、いなくなった。
 端の方にボディーソープとか、そんなものがまとめてカゴに入れられていた。ラグを敷いていたとはいえ、砂の上にいたわけだ、全身洗いたい。
 とても一人用ではないと思われる広さがあったから、将晴は一度頭まで沈んでみた。水流が頭に当たるとなんだか気持がいい。

「うわ、頭に結構砂ついてた」

 浮上してそこに目をやれば、結構砂が渦を作っている。単調な水流に飽きて、将晴はパネルを操作する。下から出てきた水流で、自分の体が浮くのは面白い。

「ちょっ…くすぐったい」

 臀には沢山塗ったから、その刺激で自分の身体が反応してしまった。自分で見ているうちにきちんと反応しをめしてしまい、自分のことなのに恥ずかしくなる。
 やれめればいいのに、やめられなくて、水流を思わず強くする。

「んんっ……んっ、んっ、んっぅぅ」

 いいところを探し当てて、そこに当たるように腰の位置を変えてしまった。まさに尾てい骨から頭のてっぺんまで痺れがかけ登った。

「はぁぁ……ぁぁ、んぅ、んっ」

 鼻にかかった甘い声を思わず出して、ジャクジーの水流を、一瞬白濁にした。

「あっ、あぁ………うん」

 なんだか気まずい感じがしたけれど、スッキリはしたので将晴はジャクジーから出た。

「頭、洗おうかなぁ」

 カゴの中にまとめられたボトルから、シャンプーとリンスを取り出して、頭を洗う。項に塗った時に、結構髪の毛にもついたらしい日焼け止めは、泡立ちの邪魔をする。

「二回洗えばいいのかなぁ」

 思ったように洗えなくて、将晴はシャンプーを二回してからリンスをした。いつもと違う甘い匂いに躊躇するけれど、洗い心地が良くて気に入った。

「こーゆーのって、売ってるのかな」

 ボトルの表示を眺めるけれど、ホテルのオリジナルなのかは分からなかった。ボディーソープも泡がきめ細かくて、自宅で使っているのとはだいぶ違った。日焼け止めの名残が気になって念入りに洗っていると、ガラス越しに視線を感じて振り返った。

 アルファだ。

 将晴は声も出せないまま動きをとめた。悲鳴が出なかったのは幸いだった。おそらく、次のお客さんが入ってきていたのだろう。けれど、石崎からは何も言われていなかったから、将晴が一人でこういうことをしているのを見たかったのかもしれない。
 先程より随分と距離が近くて、ガラス越しとは言え、アルファの顔が見えた。獲物を狙う様な眼差しに、将晴は完全に飲まれた。シャワーヘッドを握りしめたまま、身動きが取れない。
 身体が徐々に重くなって、ゆっくりと血の気が引いていくようだった。

「あっ、あっ、あっ」

 ようやく出できた声は、声であって言葉にならず、ガラス越しに見えるアルファの目から目線が外せない。頭がクラクラしてきて、将晴の身体がゆっくりと崩れるように床に落ちた。
 アルファがなにかしたのか、バンッという音がして、動きがあった。
 隣の部屋に隠れていたはずの石崎が顔を出した。そうして、アルファと何か言葉を交わすと、アルファは静かに部屋を出ていった。
 扉が閉まる音を確認してから、石崎は将晴のそばに膝を着いた。

「ハル、ハル」

 ぐったりとした将晴を抱き起こして名前を呼ぶけれど、反応がない。

「将晴、しっかりしろ」

 冷たくなっている指先を、石崎の大きな手のひらが包み込む。将晴の濡れた体をスーツの胸に抱き寄せると、背中をさすった。

「………ぅ」

 将晴の口から小さな声が漏れた。

「将晴、大丈夫?」

 石崎が確認をする。

「……ゎ…った」

「ん?なに?」

 将晴の声が小さすぎて石崎には聞き取れない。

「怖かった、怖かったってば」

 言うなり将晴は石崎にしがみついた。
 濡れた体でしがみついたから、石崎のスーツは水を吸い取る。将晴の体が触れた部分野色が濃くなったけれど、それにかまうつもりはない。

「ごめんね、怖かったね」

 石崎がそう言って将晴の頭を撫でる。
 将晴は石崎のスーツを強く握りしめて、頭を肩の辺りに押し付ける。濡れた髪が石崎の頬を何度も掠める。

「こ、怖い、こと…ないっ、て」

 将晴が泣き出していることに気がついて、石崎は内心舌打ちをした。ガラス越しならと思って、アルファからの仮面拒否を承諾したのは石崎だ。将晴がアルファの存在に気付いたのを確認したのに、アルファに注意をしなかったのも石崎だ。

「ごめんね」

 石崎はそう言って将晴を抱きしめた。
 それに安心したのか、将晴が堰を切ったように涙をこぼす。アルファからのフェロモンを初めて感じた将晴は、ただ恐怖を感じただけだったらしい。
 石崎は将晴の背中を、赤子をあやす様に一定のリズムで叩いた。それが心地よかったのか、将晴の体の震えが弱くなり、やがて将晴の体から力が抜けていった。

「……寝た?」

 将晴の背中を叩く手を止めて、自身の肩に顔を埋める将晴をそっと覗き見る。涙のあとがある目尻はだいぶ幼いままで、ゆっくりとした呼吸をするからか、小さく将晴の肩が揺れていた。
 石崎は将晴を抱きしめたまま立ち上がると、寝室へと移動した。石崎が用意しておいた将晴の寝間着は、丈の長いワンピースのようなデザインのものだったので、寝てしまった将晴に着せるのはなんの問題もなかった。
 濡れた髪の毛をタオルで優しく拭く。さすがにドライヤーを使うと起こしてしまうので、手触りで確認するに留めた。
 空調が、きいているから寝苦しいことはないようで、将晴は完全に寝入ってくれた。
 石崎はそれを確認してから寝室を後にした。


 ───────


「水族館に行きたい」

 翌日、朝食を食べながら将晴はそう言った。

「うん、わかった」

 石崎は承諾すると、直ぐにどこかに連絡を入れていた。

「今日はお客さん入ってないから、一日ゆっくりとできるよ。水族館に行って、他にも観光地に行ってみようか?」

 石崎がそんなことを言うから、将晴は喜んだ。

「え、ホント?嬉しい」

 将晴が年相応の笑顔を見せたので、石崎はようやく落ち着くことが出来た。
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