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第9話 避暑地にて

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 和風の硬い布団がいいのか、将晴はあまり体勢を動かさないで耽っていた。
 だから、鑑賞席にいるアルファからはほとんど将晴の下半身からの眺めになっている。
 基本、鑑賞に来たアルファは、椅子に座らされている。間違っても将晴に触れないように、椅子は適度に離されてはいるが、十分に将晴の表情は確認できる距離だ。

「んっんっんっ」

 将晴の口から零れる声は、若干あどけない感じがして、成人しているアルファからすれば、庇護欲と嗜虐心が煽られる。
 将晴は割と成長している方なので、良家のオメガに比べれば青年よりの体躯になる。だから、余計にアルファの嗜虐心を、刺激するのだ。女性オメガなら、その身体の作りから庇護欲が、かきたてられて、壊れ物を扱うかのようになることだろう。

 だが、将晴は母親と二人で生活してきたせいか、男性らしい体の成長をしていた。オメガらしく体毛が薄いとか肌がきめ細かいとかはある。
 優れた男性アルファからすれば、多少成長してしまったとしても、オメガはオメガだ。アルファに比べれば十分に小さい。むしろ、青年よりの体躯の方が安心して貪れると欲が湧く。

 いま、将晴を見つめるアルファは、成人しているとはいえ青年だ。番がいない分、欲の吐き出し先がなくて危ないだろう。
 アルファが、自然と発してしまったフェロモンに反応して、将晴が頭を上げた。

「だれ?」

 乱れた浴衣姿で、先にいるアルファを見る。
 アルファから発せられているフェロモンを嗅ぎ取ったのか、舌が物欲しそうにチロチロと動いた。

「ねぇ、熱い、よ?」

 上半身だけ起こして、将晴ははだけたままその白い肩ををむき出しにする。項から鎖骨、そして肩。細すぎることはなく、青年の一歩手前の姿をして、オメガのフェロモンを撒き散らし、熱い息を吐き出す。

「だめな、の?」

 返事が来ないのを、自分で解釈して、将晴はさらけ出している胸に手を当てる。上気した肌に、赤く色付いた胸の突起がやけに目立つ。それを自分の指で軽く摘んで、将晴は小さな声をあげる。

「……ぁあん、んっ……ぅん」

 将晴としては初めての戯れだけれども、アルファからしたらそれは愛すべき箇所であり、真っ先に口にしたい衝動がわき起こる箇所でもある。
 将晴が、そんなことを始めたせいか、鑑賞しているアルファから、じわりとフェロモンが溢れ出す。それを受けて、将晴が仰け反るようにベッドに沈んだ。

「あっあっあっ……はぁ、ん」

 倒れ込んだのに、将晴は手の動きをとめないどころか、先程まで体を支えていた片方の手を下へと動かしていた。

「あっ、ん……んぅ、ん」

 片膝を立てて、腰を揺らしながら自分の指を差し込んでいく。アルファのフェロモンを浴びたからか、十分すぎる体液が溢れ出て、将晴の指の動きを滑らかにしていた。
 将晴は、前から手を回しているから、まるで隠してるかのように見えるけれど、熱を持ち主張を始めた将晴の中心は、隠しきれずにアルファの目を引いている。
 将晴の指が抜き差しされる度、隠微な音が、耳に響く。視覚と聴覚に刺激を受け、嗅覚にはオメガのフェロモンが否応なしに刺激を与える。
 まだ、若い青年のアルファには、かなりの我慢を強いているだろう。時間的にも危ういため、石崎は背後に静かに立った。

「あっ、ん……奥に……ほし…いぃ」

 将晴が自身の指を差し込みながらそう呟けば、アルファをおおいに刺激する。けれど、目の前にいるアルファが、それに答えることは叶わない。
 アルファの腰がほんの少し浮いた瞬間、石崎の手が肩を叩いた。

「お時間です」

 それを聞いて、アルファの青年はすぅっと、冷静になる。石崎はアルファ用の抑制剤を手にしていた。嗅ぐだけで、随分と落ち着きを取り戻す。この薬も、モニターテストを取っている代物だ。
 石崎はしっかりとアルファの青年の肩を掴んだまま、最初の部屋に連れ戻す。この部屋には、アルファの抑制剤を常に漂わせてある。鑑賞が終わり、帰る前に落ち着きを取り戻させるためだ。
 仮面を外し、ミネラルウォーターを飲むと、アルファの青年は落ち着きを取り戻していた。

「次の方が来られる前に、落ち着いてお帰りください」

 石崎に促され、アルファの青年は立ち上がって帰っていく。ミネラルウォーターと共に出した抑制剤を、しっかりと飲んでいた。安全運転で帰れるだろう。
 おかしなバッティングが起きないように、予約の間は一時間開けている。将晴のフェロモンに当てられて、ラットを起こされた場合も考慮しての時間設定だ。

 さすがにアルファが本気を出したら大惨事なので、緊急用の抑制剤も準備はある。それに、ベータではあるが、石崎は格闘技の心得もある。何より、モニターで、映し出されている以上、おかしなことをすれば、他のアルファにすぐに知られることとなる。それが、抑止力となっているからか、今回もおかしなことは起きなかった。
 ヒートが明けて、将晴は出された食事を綺麗に食べていた。
 夏といえば鰻かな?なんて曖昧な事を言ったのに、しっかりとしたうな重が目の前に出てきて、将晴は苦笑いをした。何しろ、石崎も同じものを食べていたからだ。

「役得でしょう?」

 そう言って、食後に石崎はしっかりと温泉にも入っていた。腰にタオルを巻いただけの石崎を見て、将晴はだいぶ驚いた。

「え、何それ?」

 体格がいいな。とは思っていたけれど、石崎の体は将晴が、想像していた以上に筋肉質だった。

「何か?」

 石崎は将晴の顔を覗き込むように聞いてきた。

「え?ベータなのに?……ベータだよな?」

 まだ高校生である将晴からすると、筋肉質で体のおおきな石崎がベータだとは信じられなかった。

「ベータでも、きちんと鍛えれば体は作れますよ。それに、貧祖な体では君を守れないでしょう?」

 そう言って、胸筋を動かして将晴を驚かせる。

「え?動くのここ」

 テレビで見たことはあったけれど、実物は初めてで、将晴はまじまじと石崎の、胸筋を見つめる。

「触ってみますか?」

 石崎に言われると、躊躇いながらも手を伸ばす。

「うわぁ」

 身近に父親がおらず、学校でもオメガだけで体育の授業を受けているため、将晴は筋肉に馴染みがなかった。自分も含めて、男性オメガは筋肉が付きにくいのだ。

「動かしましょうか?」

 言われて、素直に頷いた。
 将晴の手が添えられている部分が、ピクピクと動く。石崎の肌は将晴とは違って、硬い。不思議に思って、将晴は無意識に石崎の肌を撫でていた。

「さすがにくすぐったいな」

 やんわりと石崎に止められて、手を掴まれた。

「………あっ」

 随分と大胆なことをした。そう思って頬が熱くなる。石崎は笑ってはいるが、よく見れば石崎は未だに腰にタオルしか巻いていなくて・・・
 将晴は石崎の手を振りほどくと、内風呂に逃げた。ヒートが明けたばかりなのに、随分と、大胆なことをした。内風呂も温泉なので、浴衣を脱ぎ散らかして湯船に飛び込んだ。
 石崎はベータだからフェロモンは感じない。けれど、
 男らしい体を触って思わず反応しかけた自分が恥ずかしかった。
 将晴は、自分がオメガなのだと今更ながらに自覚した。
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