悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り

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破滅エンド来るなら来いですわ

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  私は、翌日から積極的にお友だちを作ることにした。
  もちろん、それは周りの貴族のご令嬢たちも同じだったようだ。昨日のダンスホールの話は、もう広まっていたらしい。やはり、女子のうわさ好きはネットなんかなくても早いのだ。

  王族の婚約者の、社交界での在り方を知っているだけに、女子生徒の積極的なことは私の想像以上だった。多分、親から圧力もあるのだろう。中流階級ぐらいと思われる女子生徒(制服の改造が目立たない)が、ランチの時に「ご一緒させてください」と周りにやたらと集まってきたのが若干怖かった。
  もともと、公爵令嬢である私に、社交界で話をかけるのは難しい立ち位置の彼女たちである。サロンでお茶会の時に、と思っていたらそちらもできない。親からは学校で仲良くなってこい。と言われているのに、王子が密かに邪魔をする。
  親が政治的にそこまで重要なポジションにいないからこそ。なのに、いないからこそやりにくかったらしい。

「私も、皆さんと是非仲良くしていただきたいですわ」

  私は、とびきりの笑顔を向けて答えるのだった。
  放課後は、サロンに行くかダンスホールに行くか悩みどころである。相談したくても、アンネローゼ本人との意思疎通はそう簡単に出来ないので、サロンのほうがいいかなぁ。って心の中で聞いてみると、ふんわり暖かくなった。これはアンネローゼが好意的捉えていいのだろう。
  午後の授業が乗馬なので、ダンスホールには行かずに少し早めに厩舎に向かった。ダンスの授業用の服はワンピースになっているので、はっきり言って着替えが楽なのだが、乗馬用の服はなかなか大変なのだ。

「ボタンが、いっぱいついてるんだよねぇ」

  1人で着替えをするので(ここ大事)、ボタンが多いと大変だ。ぶっちゃけ普段はリリスが全部やってくれるからね。冬場にボタンの多い服ってなんなんだろう?嫌がらせにしかなってない。
  既に何人かの生徒が馬を出して鞍や鐙をつけていた。馬になれていない平民の生徒は、少しでも慣れようと自主練習を、しているようだ。貴族のご令嬢は、乗馬の授業自体に不参加を表明している場合もある。要するに、怪我をしたら大変だから。かく言う私もちょっと前まではそうだったのだけど、今は違う。
  厩舎に入ると、予想通りに主人公が居た。

「急に張り切っちゃって、主人公に対する妨害ですかぁ」

  小首を傾げてそんなことを言ってくる主人公に、若干の苛立ちを感じたが、

「先輩って、そう言うキャラなんですか?」

私も負けじと小首を傾げて言ってやった。
  主人公が笑顔のまま私を見つめている。カマかけたけど、正解だったのかな?まぁ、先輩って、カテゴリはものすごく広いんだけど。

「あら、どんな先輩なのかしら?」

  笑顔で問い詰められる。これ、ガチなやつだったらそーとーにヤバいけど。ここは乙女ゲームの世界。立場は平等。同じ一年生。

「社交ダンス部の双子の先輩とお見受けしておりますけど?違いますか?」

  私は、同じ高校で、社交ダンスができる人カテゴリからの推測をそのまま伝えてみた。

 「それは、ダンスができるから、かしら?」

  主人公の笑顔は、ハッキリ言って怖かった。最初も感じていたけれど、私に対して悪意のようなものを感じるのだ。ただ、それが具体的に何なのかは分からない。

「社交ダンスを習っていれば、姿勢はいいし、そういう場での礼儀作法もしってますよね。体幹が鍛えられているから乗馬も出来てしまったんでは無いでしょうか?」

  私は、なぜ、その考え至ったかを説明した。しなくては、ならないと精神的に追い詰められている。そんな感じが自分を追い立てているのだ。

「佐藤美和さんは、私の名前を知らないのかしら?」
「申し訳ございませんか、存じないんですよ」
「そうね、いつもお友だちと楽しそうにおしゃべりしていたものね」

  なにかを思い出すように、主人公はゆっくりと言う。それが、私には怖いのだ。この人は、私の知らないこの乙女ゲームの世界を知っている。私の知らない攻略方法、ルートを知っている。
  それが、分かるから怖い。だから、主人公は余裕があるのだ。もし、私の知らない破滅エンドがあったとしたら?だから主人公はこんなに余裕なのだとしたら?

「そっか、知っているのは私だけなんだ」

  ふふって、笑うのもなんだか怖かった。何を知っているのか教えてはくれなさそうだし。

「安心していいわよ」

  主人公は、私の目の前までやって来て、そう言った。

「な、、何をでしょう?」

  中身は先輩なんだ。と、思うと思わず萎縮してしまう。傍から見れば同級生同士なのに、オドオドしているのは完全に私だ。

「私の攻略対象は、アラン様では無いから」

  ハッキリと言われて耳を疑った。

「だって、成績優秀者のリストに名前があるのに」

  私は、必死に考えた。こんな短期間で成績優秀者に名を連ねて、攻略対象が王子では無い?攻略が1番難しいのが王子ではなかったのか?たしかに、王子狙いでなかったとしても、自分のバロメーターを上げておいたほうが攻略対象からの好感度が違ってくるから…

「逆ハー?」

  思わず口から出たのはそれだ。

「さぁ、どーでしょう?」

  主人公は、笑っていた。完全に余裕の笑みってやつだ。私は、公爵令嬢なのに、第1攻略対象のアラン王子の婚約者なのに、悪役令嬢になるかもしれないのに、主人公に、勝てるきがしない。
  いや、もとより、主人公なんだから、私が勝てるはずがないのだ。

「ほかの子たちが、来ちゃうから、私はこれで、ね」

  主人公が去っていった後を、私は呆然と、見つめていた。そうして、授業の準備のためにやってきた同じクラスの生徒たち声をかけられて、ようやく鞍を取りに行くのだった。
  まさか、そんな、ないとは、言いきれない。
  でも、もし逆ハールートがあるとしたならば、それこそが1番ヤバいやつなのでは?





「攻略対象が誰だかわからないのよ」

  いつもの日記タイムに、私は悔しさを滲ませながらロバートに言った。

「王子じゃないって?」
「うん、本人が言ったの」

  私には納得できなかった。バロメーターを最大値近くまで上げておきながら(実際には見えないけど)、王子が攻略対象でないとな?そんなわけないわっ!あるわけがない。

「じゃあ、なんで、成績優秀者になろうとしてるんだ?こんな、短期間で」
「あるかどうかは分からないけれど、逆ハールート狙い。もしくは、隠しキャラを出すため」

  答えつつも、全く、自信はなかった。そんなルートがあるのかなんて、私は知らない。

「逆ハーって」

  ロバートが、呆れた声を出した。うん、分かるよ、その気持ち。高校生で逆ハーって、なんか凄いよね。

「もし、仮に、逆ハールートがあったとして、主人公がそれ狙いだったとしよう。でも、逆ハーの構成要員が誰だかわからない」
「なんだよ、それ」

  ロバートは、怪訝な顔をしているようだ。机からの明かりだけだと、よく見えないけれど、目付きがちょっと怖い。

「公表されている攻略対象だけでも5人はいるのよ。隠しキャラがいるのも分かってる。その人たち全員が逆ハーだと思っていたけど、主人公は王子を狙ってないって言うんだもん」

  出てきた攻略対象全員を逆ハーするんじゃないわけ?という疑問がある。もしかして、逆ハー要員が選べる?

「隠しキャラって誰なんだよ?」
「王子の、側近のマルコス」

  私が答えると、ロバートはふぅんと気のない返事をしたのだった。
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