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想像と全く違う社交界なんですけど

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  私は、まったく心が踊らない状態でとある侯爵家のパーティ会場に到着した。
  なぜなら、王宮のパーティでは無いので、パートナーの王子がいなければダンスが踊れない。王子のエスコートなしでは、社交もできない。と言うことなのだ。
  ちょっと、ななそれ?本当に聞いてないんですけどっ!意味わかんない。王子はヤンデレ?とか思っていたら、王族のしきたりなのです。とリリスに言われたので、王族がヤンデレってことなのか?
  ああ、意味がわからない。なんか、まだ王子来てないっぽいし、私は馬車から降りられないの?意味わかんない。お腹すいてるんだけど、喉だって乾いてきたし、何とかしてよ。
  しばらくして、ようやく私は馬車を降りられた。が、扇で顔を隠して会場入だ。それもこれも、エスコートするはずの王子が来ていないから。


  会場に隣接しているサロンにとおされて、ようやく座ることが出来た。馬車の椅子の座り心地が悪かった訳では無いけれど、いかんせん背もたれが垂直でくつろげない。

「王子が到着しておりませんので、アンネローゼ様はここで待機になります」

  リリスに言われて、ゲンナリした。なんなのもう!コルセットで締め上げられて、結構窮屈なんですけど!王子が来ないとか、どーゆーことなわけ?

「王子がいないから、私は挨拶にも行けない。って事ね?」

「はい、アンネローゼ様。公式には、アンネローゼ様は、まだ、会場に到着しておりません」

  リリスがキッパリと言い放つと、私は目の前が真っ暗になった。なんなのそれ?自分が来るからお前も来いって誘っておいて、ちょっとまってて。って事ね?そうなのよね?

「お腹空いた」

  私は、我慢が出来なくて、リリスにそっと耳打ちした。もちろん、ちゃんと扇で顔は隠してる。

「かしこまりました」

  リリスが合図をすると、ケータリングよろしくワゴンでなにやら運ばれてきた。非公式状態とはいえ、確かに私が来てしまっているわけで、侯爵家としてはおもてなしをしたいわけだ。遠くから侯爵様らしい人物がこちらを伺っている。
  飲みものは、何故か白ワインだった。この世界では社交界デビューしたら飲酒も開始らしい。飲み慣れないのでちょっとだけ口をつける。食事はいちいちリリスが毒味をしてから食べなくてはいけないらしい。一応、王族に嫁ぐ予定なので、それなりの事をしないといけないそうだ。

「美味しですよ、アンネローゼ様」

  一口食べては、リリスが私に料理を回してくる。とにかくお腹が空いているので早く食べたいのだけれども、令嬢としてのマナーは重要だ。ゆっくり落ち着いて上品に。

「王子はいつ頃来られるのかしら?」

  お腹が満たされてきて、ようやく今の状況を確認できる余裕が出来た。
  ホールではダンスを踊る人達がいて、あちこちに人の集団ができている。私と年齢の近そうな令嬢たちが見えるけど、リリスの言う通り、誰もこちらにやってこない。物凄い孤独だ。

「アンネローゼ様、お伝えしておくことごございます」

  リリスが私の隣に立つのにピッタリと座ってきた。私は思わず身構える。

「なに?」

  嫌な予感しかしない。

「よくある事なんです」

  そう、前置きをしてから、

「結構な確率で、王子は来られません」

  絶望的な結論。

「来ない?」
 「はい」
「王子は、今日はここに来ないの?」
「この時間まで来られないということは、おそらく来ないでしょう」

  リリスは時計をちらりとみて言った。
  意味が分からない。誘っておいて、来ない?なにそれ?女の支度がどれぐらい大変か分かってやってるの?

「よくある事です」

  リリスは言う。

「よくある事?」

  私は意味がわからず聞き返した。

「こういったパーティに、参加を予定して、会場にこない。というのは王族によくある事なんです」

  リリスは、今度はハッキリと言った。言い切った。

「それって、私は待ちぼうけ。ってこと?」
「はい、そうです」

  リリス、笑顔で言うことじゃないよ、それ。結構残酷だから。

  てゆーか、王族って放置プレーが好きなの?誘っておいて放置して、よくある事で片付けるわけ?なにそれ、意味が分からない。

「現王妃様は、婚約からご成婚までの間に100回ほどはされたそうですよ」

  リリスが殊更声を潜めて言う。

「うっ」

  それって、何年間の間にその回数?って言うかそんなに放置プレーされても嫁がなくちゃ行けないの?それって、忍耐を試されてるとしか思えないじゃん。
  普通に考えて、学校に3年通う期間に100回かな?社交界デビューが16歳だから、学校に入るのと同じ年だよね?で卒業してから結婚?婚約が入学してからなら期間が短そうだけど、王族の人って婚約が早いって聞くしなぁ。

「3年間で100回ほどです。アンネローゼ様も覚悟なさってください」

  私の心を読んだのか、リリスが的確な答えを言った。頭の中で簡単に計算すると、年に30回ぐらいで、月に2回はある?待てよ、夏のバカンスシーズンは?たしか、避暑地で毎日何かしらのお茶会とかパーティがあるんじゃなかった?それは、さすがに参加できるのかしら?いや、もしかしたら、避暑地に行くのさえ止められるのかも!
  想像しただけでゲンナリした。
  これじゃあ、誰が悪役なんだか分からない。王子にこんな扱いをうけていたら、主人公に八つ当たりだってしたくなるんじゃないの?

  私が、うんざりした顔をしているとリリスが、ダメですよ。と軽く叱られた。
  本当に、王子はやってこない。ホールにいる令嬢たちは、お喋りをしたり、ダンスをしたりして、社交を楽しんでいるようだ。私もあの中に入りたい。おともだちが欲しい。羨ましい!
   そんなことを考えながらダラダラしていたら、不意に横の扉がノックされた。
  私の代わりにリリスが入室の許可をする。なぜなら、私は公式にはここには居ないことになっているから。入って来たのは侍従っぽい服装の男性。でも、誰だかわからない。私は、その人を見つつも扇で顔を隠して私はいません。ってフリをした。
  だから、リリスがその人から何かをうけとる。何か、カードっぽい。リリスは、中を確認すると、

「分かりました。御足労ありがとうございます」

  そうすると、侍従っぽい人は低姿勢のまま退出して行った。
  よく分からないけれど、リリスの顔を見れば何となくわかる。

「王子は来ないそうです。だから、帰りますよアンネローゼ様」

  あっそう
  私の内心の返事だ。



  帰宅して、ドレスを脱ぎ、髪を下ろしてお風呂に入った。ああ、意味もなく疲れた。すごい無駄な時間。
  くそう、王子に相応しい女性になりたいのです。とか言っちゃったけど、ヤンデレ王子に相応しい女性になんかなりたくないわよ!私の王子は、ゲームの第1攻略対象のあの王子なんだからねっ!
  主人公に砂糖より甘いセリフを吐く王子、あの声を聞きたいのに……放置プレー好きのヤンデレだと思ったら、すげー引いたわ、こりゃ無理だよ。
  メイドさんたちに色々してもらいながら、私は考えた。悪役令嬢にならずに、主人公に王子を攻略して貰えないだろうか?
  今現在、主人公はまだ1ヶ月しか経っていないのに成績優秀者になっている。と、言うことは王子を攻略対象にしているとみていいのでは?でも、主人公、ゲームの設定とかなり違う。色々確認する必要があるみたい。

「これが100回あるって思えばいいのね」

  私はよく整えられたベッドにダイブしながら言った。

「アンネローゼ様、はしたないです」

  リリスは、そうは言いながらも、そうですね。と否定してくれなかった。
  明日からは乗馬と歴史の家庭教師がくる。どんな人か楽しみだ。
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