上 下
3 / 4

第3話 白熱!消しゴムバトル!

しおりを挟む
キーンコーンカーンコーン

20分休み開始のチャイムが鳴ると同時に、男子の一人が声を上げた。

「よっしゃ!『ケシバト』しようぜー!」

説明しよう。『ケシバト』とは、消しゴムバトルのことである。

まず机に自分の消しゴムを置こう。

そして、じゃんけんで先攻後攻を決めよう。

自分の番になったら消しゴムを弾き、相手の消しゴムをはじき落とした方の勝ちだ。

消しゴムに触れると相手の番になるので、ミスショットには注意だ。

基本は指で弾き飛ばすのだが、定規を使っても構わない。

ただし、飛ばし過ぎて自分の消しゴムが落ちたら負けだ。

今小学生の間でブームになっている。

「くっそー!落ちちまった!」

「お前定規は安定しないからやめとけって。」

はちは仲間にしてほしそうに消しゴムの戦場を眺めている。

「お前はやんないのか?」

おさむは八に尋ねた。

「お前ずりーぞ!」

「こんなん勝てねーよ!」

「一人で机独占してんじゃねーよ!」

何やら揉めているようだ。

治は視線を『ケシバト』に戻した。

さっきから一人の男子がずっと勝ち続けているようだった。

治は敗北した男子に話しかける。

「なんだよ。そんなに遊びたいなら別の机使えばいいじゃん。」

「負けたままだと悔しいじゃんか!」

「いやぁ……でもなぁ……」

治が机の方を見ると、ありったけの消しゴムで机の1/4が埋め尽くされていた。

「ふふふ、これは全部俺の消しゴムだぜ。この無敵要塞『ゴライアス・ノート』に勝てるかな?」

「こうなったらみんなで戦うぞ!」

「よし!みんなでボス戦だ!」

「消しゴムなのにノート?」

「かかってこい。残らず蹴散らしてやる。」

どうやら3人で戦っても勝てないようだ。

彼はまさしくボスの名にふさわしかった。

「くそぉ……やっぱり俺らじゃあ勝てねえのか……」

丁度その時だった。

八が教室に戻ってきた。

「お前、いつの間に外に行ってたんだ?」

「ちょっと……」

八はポケットから消しゴムを取り出し、机の上に置いた。

「ほう、その消しゴムはまだ新しいな。だが、やはり初心者。おまえは『ケシバト』を全然わかっていない。」

ボスは八の消しゴムを指差した。

「ケースだよ。お前の消しゴムにはケースがない。ケースは机との摩擦を減らし、滑らかに動ける。ケース無しは俺でも扱いが難しい。ヘタに弾くと机から転がり落ちるぞ?」

八は軽く頷いた。

「いいよ。無くしたから。このままで。」

「ふん。まあせいぜい後悔するといいさ。」

先攻は八だ。

八は右手の指でデコピンの形を作ると、消しゴムの角の方を狙った。

「ほう?角から弾いて回転させる作戦だな?確かに回転させると転がるリスクは下がるが……」

八は力を思いっきり溜め、消しゴムを弾いた。

しかし、消しゴムは1cmも進まず、止まってしまった。

「ふはは。やはりその程度だったか。じゃあ、次はこっちの番だ。行け!『RHD2』!」

「あいつ消しゴム全部に名前つけてるぞ!」

ボスは、綺麗に並べられた消しゴムから、青いケースの消しゴムを選んだ。

デコピンの形を作り、力を溜める。

「実はケースがない消しゴムにもメリットがあるんだ。それは机との摩擦が大きい事。これはデメリットでもあり、メリットでもある。摩擦が大きいと動きにくいが、逆に負けにくいということでもある。しかし……」

ボスは消しゴムを弾いた。

「こっちには何体もいるんだ!こいつは所詮捨て駒さ!そうだろ?『SRML』!」

「あれ?さっきと名前ちがくね?」

青いケースの消しゴムは、八のむき出しの消しゴムに向かって真っすぐに飛んでいった。

「これで終わりだ!」

しかし、ボスの消しゴムは無残に弾き飛ばされ、ボスの頬をかすめて飛んでいった。

「……は?」

「うーん、力加減まちがえた。調節むずかしい。」

治は八に尋ねた。

「……お前……また……」

「うん。力を保存してきた。」

「うん。相変わらず何言ってるかわからんけども。」

先ほど教室から出ていった時、体育館で消しゴムを思いっきり投げ、エネルギーを溜めたという。

「バウンドしなかったら成功。床の板と板の間を狙うのがコツ。」

「いや知らんけど。」

八は『ケシバト』を続けた。

「次、僕の番。」

「いやまてまてまて!こんなやつ勝てるわけねえじゃん!おい!ハチ抜きでやろうぜ!」

「そうだなー。こんな遊びでガチになるとか冷めるわー。」

「今度こそボス倒そうぜ!」

「俺の無限戦艦『グレートドレッドノート』は破られまい。」

「だからさっきと名前ちがくね?」

八は彼らを呆然と眺めていた。

「…………」

治は冷静にツッコミを入れた。

「……負けたままだと悔しいんじゃないのかよ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

大衆娯楽小説 短編集

原口源太郎
大衆娯楽
現代を生きる人々のさまざまな物語。笑いあり感動あり涙ありのお話を書いていきます。

お漏らし・おしがま短編小説集 ~私立朝原女学園の日常~

赤髪命
大衆娯楽
小学校から高校までの一貫校、私立朝原女学園。この学校に集う女の子たちの中にはいろいろな個性を持った女の子がいます。そして、そんな中にはトイレの悩みを持った子たちも多いのです。そんな女の子たちの学校生活を覗いてみましょう。

【ショートショート】雨のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

三頭身オンライン~デフォルメキャラで行くVR世界~

太郎
大衆娯楽
リアル志向全盛期にあって、アバターが全て三頭身。そんな世界に可愛い物好きから色物好きまで様々なタイプの、ゲーマーが集う。主人公は三十路手前の会社員越智正利。初回出荷分を手にいれ損ねた彼は第二陣プレイヤーとして三頭身の世界に飛び込んだ。緩く優しく穏やかに、をモットーとする社会人ゲーマーが特に目標もなくゲームをするだけのお話。

徹夜でレポート間に合わせて寝落ちしたら……

紫藤百零
大衆娯楽
トイレに間に合いませんでしたorz 徹夜で書き上げたレポートを提出し、そのまま眠りについた澪理。目覚めた時には尿意が限界ギリギリに。少しでも動けば漏らしてしまう大ピンチ! 望む場所はすぐ側なのになかなか辿り着けないジレンマ。 刻一刻と高まる尿意と戦う澪理の結末はいかに。

処理中です...