上 下
2 / 4

第2話 無限増殖

しおりを挟む
「僕を殴って。」

バキッ!

「今じゃない。」

「なんだよ。殴れって言われたから殴ったのに。」

教室の隅ではちおさむが何かしている。

八は頬を押さえて座り込んでいる。

これを見つけたクラスのみんなが見物しに集まってきた。

「なんだなんだ?」

「喧嘩か?」

「え!?喧嘩!?」

八は首を横に振った。

「違う。」

「なんだぁ……ちがうのかぁ……」

集まったみんなはぞろぞろと散っていった。

「なんでみんな残念そうなんだよ。」

治は八の方を向いた。

「またなんかの実験か?どのタイミングで殴ればいいんだ?」

八は治に耳打ちした。

「まずロッカー側を歩いて、6番目で止まる。次にあの窓の方を見る。」

「あの窓?」

「うん、あの角度が一番いい。で、前転した後椅子を持ち上げる。その時に殴って。」

「椅子を持ち上げた後に殴ればいいんだな。」

「そのあと無を持ち上げる。」

「無!?なんて!?」

「まあ、後は見てのお楽しみ。」

「……わかった。失敗しても文句言うなよ。」



八は教室の後ろの入口側に移動した。

教室の後ろにはロッカーがあり、八は「1、2、3……」と数えながら、ロッカーの仕切りのちょうど6番目の位置で止まった。

そして、今の位置から目印となる窓を見つめ、前転を始めた。

そのときだった。

「八!危ない!」

教室を走り回っていたクラスメイトが、前転している八につまづいて転んでしまった。

その拍子に八は体勢を崩し、転んでしまった。

「大丈夫か!」

つまづいて転んだ子は腹を立てた。

「おい!こんなところで何してんだよ!ふざけんなよ!」

治は心配そうに八を見ている。

「おい……大丈夫かよ……」

「……大丈夫だ。」

八は両手でしっかりと無を抱えていた。

「なんか持ってるー!!いや、何も持ってないのか!!ややこしいな!!」

「ここで無を……」

八は両手で無を窓の外に放り投げた。

「すると、この服の中に――」

八は服の中を探ると、服の中から国語の教科書を手に取った。

「お前そんなところに教科書隠してたのか。」

再び服の中を探ると、またもや国語の教科書が出てきた。

「え!?2冊も!?」

服の中からどんどん国語の教科書を出し、机の上に置いていく。

「む……無限増殖だ!すげぇ!」

ふと、治は考え事をした。

「まてよ?これお金を増殖させれば……」

「それはだめ。お金はアイテムじゃない。」

「アイ……なんて!?」

八は国語の教科書を1冊手に取り、ある女の子に差し出した。

桑子という子だった。

「はい。忘れたんでしょ?」

「え?」

八は今朝、桑子がカバンの中を探して焦っているのを見ていた。

どうやら教科書を忘れていたようだった。

「あの……私が忘れたの算数……」

八は固まってしまった。

「あ、いいよ。ありがとう。隣に見せてもらうから気にしないで。」

八は治の方を振り向いた。

「もう一回やるぞ。」

「やだよ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大衆娯楽小説 短編集

原口源太郎
大衆娯楽
現代を生きる人々のさまざまな物語。笑いあり感動あり涙ありのお話を書いていきます。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

【ショートショート】雨のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

お漏らし・おしがま短編小説集 ~私立朝原女学園の日常~

赤髪命
大衆娯楽
小学校から高校までの一貫校、私立朝原女学園。この学校に集う女の子たちの中にはいろいろな個性を持った女の子がいます。そして、そんな中にはトイレの悩みを持った子たちも多いのです。そんな女の子たちの学校生活を覗いてみましょう。

フリー朗読台本

𝐒𝐀𝐘𝐀𝐊𝐀
エッセイ・ノンフィクション
これは、私の心に留まる言葉たち。 この言葉たちを、どうかあなたの声で生かしてあげて。 「誰かの心に残る朗読台本を。」 あなたの朗読が、たくさんの人の心に届きますように☽・:* この台本は、フリー朗読台本となっております。 商用等、ご自由にお使いください。 Twitter : history_kokolo アイコン : 牛様 ※こちらは有償依頼となります。 無断転載禁止です。

処理中です...