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第一幕 人形令嬢の一人舞台
側妃殿下と秘密のお茶会
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ドロシーは紅茶をテーブルに戻し、行儀よく首を振った。
「殿下には、よくして頂いています」
「隠さなくてもいいのよ!私のことは姉だと思って全部話して」
労わるようにドロシーの手に触れ、しゅんと肩を落とす。
「本当は、あなたにはルナールの婚約者になってほしかったのよ。なのに陛下が譲らなくて。でも、あなたから……ドロフォノス侯爵家からのお願いがあれば、きっと今の婚約をどうにかすることができると思うの」
「……側妃殿下のお気持ちは大変嬉しいのですが、わたくしどもは王陛下のご命令に従うまでです」
「命令だなんて……それでいいの?もう時間もないでしょう?このままあんな男と結婚するつもり?愛のない生活になるわ」
ドロシーは年が明ければ二十歳。それほど時を待たず、クロッドと結婚することになるだろう。それでラースカは焦っているようだった。
「私だってなんにも知らないわけじゃないのよ。いろんな噂をみんなが教えてくれるもの。義理の息子ながら恐ろしくなるほどよ。王妃様を死に追いやっただけじゃ飽き足らず、陛下をだまして貴女を婚約者に取り込んで、ルナールをいいように使って、ゆくゆく王になるなんて……!」
話しているうちに過熱してきたのか、ラースカは声を震わせて吐き捨てる。
「アイツさえいなければ……ッ!」
王妃殿下が亡くなったのはクロッドのせいではなく病だ。それに王陛下も考えがあってドロシーを婚約者にしている。ルナールが扱き使われているのは本人の希望もあるだろう。とは思ったが、ドロシーは口を挟まず神妙にしていた。
「ありがとうございます。妃殿下にこんなにも気にかけて頂けて光栄です」
冷静なままのドロシーを見て、ラースカは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「ごめんなさい、ちょっと言い過ぎちゃったわ。別に陛下の判断に不満があるわけじゃないのよ。王太子選定だってまだこれからだし。……今言ったことは内緒にしてちょうだいね」
ドロシーが頷くと、ラースカはにっこり微笑んだ。
「でも、これだけは伝えさせて。貴女の幸せを祈るひとりとして」
秘密を打ち明けるべくドロシーに顔を寄せる。
「ルナールは……あの子はね、貴女のことが好きなの」
彼女はとても恵まれているのだと、ドロシーは思う。
好きになった相手が王様で、向こうも自分を好きになってくれて、今は贅沢な生活を送っている。夢のような日々だろう。元伯爵家の末っ子お嬢様だったラースカは外見も若々しいが、中身もまだ若いままなのだ。本来、貴族同士の政略結婚に愛や恋なんて、叶わない夢でしかないのだから。
--------------
お気に入り登録やハートをありがとうございます!!
次回ようやくドロフォノス一家が登場します!前作をご覧の読者様は、ドロフォノスパパやママがお好きな方もいらっしゃるかも?(え?いらっしゃらない?)
お楽しみに~(*´ω`*)
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