52 / 55
豊穣と癒しの力
しおりを挟む
さる公爵令嬢は、不思議な夢を見た。
我が国で信仰している、豊穣と癒しの女神様が現れ、訪れる災いを教えてくれたのだ。
目が覚めた令嬢の手には、金色の神々しい紋章が浮かび上がっていた。
令嬢は、王太子の婚約者であり、国政だけでなく教会運営にも影響力のある公爵家の一人娘。祭主は、女神ディアマンティアナの冠に似た紋章を見て、「女神様からのお告げだ」と確信した。
お告げを授かった令嬢は大変聡明だったので、なんか……なんかちょっとしどろもどろだった女神のお告げを完璧に理解していた。
女神がぼんやりとした記憶を引っ張り出すように話す災いについて、登場した景色や太陽の方角から、落下時期と地点を完全に割り出すことができたのだ。
星の落ちる時期は、おそらく3年後の夏の終わり。
場所は、ダンジエール地方北の黒い森付近。別名、魔獣の森と呼ばれる場所だ。
祭主、王太子、公爵が、災いを回避すべく、王に様々な案を提示し、王はそれを了承した。
第二首都の準備、聖団による大規模守護魔法と回避術の構築、貴族や平民たちへの緩やかな周知、主要施設の強化、備蓄の確保、周辺国への連絡、天文学者たちによる更なる落下状況の割り出し、女神様への御礼。
人間たちは備えた。
そして、3年後。
夏の中旬から、ソレは遥か彼方に姿を現した。
はじめは小さく、だんだん大きく。
日に日に近づいてくる黒い点。
徐々に気温が上がり、地表は乾いて、水は枯れ果てた。大風が吹き荒れ、地上のものを根こそぎ持っていこうとした。
しかし、逃げ出す者は少なかった。
もはや燃える衣をまとった彗星が、目視できるほど近くにきても、みな女神を信じていた。
聖女も恐ろしくなかった。
流れる涙がすぐに乾くほどの熱波でも、女神様が付いている。
高台に新設された第二首都から、聖女は彗星を見上げていた。
はるか向こうに広がる真っ黒な森の上に、アレは落ちるはずだ。
平民は教会地下に作られた巨大な避難所でお互いを抱き合って息を潜め、王と妃、貴族らは王宮の防火室で国の重要品を守っている。
聖女と王太子、祭主率いる聖団、辺境伯、国中から集まった兵士たちは、固唾を飲んで落下の瞬間を待っていた。守護魔法の内側でなければ、目すら開けていられない熱さ。貫通した突風が、千切れそうなほど髪を吹き荒らす。
――くる。
直後、立っていられないほどの地鳴りとともに、彗星は黒い森へ――
『あッ!』
突然、聖女の頭の中で声がした。女神様だ。
「め、女神様!?どうしたんですか!?」
『じゅ、10万人きた!みんなのおかげだわ!ちょっと待って!コレも付与できる!』
聖女の中に、ふっとなにか温かいものが舞い降りた。
『めいっぱい使っちゃって!!』
「これって……!」
――豊穣と癒しの力。
我が国で信仰している、豊穣と癒しの女神様が現れ、訪れる災いを教えてくれたのだ。
目が覚めた令嬢の手には、金色の神々しい紋章が浮かび上がっていた。
令嬢は、王太子の婚約者であり、国政だけでなく教会運営にも影響力のある公爵家の一人娘。祭主は、女神ディアマンティアナの冠に似た紋章を見て、「女神様からのお告げだ」と確信した。
お告げを授かった令嬢は大変聡明だったので、なんか……なんかちょっとしどろもどろだった女神のお告げを完璧に理解していた。
女神がぼんやりとした記憶を引っ張り出すように話す災いについて、登場した景色や太陽の方角から、落下時期と地点を完全に割り出すことができたのだ。
星の落ちる時期は、おそらく3年後の夏の終わり。
場所は、ダンジエール地方北の黒い森付近。別名、魔獣の森と呼ばれる場所だ。
祭主、王太子、公爵が、災いを回避すべく、王に様々な案を提示し、王はそれを了承した。
第二首都の準備、聖団による大規模守護魔法と回避術の構築、貴族や平民たちへの緩やかな周知、主要施設の強化、備蓄の確保、周辺国への連絡、天文学者たちによる更なる落下状況の割り出し、女神様への御礼。
人間たちは備えた。
そして、3年後。
夏の中旬から、ソレは遥か彼方に姿を現した。
はじめは小さく、だんだん大きく。
日に日に近づいてくる黒い点。
徐々に気温が上がり、地表は乾いて、水は枯れ果てた。大風が吹き荒れ、地上のものを根こそぎ持っていこうとした。
しかし、逃げ出す者は少なかった。
もはや燃える衣をまとった彗星が、目視できるほど近くにきても、みな女神を信じていた。
聖女も恐ろしくなかった。
流れる涙がすぐに乾くほどの熱波でも、女神様が付いている。
高台に新設された第二首都から、聖女は彗星を見上げていた。
はるか向こうに広がる真っ黒な森の上に、アレは落ちるはずだ。
平民は教会地下に作られた巨大な避難所でお互いを抱き合って息を潜め、王と妃、貴族らは王宮の防火室で国の重要品を守っている。
聖女と王太子、祭主率いる聖団、辺境伯、国中から集まった兵士たちは、固唾を飲んで落下の瞬間を待っていた。守護魔法の内側でなければ、目すら開けていられない熱さ。貫通した突風が、千切れそうなほど髪を吹き荒らす。
――くる。
直後、立っていられないほどの地鳴りとともに、彗星は黒い森へ――
『あッ!』
突然、聖女の頭の中で声がした。女神様だ。
「め、女神様!?どうしたんですか!?」
『じゅ、10万人きた!みんなのおかげだわ!ちょっと待って!コレも付与できる!』
聖女の中に、ふっとなにか温かいものが舞い降りた。
『めいっぱい使っちゃって!!』
「これって……!」
――豊穣と癒しの力。
430
あなたにおすすめの小説
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
私の、虐げられていた親友の幸せな結婚
オレンジ方解石
ファンタジー
女学院に通う、女学生のイリス。
彼女は、親友のシュゼットがいつも妹に持ち物や見せ場を奪われることに怒りつつも、何もできずに悔しい思いをしていた。
だがある日、シュゼットは名門公爵令息に見初められ、婚約する。
「もう、シュゼットが妹や両親に利用されることはない」
安堵したイリスだが、親友の言葉に違和感が残り…………。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる