40 / 55
燃え落ちる花盛りの屋敷 ※王子主軸
しおりを挟む
ユースレスは息を切らせながら、王宮の階段を駆け上がる。
最上階まで辿り着くと、窓を大きく開いた。
いつもなら美しく刈り込まれた大庭園が眼下に広がり、さらに向こうには王都の家々や教会の尖塔が臨めるはずだった。
しかし、今の王都は、不気味な薄靄のヴェールに閉じ込められ、あちこちから黒煙が上がっていた。
――あの中のどれかが……リュゼ公爵邸なのか……?
まだ春先だというのに、モルテの屋敷は花盛りだったそうだ。満開の花々はすべて火災で燃え落ちたという。
『ユースを支える後ろ盾に』
そう言って頬を染めた横顔。最後は目も合わさずに別れた初恋の従妹。
「イ、イルミテラ……うあ、ああ……」
窓から離れ、耳を塞いでその場にうずくまる。
「ウソだ、こんなのウソだ。悪い夢だ。早く覚めてくれえ……!」
何度も祈ったが、やはり悪い夢でも幻覚でもなかった。
翌日、ごくわずかな人数で母を見送り、そのさらに翌日には辺境伯に連れられて、ユースレスは追い出されるように王宮を後にした。
父王は会議で見せた息子の浅慮さに失望したろうが、それでも父親らしく「しっかりやれ」と短く励ましをよこした。
「ご心配めさるな、王子。魔獣どもを御しきるまで、しばしの別れよ」
王都を離れる馬車の中で、辺境伯はそう言って、号泣するユースレスを不器用に慰める。愛する人を失ったという己と同じ境遇に共感してか、態度からは刺々しさが消えていた。
父、家臣、王宮、教会、輝かしい王都。
ユースレスは、目に焼き付ける思いで、車窓を流れゆく王都を見つめた。もう二度とここに戻ってこられないかもしれない。そう思って、道に落ちた古長靴の色まで脳裏に刻み込んだ。
――しかし、そのわずか4ヶ月後。
ユースレスは再び王都に戻って来た。右足と辺境伯を失った姿で。
最上階まで辿り着くと、窓を大きく開いた。
いつもなら美しく刈り込まれた大庭園が眼下に広がり、さらに向こうには王都の家々や教会の尖塔が臨めるはずだった。
しかし、今の王都は、不気味な薄靄のヴェールに閉じ込められ、あちこちから黒煙が上がっていた。
――あの中のどれかが……リュゼ公爵邸なのか……?
まだ春先だというのに、モルテの屋敷は花盛りだったそうだ。満開の花々はすべて火災で燃え落ちたという。
『ユースを支える後ろ盾に』
そう言って頬を染めた横顔。最後は目も合わさずに別れた初恋の従妹。
「イ、イルミテラ……うあ、ああ……」
窓から離れ、耳を塞いでその場にうずくまる。
「ウソだ、こんなのウソだ。悪い夢だ。早く覚めてくれえ……!」
何度も祈ったが、やはり悪い夢でも幻覚でもなかった。
翌日、ごくわずかな人数で母を見送り、そのさらに翌日には辺境伯に連れられて、ユースレスは追い出されるように王宮を後にした。
父王は会議で見せた息子の浅慮さに失望したろうが、それでも父親らしく「しっかりやれ」と短く励ましをよこした。
「ご心配めさるな、王子。魔獣どもを御しきるまで、しばしの別れよ」
王都を離れる馬車の中で、辺境伯はそう言って、号泣するユースレスを不器用に慰める。愛する人を失ったという己と同じ境遇に共感してか、態度からは刺々しさが消えていた。
父、家臣、王宮、教会、輝かしい王都。
ユースレスは、目に焼き付ける思いで、車窓を流れゆく王都を見つめた。もう二度とここに戻ってこられないかもしれない。そう思って、道に落ちた古長靴の色まで脳裏に刻み込んだ。
――しかし、そのわずか4ヶ月後。
ユースレスは再び王都に戻って来た。右足と辺境伯を失った姿で。
533
お気に入りに追加
1,064
あなたにおすすめの小説
酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。
子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。
ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。
それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
【完結】私から奪っていく妹にさよならを
横居花琉
恋愛
妹のメラニーに物を奪われたジャスミン。
両親はメラニーを可愛がり、ジャスミンに我慢するように言った。
やがて婚約者ができたジャスミンだったが、メラニーは婚約者も奪った。
私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果
柚木ゆず
恋愛
※4月27日、本編完結いたしました。明日28日より、番外編を投稿させていただきます。
姉マリエットの宝物を奪うことを悦びにしている、妹のミレーヌ。2人の両親はミレーヌを溺愛しているため咎められることはなく、マリエットはいつもそんなミレーヌに怯えていました。
ですが、ある日。とある出来事によってマリエットがミレーヌに宝物を全てあげると決めたことにより、2人の人生は大きく変わってゆくのでした。
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
国王陛下に激怒されたから、戻って来てくれと言われても困ります
ルイス
恋愛
伯爵令嬢のアンナ・イグマリオはルード・フィクス公爵から婚約破棄をされる。
理由は婚約状態で身体を差し出さないなら必要ないという身勝手極まりないもの。
アンナは彼の屋敷から追放されてしまうが、その後はとんでもないことが起きるのだった。
アンナに片想いをしていた、若き国王陛下はルードに激怒した。ルードは恐怖し、少しでも国王陛下からの怒りを抑える為に、アンナに謝罪しながら戻って来て欲しいと言うが……。
運命の歯車はこの辺りから正常に動作しなくなっていく。
10年前にわたしを陥れた元家族が、わたしだと気付かずに泣き付いてきました
柚木ゆず
恋愛
今から10年前――わたしが12歳の頃、子爵令嬢のルナだった頃のことです。わたしは双子の姉イヴェットが犯した罪を背負わされ、ルナの名を捨てて隣国にある農園で第二の人生を送ることになりました。
わたしを迎え入れてくれた農園の人達は、優しく温かい人ばかり。わたしは新しい家族や大切な人に囲まれて10年間を楽しく過ごし、現在は副園長として充実した毎日を送っていました。
ですが――。そんなわたしの前に突然、かつて父、母、双子の姉だった人が現れたのです。
「「「お願い致します! どうか、こちらで働かせてください!」」」
元家族たちはわたしに気付いておらず、やけに必死になって『住み込みで働かせて欲しい』と言っています。
貴族だった人達が護衛もつけずに、隣の国でこんなことをしているだなんて。
なにがあったのでしょうか……?
余命わずかな私は家族にとって邪魔なので死を選びますが、どうか気にしないでくださいね?
日々埋没。
恋愛
昔から病弱だった侯爵令嬢のカミラは、そのせいで婚約者からは婚約破棄をされ、世継ぎどころか貴族の長女として何の義務も果たせない自分は役立たずだと思い悩んでいた。
しかし寝たきり生活を送るカミラが出来ることといえば、家の恥である彼女を疎んでいるであろう家族のために自らの死を願うことだった。
そんなある日願いが通じたのか、突然の熱病で静かに息を引き取ったカミラ。
彼女の意識が途切れる最後の瞬間、これで残された家族は皆喜んでくれるだろう……と思いきや、ある男性のおかげでカミラに新たな人生が始まり――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる