上 下
24 / 55

無人の王宮 ※王子主軸

しおりを挟む
ユースレスにとって、これまでの人生で一番長い夜が明けた。

身体が泥のように重く、喉がやけに乾き、頭が痛い。ベッドに入る前より疲れていた。寝た気はしなかったが、知らない間に眠っていたのだろう。窓を見れば、太陽はすでに中天に上っている。

「おいおい、なんで誰も起こしに来ないんだ」

ユースレスは乱暴にベルを鳴らした。そうすれば、侍女が顔を洗う湯や着替えを持ってきてくれるはずだった。昨日までは。

「……遅いな……何をやってるんだ」

待っても待っても誰も来ない。力任せにもう一度ベルを振ったが、結果は同じ。

ユースレスはベッドから出て、扉を開け、廊下をのぞいた。長い廊下は薄暗く、等間隔に窓から差し込む陽光だけがいつも通りで、あたりは恐ろしく静かだった。

「誰かいないのか?」

ユースレスの声がむなしく反響する。足音も、話し声も聞こえない。

ぐうと腹が鳴った。昨日は夕食も食べずに、着替えだけして気絶するようにベッドに入ったのだ。

仕方なく、ユースレスは人の姿を探しに、長い廊下へ踏み出した。

普段は花がたっぷり生けられている異国の花瓶や、金の額縁にはめ込まれた絵画が無いことに気付かず、廃墟のような王宮をずんずん歩く。

曲がり角まで来て、思わず足を止めた。

「な、なんだこれは……」

廊下中に、ぐちゃぐちゃになったシーツや枕の中身だと思われる羽毛、下着などが散らばっていたのだ。王妃の部屋の近くだったので、母が戻って来たのかとユースレスは、開いていた扉から部屋を覗き込む。

部屋の惨状は、廊下よりもひどかった。

クローゼットは全開で、すべての引き出しが床に放り出され、大粒の輝石がはめこまれていた宝石箱が、表面の宝石だけえぐりとられて壊されていた。中身はもちろんない。

あきらかに荒らされた跡だった。

「なんと浅ましい!王宮に盗人がいるぞ!おい!衛兵ども!なにをしてるんだ!王妃の私室に泥棒が入り込んでいるぞ!」

声を張り上げたが、やはり誰も駆けつけて来ず、嫌な静けさが返ってくるだけ。

そうして、ユースレスはやっと気付いた。
みんな王宮から金目の物だけ持って、逃げ出したのだということを。





-----------
ハートいっぱいありがとうございます!大事に食べます!(食うな)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

第二の人生、公爵令嬢として頑張りますぅ?

as
ファンタジー
闘病生活の末、家族に見守られ息を引き取ったら、重症の公爵令嬢サウスリアナとして目覚めた。何一つわからない中、公爵令嬢が残した日記を頼りに第二の人生をしぶとく生きます!

余命わずかな私は家族にとって邪魔なので死を選びますが、どうか気にしないでくださいね?

日々埋没。
恋愛
 昔から病弱だった侯爵令嬢のカミラは、そのせいで婚約者からは婚約破棄をされ、世継ぎどころか貴族の長女として何の義務も果たせない自分は役立たずだと思い悩んでいた。  しかし寝たきり生活を送るカミラが出来ることといえば、家の恥である彼女を疎んでいるであろう家族のために自らの死を願うことだった。  そんなある日願いが通じたのか、突然の熱病で静かに息を引き取ったカミラ。  彼女の意識が途切れる最後の瞬間、これで残された家族は皆喜んでくれるだろう……と思いきや、ある男性のおかげでカミラに新たな人生が始まり――!?

家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした

桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。 彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。 そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。 そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。 すると、予想外な事態に発展していった。 *作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

婚約破棄を告げた瞬間に主神を祀る大聖堂が倒壊しました〜神様はお怒りのようです〜

和歌
ファンタジー
「アリシア・フィルハーリス、君の犯した罪はあまりに醜い。今日この場をもって私レオン・ウル・ゴルドとアリシア・フィルハーリスの婚約破棄を宣言する──」  王宮の夜会で王太子が声高に告げた直後に、凄まじい地響きと揺れが広間を襲った。 ※恋愛要素が薄すぎる気がするので、恋愛→ファンタジーにカテゴリを変更しました(11/27) ※感想コメントありがとうございます。ネタバレせずに返信するのが難しい為、返信しておりませんが、色々予想しながら読んでいただけるのを励みにしております。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

処理中です...