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混乱する王都
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「ユースレス王子!こちらの馬車の中へ!お早くッ!」
中央広場は混乱が続いていた。
殺気だった民衆たちにより、処刑台はすでに破壊されている。王族席の天幕に火が付けられたが、再び降り始めた雨によって燃え広がらずに済んだ。
ユースレスとイルミテラは騎士たちに守られながら、息も絶え絶えに王宮へと逃げ込んでいた。
馬車で逃げる道すがらも、家々から民が飛び出してきて、雨空にむかって謝っていた。女神の言った通り、広場にいない者たちにも今回の顛末は届いていたのだ。
平穏な王都は、狂乱の渦中となり果てた。
幸い、王宮の中はまだそこまで混乱していなかった。
いつもより人が少なく、使用人たちの表情は浮かないものの、やっと見慣れた場所に戻ってきてユースレスは一息ついた。悪い夢でも見ているようだ。
一緒に談話室に来てから、ずっと黙ったきりのイルミテラを覗き込む。雨に濡れて顔に張り付く白髪やうつろな目が幽霊みたいだ。
「イルミテラ、大丈夫かい?ここまでは誰も来られない。もう安心だよ」
「……安心なわけないじゃない……このままじゃ、みんな……」
そう消え入りそうな声で言ったイルミテラは、両手で顔を覆った。
「みんな死ぬわ……ッ!わ、わたくしたちの身勝手な願いのせいで……ッ!」
ぎょっとしてユースレスは、身を引いた。
「たちって、なんだよ……公開処刑の案は君が……」
俯いていたイルミテラが顔を上げ、ユースレスをキッと睨んだ。鬼気迫る形相だった。
「わたくしだけのせいだと言うのッ!?貴方だって賛成したじゃない!!」
「待てって!落ち着けよ!お互いこんなことになるとは思わなかった!だろ?でも、そもそも、そういう計画だったじゃないか!ディアがいなくなっても上手く回るようにするため、綿密な計画を立てたんだ!確かに、疫病も、災害も恐ろしいよ!でも、逆に言えば先に分かっただけでもラッキーじゃないか!あとは対策をたてるだけ!疫病なら衛生管理、災害なら防止策を考えよう!」
イルミテラは、能面のような顔で口を噤んだ。
「それに、『もう助けられない』なんて言ってたけど、本当に私たちが困ったとき、ディアはきっと手を貸してくれるよ。私には分かる。なんてったって婚約者だからね」
ユースレスの楽観や余裕は、そこからきているのだ。自分は結婚を望まれるくらい女神に愛されていた。今後もきっとなんとかしてくれるだろうという、根拠のない自信。
「……ユースレス殿下、あのお方は女神ディアマンティアナ様です。軽率に愛称を呼ぶのはお控えください。今は婚約者でもなんでもない。わたくしたちはあの御方を処刑しようとした大罪人です。助けてもらえるとは思えません」
「そんな、大げさな。ディアは怒っていなかったよ。のんびり屋なんだ」
「……とにかく、わたくしは公爵家に戻ります。家族の顔を見るまでは安心できません」
ユースレスは不安になった。父と母が戻ってくるまでは、ひとりになる。できれば一緒にいてほしいが、今のイルミテラはちょっと怖い。落ち着くまでは帰した方がいいだろう。
「わかったよ。じゃあ気をつけて」
「ええ、殿下も」
これが、ふたりの交わした最後の会話になった。
中央広場は混乱が続いていた。
殺気だった民衆たちにより、処刑台はすでに破壊されている。王族席の天幕に火が付けられたが、再び降り始めた雨によって燃え広がらずに済んだ。
ユースレスとイルミテラは騎士たちに守られながら、息も絶え絶えに王宮へと逃げ込んでいた。
馬車で逃げる道すがらも、家々から民が飛び出してきて、雨空にむかって謝っていた。女神の言った通り、広場にいない者たちにも今回の顛末は届いていたのだ。
平穏な王都は、狂乱の渦中となり果てた。
幸い、王宮の中はまだそこまで混乱していなかった。
いつもより人が少なく、使用人たちの表情は浮かないものの、やっと見慣れた場所に戻ってきてユースレスは一息ついた。悪い夢でも見ているようだ。
一緒に談話室に来てから、ずっと黙ったきりのイルミテラを覗き込む。雨に濡れて顔に張り付く白髪やうつろな目が幽霊みたいだ。
「イルミテラ、大丈夫かい?ここまでは誰も来られない。もう安心だよ」
「……安心なわけないじゃない……このままじゃ、みんな……」
そう消え入りそうな声で言ったイルミテラは、両手で顔を覆った。
「みんな死ぬわ……ッ!わ、わたくしたちの身勝手な願いのせいで……ッ!」
ぎょっとしてユースレスは、身を引いた。
「たちって、なんだよ……公開処刑の案は君が……」
俯いていたイルミテラが顔を上げ、ユースレスをキッと睨んだ。鬼気迫る形相だった。
「わたくしだけのせいだと言うのッ!?貴方だって賛成したじゃない!!」
「待てって!落ち着けよ!お互いこんなことになるとは思わなかった!だろ?でも、そもそも、そういう計画だったじゃないか!ディアがいなくなっても上手く回るようにするため、綿密な計画を立てたんだ!確かに、疫病も、災害も恐ろしいよ!でも、逆に言えば先に分かっただけでもラッキーじゃないか!あとは対策をたてるだけ!疫病なら衛生管理、災害なら防止策を考えよう!」
イルミテラは、能面のような顔で口を噤んだ。
「それに、『もう助けられない』なんて言ってたけど、本当に私たちが困ったとき、ディアはきっと手を貸してくれるよ。私には分かる。なんてったって婚約者だからね」
ユースレスの楽観や余裕は、そこからきているのだ。自分は結婚を望まれるくらい女神に愛されていた。今後もきっとなんとかしてくれるだろうという、根拠のない自信。
「……ユースレス殿下、あのお方は女神ディアマンティアナ様です。軽率に愛称を呼ぶのはお控えください。今は婚約者でもなんでもない。わたくしたちはあの御方を処刑しようとした大罪人です。助けてもらえるとは思えません」
「そんな、大げさな。ディアは怒っていなかったよ。のんびり屋なんだ」
「……とにかく、わたくしは公爵家に戻ります。家族の顔を見るまでは安心できません」
ユースレスは不安になった。父と母が戻ってくるまでは、ひとりになる。できれば一緒にいてほしいが、今のイルミテラはちょっと怖い。落ち着くまでは帰した方がいいだろう。
「わかったよ。じゃあ気をつけて」
「ええ、殿下も」
これが、ふたりの交わした最後の会話になった。
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