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本番はこれから

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女神が「え~い!」と手を一振りすると、金の空に巨大な映像が転写された。

ついついと指を動かし、映像を選んでいく。

「コレ見て!ほら!今年の夏に未知の疫病が流行っちゃうの!」

口から紫色になった舌を垂らして、身体中白カビに覆われたような人々の亡骸が、山のように積み上げられて燃やされている光景。

「で、同じ年の秋は長雨で作物が全然取れなくて、運河が大氾濫!」

痛々しく腐った作物。痩せ細った家族が、木の根をかじっている姿。有名な教会が斜めになって、黒い泥の中に沈んでいる様が映し出される。

「あと、冬には大規模な雪嵐がきて、その影響で魔獣も大量発生しちゃうの!今度こそ、この国は滅んでしまうって予知夢を見ちゃったわけ!それで、他にもちっちゃい災害があったから、5年前から下界に降りてコッソリ潰してたんだけど……なのよね~!」

――本番は、これから……?

その言葉の不吉さに、その場にいた誰もがおののいた。

「でも、聖女が来たからには、もう安心!こんな奇跡は、わたしの予知になかったんだけど、偉大なる主神の思し召しかもしれないわ!」

予知で知ったのは、女神がディアとして現れる前の世界。
ディアが現れたから、ユースレスの婚約者の座はなくなった。その座が欲しくてイルミテラは嘘をついた。だから、予知に聖女は現れなかったのだ。

本物の聖女であれば、ディアがいようがいまいが予知に登場したはずだ。

でも、無垢な女神はそんなこと考えもしない。自分の予知の精度がイマイチだったのだと軽く思い込んでいた。

「そういうわけだから、最後に会えてよかった~!ちょっとの間だったけど、恋のライバルだったわたしのこと忘れないでよ!ユースレス様とお幸せにね!」

女神は拳を握り「ファイト!オー!」と応援してみたが、イルミテラは顔面蒼白のままだった。はくはくとエサを求める鯉のように口を動かしている。過呼吸寸前だった。

――ちがうんです。わたくしは聖女じゃない。大災害も未知の疫病も退けられません。どうか助けて。

でも、もう女神はイルミテラを見ていない。「下界で飛ぶのなんて、いつぶりかしら?」などと言いながら、ぐるぐると肩を回していた。
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