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第6章
01 その後(1)
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二人だけの時間になると思っていたウエストリアへの移動は、思った以上に面倒な時間になった。
領地に戻れば仕方ないとしても、それまでは街道沿いの宿に泊まる予定で、通行の許可は取っていても、土地を治める貴族達に会う予定は無かった。
だが、こちらに予定が無くても、会いに来られれば会わない訳にはいかず、のんびり進もうとしているのに、近隣の貴族達まで押し掛けて来る様では道を急ぐしかない。
おまけにその目的が、リディア以上にザィード様にあるのだから放っておく事も出来ない。
魔鉱石は、魔力を使うためにとても有効で、多くの魔鉱石を持つ事は、多くの武器を持つのと同じ意味がある。
ガルスはエルメニア国との交易しかしておらず、個々の貴族達との交渉は無い。
王都でしか会えなかったその国の王子がいれば、恩を売ろうとする者から、何か利にならないかと考える者まで、砂糖に群がる蟻の様にやって来る。
最初は何とか逃げていても、移動中に馬を並走して来たり、途中で昼食だ、お茶だと場所を準備して待たれては始末に負えない。
初めから予測して動いていれば何とかなった事でも、こうなってしまうと全てが後手になる。
本当に面倒な人だわ。
父がこの状況を予測出来ないはずがなく、分かっていて教えてくれないのだから本当に質が悪い。
「ジャルド、ここから行ける距離に隠れる場所は無い?」
「そっすね~、丁度いい所があるっすけど、馬車では無理っすよ」
「大丈夫よ。どのくらいで行けるの?」
「早朝に出発して、日が落ちる頃ギリギリってとこっすね」
「最低の人数で早朝に出るわ、みんなに伝えてくれる?」
「逃げるっすか?」
「三十六計逃げるが勝ちよ」
「ハハッ」
ジャルドがえらく楽しそうに笑う。
嫌だわ、ここにも同じ様な人がいる。ジャルドはお父様の下で働き過ぎて、ちょっと似てきたのでは無いかしら?
「お嬢、それ間違ってるっすよ」
「知っているわよ」
「了解っす」
「ありがとう、お願いね」
ジャルドが手を振り、笑いながら部屋を出て行く。
ザィード様は自分の事やガルスについて過小評価している所がある。
魔道具を使わない彼等は、魔鉱石を有する国がエルメニアにとってどれ程の価値があるか分かっていない。
これは恋人が出来て浮かれている娘に、今後の事を知っておけと言う父からの教訓だ、馬での移動は辛いだろうが、多少体調が悪くなっても仕方がない。
話を聞いていたロニが、荷物の中から必要な物だけ選び出してくれる。
「ロニ、誰かの馬に乗って貰う事になるけれど、付いて来て貰える?」
「まぁ、当然ではありませんか」
「ありがとう、助かるわ」
「私の事より、殿下の心配をされた方がよろしいですよ。お嬢様が馬で移動なさるのをお許しになるとは思えません」
「そうねぇ」
ロニと話が終わった頃、眉間に皺を寄せた人が部屋にやって来る。
彼が私を心配しているだけなのは分かっているので、彼に分かって貰えるようお願いするしか無い。
それに今のままでは、いつまで経っても二人だけになる事も出来ない。
領地に戻れば仕方ないとしても、それまでは街道沿いの宿に泊まる予定で、通行の許可は取っていても、土地を治める貴族達に会う予定は無かった。
だが、こちらに予定が無くても、会いに来られれば会わない訳にはいかず、のんびり進もうとしているのに、近隣の貴族達まで押し掛けて来る様では道を急ぐしかない。
おまけにその目的が、リディア以上にザィード様にあるのだから放っておく事も出来ない。
魔鉱石は、魔力を使うためにとても有効で、多くの魔鉱石を持つ事は、多くの武器を持つのと同じ意味がある。
ガルスはエルメニア国との交易しかしておらず、個々の貴族達との交渉は無い。
王都でしか会えなかったその国の王子がいれば、恩を売ろうとする者から、何か利にならないかと考える者まで、砂糖に群がる蟻の様にやって来る。
最初は何とか逃げていても、移動中に馬を並走して来たり、途中で昼食だ、お茶だと場所を準備して待たれては始末に負えない。
初めから予測して動いていれば何とかなった事でも、こうなってしまうと全てが後手になる。
本当に面倒な人だわ。
父がこの状況を予測出来ないはずがなく、分かっていて教えてくれないのだから本当に質が悪い。
「ジャルド、ここから行ける距離に隠れる場所は無い?」
「そっすね~、丁度いい所があるっすけど、馬車では無理っすよ」
「大丈夫よ。どのくらいで行けるの?」
「早朝に出発して、日が落ちる頃ギリギリってとこっすね」
「最低の人数で早朝に出るわ、みんなに伝えてくれる?」
「逃げるっすか?」
「三十六計逃げるが勝ちよ」
「ハハッ」
ジャルドがえらく楽しそうに笑う。
嫌だわ、ここにも同じ様な人がいる。ジャルドはお父様の下で働き過ぎて、ちょっと似てきたのでは無いかしら?
「お嬢、それ間違ってるっすよ」
「知っているわよ」
「了解っす」
「ありがとう、お願いね」
ジャルドが手を振り、笑いながら部屋を出て行く。
ザィード様は自分の事やガルスについて過小評価している所がある。
魔道具を使わない彼等は、魔鉱石を有する国がエルメニアにとってどれ程の価値があるか分かっていない。
これは恋人が出来て浮かれている娘に、今後の事を知っておけと言う父からの教訓だ、馬での移動は辛いだろうが、多少体調が悪くなっても仕方がない。
話を聞いていたロニが、荷物の中から必要な物だけ選び出してくれる。
「ロニ、誰かの馬に乗って貰う事になるけれど、付いて来て貰える?」
「まぁ、当然ではありませんか」
「ありがとう、助かるわ」
「私の事より、殿下の心配をされた方がよろしいですよ。お嬢様が馬で移動なさるのをお許しになるとは思えません」
「そうねぇ」
ロニと話が終わった頃、眉間に皺を寄せた人が部屋にやって来る。
彼が私を心配しているだけなのは分かっているので、彼に分かって貰えるようお願いするしか無い。
それに今のままでは、いつまで経っても二人だけになる事も出来ない。
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