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第4章
09 精霊の国(2)
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「なら、その王様に会いに行きましょう」
「それは、もう少し休んでから」
「王様は、忙しいから」
止めようとするけれど、おじ様が父ほど時間をかける人では無いことも知っている。
「王様が私を連れて来たなら、ちゃんと挨拶したいわ。それに、王様も私に会うべきだと思うわ。ねぇ、お願い」
どうも彼女達は、お願いに弱い。
命令すればそれ以上に、とは言え彼女達を従わせたいわけではないので、にっこり笑ってお願いする。
そうして、行きましょうと歩き始めると、彼女達も案内してくれる。
「アイリーン、良く来た、待っていたぞ」
金色の髪と瞳を持つ人が、私では無い人を歓迎している。
「貴方が精霊の王様ですか?」
「そうだ、アイリーン」
「王様、私は、アイリーン様ではありません」
「何を言っている、お前は、人の世界にいた為に忘れてしまっただけだ。ゆっくり休めばいい、ここにいればそのうち思いだすだろう」
精霊の王は譲らないが、こちらも譲るわけにはいかない。
「王様、ちゃんと見て下さい。何百年も前に居なくなった人を探さないで、王様だって、本当は分かっているでしょう?」
「そんなはずは無い、私は、ずっと待っていたのだ、娘が帰って来るのを、ただそれだけを」
「そのままずっと現実を見て下さらなければ、誰にも会えないわ。それに、私だって何時までもここにいられない」
「ダメだ。出て行くことは許さない、絶対にだ」
ここにいる? 彼と離れて?
自分を少し困ったように見つめる菫色の瞳を思い出す、壊れ物のようにそっとふれるその感覚を。
「王様、私はここで他人のふりをして生きていくなんて出来ないわ。私はそんなに優しくないし、強くもありません。
ここに無理矢理繋ぎ止められてしまえば、きっと心が壊れてしまうわ、王様は本当にそんな娘と一緒に居たいのですか?」
「また居なくなるのか? 私はまた失ってしまうのか?」
「王様が、現実をちゃんと見て下されば、また会えますわ」
「会える?」
「はい、今回のようにいきなり連れて来られては困りますけれど、最初から分かっていれば、また会いに来ます」
「会いに来るのか?」
「ふふっ、そうですね、私に子どもが産まれたら、その子どもと一緒に来ることにします。
そうしてそれがずっと続く限り、王様に会いに来ます。そうすれば、また会うことができますわ」
「また、会えると?」
「はい、必ず」
そう言って、にっこりと笑う。
良く似ている。
アイリーンもこうして私の目を見て良く笑った。
あの時、許せば良かったのか、人の世界に行くと言った娘に、また会いに来いと言えば良かったのか。
「分かった。では、お前は、二度会いに来るのだな?」
「二度?」
「そうだ、其方の側に、、、」
「待って、それ以上は言わないで」
「分かった、楽しみにしているが、、、お前はもう帰るのか?」
「王様、貴方が私を急に連れて来てしまったので、残された人が怒っているんです。私が帰らないと、この辺りの島が無くなってしまいます」
「仕方ない。リディアだったな、また会おう」
「はい、必ず」
王様と約束して彼と別れると、ヒューイと呼ばれた、自分にとても良く似た人が手を差し伸べる。
「ご案内します」
「ありがとうございます」
そうして、不思議な世界から、いつもの場所に戻る。
私を待っている人の所へ。
「よく帰って来たね」
エリスおじ様が、迎えてくれる。
「おじ様、ちょっと疲れました」
私を連れ帰ったヒューイと呼ばれた人と、エリスおじ様が、とっても険悪な雰囲気なのは気になるけれど、なんだかとっても眠りたい。
『眠って下さい』
ロニの言葉に従って意識を手離す。今度も彼女の言葉が正しいと良いのだけれど、、、
「それは、もう少し休んでから」
「王様は、忙しいから」
止めようとするけれど、おじ様が父ほど時間をかける人では無いことも知っている。
「王様が私を連れて来たなら、ちゃんと挨拶したいわ。それに、王様も私に会うべきだと思うわ。ねぇ、お願い」
どうも彼女達は、お願いに弱い。
命令すればそれ以上に、とは言え彼女達を従わせたいわけではないので、にっこり笑ってお願いする。
そうして、行きましょうと歩き始めると、彼女達も案内してくれる。
「アイリーン、良く来た、待っていたぞ」
金色の髪と瞳を持つ人が、私では無い人を歓迎している。
「貴方が精霊の王様ですか?」
「そうだ、アイリーン」
「王様、私は、アイリーン様ではありません」
「何を言っている、お前は、人の世界にいた為に忘れてしまっただけだ。ゆっくり休めばいい、ここにいればそのうち思いだすだろう」
精霊の王は譲らないが、こちらも譲るわけにはいかない。
「王様、ちゃんと見て下さい。何百年も前に居なくなった人を探さないで、王様だって、本当は分かっているでしょう?」
「そんなはずは無い、私は、ずっと待っていたのだ、娘が帰って来るのを、ただそれだけを」
「そのままずっと現実を見て下さらなければ、誰にも会えないわ。それに、私だって何時までもここにいられない」
「ダメだ。出て行くことは許さない、絶対にだ」
ここにいる? 彼と離れて?
自分を少し困ったように見つめる菫色の瞳を思い出す、壊れ物のようにそっとふれるその感覚を。
「王様、私はここで他人のふりをして生きていくなんて出来ないわ。私はそんなに優しくないし、強くもありません。
ここに無理矢理繋ぎ止められてしまえば、きっと心が壊れてしまうわ、王様は本当にそんな娘と一緒に居たいのですか?」
「また居なくなるのか? 私はまた失ってしまうのか?」
「王様が、現実をちゃんと見て下されば、また会えますわ」
「会える?」
「はい、今回のようにいきなり連れて来られては困りますけれど、最初から分かっていれば、また会いに来ます」
「会いに来るのか?」
「ふふっ、そうですね、私に子どもが産まれたら、その子どもと一緒に来ることにします。
そうしてそれがずっと続く限り、王様に会いに来ます。そうすれば、また会うことができますわ」
「また、会えると?」
「はい、必ず」
そう言って、にっこりと笑う。
良く似ている。
アイリーンもこうして私の目を見て良く笑った。
あの時、許せば良かったのか、人の世界に行くと言った娘に、また会いに来いと言えば良かったのか。
「分かった。では、お前は、二度会いに来るのだな?」
「二度?」
「そうだ、其方の側に、、、」
「待って、それ以上は言わないで」
「分かった、楽しみにしているが、、、お前はもう帰るのか?」
「王様、貴方が私を急に連れて来てしまったので、残された人が怒っているんです。私が帰らないと、この辺りの島が無くなってしまいます」
「仕方ない。リディアだったな、また会おう」
「はい、必ず」
王様と約束して彼と別れると、ヒューイと呼ばれた、自分にとても良く似た人が手を差し伸べる。
「ご案内します」
「ありがとうございます」
そうして、不思議な世界から、いつもの場所に戻る。
私を待っている人の所へ。
「よく帰って来たね」
エリスおじ様が、迎えてくれる。
「おじ様、ちょっと疲れました」
私を連れ帰ったヒューイと呼ばれた人と、エリスおじ様が、とっても険悪な雰囲気なのは気になるけれど、なんだかとっても眠りたい。
『眠って下さい』
ロニの言葉に従って意識を手離す。今度も彼女の言葉が正しいと良いのだけれど、、、
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