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第3章
18 別れ
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「ザィード様、どうされたのですか?」
「国に戻る事になりました。お別れのご挨拶に」
「これからですか?」
「はい、ウエストリア伯が転移門の使用を手配して下さっていますので、手配が出来次第」
父から至急の連絡があったと聞いた時から、何か起きたのだろうと思っていたが、転移門を使って戻る必要があるなら、急ぎ彼の力が必要なのだろう。
今、ガルスに帰るなら、彼等は暖かくなるまで国に留まる事になる。
「気を付けて下さいね。国に帰るまでも、帰ってからも」
「ありがとうございます」
そう言って名残惜しそうに髪にふれ、髪の先に唇をおとす。
「私の事を覚えていて下さい。そして考えてみて下さい、私の番になる事を」
びっくりして顔を上げる。
確かに大切にされている意識はあったが、それが特別な感情だったとは思っていなかった。
特にセレスティアに対するサイラス様を見ていると、彼が自分にそんな感情を持っているとは考えにくい。
「いつも思っていましたよ、このまま自分の番にしてしまいたいと」
そして、そのまま困ったように続ける。「そう、今でも」
そんな風に気持ちを伝えられた事が無いので、顔が赤くなるのが分かる。
何と答えて良いか戸惑っていると、そっと引き寄せられる。
「困ったな、このまま連れて帰りたくなる。だか、そろそろ護衛の我慢も限界のようだ」
ジャルドが開けたままの扉の向こうにいるのが見える。
そのまま彼の顔を見られないでいると、髪に何かを付けてくれる。
「私の事を考えてみてください。リディア嬢、私はあなたの番になりたい。こうして私の側にいて欲しいのです」
そのまま片膝をつき、そっと指に唇を寄せたかと思うと、立ち上がって離れて行く。
窓から見ていると2頭の狼が東に向かって去っていくのが見える。
後ろにジャルドが近づいて来たので、一応聞いてみる。
「知っていたのよね?」
「だからウエストリアに来る事を許されたんすよ」
「お父様は、そんなに排他的だったかしら?」
「でなければお嬢を案内役にしないっす」
「そうなのかしら?」
ジャルドがそうだと言うように何度も頷く。
「けれど、カシム様との話は、お父様からなのよ?」
「主人の考えている事なんて、俺には解んないっすね」
「そうね、意味のない事をするとも思えないけど。 理解出来るかは、確かに別の話だわ」
「どうするんすか」
「どう言うこと?」
「あぁ、お嬢は知らないっすか、獣人にとって片膝をつく行為は、服従するって意味がある。つまり膝ついて頭を下げるって事は、お嬢に生涯従うって事っすよ」
「番になりたいって、申し込まれたのでしょう?」
「それもあるだろうけど、多分、それ以上っすね」
「それ大丈夫なのかしら?」
「さぁ~」
ジャルドはこれ以上話すつもりが無い様子なので、もう一度窓の外を見る。
ザィード様と一緒に走って行ったのは、イグルス様のようだった。
サイラス様はセレスティナの所に行ったのかしら?
彼に贈られた髪飾りをそっと手に取る。
フレの花が細工された髪飾りは、細やかな細工の美しいものだった。
トレポレの街で自分のために手に入れてくれていたのかと思うと嬉しくなるし、なんとなく暖かくも感じる。
セレスティナに会いたいと思う。
頭の中は真っ白だし、なんだか熱でもあるのかと思うくらい顔が熱いのに、その張本人は、遠く離れた所に行ってしまってしばらくは会うことも出来ない。
「国に戻る事になりました。お別れのご挨拶に」
「これからですか?」
「はい、ウエストリア伯が転移門の使用を手配して下さっていますので、手配が出来次第」
父から至急の連絡があったと聞いた時から、何か起きたのだろうと思っていたが、転移門を使って戻る必要があるなら、急ぎ彼の力が必要なのだろう。
今、ガルスに帰るなら、彼等は暖かくなるまで国に留まる事になる。
「気を付けて下さいね。国に帰るまでも、帰ってからも」
「ありがとうございます」
そう言って名残惜しそうに髪にふれ、髪の先に唇をおとす。
「私の事を覚えていて下さい。そして考えてみて下さい、私の番になる事を」
びっくりして顔を上げる。
確かに大切にされている意識はあったが、それが特別な感情だったとは思っていなかった。
特にセレスティアに対するサイラス様を見ていると、彼が自分にそんな感情を持っているとは考えにくい。
「いつも思っていましたよ、このまま自分の番にしてしまいたいと」
そして、そのまま困ったように続ける。「そう、今でも」
そんな風に気持ちを伝えられた事が無いので、顔が赤くなるのが分かる。
何と答えて良いか戸惑っていると、そっと引き寄せられる。
「困ったな、このまま連れて帰りたくなる。だか、そろそろ護衛の我慢も限界のようだ」
ジャルドが開けたままの扉の向こうにいるのが見える。
そのまま彼の顔を見られないでいると、髪に何かを付けてくれる。
「私の事を考えてみてください。リディア嬢、私はあなたの番になりたい。こうして私の側にいて欲しいのです」
そのまま片膝をつき、そっと指に唇を寄せたかと思うと、立ち上がって離れて行く。
窓から見ていると2頭の狼が東に向かって去っていくのが見える。
後ろにジャルドが近づいて来たので、一応聞いてみる。
「知っていたのよね?」
「だからウエストリアに来る事を許されたんすよ」
「お父様は、そんなに排他的だったかしら?」
「でなければお嬢を案内役にしないっす」
「そうなのかしら?」
ジャルドがそうだと言うように何度も頷く。
「けれど、カシム様との話は、お父様からなのよ?」
「主人の考えている事なんて、俺には解んないっすね」
「そうね、意味のない事をするとも思えないけど。 理解出来るかは、確かに別の話だわ」
「どうするんすか」
「どう言うこと?」
「あぁ、お嬢は知らないっすか、獣人にとって片膝をつく行為は、服従するって意味がある。つまり膝ついて頭を下げるって事は、お嬢に生涯従うって事っすよ」
「番になりたいって、申し込まれたのでしょう?」
「それもあるだろうけど、多分、それ以上っすね」
「それ大丈夫なのかしら?」
「さぁ~」
ジャルドはこれ以上話すつもりが無い様子なので、もう一度窓の外を見る。
ザィード様と一緒に走って行ったのは、イグルス様のようだった。
サイラス様はセレスティナの所に行ったのかしら?
彼に贈られた髪飾りをそっと手に取る。
フレの花が細工された髪飾りは、細やかな細工の美しいものだった。
トレポレの街で自分のために手に入れてくれていたのかと思うと嬉しくなるし、なんとなく暖かくも感じる。
セレスティナに会いたいと思う。
頭の中は真っ白だし、なんだか熱でもあるのかと思うくらい顔が熱いのに、その張本人は、遠く離れた所に行ってしまってしばらくは会うことも出来ない。
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