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第3章

06 サウストリア(6)

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 久しぶりの晩餐は、とても美味しいものだった。
 商隊にいてもスープなどは温かいものが食べられるが、パンや肉類はそうはいかない。

 多少ドレスが窮屈に感じても、焼き立てのパンは美味しいし、その他の料理も絶品だった。
 ファーネ様の話は楽しいし、懐かしい名前がいくつか出てきて、それらの人達の話が聞けるもの懐かしい。

 食事が終わった頃、いきなりダナーが話し始める。

「カリーナ、ミリオネアに行くなら僕の船で行かないか?」
「ダナーの?」

「そう」
「海軍の船に女の人は乗れないでしょう?」

「ハハッ、まさか。軍の船にカリーナを乗せたりしないよ。
 ティジィスの客船だよ、荷を運ぶってより人を運ぶために作られた船だからさ、きっとカリーナも気にいると思うな」

 領地のほとんどを海に面しているサウストリアでは、海を移動するための船があるみたい。

「ミリオネアにも行けるの?」
「まぁ、本来はロートアからレトアに行くための物だけど、、、」

「“精霊使い”のいない船で、ミリオネアに行く事は出来ませんよ」
「雇うことだって出来るだろう?」
「その者が本当に“精霊使い”だと、どうして分かるんです、そんないい加減な船にカリーナ様を乗せられません」

 ファリス先生が不機嫌な声で話す。
 何時もの穏やかで優しい先生ではないみたい。

「アレス様の船には、“精霊使い”の方がいらっしゃるの?」
「えぇ、とても信用の出来る人がね」

「まるで知っているみたいな口ぶりだなぁ」
「、、、昔、会った事があるんですよ」

 ファリス先生がやっぱり余り話したくないみたいに答える。

「へぇ、やっぱりその頃の話を聞いてみたいな」
「ありがとう、ダナー。でもやっぱり今の商隊と一緒に行きたいわ」
「仕事着を着て?」

「もう、意地悪言わないで」
「ごめん、ごめん、まぁ、仕方ないかな。
 じゃぁ、カリーナ、庭の散歩に付き合ってよ、それも僕とは一緒に行けない?」

 ファリス先生はこの部屋に来た時から何だか機嫌が悪いように見えるし、ダナーは先生をワザと挑発しているみたいに見える。
 仲の良くない二人が離れるなら、庭でも何処でも付き合うと答えてしまう。

「大丈夫よ、お付き合いします」
「やった!」

 ダナーがまたエスコートしてくれるので、手を添えて庭の方に歩いて行く。
 やっと二人が離れると安心していると、とんでもない事をまたダナーが言い出す。

「僕達は少し歩いて来るけど、君はどうする? 一緒に付いて来るかい?」
「ご一緒します」

 どうしてこんな事になるのだろう?
 
 ファリス先生が不機嫌な理由は分からないし、ダナーが彼を挑発する理由もさっぱり分からない。
 確かに彼は、いたずら好きな子どもだったけど、その分要領のいい子どもで、敵を作るような人ではなかった。

 それなのに、ファリス先生に対しては常に彼を怒らせようとしているみたい。
 仲の悪い二人を仲良くさせる方法なんて、教えて貰った事がないのに、私はどうしたらいいのだろう?
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